インチュニブの副作用について

前回はインチュニブを含めた薬の作用メカニズムについて書きましたが、今回は最近の論文からインチュニブの長期連用における安全性について。


効果、はあるのであとは副作用とのバランス


最初に効果についてですが、

インチュニブに効果があるのは疑いようがありません。
そもそも、臨床試験で効果があることが示されているので発売されているので。

あとは、他の薬剤、すなわち、コンサータストラテラと比べてどうか、という点と、副作用から考えた使い分け、です。


効果から考えた薬の使い分け、はできると良いのですが、実のところそれは難しい。


前回のblogに書いたように、コンサータは主にドパミン系、ストラテラは主にノルアドレナリン系に、そしてインチュニブは選択的にノルアドレナリン系に効く薬剤ですが、残念がらこういうタイプにはこれ、という使い分けができるしっかりした根拠は無いのです。


実際のところ、使い分けに関して臨床医としての感覚的なものはあるんですけどね...
ただ、それは責任を持っては言えないので、ひとまず現段階のガイドラインを中心に考えると、第1選択としては通常はコンサータを選び、副作用や、もしくは併用の観点から第2選択肢として、ストラテラが従来は唯一の薬だったところに、インチュニブが出てきたということになるでしょう。

つまり、基本はコンサータ、第2選択にストラテラもしくはインチュニブ

コンサータストラテラの主要な副作用は、食欲不振です。


この副作用を伝えると、「かえって都合いいです。食べすぎるので〜」と言ってくださる方、結構居るんですが、問題は成長期の服薬が成長を阻害しないかどうかというところ。


なので、特に痩せ型のADHDっ子がコンサータないしはストラテラを服薬するときには食欲の問題は大きい。
後述しますが、インチュニブには食欲不振の副作用はなく、成長阻害が無いため、第3の選択肢ができたことは大きいのです。


今回は、大人への適応拡大なので、その点は子どもに比べると意義は低いですが、それでも他の2剤で痩せちゃう人はいるので、やはり選択できるようになったのは大きいかなと。



インチュニブの主要な副作用を考える


今回参考にするのは、ヨーロッパで行われた第3相試験の結果についての報告論文です。
国内外の臨床試験結果は幾つか手に入りますが、実のところ他の結果と大差は無いので、新しい、という点から採用してます。


プラセボは置いていない、オープンラベルの試験です。つまり、効果のないプラセボ薬との比較や他の薬と比較しての優位性などを見ているものでは無いので、投与する医者も、服薬する側もインチュニブを服薬することがわかっています。*1


www.ncbi.nlm.nih.gov


215人の子どもたち(平均年齢11.7歳)を対象に、2年間、インチュニブ(論文では一般名:グアンファシン)投与を行い、2年間では133人が最後まで服薬しています。ちなみに男子が73.8%。 *2試験の完了は全体の62%ですが、安全性に関してはほぼ全員を対象に解析しています。


多い副作用は眠気

さて、経過中にインチュニブに関連した何らかの副作用を経験した人数は132人、61.7%です。


特に経験する人数が20%以上の大きなメインの副作用は3つ。


眠気(36%)、頭痛(28.5%)、疲労感(20.1%)です。


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眠気、疲労感はやはりどの試験でも多いもので、実際使うと感じる方が多いでしょう。

この眠気、どのくらい続くかというと、どうやら服薬後3-4週の用量調整期間にもっとも多く出てきて、8週間(2ヶ月)ほど経つと落ちついてきて、だんだん少なくなる、という経過のようです。


通常インチュニブは子どもなら体重に応じて1mgから、大人なら2mgから開始します。眠気に応じて用量を調節するものの、初期の眠気は次第に弱くなっていく可能性はあるので、眠気が強過ぎなければすぐにそれを理由にすぐにはやめないほうが良いのでは?と感じます。



成長への影響は無いが、脈拍と血圧は若干下げる


さて、抗ADHD薬の心配の1つである成長阻害がインチュニブに無いことは以下のグラフを見て安心して良いのではと思います。
コンサータと併用することも有りうるので、成長への影響が多少なりとも懸念せれるコンサータと組み合わせたときに、副作用が相加的ではない(重複して積み上がるわけではない)のは安心材料の1つでしょう。


身長(下図a)、体重(同b)、BMI(同c)といずれも大きく変化は無いですね。
身長が右上がりなのは、子どもたちなので時間とともに成長しているわけです。BMIが安定しているので、体重も身長に応じてはちゃんと増えているということでしょう。



