コロナ雑感(2)_年齢階層別に考えてみると...

新型コロナウイルスについては今日でともう1回で最後にする予定ですが、今日は年齢階層別にデータを見てみたいと思います。


怖がるべきか、安心すべきか


感染者数が東京で連日200人以上が続き、なんだか感覚も麻痺してきた方も多いのではないでしょうか。

そして、そこまで感染者数が多くなってきたのに重症者数、死者数が伸びていないことを指摘して、新型コロナウイルスの危険性が無いかのように語っている方もそれなりに目立ってきた気がします。少なくてもTwitter上では。


実は私のtwitterのTL上では、


①保守的医療層(保守的=標準的なという意味)→医療的にはまだわからないことが多い。感染拡大を重視し、行動制限をしっかりすべき


②経済重視層→BCGなり何らかのファクターXが効いている。早く指定感染症から外し、3密避けながらの自由な経済往来を


に2分されている印象ですが、現実解はその中間なのでは、と強く感じます。


怖がりすぎても何もできないし、そういう状況下は正直はっきりわからない、つまり4月と同じ気持ちで怖がっている必要があるのかどうか。本当に恐ろしいのはインフルエンザ流行も重なるであろう秋以降なのでは?という気持ちが強くあります。


一方で、BCG接種、ことに東京株が効いているという説が、いわゆるシティズン・サイエンティスト的なJ Sato氏をの発見を元に展開され、アカデミアにも一定の基盤を築いている印象を持ちます。しかし、たとえBCG接種が死亡率低下に寄与しているとしても、新型コロナウイルスの性質がまだはっきりわからない部分があり、一部の重篤化した方の臨床経過がやはり他の風邪ウイルス系のものとは格段に違う以上、「大丈夫だから普通の生活に」という説を唱える方は極端に感じられます。



そういう意味では東京都医師会の提言は真剣に考えるべきことのように感じられます。


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https://www.tokyo.med.or.jp/wp-content/uploads/press_conference/application/pdf/20200710-2.pdf


にある世代別行動制限の提案は良いのでは、という気がします。但し、デイサービスなど福祉サービスはちゃんと動かした上でということではあります。そうでないと介護の家族が疲弊して具合を悪くしてしまうでしょう。



年齢階層別に感染者数、死者数を考えてみる


世代間別行動制限的な考え方に賛同したいのは、日本を含めた各国のデータを世代間別に見てみた結果です。
これに関連して、一度期せずして東北大副学長の大隅典子先生と意見交換を少しだけしてみたことがあります。

Newsweekの記事をもとにした意見交換でしたが、要するに日本の死者数の少なさにおける要因は、施設入居高齢者の多くが感染を免れたことによる、ということです。
一方で、記事中にもあるように、死亡者の多かった欧州各国では施設高齢者がかなり亡くなっている。

イギリス、イタリアとアメリカでは、高齢者を病院から老人ホームに移動させ感染を広げたり、施設内で感染者を隔離していなかったりと人災に匹敵するような判断ミスも高齢の施設入所者の犠牲を広げた。大型のクラスターとなり死亡者が発生してからやっと、政府が高齢者施設の重要性に気が付いた状況だった。
一方、驚くべきことに、170万人以上が高齢者施設に入所・通所している世界一の高齢化社会である日本で、施設での集団感染が少ない。厚労省が3月31日に公表した医療・福祉施設でのクラスターは14件あり、そのうち3件のみが高齢者施設であった。

施設にいる高齢者のうち何%がコロナで亡くなったかという数値に換算すると、ドイツが0.4%、スウェーデンが2.8%、イギリスが5.3%、スペインが6.1%であるのに対し、日本は0.01%にも満たない。


かねてより日本では第1波(3-4月の時期)での死亡者数が少ない要因に、高齢者の感染が少ないのでは?と私は思ってきました。そういうと、いやいや日本を含めて世界中で死者の大部分は高齢者でしょう?と言われそうですが、それでも高齢者の数が非常に多い中、割合としては高齢感染者が非常に少なかったのでは?ということです。


一方で、東アジア全般に新型コロナウイルスの死者数が少なく、その中では日本は劣等生だ、という意見も聞かれます。
www.newsweekjapan.jp


ということで、新型コロナウイルスの感染/死亡に様々な要因が複雑に絡むのを承知の上で、とりあえず各国の感染者数の年齢階層別データに着目してみます。
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データ収集の日付には少しばらつきがあって申し訳ないのですが、日本は7/15日時点(感染者数22140名、死者数977名)、他国は6/12に収集できた数字から引用しています。
欧州からは3-4月時点でとても辛い状況にあったイタリアとスペイン、それに欧州の中では優等生と見なされるドイツ、そして東アジアからはベトナム,タイという感染対策成功国、それに韓国を選んでみました。


