新型コロナ雑感(3)_スウェーデンってどうなの?

前回が8月...気付けばもう今年の最終日の23時になってしまいました...


なかなか更新できなかったのは会社のほうのブログで色々書いていたりして...というのは言い訳で、もっと自由にこちらには書きたかったなあと思います。コロナ禍過中で「コロナうつ」が増えていると言われますが、私自身もそこはかとなくどうでもいいような気分も持ちつつ年末まで来た、という感じがします。いや元気は一応ありますが...。


さて、新型コロナについて駄文を2つ載せましたが、最後にスウェーデンについて調べた範囲内で。


御存知の通りスウェーデンは集団免疫作戦を敢行しており、行動制限が無いわけではないけれども、かなりゆるく、そしてこれもまた御存知の通り高齢者が多数亡くなったこともあり、国王までも「失敗した」と言ったとか。


www.jiji.com


そんなスウェーデンの感染状況はここに行くと詳しく見られます(スウェーデン語です)。


Experience


今日の時点で感染者総数437,379人、集中治療に4,055人、そして死亡者は8,727人ですね。3月から5月にかけてに次いで大きな波が来ていることがわかります。


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ちなみに日本では、東洋経済さんのデータによれば、12/29日時点で225,618人、重症者668人、死亡3,348人ですね。日本も案外感染者数、死亡者数多く感じるかもしれませんが、100万人あたりに換算すれば(スウェーデンの人口物凄く大雑把に1000万人、日本1億3000万人としてスウェーデン対日本)、感染者数で22,562人対1,735人、重症者410人対5人、死者873人対26人ですから、圧倒的に彼の国のほうが多いです。人口規模が似通っていて日本で一番死亡者数の多い東京でも数字は上がりますがスウェーデンとの差は10倍以上。


とはいえ、日本では100万人あたりの重症者、死者数がこれだけ少ないにも関わらず医療崩壊の危機があることは由々しき事態ではあるのですが...ここではそれはともかく、スウェーデン的に彼らの国の対策が成功しているのかを考えてみたいと思います。考察というほどのものではありません。


square.umin.ac.jp

リンクはスウェーデンで勤めている日本人医師へのインタビューです。
よくスウェーデンでは80代以上は絶対に治療しない、ICUに入れないみたいなことが言われます。普段は「絶対」では無さそうですが、このコロナ禍の元では80歳以上、70代でも基礎疾患があるとICU入室させないと。抜粋引用(太字は筆者)すると、

エビデンスのない治療はされないので、家族や本人が望むからという理由で末期がんの患者さんに抗がん剤治療をするようなことは絶対ありません。通常から、予後の悪い患者さんは年齢にかかわらず、ICU治療を受けることはできません。今回のパンデミックでは、80歳以上や、70歳代でも腎不全などのリスクファクターがあるとICU適応ではないと判断をされます。・・・ほとんどの場合はその基準で正しいのだと思いますが、医師としては辛いものがあります。今回のパンデミックICUに入った人の年齢分布では、90歳以上で1人、80歳代でも100人程度でした。ICU治療の適応とならない高齢者の中にも、自力で回復する人もいますが、不幸な転帰を取る場合は鎮静剤処置だけです。


確かに上記スウェーデン統計を見ると死者数が圧倒的に80代以上に傾く中、重症者は40-70代、つまり医療対象が限定されているのですね。


尚、これだけの重症者がいる中でなぜ医療崩壊しないのかといえば、病床のドラスティックな転換が可能だから、です。ここが日本と違うところで、公的病院が大部分なればこそ、でしょうか。

ストックホルム市内には5カ所ほどの大きな病院がありますが、新型コロナ患者は大学病院を中心に担当することになり、それ以外の疾患は新型コロナ患者を扱わない病院へ移動させたりする対応が取られました。例えば、乳がんの手術は全てストックホルム市内にある、新型コロナ感染者を扱わない私立病院へ委嘱しました。...新型コロナ感染者の治療にあたる医師については、希望者や各科の若手を中心に、事前に教育を行った上で配置換えを行いました。医師以外でも、医学生含め全国から5000人ほどボランティアを集めて、周辺サポートができるように教育していました。今回、ICUなどの最前線での診療行為につくことになった臨時スタッフには、220%の給与の支払いをすることになりました。航空会社のキャビンアテンダントは休職になりましたが、スカンジナビア航空では短期間で准看護師のような専門職になる教育をするといったことも行われ、国を挙げて、しっかりと準備をしていました。