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上図右側は脈拍(d)と血圧(e)で、こちらのほうは若干下がります。
これが深刻な副作用に繋がることはめったに無いと思いますが、仮に問題になっても服薬をやめれば大丈夫そうです。神経質にはならなくて良いと思いますが、注意しておくと良いでしょう。



User reviewは真っ二つ


さてさて、私はよく薬について情報を知りたいという時に、海外のuser reviewも参考にします。
日本にはこういったサイトは無いですが、さすがアメリカというべきか、服薬してどうだったか、というのを服薬した本人や家族がレーティングして載せるサイトがあるのです。


www.drugs.com


これで見ると、インチュニブの評価は、10点満点で平均5.8点。

低い、というのではなくて、8以上の評価と3以下の評価がほとんどです。


両極端に分かれているので、要するに、効く人には実感が強く感じられ、効かない人には効かない、もしくは副作用で服薬が難しい、というのがはっきりしている薬だと言えるのでしょう。


ADHD薬を使う際に心がけたいのは、とにかく、使うことでメリットを感じられること、副作用がある場合はその程度に応じて薬を変えることです。
今回インチュニブが成人に適応拡大されたことで、薬としての選択肢が増えたことは喜びつつ、上手く生活に役立たせられれば、と思うところです。



めんどくさがる自分を動かす技術

めんどくさがる自分を動かす技術

行動を開始するのが難しい、のはADHDの生活困難の1つに挙げられますが、たとえADHDでなくても、やらなくてはいけないことに腰が重いというのはありますよね。

この本には面倒くさがる自分を動かす沢山のやり方が書いてあるので、自分が持っている以外のやり方を参考にするのにとても良い気がします。
私に関して言えば、「集中したいなら手が届くところに"誘惑するモノ"を置かない」というやり方が効果的かなと。子どもに何かをやらせたいときにも有効ですよ。


世にも危険な医療の世界史

世にも危険な医療の世界史

こちらは単に最近読んで面白かった本です。
今でこそ、標準医療は、完全ではないとはいえ、エビデンスを大事にし、結果によって根拠を持って治療を考えることができますが、昔はどうしてこんなことがされてたの?と思う医療が沢山あります。

とりわけ罪深かったのは瀉血ではないかと思いますね。


とにかく具合が悪ければ、血を抜く。血を抜いて具合が悪くなれば、効果がないと更に血を抜く。そんな瀉血が医師によって盛んに行われていた時代があったのですよ。欧米ですけどね。モーツアルトも、死ぬ1週間前に2リットルもの血液を治療として抜かれたそうです。2リットルは大人の循環血液量の40%。彼がそもそも具合を悪くしたのがなぜかはわかりませんが、弱ったところに2リットルの瀉血は、それ自体致命的ダメージを与えたことが想像に難くないというか。モーツアルトは毒殺されたなんてことが言われてますが、医師の瀉血による殺人というのが正しいんじゃないですかね...死んだのは意図したことではないわけですが。


エビデンスを考慮しない時代、人は専門職を含めて、どんな突拍子もないことも健康に良いと信じられる性質を持つのだ、とわかります。

*1:プラセボ薬を置かない理由ですが、インチュニブはすでに効果そのものはあることがわかっていますし、2年間の追跡研究で効果の無い薬を対照群に置くのは倫理的とも言えません。

*2:男子割合は教科書通り多いですね。でも私の外来だと、実は30-40代になるとADHDは圧倒的に女性が多いんですよね〜。子どもの女性ADHDさんはかなり見逃されてるのではないかと疑います。

インチュニブが成人に適応拡大_インチュニブの作用について

つい先日ですが、抗ADHD薬の1つ、インチュニブ(一般名:グアンファシン)が成人に適応拡大されました!


これはこれまでADHD症状に対して、使えた薬が成人ではコンサータ(一般名:塩酸メチルフェニデート)とストラテラ(一般名:アトモキセチン)の2剤のみだったことを考えるととても喜ばしいことです。薬の選択肢が増えました。今までは18歳未満にしか適応が無かったんですよね。



インチュニブは何が違う?


