最近気になる精神科系ニュース_エーザイ復活劇とアデュカヌマブについて
ついこの間のこと、エーザイの株価が急騰。
図にあるように5000円台から一時は8000円台まで高くなったという(持っていたかった...)。
その理由はリンク先にあるようにエーザイが米製薬会社バイオジェンと組んで開発中の薬、アデュカヌマブをアメリカFDAに承認申請したということのよう。
アデュカヌマブ、この舌を噛みそうな薬は、以前から多くの大製薬メーカーがこぞって開発していたものの1つ。アルツハイマー病の脳に溜まってくるタンパク質、アミロイドβ42の沈着物(老人斑)に対する抗体で、注射すると老人斑を取り除いてくれます。
以前アルツハイマー病の薬については書きましたが、この手の薬の開発は大きな期待が持たれていたのに悉く失敗しました。
エーザイのアデュカヌマブもそのはずだったんですが...下記の記事からは、どうやら再解析するとApoε4というアルツハイマー病のリスクを高める遺伝子変異があることと、高用量でアデュカヌマブを使うとアルツハイマー病進展の抑制が見られたということのようですね。
素晴らしい!と手を叩きたいところですが、ちょっと注意が必要にも感じました。
2つの臨床試験、軽度のアルツハイマー病患者さんに対してというが...
さて、今回のエーザイが根拠としている臨床試験は2つあります。
簡単にまとめると、こんな感じ。
こちらの記事も。
気になる点は大きく2つかな。
まず、高用量を途中から、とかApoε4という遺伝子変異がある場合にのみ高用量を投与とか、もともとは違ったのでしょうという中途での方法(プロトコル)の変化ですね。
確かに、Apoε4という遺伝子変異はアルツハイマー病のリスクとして広く知られて(絶対なるとかではない)いますが、その変異持ちに対してだけ高用量というのは十分な根拠と言えるかどうか。
別に変異持ち以外にも高用量設定していいんじゃないか、という疑問がまず1つです。
それと、今1つはENGAGE,EMERGEという2つの臨床試験に対して対象とした認知症の基準です。
www.nia.nih.gov
EMERGE: Aducanumab (BIIB037) for Early Alzheimer's Disease
どちらも同じなんですが、気になるのは、対象がMCI(軽度認知機能低下)と軽度アルツハイマー病患者さんたちで、その認知症の程度は、CDR(Clinilal Dementia Rating)という評価のスコアが0.5、MMSE(Mini Mental State Examination)という評価のスコアが24-30点の範囲であることなんですよ。
CDRもMMSEも信頼性のある評価スケールですが、なにせこの基準が甘いというか、認知症?といえるレベルなのかがなんとも... CDRで0.5というのは基本的には非常に軽度な認知機能低下だし、MMSE24点以上は基本的には認知症とまではみなしません。
もちろん、軽度認知機能低下もアルツハイマー病につながるのですが、全員がそうなるわけではなく、まあ凡そ半数。逆に言えば、臨床試験導入された患者さんにはアルツハイマー病に発展し得ないMCIの方もそれなりに混ざっているはずで、それは臨床的に判別不能です。
なので、対象患者の認知症程度が軽すぎる上に全員がアルツハイマー病ではない、というのがどうにも素直にこのニュースを良かったですね、といえない点なのですよ。
うーん、どうなんだろう、なにせ影響力の大きい臨床試験の結果ですし、またとにかくアデュカヌマブの薬価はとにかく高いものになるはずで、もう少ししっかりした、病期の進んだアルツハイマー病の患者さんに果たして効果があるのか知りたいところです。
また、効果があったという記事からは、アルツハイマー病が治る方向に改善と思えてしまいますが、実際には認知症進展の抑制であって、それならこれまでの薬、ドネペジル(アリセプト)という同じくエーザイさんのブロックバスターと変わらないのでは...とも考えてしまいます。
ちなみに、そのドネペジルの臨床試験をまとめた論文を改めて探してみましたが、対象者のMMSEはもっとちゃんと低い(20点以下)んですよね。今回のアデュカヌマブの対象者もそれくらいの認知症であれば、もっと結果を素直に見られるのですが。
ドネペジル臨床試験対象者についての論文(pdf)です
ドネペジル他施設臨床試験の結果論文(pdfです)
アルツハイマー病を発症する人の特徴についてはこちらにもまとめてみた記事がありますのでどうぞ。