さてそんなスウェーデン、結局感染対策は成功と言えるのかどうか。


対策全くしていないという印象もあるスウェーデンですが、実際にはそんなこともなく、他の欧州諸国と比較してロックダウンなどしていないだけで、ある程度はしていますし、1月からはどうやら平日の一定の時間帯に公共交通機関に乗る際にはマスクが推奨されるようです。おぉって感じですね...

https://www.jiji.com/jc/article?k=20201028040749a&g=afp


そんな緩めのスウェーデンの状況を欧州の他の国と比べてみました。
指標は超過死亡率(excess mortality rate)です。
これは1週間に亡くなった人の数を2015–2019年の過去5年間に亡くなった数と年齢ごとに比較したもので、例えば今年4月の超過死亡率が20%であれば、過去5年間の同時期に亡くなった方よりも20%数が多く、それは恐らくは新型コロナウイルスという新しい疾患による可能性が高いことになります。
極端に高いようであれば感染対策が残念ながら上手く行っていないということになるでしょう。
ただし、どうやっても感染が拡大する時期もあるでしょうし、全てが新型コロナウイルスによるわけではなく、社会全体としてこのコロナ禍にどのくらい上手く対応できているか、が相対的にわかるものです。


参考にしたサイトはこちらになります→
Excess mortality during the Coronavirus pandemic (COVID-19) - Statistics and Research - Our World in Data


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(a)はフランス、(b)はドイツと、75歳以上で超過死亡率を比べています。
どうですかね、フランスはロックダウンなどスウェーデンよりはるかに厳しくやっていましたが、スウェーデンよりずっと良いかと言うと3-4月と今回の大きい波の中では大して違わないどころか悪いくらいですね。
一方でドイツとスウェーデンを比較するとドイツのほうが前回の波では圧倒的に超過死亡率が低くさすがなんですが、今回は余り違いがありません。


このあたり、実はスウェーデンで3-5月の第一波で沢山の高齢者が亡くなっていますが、多くが老人施設でクラスターが発生して亡くなったことが反映されています。スウェーデンというと高福祉の国というイメージが強いですが、老人施設での労働環境は良いものとは言えず、介護者は移民中心で、残念ながら感染対策がきちんとできていなかったことが要因です。フランスは、というと恐らくイタリアやスペインと同様に高齢者が若者と同居する率が高いのではないでしょうか。ドイツは別居率が高く、それが高齢者の極端な超過死亡につながっていないものと考えます。スウェーデンも同様なんですが、施設での対策の失敗でした。前回も書きましたが、ドイツでの老人の独居(単身もしくは夫婦のみ)率は非常に高いのです。2010年時点でドイツは子供と暮らす同居率が2%とのことです。


(c)はスウェーデン、フランス、そしてドイツの15-64歳の超過死亡率です。フランスは第一波では大幅に平年より上がった一方で、現在は過去5年並み、ドイツは一貫して平年並みでさすがです。そしてスウェーデンは第一波とそれからしばらくは過去5年より高かった一方で最近はなんと低くもなっているんですよね...なぜなんでしょうか。


さて、心配なのは(d)に示したベルギーで、超過死亡率が第一波も夏の第二波もそして今回第三波と65歳以上は他国を遥かに超えて高いのです。大丈夫なんですかね。必ずしも全てが新型コロナウイルスによるものでは無いのでしょうが、心配ですね。


結局スウェーデン人はどう思っているのだろう...