ここでちょっと薬の働き方を考えてみましょう。


専門的な解説は成書に譲りたいところですが、現在日本で使える3剤を大雑把に分けると、ドパミン系優位に効くか、ノルアドレナリン優位に効くかというように分けられます。ここでは、脳の中でも前頭葉に対する薬の働きに着目してみます。


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図にあるように、脳の前の方にある前頭葉、ここは言ってみれば脳全体の指揮者のような存在で、私達が「自分」であるためにとても重要な脳領域です。機能としては、神経活動を一方向に向かわせてしっかり働かせる注意機能現在必要な情報を保持して今の状況に対処する作業記憶気持ちの波を制御して落ち着つかせる情動制御、などが挙げられます。



そう、ADHDはこういった前頭葉の機能に弱い部分があるから、不注意であったり、衝動性が高かったりする、と理解されています。



そして、図の右側にあるように、脳を構成する神経細胞は、その接続部(シナプス)で神経伝達物質という化学物質をやりとりしてお互いに連絡しています。色んな種類の神経伝達物質がある中で、抗ADHD薬のターゲットとなるのがノルアドレナリンドパミンというわけです。


ノルアドレナリン濃度調整をするのがインチュニブとストラテラ


で、前頭葉ノルアドレナリン濃度を調整するのが今回成人適応になったインチュニブと、これまでも使えたストラテラになります。


ノルアドレナリンはその濃度が適正範囲にあると、前頭葉神経細胞に、しっかり働けよ、こう働くんだぞ、という司令がしっかりと伝わるのに役立ち、要するにノルアドレナリン前頭葉の機能強化をするのが役割です。


ドパミン濃度調整をするのがコンサータ



一方、ドパミン濃度調整に強く働くのがコンサータです(ノルアドレナリンの調整も担います)。


ドパミンは、前頭葉では、神経細胞が刺激に的確に反応するよう、ノイズになりうる余計な刺激が今やっていることに邪魔しないように神経活動を調整します。それによって、前頭葉神経細胞はしっかりと持ちうる能力を発揮できるというイメージでしょうか。言ってみればドパミン神経細胞のチューニングを担うのです。


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さて、そんなわけで、インチュニブは、ストラテラと同じく前頭葉ノルアドレナリン濃度を調整してくれる薬剤というわけです。



では、ストラテラと同じなのか、というとインチュニブは神経細胞ノルアドレナリン受容体(α2A受容体)に最も強く選択的に働く薬であり、それだけ高い効果も狙えるわけです。



次回,インチュニブの用量や、副作用などについて。




昭和大の岩波先生。


しっかりADHDを知りたいという方には勧めています。

大人のADHDを扱った書籍でインチュニブについて出てくるのはまだ先でしょうね。


マンガでわかる 大人のADHDコントロールガイド

マンガでわかる 大人のADHDコントロールガイド

ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に働くための本

ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に働くための本


自分のADHD気質を理解しながら職場での適応を高めていくことを考えたときにはこんな本たちが良いのではないでしょうか。
ただ、對馬さんの本は、中身はとっても良いのですが、ボリューム感があって、読み進めるのには努力がいるかも。当事者同士で抄読会とかやると一番いいかもと思ったりします。
(ちなみに、對馬は「ツシマ」と読むようです。難しい...)

高齢者の運転について

先日、大学で授業をしたんです。

医学部で新設された科目なんですが、行動科学の授業で、タイトルは「脳の働き方を知って人に優しくなろう」。


コンセプトとしては、人がついパッと考えてしまう中には、実は事実と違っていたり、固定観念や偏ったものの見方(バイアス)を知らず知らず持っていて、それが人に対して厳しい意見や対応につながっている場合があり、そこに自覚的になろうということです。


さて、その中で、今話題の高齢者の運転問題についてとりあげました。

この問題、皆さんにとってはどうでしょうかね。


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どうでしょうか。75歳以上ドライバーの死亡事故と来たら、人を巻き添えにしていそう、とか、死亡事故は急増しているイメージありませんか?


とりあえず客観的データを確かめてみましょう。ソースは警察庁交通局が平成30年に発表した、「平成29年における交通死亡事故 の特徴等について」(pdf)がいいでしょう。


これ、答えは3だけなんですよ。まあ当たり前そうなこれだけです。


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ニュースを見ていると、高齢者の運転をどうにかせねば、という議論が多いですよね。
でも、なんとなくのイメージで皆さん語っている気がして...確かに高齢者の皆さんはどんどん増えている日本ですが、死亡事故件数はどのくらいあるのかというと...


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見てください。75歳以上ドライバーの免許人口10万人あたりの死亡事故件数は年々減っているんです。一貫して。
こんな感じで減っているというのは結構びっくりじゃないですかね。


とはいえ、75歳未満のドライバーに比べて死亡事故件数が多いのは確かです。
では、その死亡事故がどんな事故なのか見てみると...



