真田丸に見る秀吉の黄昏と認知症
blogの更新が遅くなりました。
最近は会社の公式blogの方を優先させているこの頃です。来年は今少しこちらも頻度を上げていきたいと思うところ。
ちなみに最近は抗ADHD薬として第一選択薬であるコンサータについて書いていますので、ご興味ある方はご覧いただければ幸いです。
さて、年末なので業務と関係ない話題を。
はい、私は今三谷幸喜脚本の大河ドラマ「真田丸」を息子と観ています。以前NHKオンデマンドで観たので2回目です。
作品は出演俳優のあの人の事件によってNHKオンデマンドでは観られなくなってしまったので*1、DVDで借りています。
そして、改めて見ながらまた泣きそうになってしまいました。
老いた秀吉と、その介護にあたる真田信繁(後の幸村)を描いている第30章「黄昏」です。
この回描かれるのは秀吉晩年。第二次朝鮮出兵の直前。秀吉はその才気と陽気で人たらしの性格で沢山の智謀の配下を得てのし上がり、果ては織田の天下を継いだ言わずしれた戦国の英雄、天下人(てんかびと)です。
しかし、晩年は老いた故か、朝鮮出兵のような後世に禍根を残すことになる施策や、秀吉の子の出自をからかった落書きに対して側近さえついていけない残酷な仕打ちを番の者たちにしたりしてしまっています。
そんな秀吉はますます老いていくのが明らかで、考えているのは息子、お拾(ひろい:豊臣秀頼の幼名)の将来ばかり。
ドラマが描くのは明らかに認知症になった秀吉に付き従い、甲斐甲斐しく世話をする真田信繁の姿。
それはもう切ない姿が描かれるのですよ。
ここではキャプチャー映像を見ながら(著作権気になりますがこれはきちんとした引用と解釈して欲しい...)。
秀吉の側に呼ばれた石田三成と片桐且元。秀吉脇には真田信繁が付き従う。老いを悟ったのか秀吉は三成と且元に金子を渡す。脇にいる信繁に気を使う且元は「信繁には?」と秀吉に問うと、秀吉は信繁の顔をしげしげと眺めて「(こんなやつは)知らん!」と(1)。
「我々は長い付き合いだから」と三成・且元に信繁は気の毒そうな目で慰められるが、彼らが去った後瞑目し、ショックを隠せない(2)。そりゃそうですよ、これだけ甲斐甲斐しく世話を焼いているのに存在を忘れられてしまったんだから。
そこへいつの間にか近づいていくのが秀吉(3)。なにやら様子がおかしい。ちょっと来い、ちょっと来いと信繁を障子裏に手招きして一緒に隠れて「遅いのう、市松(福島正則の幼名)は」とつぶやく。
このシーン、実は信繁が始めて秀吉と直接会った日の再現で、以前はこのまま秀吉について芸者遊びの場に抜け出すのです。老いた秀吉は今その過去に戻っています。そこに気づいた信繁は当時と同じように初めて会ったふりをしながら、「もしや秀吉様では?」と(4)。振り向いた秀吉はここで信繁の心を救う一言を。「わしは利発な若者が大好きなのじゃ。そちも一目見て気に入った!」と。
しばし過去の再現に付き合った信繁は優しく秀吉を床に誘導し、休ませる(5)。
この姿が真実であるかは置いといて(いやこの下りのすべてが三谷氏の創作なんでしょうけど)、このシーン、本当に好きなんですよ。
かつての姿を失っていく認知症の秀吉、我慢して、時にすごいショックも受けながら介護する信繁の姿、そして過去を生きる秀吉は信繁に会うと、かつてと同じ反応...認知能力は落ちても人格の核の部分は変わっていないところに介護者が救われる場面といえないでしょうか。脚本の三谷氏の優しさを感じます。晩年表面的な人格が変われども秀吉に尽くす信繁に救いを与えてくれたのだと思います。
ちなみに他の場面でも、三谷氏は秀吉配下のそれぞれにとても優しい演出を施していると思います。それぞれの労苦が、彼らの主君である秀吉の一言によって救われるような...。ただし、秀吉本人には些か残酷な死に方を用意していて、それは晩年見られた秀吉の行為への処罰的意味合いがあるのかどうかな、とか思うわけです。