向こうに暮らしている方々のブログを読んだり、報道を見る限りはやはり「緩さ」への支持は大きいように感じますね。
さらには、GDPの落ち込みも一時ひどかったのも回復しているようですし、少なくてもロックダウンなどハードな対策をとった他の欧州諸国に比べて著しく低いというわけでもなく、どちらかといえば傷は少ないほう。

Swedish Q3 GDP preview: More than half recovered


そんな様子を見ていると、そもそもが高齢者への医療が制限気味であり、かつ今回のコロナがどんな対策をとっても死亡者は高齢者中心であり若い人は影響をほとんど受けないことを踏まえ、多くのスウェーデン国民は心理的にも自国の状況を受容しているように見えます。


さらに、これは穿ち過ぎでこんなことを考えていないとは信じたいことではありますが、むしろスウェーデン政府は高福祉を維持するための社会保障費を節約できたと考えて、新型コロナの高齢者の死に関しては、重大事と考えずに許容しているってことがあったりしないかと疑う心すら芽生えてしまいます。


ただ、やはりスウェーデンの誰も彼もが政府の政策を支持しているわけでもなく、また「高齢者の死」を理由もなく受け入れているわけではないことは、TBSでインタビューされた女性の言葉を聞いてもわかります。日本人の感覚からすれば驚愕するのですが、女性の72歳の叔父は認知症で施設入所しておりコロナがわかった後家族への相談もなく緩和ケアに切り替えられすぐに亡くなったと。そもそもがスウェーデン認知症発症後に病気になったときに、余り治療を望まない文化があるのはあるにしても、当然ながらその認知症発症した人に対する心情は人によって大きく違うわけで...せめて家族に緩和ケアに移行するかどうかくらい意思を聞いてみる必要はあるんじゃないですかね。


www.youtube.com


というわけで、スウェーデンの対策はいわゆる第一波時に高齢者施設での対策が極めて不十分だったことで80歳以上の死亡者が極端に多くなった点では失敗したと言えます。しかし、その後緩やかな感染対策は継続させ、結果として他の欧州各国と比べたときには生産年齢人口の死亡者を少なく済ませ、経済的にも遜色ない状態に立て直せたということで総合的に国民の中では成功している感覚なのではないでしょうか。政府への国民の信頼も基本的には厚いようです。


とはいえ、当初の目的である集団免疫達成には程遠い状況ですから、ワクチンの普及がいよいよ始まったことは非常にラッキーだったのではないかと。


さて、我が国を見ると実は結果として国民の新型コロナに対する行動はスウェーデン的になっていた気がします。マスクを必ず着用するなど日本人的な部分があるとはいえ、持続可能な対策を極めて自主的に判断して行動している方が非常に多い点、似通っている気がします。特にこの第三波の中では行政の笛吹けど踊らず、という状況になっている印象です。


違いがあるのは、日本ではスウェーデンのように高齢者施設での感染者が沢山出たということがなく、施設の介護スタッフの感染対策意識がしっかり高いまま維持されていることがまず1つ。私も特別養護老人ホームで嘱託医をしていますが、介護者の皆様の意識の高さには頭が下がります。


もう1つは、これは困った点ですが、感染者数も重症者数も圧倒的に少ないにも関わらず医療崩壊の危機に瀕していることです。日本の皆保険による医療体制は平時明らかに世界一の制度ですが、普段から余裕のない状況で医療関係者が働いているためにこういった非常事態に割ける余剰が少なく、そして公的病院が少ないために状況に応じた柔軟な配置転換ができないのは日本の医療が抱える大きな脆弱性であることがわかりました。もし新型コロナウイルス感染症が高齢者のみならず、インフルエンザのように年少者にとっても脅威となる感染症であったなら...それはとんでもない地獄絵図だったのではないかと震撼する思いです。


今後新型コロナに関してはワクチンが普及すればコントロールできる状況になると希望が出てきたわけですが、今現在の状況がとにかく切迫していることは東京で新型コロナに向き合っている同期医師からも聞いています。私個人としては医師であるとはいえ直接新型コロナウイルスの臨床に携わることができない状況に無力感を感じつつも、何が後方支援としてできるのか考える毎日です。


現在新型コロナウイルス感染症に向き合っている全ての関係者の皆様に感謝と、現在感染している方の1日も早い回復を願って今年の記事を終えたいと思います。