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まず平成29年の死亡事故件数(2829件)で、75歳以上運転者の割合は全体の12.8%、418件。
そのうち、168件(40%)が車両単独事故で、対人事故件数は78(19%)。
これは75歳未満ドライバーの死亡事故件数が対人で38%を占めていることとは対照的でしょう。
そう、対人事故が多いのは、今話題の超高齢者ではないんですね。
なので、ドライバー死亡事故の占める割合に高齢者は多いですが、多くは単独か、対車両なのです。


一方で、歩行中死者、つまり歩いている最中に自動車事故で亡くなってしまう割合は高齢者が突出しています。
特に人口10万人あたりの割合では、全年齢層に比べて、80歳以上では4倍です。



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つまり高齢者はどちらかといえば被害者の側面が強いし、ドライバーとしては単独で事故を起こしやすく、亡くなりやすい。
これは、若年者より重大事故を起こしやすい可能性もありますが、同じ衝撃でも体への負担がより強いからかもしれない。


ただし、免許人口10万人あたりの高齢者死亡事故数は一貫して減っているので、対策そのものは上手く行っているのかもしれませんね。
高齢ドライバーの免許返納も増えてきたからでしょう。



さて、75歳以上運転者の認知症の割合はどうなんでしょうか。


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図のグラフで、第1,第2分類が認知機能の低下を示唆しています。
報告書では、死亡事故で49%が第1・2分類を占め、認知機能受験者の32%に比べて高いため、認知機能の低下が死亡事故の発生に影響を及ぼしている、としていますが...

どうでしょうか、この部分には違和感を感じます。死亡事故運転者の過半数(51%)が、認知機能低下を示唆されていなかったのに、死亡事故に至っていることのほうが問題でしょう。

認知症ドライバーが多くを占めているのなら、認知症ドライバーには運転をさせない、という言ってみれば当然の対策で良いのですから。
もちろん、認知機能検査がそもそも認知症を判別できるのかといった観点から考え直すことも必要かもしれません。

www.npa.go.jp

今行われている認知機能検査は3つ。


・時間の見当識(検査時の年月日、曜日、時間を尋ねる)
・手がかり再生(一定のイラストを短時間記憶できるか)
・時計描写(時計の文字盤と指定された時刻を描く)


ですが、運転に必要な技能のすべてがこれでカバーできるかというと、十分とは言えないでしょう。
平成29年より、第1分類になったドライバーは医師の診察を受けることが公安委員会によって指示されていますが、せめて第2分類まで拡大して欲しい。

また、第3分類の方の死亡事故が多いことを考えると、すべての75歳以上のドライバーは医師の診察を受けるべきなのかもしれません。



ちなみに、今月仙台で予定されている老年精神医学会のプログラムを参考にすると、発表の中に聖マリアンナ医科大学の先生方による「運転免許試験で「認知症の恐れがある」とされ当院を受診した高齢者について」という演題があります。免許更新時に認知症の恐れがあると判断された(つまり上記の第1分類ですね)方23人の診断結果が出ています。結果はすべての方が認知症もしくはMCI(軽度認知障害)だったそうです。11名は自主返納、7名は診断書作成とのこと。でも3名は診断結果に納得せず激怒したそうですから、そういう場合は困るな...。とはいえ今の検査が一定の効果を発揮しているのはわかります。



そんなわけで高齢者運転について今日の内容をまとめると、


ドライバーとしては、
高齢(75歳以上)ドライバー死亡者数は他の年齢層より高い
高齢ドライバー死亡事故の原因の多くは対物・対車両事故


高齢ドライバーの免許更新時の認知機能検査は一定の成果をあげているが、十分とまではいかない


歩行者としては、
高齢者死亡事故がとても多く、それは横断中であることが多い


対策として、私が考えるのは、


1.高齢ドライバーの免許更新時の認知機能検査は見直し、医師診察対象を拡大し、認知症ドライバーを可能な限り少なくする
2.自動車の安全対策機能(自動ブレーキなど)の強化と自動運転の開発

でしょうか。


対策1のためには認知症検査可能な医師数を増やす必要があるでしょう。
対策2は今積極的に技術開発がされているので、一層速く進んでいくことを望みます。


超高齢者だからそれだけで運転が危ないわけじゃない


警察庁統計によれば正直普通の人にとっては、超高齢者ドライバーではなく、75歳未満の運転者のほうがより危ないようです。


「高齢ドライバー」の危険が強調される議論では、あたかも一定年齢以上になると自動的に認知機能低下をもたらして運転に望ましくない状態になる印象を与えられてしまいます。でも実際は、認知機能低下は明確にこの年齢で低下するとラインが引けるわけではなく、当然ながら個人差があり、人によっては若くても認知機能低下は有りえ、80歳でも若い方よりよほど安全に運転できる人もいるわけです。



必要なのは、適切な評価とそれに基づく措置がしっかりされることでしょう。




ズバリ合格! 運転免許認知機能検査 (TJMOOK)

