プラセボは効いてしまう(1)

薬効の証明は二重盲検試験を経なければならない 



現代の薬の効果判定の最終プロセスは無作為二重盲検試験というやつで、このサイトがわかりやすい。


臨床試験・治験に特有の仕組み アーカイブ - 臨床試験・治験の語り


ある新薬Aの効果を知りたい時に、Aと味も形も区別できないBを用意し、症状だけでなく年令や性別なども含めて病気の人たちをランダムに(無作為に)2群に分けてA,Bを投与する。だから患者は自分がどちらを服薬するかわからない。


ここで、Bはプラセボ(偽薬)であることが多い。
偽薬とは効果を持たない、生理的に不活性な薬で、本来は飲んでも何にも反応を来さないもの(なはず)。


ただし、二重盲検試験において、Aは苦く、Bは甘い、なんて違いがあるとすぐにどちらを服薬したかわかってしまうから、それを避けるためにAとBは、形、色、においや味が全く同じになるように作られる。*1


患者をランダムに2群にわけるのは、十分な数が対象のとき、AとBを服薬する2つの集団の性質(年令、性別、病気の重症度)に偏りが無いように調整するため。


さらに、投与する側の医療者もどちらがAでどちらがBかわからない。


そういった無作為な割付と二重盲検、つまり患者も医者もどちらを服薬しているかわからない試験を解析して、効果の点でA>Bが出れば晴れて新薬Aが効くことが証明できる。


これはとっても大事なことで、現代医薬品はほぼ全てこのプロセスを経て発売されているから、信用して使えるのだ。


さて、面白いのはこのプラセボが効くのだ。大抵の試験で、プラセボでも服薬後に症状が良くなる(場合によっては治る)人が出てくる。
失敗した臨床試験というのはプラセボで効果のあった人たちと実薬との間に、服薬後に出た効果の人数に差が無かったということになる。


プラセボ(偽薬)は効く


生理学の授業で必ず紹介するエピソードがある。


56人の医学生を2群に分けて、2種類の何の生理的効果を持たない錠剤をそれぞれに服薬させた。A群にはそれを鎮静薬、B群には興奮薬と言って。


するとA群の学生は眠くなり、1錠より2錠投与された群では更に眠く。
B群の学生は疲労感を感じなかった。


さらには頭痛、めまい、ふらつきの副作用が出現し、効果を感じないのは3人だけであった。


このエピソードが示すように、効果を持たない(はずの)錠剤(生理学的に不活性という)でも、事前に情報を持って服薬すると効果がその情報に沿って出て来さえする。


サプリに二重盲検試験の結果を見つけてみた


殆どのサプリはこういったプロセスを経ていないので、効くか効かないかは正確にはわからない。


大抵のサプリに関しては、飲んで良い気持ちになればいいんじゃない?というのがdneuroのスタンスだが、1つ、健康食品の二重盲検試験の結果を見つけたので紹介したい。


疲労を感じている男女成人におけるニンニク・卵黄配合食品の疲労改善効果―無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験―


これは(株)健康家族の「伝統にんにく卵黄」の効果検証の論文らしい。疲労回復に役立つとされるにんにくと卵黄を成分に入れたものだ。最近のは話題のアマニ油成分まで入っているようだから、若干試験に使ったカプセルとは成分が違うかもしれない。


試験はこのにんにく卵黄を20歳以上60歳未満の成人80人をランダムに2群に分けて、実薬(GE)群とプラセボ群として12週間に渡って服薬してもらい、疲労の回復を見た。


その結果を論文中では表だが、グラフにしたのが図で、2つあるのは、疲労を評価するための質問紙を2種類使っているから。


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簡単にまとめると以下。

1.CFS-Jという評価では2群に差がない。12週まで一貫して。
2.POMS-Sの疲労尺度を使ったときには、12週の評価時点ではGE群がプラセボ群に対して統計的に有意に疲労の回復が良かった。


ということで、にんにく卵黄は安全で効果も高く、疲労に悩ませられる現代社会にとても有用と考えられる、という結論を導いているのだが…
有意な結果って言っても小さいよねえと思ってしまう。安全は確かにしても。
dneuroが売り込むとしたらグラフ中に囲った中のように差を際立たせたい。


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特定の商品に対する悪口を言うわけではないんだけど、どうかなあ、これ見て効果あるって自信を持って言えるかなあというと個人的には疑問である。
もし、次の図のような差があったら何をおいても買うんだけどなあ…。論文の結論は些か盛り過ぎの感はあるが、データをそのまま出しているのはとても素晴らしいと思うけど。



で、本稿で言いたいのは、要はやはりプラセボって効いてしまうということだ。


それでも、毒性が無いプラセボで病気が治療できたら理想的じゃん、とは言えないのであって、それに関しては後日。


***


ところで、にんにく卵黄だが、紹介した試験では疲労を強く感じているといえども基本的には病気を持った人を除外している。試験に応募する時点で健康に関心がある人なら試験参加後はより疲労回復に気を留めそうだ。試験参加時点で疲労のピークに達しているなら後は回復するだけだろう(健康なんだから)。


といった理由で、そもそも差が出づらい被験者集団だろうと思う。


疲労が問題となる病的状態の方でどうなのかを試験して欲しい…。


「病は気から」を科学する

「病は気から」を科学する

著者はイギリス人ジャーナリスト。今日書いたようにプラセボは効くのだが、効くからにはそこには様々な生体反応が実際に起きて症状を軽減させたり病気を治しているわけで…どんなこと、行為、思想、宗教が人に治療効果を発揮しうるのかをこれでもかと取材を通じて語り尽くす。


ルルドの泉についての章が個人的には興味深かった。ルルドの泉はスペイン国境にほど近いフランスにある。聖母マリアが出現し、病気を治す水が湧くとされる、カトリック教会の聖地だ。病気が治った、という話があると、かなり厳しい基準を経てその「奇跡」が認定されているという。だが、ある奇跡的に治癒したと奇跡認定された骨肉腫(死亡率高い)の青年は、後にちゃんと診断すると治りやすいリンパ腫であったことが発覚する。とはいえ、ルルドでは奇跡的体験を感じやすい。宗教心というよりもそこに集う皆との心のつながりがどうやら良い実体験をもたらしているらしい。



以前も紹介した(⇛自殺数10万人超えのデマと自殺統計をつらつら見て考える)。
この本に紹介されている死に様で凄まじいの一言なのが、ロシアの怪僧ラスプーチンであり、彼はロマノフ王朝をたぶらかしたことで貴族たちに図られて殺された。彼は非常に粗野で、とても王と話すのにふさわしい言葉遣いなどでは無かったのだが、そのことがむしろ彼の持っていたという神通力を信じさせたらしい。


ロマノフ王朝最後の皇子、アレクセイは血友病を持っており、激しい運動など出来ないひ弱な子であった。が、その彼がラスプーチンと会って言葉を交わすやとても元気になり、血も止まったのだという。


ラスプーチンは自らの雰囲気・口調によって、アレクセイ皇子にプラセボがもたらす効果と同じメカニズムが働かせたのだろう。

*1:実薬との比較対照薬がプラセボで無いこともある。これは抗がん剤の試験などで多いが、偽薬投与が倫理的に問題ありと考えられる場合だ。そういったときには、既に使われている実薬Bに対して、新薬Aが少なくても同等の効果、できれば更に良い効果を示すことを期待して試験が行われる。