片頭痛の発作時治療

以前も書いたが、片頭痛は辛い。
発作は耐えきれないような頭痛とともに吐き気を伴い、光や音に対する過敏性を持つことで暗い中にじっとしていないといられない。
片頭痛に関して、その経済的損失が莫大であること、特に子供においては診断までに時間がかかってしまうことは以前書いた。
  片頭痛と経済損失と思い出
  片頭痛は早めに診断してもらおう


さて、そんな辛い片頭痛、急性期には今ではトリプタン系という良薬が登場したことでかなり緩和されるようにはなったが、如何せん値段が高い。10錠買うと3割負担でも数千円かかり、処方すると驚かれることもしばしば。*1


様々な国の片頭痛治療ガイドライン片頭痛は週に2-3回以上あれば予防治療が推奨されている。ガイドライン推奨と最近の論文から、片頭痛と付き合うのに必須の急性期治療を今日は紹介した上で次回予防について。


発作時の急性期治療
試みる薬としては以下の順で効果を確認していく。

  1. アセトアミノフェン(カロナール)
  2. NSAIDS(エヌセーズ、と読むことが多い。非ステロイド性抗炎症薬)
  3. トリプタン製剤


1は2のNSAIDsには多い胃腸障害が少ない、安全性の高い鎮痛薬。「効かない」と訴える人もいるが、日本では従来より1回の量が少なすぎることが指摘されていた。100mg錠からあるが、1日1500mg(15錠!)まで使えるし、思い切って1回に300-400mg程度は使用してみるべき。アメリカで頭痛を訴えたり、二日酔いというと同成分の「タイレノール」をやたらと勧められることが多いが、1錠300mgと高用量である。長期間大量服薬は肝障害の副作用を念頭に置く必要がある。小児の解熱剤に出されるのは普通はこれ。


2はいわゆる「痛み止め」。最近話題の「ロキソニン」もこれの1種。胃腸障害には気をつける必要があり、長期間にわたり連続して使う場合には胃薬の併用もいるし、薬剤性胃潰瘍*2の原因薬として多いことは常に念頭に置きたい。尚、片頭痛は吐き気を伴うが、アメリカでは吐き気どめとの合剤も発売されているようだ。またNSAIDsは細粒の形で水に溶かして服薬したほうが、効果が高いとの報告もある。


3は片頭痛の特効薬であり、この登場は私のような片頭痛患者にはまさに福音だった。発作時に、上記2製剤では効かない人はさっさと使うと良い。片頭痛持ちならわかると思うが、「今日は薬を使いたくない…」「できればこのまま収まってくれないか」と躊躇している間に頭痛が出現、悪化することがよくあるもの。カロナールロキソニンはそのような時最早間に合わないことが多いが、トリプタン製剤なら間に合う。だから早く飲んだほうがいい。片頭痛には、目の前がチカチカしたり、光の点が視野の中心に見えてそれが広がっていくような閃輝暗点という特有の前兆がある人も多いが、経験的には痛みの始まる前のその時点で飲んだほうがいい場合も(薬が勿体なくて飲めない、というのも理解できるけど…)。カロナールロキソニンとの併用も問題ない。


  尚、閃輝暗点のような前兆がないと片頭痛じゃないと勘違いしている人(医者も)がいるが、片頭痛診断の最重要ポイントは、音や光など感覚刺激への過敏性である。頭痛が拍動性でないといけない、というのも嘘である。


トリプタン製剤の副作用と使い分けについて
片頭痛は脳の血管拡張による痛みなのだが、トリプタン系はセロトニン受容体(5-HT1B/1D)に働いて血管を収縮させる。


それが影響しているのかどうか、副作用に首の痛みや一過性の胸の圧迫感、赤面などがある他、「triptan sensation (トリプタン感覚)」と表現される異常感覚がある。ちなみにdneuroは以前も書いたが、イミグランで肩痛がひどいため服薬をあきらめて、今ではレルパックス(エレトリプタン)にしている。そのように副作用に対する感受性には個人差があるため、1剤がダメでもトリプタン系製剤の服薬を試していく価値が十分にある。片頭痛持ちはあきらめてはいけません。


トリプタンの副作用と問題点(こばやし小児科・脳神経外科クリニック)
(兵庫県の脳外科医さんのblog。他の記事も大変わかりやすい)