ズバリ合格! 運転免許認知機能検査 (TJMOOK)


ただ単に認知機能検査を突破することだけが目的にこういう本を利用するとなると問題かなとは思います。運転免許センターでの認知機能検査は運転に必要十分な脳機能のほんの一部を判定しているに過ぎず、その場しのぎに突破できたことが果たして趣旨にあうかどうか...と思いつつこの手の本を手にとってやってくれる人はそうでない人たちよりも自覚的で良いのかも。



臨床医のための!高齢者と認知症の自動車運転

臨床医のための!高齢者と認知症の自動車運転


高齢者がどんどん増えていく日本では、認知機能評価が少なくてもある程度まではどの臨床医でもできるべきではないでしょうかね。


高齢ドライバーの安全心理学

高齢ドライバーの安全心理学


高齢ドライバーの抱える諸問題を抱えるにはとても良さそうです。購入してみたい。




世界的企業がしのぎを削って開発中の自動運転技術。運転中に人間の能力を超えてしまう状況に直面しうる以上、解決策はこれしかない、と思うのです。でも一方で、人が運転技術を学ばなくなった時代というのが到来するのも怖いですよね。運転が一部の人の限定能力になっても困る(気がする)ので、良いバランスが取れるといいのだけれど。

アルツハイマーが治る??そんな話には頭に警戒警報が鳴り響いてしまう

ひょうな拍子にアメリカのDr. Bredesenによるアルツハイマー認知症に対する非常に画期的な予防及び治療法が書かれているという本を見つけました。


アルツハイマー病 真実と終焉

アルツハイマー病 真実と終焉 "認知症1150万人"時代の革命的治療プログラム

原題は"The End of Alzheimer's"ですから、非常に衝撃的です。


ということで、今読んでいるのですが...個人的には頭の中に警戒警報が鳴り響くので、一応そのことを書いておきたくなりました。

とはいえ、内容を全否定するものではなく、dneuroだって認知症治療に関わっている身として、アルツハイマー認知症が治るとか,予防できるとか勿論大いに期待しているし、そんな方法が発見されれば嬉しいことこの上ないのですが、それは信頼できる情報なればこそ、です。


まずは内容を見てみよう


本を読むべきでしょうが、とりあえず内容を簡単に知るにはこの記事を。

toyokeizai.net

gentosha-go.com


理論をすっ飛ばしてブレデセン医師の主張をざっとまとめると、


1)アルツハイマー病の進展には36の要因があり、「アルツハイマー病の脳は36個の穴が開いた屋根」である。薬剤がそのうちの1-2個の要因による穴を塞げるが、人によって穴の数も大きさも違うため治療は包括的にオーダーメイドになされなければいけない


2)認知機能低下を進行させるのは5項目に集約される。すなわち、インスリン抵抗性②炎症/感染症③ホルモン・栄養素・栄養因子の最適化④(化学的、生物的、生理的)毒素⑤喪失した(または機能障害が起きている)シナプスの再生と保護


3)1,2で挙げたアルツハイマー病進展の要因をなくすために行うのがリコード(ReCODE:Reversal from COgnitive DEcline; 認知機能低下からの回復)法である。例えば、体内にケトン体を増やす食事療法(ケトフレックス12/3)、適度な運動、適度な睡眠、ストレスの軽減、脳トレMCTオイル、クルクミン、アシュワガンダ、ハーブ、マグネシウムレスベラトロール、オメガ3脂肪酸、グルタチオン、ビタミンD、プロバイオティクス、ビタミンB12亜鉛、特定の抗生物質デトックスプロトコルなどなど。
このリコード法は早く始める程良いし、アルツハイマー病が発症してからも効く(!)。


どこに怪しさを感じてしまうのか?

実は、字面を追うだけだと、結構納得できるんですよ。


特に、アルツハイマー病進展の要因は人それぞれだから治療は包括的にオーダーメイドに、とか本来はそうだよなーと感じますし、2)で挙げた5つの要因はそれぞれエビデンスが結構あります。
例えば、インスリン抵抗性ですが、以前dneuroが書いたとおり(→
糖尿病とアルツハイマー型認知症 - 神経科学者もやっている精神科医のblog)、糖尿病はアルツハイマー病の大変大きな危険因子といっていいものです。

炎症もですね、脳内の免疫的細胞であるミクログリアが活性化されすぎてしまうことが脳にダメージを与えることであるとか、ある種の感染症アルツハイマー病と関連している報告が確かにあるよなと。


こんな感じで、アルツハイマーを進展させる要因についての記述は、概ね納得できるものが多いんですよ。それはブレデセン医師がきちんとした学術論文を多数発表している基礎医学研究者であるからでしょう。