どうでしょうね、一見してわかるのは、日本を含むアジア各国では感染者年齢の多くが20-49歳なのに対して、イタリア・スペインではそれに匹敵もしくは凌駕する勢いで高齢者割合が高いことです。ドイツは欧州にも関わらず東アジアに近い傾向です。


ついでに右肩に各国の年齢中央値(2015年)を載せておきました。これが高いほど当然ながら人口に占める高齢者割合が大きいわけです。日本の年齢中央値は世界一、ドイツは2位、イタリア,スペインも最上位グループです。一方タイ,ベトナムは若いですね。ベトナムの年齢中央値は30.5歳、実に日本より15歳も若く、人口ピラミッドを見ても高齢者層の少なさが一目瞭然です。


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何を言いたいのかというと、要するに、東アジアで死者数が少ないのは基本的に若い人ばかりが感染しており、高齢者感染数が非常に少ないからでは?ということです。


そう考えてみると、高齢者数が圧倒的に多い日本でこれだけの数しか高齢者感染が出ていないのは、日本の感染者予防策が上手く行っており、ドイツもまたあれだけの中でさすがと言える予防ができているのではないでしょうか。


ちなみにドイツでなんで高齢者が守られたのか?、はドイツでの老人の独居の多さ(単身もしくは夫婦のみ)によるのかもしれません。2010年時点でドイツは子供と暮らす同居率が2%とのことです。一方でイタリア・スペインは同居率が高く、それが感染者拡大に寄与した可能性は高そうですね。


ただ、介護が必要な場合に施設介護よりは在宅介護、という流れは欧州で強いらしく、そのせいでドイツもかなりな数の感染/死者数が出たと言えるのかもしれません。

www.oshiete-kaigo.com


ご存知の通り、日本を含めて各国の死亡者の殆どを高齢者、特に80代以上の方が占めているわけです。
このデータを見る限り、第1波で日本の死者数が少なかったのは単純に感染した高齢者の数が少なかったのが最大要因、に思えます。


感染者数に占める死者の割合を見ると、あの集団免疫政策が失敗だったと言われるようなスウェーデンと日本を比べたって、年齢階層別に見るとさほどの違いは無いのです。(データは7/14時点)

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新型コロナウイルスによる死者を少なくするためには高齢者感染を防ぐことこそ重要だとわかります。
私が嘱託医を勤める老人ホームでも現在に至るまで入居者の新型コロナウイルス感染は0であり、Newsweekの記事にもある通り、時折高齢者施設のクラスターが報告されますが、ほぼ全てと言っていいくらいに日本の高齢者施設は感染を免れています。
当然ながら高齢者施設にいる方は基礎疾患を抱えていることが多く、今後も日本での死者を少ないまま維持していくためには、そういった施設を始めとして、高齢者の方の感染を如何に少なくできるか、が鍵だと思いますね。


感染しては困る高齢者がまだまだ大勢いるはず


連日報道されている感染者数、日本が今回の若者感染者の増加でますます感染者割合は途上国のように若者中心に偏ってきており、もし新型コロナの免疫というのが弱い感染で獲得されることがあるとすれば、暴露されていない高齢者との世代間乖離が激しくなっているかなあと危惧します。


あのイタリアでも70代以上高齢者の感染者、死者割合は実際の同世代人口に比してそれぞれ1%、0.4%程度、であることを考えると、まだまだ感染していない高齢者は大勢おり、本格的な冬の第2波が来ると、油断すると高齢者死者数はまた欧州で凄いことになるのでは?と思ってしまいます。


でも、もしかしたら、欧州では脆弱なリスクの高い高齢者はほぼ亡くなっていて、免疫も一定程度獲得しており、日本を含む東アジアは高齢者が感染暴露されていないだけに、より一層危ない、という可能性だってあるかもしれません。



その意味で、冒頭にあげたような、東京都医師会の世代別行動制限は、今後も経済活動を進めるのであれば必要な考え方に思えます。
どうすればということに関しては、良いアイデアをお持ちの方に委ねたいと思いますが...。


次回、スウェーデンの死者数について他の欧州との比較というのを少しばかり書くつもりです。