ところで、血管収縮ということで心血管を収縮させて虚血性心疾患(狭心症心筋梗塞)や脳血管障害のリスクにならないのか、というのは不安に思うのだが、現在のところ関係はないという結論のようだ。(実は今回参考にした論文にトリプタン製剤服薬者の100万人に1人は起こりうるともあったが、それは極めて稀ということでは?と感じる)。
とはいえ、未治療の高血圧、虚血性心疾患、レイノー病、一過性脳虚血がある人は禁忌である。


妊娠中・授乳中はトリプタンを服薬できるのか?
片頭痛持ちは明らかに女性が多く、そして妊娠可能年齢期に発作が多い。
有り難いことに、妊娠中や母乳育児中、片頭痛は軽減することが多いとのことだが、妊娠・授乳中の服薬は気になるところ。


慢性頭痛の診療ガイドライン2013


慢性頭痛のガイドラインでは、とりあえずアセトアミノフェン、すなわちカロナールが推奨されている。トリプタン製剤は添付文書的には安全性が確立されていないと記載があるものの、実際に胎児に奇形が発生したなどの報告は無い。授乳においては、例えばイミグランの母乳移行は注射で3.5%、経口服薬で0.5%。dneuroの使っているレルパックスは母乳移行が非常に少なく(0.02%)、授乳中に使うのならばレルパックスが良さそうだ。尚、NSAIDsは妊娠後期には使わないほうが良い。胎児動脈管収縮・閉鎖という現象を起こしてしまう可能性があり、アメリカ食品医薬品局FDAは妊娠後期に禁忌としている。


さて、個人的結論を言わせてもらえば、カロナールで痛みが和らぐのなら問題ないが、余りに苦しい片頭痛発作があるとすれば、それが妊婦にしても授乳中のお母さんにしても、身体に良いとは、ひいては胎児にも良いとは到底思えないので、頻回使用は慎むにしても、トリプタン製剤を使ってコントロールするのは選択肢として外す必要は無いと思う。


子どもの片頭痛にどう対応するか?
以前書いたように、子どもの片頭痛は見逃されやすい、というか、頭痛そのものが軽く見られているきらいがある。実際のところ頭痛が、必ずしも本物ではなく、ある意味ストレスの身体化反応となっている子がいないわけではないだろうが、片頭痛であるならばしっかり対応してあげたい*3。思春期前の片頭痛発症年齢中央値は、男の子で7歳、女の子で11歳。平均で9年以上診断が就いていないという。


さて、小児の場合も基本的には治療薬選択は原則変わらないのだが、やはりアセトアミノフェン(カロナール)や、NSAIDSの中では一番胃腸障害の少ない、イブプロフェン(商品名はブルフェン)が推奨される。


トリプタン系製剤は実は危険性というよりも有効性が小児で確立されていない側面が強いようだが、イミグラン点鼻薬が推奨されている。錠剤ではリザトリプタン(マクサルト)。使って良いのだ。


ママ、頭が痛いよ!―子どもの頭痛がわかる本

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子どもの頭痛、は本物なこともあるのですよ。


頭痛女子のトリセツ

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同じ著者。女子医の有名な先生なんですね。


偏頭痛百科―サックス・コレクション (サックス・コレクション)

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絶版だが、「レナードの朝」で有名なアメリカの神経内科オリバー・サックス著。片頭痛の前兆がとにかく人によってバリエーションに富む。


尚、頭痛薬、とりあえず医者にかかるのは嫌だという方は市販薬も使っているはず。説明書に沿った使い方をして、問題がなければ良いと私は思うが、他の重要疾患かもと心配なら、もちろん早期に受診を。

*1:薬価サーチ(イミグラン)で見るとイミグランは1錠763円。10錠1シートで7630円。3割負担でも2300円ほど。ジェネリックでも1錠393円。これは高い。

*2:薬剤性胃潰瘍の原因として一番多いのがNSAIDs。なので気をつける必要はある。ちなみに良くロキソニン+セルベックスという形で胃腸薬が付加されることも多いと思うが、実際に胃潰瘍予防としてエビデンスがあるのは、PPI(プロトンポンプ阻害薬)という薬だけ。他の胃薬は予防という観点からまじない程度の役割しか無く、無駄な処方が多いと感じる。

*3:個人的経験だが、私の片頭痛は少なくても学校の保健室では無視された。痛いのに返されて階段で泣いていた思い出は辛い。母も片頭痛もちだったので、母の理解はあったものの、無知なため、薬ではなくタイガーバームを塗られていた過去がある。恨んじゃいないけど…。