ところが、その対策であるリコード法の記載になると色々と疑念が湧いてきてしまうのです。


それはもう色んな怪しいキーワードが多く含まれているからにほかならないというか。


例えば、ケトフレックス食事療法、デトックスプロトコルグルテンフリー食、オメガ3脂肪酸、グルタチオン、プロバイオティクス、レスベラトロール脳トレMCTオイル、オーガニック野菜、グラスフェッド飼育の牛肉、とかね。



更にその上で、症例紹介がやたらと多い。いやそれは実例を挙げないとしょうがないんだから当たり前でしょ?と思うかもしれませんが、それにしたって、誰々がこうしたから治った、早く始めたから完全回復したのだ、まだ良くなっていないのはプログラムを完全にやっていないのだ、みたいな文章多すぎなんですよ。


つい最近出た彼の論文もそうで、100症例紹介という思い切ったものだけど、どうにもただナラティブに改善したよ〜というのを述べられても素直に信用しづらいのです。懐疑的な読み手からすると。


www.omicsonline.org


どの症例も劇的な改善を示していることを強調している反面、例えばその症例が本当にアルツハイマー病だったのかという根拠はほとんど触れていないんですよ。もしかしたら老年期のうつ病だったり、甲状腺機能低下だったり、ビタミンB12欠乏だったりするかもしれないじゃないですか。


意地悪かもしれませんが、この人にはリコード法通じなかったぜ、というのを出してほしいのです。
リコード法を十分やっていないから認知機能低下が軽快していないのです,というのは無しで。


海外のサイトには懐疑派の論議もやはりあって、例えばここなど。


www.quora.com


さて、こんなふうに取り敢えず頭の中に警戒警報が鳴っているdneuroですが、もう少しエビデンスを漁ってはみようと思います。ゆっくり調べたいと思わせる記述もあったりするので...


でも、色んな認知症の方を見てきた身としては、そんな簡単にこの方の認知症が治る、なんてやはり思えないのですよ...回復ってのはもう無くなってしまった神経細胞やネットワークが再生することだと思うけどそれは無理というものでしょう。


以上、決して御本人、ご家族の藁をもすがる思いを否定したい気持ちはありません。


ただ、性急にブレデセン氏の方法が正しい、日本でそれができないかしら、と思って検索すると出てくる治療院にはやたら高額な検査と治療を設定していたりするところがあります。



今のdneuroならどうするか?



まずは、診断が本当に認知症なのかの確定と、認知症ならどんな認知症かの診断が必要です。


アルツハイマー病ないしは認知機能低下があるのが確かならば、標準的治療を受けた上で(ここ大事)、


一般的な栄養学で推奨される食事とか、普通に考えて健康的な生活習慣(適度な運動、十分な睡眠、ストレスを減らすこと)、そして頭を使うこと、が肝要かと。


それができていればブレデセン氏の主張するリコード法の大半がカバーできちゃうんじゃない?


と思っています。


まして、まだ認知症症状が出ていないのに認知症を心配する余りに高額な検査をするくらいなら、生活習慣の見直し、こそが大事だということです。


そして将来への覚悟をするためなら、アルツハイマー病のリスク遺伝子であるApoE4の変異が自分にあるかどうかを民間の遺伝子検査会社の検査を通じて知っておきます。病院では今は検査していません。


リスク遺伝子があれば絶対発症というわけではないですが、あったら生活習慣の見直しをしっかりしなきゃと思います。


ちなみに、日本人は実はリスク遺伝子保有が少ないし、dneuroはまだ自分の遺伝子検査をしていませんけどね。



以前書いたアルツハイマー関連の記事はこちら。

neurophys11.hatenablog.com


アルツハイマー病が劇的に改善した! 米国医師が見つけたココナツオイル驚異の効能

アルツハイマー病が劇的に改善した! 米国医師が見つけたココナツオイル驚異の効能


ココナッツオイル! この界隈(どの界隈だ)では盛んに勧められていますよね。

でも、もしココナッツオイルがそんなに良いならココナッツオイルを消費している国では認知症発症率が低いのか、という話になるはずです。


ココナッツオイルの消費量はどうやらフィリピンやインドネシア、インドがアジア圏で多いようですが、今後のそれらの国における認知症発症の増加は決して日本に比べて少ないわけじゃないんですよね、どうやら。増加率で見るとですよ。


↓興味あるかたはこちらの報告をどうぞ(英語)。


Dementia in the Asia Pacific Region


https://www.alz.co.uk/adi/pdf/Dementia-Asia-Pacific-2014.pdf





なので、個人的にはやはり疑っちゃうなあ...