ところで、秀吉は恐らくアルツハイマー型認知症として描かれていると思うのですが、それにしては易怒的で、人格変化がやや強い点でアルツハイマーではなく、以前本blogで書いた、嗜銀顆粒性認知症なのかも、という気がしたりします。
でも嗜銀顆粒性認知症にしては発症が若すぎるかな...嗜銀顆粒性認知症は高齢者発症が特徴的ですが秀吉は62歳没ですからね。
アルツハイマー型認知症に加えて、天下人の贅沢な食事が脳血管病変を促進して脳血管性認知症も合併している、それがための情動不安定でもいいのかもしれません。
秀吉の晩年の所業については、独裁者固有の猜疑心などでも説明できそうですが、私としては若かりし頃の秀吉の寛容さとは随分と違う点を考えて、何らかの神経変性疾患を抱えたゆえ、と考えたいのです。これまでの学説などはあるのでしょうかね。影響されるのも嫌なので敢えて調べていませんが、今後はちょいと調べてみようかと思います。
- 作者:丸島和洋
- 発売日: 2015/11/13
- メディア: 新書
時代物を読んだり見たりすると気になるのはどこまでが事実なのか演出なのか、そして虚構なのかじゃないですか?
本書はドラマの時代考証を担当した丸島氏による真田信繁論なので、非常に参考になります。
また次のネット記事、丸山氏へのインタビューで、非常に誠実に考証されたのだとわかるのです。リアルタイムでは詳細なツイートしていたとのことで、あぁその時に知っておきたかった。
ところで、真田丸を見て印象が変わった最右翼といえば石田三成じゃなかろうかと。
ドラマではちとかっこよすぎな気もしますが、有能であり、秀吉への忠誠心は本当だったのでしょう。ほんと、惜しいのです、三成さん。もっと天下のことを考えて生き残って欲しかった。もしくは大阪の陣までいてくれれば...それは無理だったかな。蓄財を全くしていなかった真面目さが胸を打ちます。
- 作者:MYST歴史部
- 発売日: 2015/11/12
- メディア: 文庫
ドラマでは信繁の兄、信之はやや情けない描かれ方をしていますが、この人なくして真田家は幕末まで残らなかったのであり、超名君です。
あの時代に93歳まで生きたのも凄い。晩年まで子どもたちの件で悩んだのは些かお気の毒。
1つ言えるのは、暮らすなら信之殿の下なら安心できそう。
- 作者:伊東 潤
- 発売日: 2016/08/11
- メディア: 文庫
ドラマでは当然家康は信繁の仇敵になります。三谷氏の家康、なかなか気弱な人でユーモラス。特に序盤、信長死去の方に触れた時家康は京都に行く途上であったため、急ぎ国に帰る必要があったのですが、その時の「伊賀越」の描き方は、気弱な家康が随所で覚悟を決めつつ三河に帰り着く様がとりわけ可笑しかったので子どもも大いに笑っていました。
さて、信玄や信長に怯えつつしかし結果的にはそれら重しを除いていける家康の知謀を描いたのがこの小説。フィクションですよ、もちろん。でもこの線で小説の後も読みたいものです。
ちなみに、私は家康が勝ったことが日本のために本当に良かったと感じています。結果として江戸260年という長きに渡る繁栄を享受できたのですから...とはいえ、鎖国政策が科学技術の移入や日本人の科学的思考を妨げたとも思えます。もし秀頼政権(もしくは秀次政権)や、関が原時に九州平定を進めた黒田如水による天下、というのものがあったらもっと開放的だったのかしら、とか考えんでも無いですが。
*1:この件に関しては色んな議論があるでしょうね。私としては1出演者の不祥事で、その作品に関わった全てのスタッフの皆さんの仕事が結果的に全否定されてしまう形になるのは悲しく、避けて欲しいと感じます。始めにこういう経緯があったと説明した上で同意した人には見られる形にしていただきたい。