ご高名な白澤卓二教授です。


うーん、先生の仰る通りなら嬉しいのですが...



大事なのはこういう本だと思います。

必要なのは少額のお金です_ポスドク・新米教員編

お金についての話を何回かできると嬉しいなと。


昨年dneuroは千葉大学医学部の常勤職を退きました。2007年に奉職しましたので、11年ほどやったことになります。


仕事を始めてからのことを思い返すと…実は教員になってからは頭の中がお金のことでいっぱいになっていました。


とにかく医学系の研究はお金がかかるんです。例えば、生体組織から遺伝子を抽出する試薬類、抽出した遺伝子濃度の計測機械、遺伝子DNAを増やすPCR装置、試料中のタンパク質濃度を測る吸光度計などなど必要な機械や試薬は数知れず。試薬であれば、2、3万はザラだし、高いのであれば10万ほど。機械は軒並み高いのばかりで、例えば組織中でタンパク質を作るためにDNAから転写されるRNAの量を測る機械は安くて500万円ほど。日常の買い物とはちょっと桁が違う。


だから、お金はいくらあっても足りない。
機械類は研究室にすでにあるものを他の教室に借りに行くということもできないではないし、学部共用の機械もあるにはあるのですが、使いづらいんですよね。



11年の中で、研究費を取れず全くお金の無い時期を1年経験しました。
あの頃は辛かった…。自分の裁量で使えるお金が1円も無いんだもん。あぁ研究に必要な本が欲しい、解析に便利なあのソフトが欲しいなあ、ちょっと確認のためにする実験の試薬を買わないと…と思っても全てに我慢が必要で、諦めなくてはいけないことが多かった。


ここで、皆さんの中には、こんな疑問を持つ方がいるかもしれません。


Q.研究費って大学はくれないの?
古き良き時代はあったらしい。でも今は通常もらえません。少なくても私は1円も使えるお金はもらえなかったです。つまり、研究費を獲ってこないといけない。


ちなみにそういった問題への記事はそれなりにありますよね。今は。このままだと日本の科学研究が危ない、とか。

www.msn.com



Q.研究費獲れないと自由に使えるお金は0なの?
先に書いたように、大学はくれないので、0です。
例えば研究者にとっては必須の科学研究費です。申請の際には、例えば基盤(C)というクラスでは3年間で総額500万円以内ということで研究計画を練ります。
で、通ればいいんですけど、通らないと1円ももらえないわけですよ。0か、500万円。きつい。



Q.教授は必要なものを買ってくれないの?
うちの教授は寛大でしたので、言えば少なくても検討してくださいましたよ。でも問題は心理的障壁なのですよ。いちいち欲しいものを人に頼る、というのは非常に辛い。またそれが重なることによる不全感や劣等感の蓄積など…教員のくせに研究費を獲得できないなんてねえ、と何度も頭に浮かんでくるわけです。


Q.自分のお金(私費)を使ったら?
いや、それは言い出したらキリがないと言うか…やっちゃいけないことはないけど、プロとしてよろしくないと言うか。先に書いたように、かかりすぎるほどお金はかかるので、間に合いません。特許取るわけではないから金銭的見返り無いし(dneuroの場合ですよ)。とはいえ、本とか、学会旅費、PC購入などはその間私費で済ませました。


こちらとしては、大幅に減額されてもいいから(例えば、500万/3年が50万/3年でも)欲しいのだけど、そんなわけにはいかない。たとえ、月額1万とか2万でも使えたら、必要な本の購入や安い試薬購入みたいなことができるのに…。学会参加にも旅費が随分かかるし。


だから研究費落ちたときに、必要なのは少額の自由に使えるお金です。まとまったお金はしょうがない、実力不足だったんだから、次の申請でまた狙う。でも、未熟な研究者だってほんの少しお金があればどれだけ心強いか、という話ですよ。


あと、dneuroは生物系の研究者だったのでお金がかかりましたが、心理系の若手でアンケート調査などが主たる場合にはあんまり研究自体にはお金かからないんじゃないかなと。クソ高い研究費は要らないけど、継続して少額が入ってくれば十分というか。


そんなわけで、継続して手に入り、自由に使える少額の研究資金調達法があればなあと。大学院生、ポスドクさん、そして研究申請に落ちた新米教員などには特に。


そういう仕組みできませんかね。望むらくは研究者向けベーシックインカムか。


今自分が若手教員だったらチャレンジするのはクラウドファンディングかな。自分の研究が持つ意義・夢をアピールして、皆にファンになってもらう。
ハードルは高いものの、こういう選択肢があるというのはとっても有り難いことですね。


academist-cf.com




こういう本は自分では使ったことがありませんが、若い研究者さんの机によく見るし、評価も高そうです。


科研費はコツを掴めば案外取りやすいと言うか、取りやすいのはこれしか無いので、是が非でも取りに行かなくてはいけない研究費。
私自身は最近は3回連続通っていますが、以下を心がけています。これで良いかどうかは正直わかりません...獲れてるから良しと。


・適切な研究分野を選ぶ
・適切な研究規模で申請区分を選ぶ
・申請書は、読み手が素人と思って簡単に、わかりやすく書く
・研究が行き詰まったときの対策を、助けてもらう人の名前も出して具体的に書く
・お金の使いみちはとにかく具体的に
・これまでの自分の業績は強調する


博士号とる?とらない?徹底大検証!―あなたが選ぶバイオ研究人生

博士号とる?とらない?徹底大検証!―あなたが選ぶバイオ研究人生

この本も2000年発行で、dneuroが大学院進学考えたときには大いに参考に、というか面白く読んだものです。博士号を取る人生とそうでない人生。博士課程に行くことを迷っている理系修士学生には一読の価値が...当時はありました。でも絶版か...今役立つかは正直わかりません。古本が33円で買えるなら価値はあると思います。


科学立国の危機: 失速する日本の研究力

科学立国の危機: 失速する日本の研究力


未読なので、内容紹介はできないのですが読んでみたい本です。


昨今特に日本の研究が衰退に向かっていると言われますが、まあ実際大学が非常に教員に対して金銭的に渋いことを考えると、そうなるだろうとは実感します。前に、先輩研究者がつい最近まで科研費に応募した経験が無かったと聞いて驚愕したのですが、要はそれだけのお金が組織からもらえていたということ。


世間の風潮も、「有用な研究に資金の配分を」という状況では研究というのは衰退するんですよ。役立つかどうかに軸足を置くと、短期的には成果が出ても、将来役に立つかわからない研究はできなくなってしまう。でも実際にどれだけ役立つかわからない研究をしていた研究者たちが結果的にノーベル賞を獲ったりしているわけです。
要するに研究なんて、1000に1つも役立つものに育てば良いんじゃない、くらいでないと。裾野が広くないと際立った研究も出てこないわけです。


とはいえ、一定程度競争が無いと人間怠けますから、科研費のように競争的獲得資金がプラスαであればいいと思うし、流石に大学教員なら数年に最低1本は論文書け、と。

ASDの血液診断、発達障害モデルマウス、妊娠とバルプロ酸とADHD、飛ばしているNewsweek

また更新が遅くなってしまった...最近夜が弱くなって字を書き連ねていくのがやや辛いというか。
その分睡眠時間は前よりも確保していて良いと思うんですが、原稿書くのが仕事の方はどうやって時間を捻出しているんですかね...


さて、私が代表やってます発達特性研究所(株式会社ライデック)の研究紹介ページからまず3つ。



tridc.co.jp



ASDのバイオマーカーについての研究紹介です。バイオマーカーというのは検査をしてこの疾患があるという指標になる物質や特徴のことをいいます。

この研究によると葉酸代謝経路に関わる検査からASDのバイオマーカーがわかるっていうんですけど、本当でしょうか。
アメリカの研究です。


ちなみに遺伝子を探る、という方向性はかなり悲観的に述べられていて、

ASDバイオマーカーを調査している多くのゲノムワイドな研究はほとんど結果を出せずに失敗し、そのほとんどが個々の研究に特異的で終わってしまう。ASDを正確、そして差別的に診断することができる『予測可能なバイオマーカー』を発見するために、より良いフレームワークが明らかに必要」


うん、その通りと思います。*1


tridc.co.jp


こちらはモデルマウスの話です。


ご存知の通り医学研究は、疾患モデル動物を用いた実験が不可欠であり、良いモデルを通じて疾患の原因、治療の開発、治療薬効果・副作用の確認がされるのです。


精神疾患研究にもそういう意味でモデル動物が非常に大事なんですが、いかんせん、自分がどういう症状か話してくれない動物相手では、ある精神疾患のモデルと言われても、完全にモデルには成りえないわけです。マウスに、幻覚とか妄想持ってる?って聞いても仕方ないですからねえ...。
でも工夫して、幾つかの疾患では結構良いモデルマウスというか、実験系はあったりします。


ASDADHDの特徴を持ったマウス、というのはあり得るのか是非お読みください。


今回紹介した論文ではCDLK5という遺伝子が欠損したマウスが、そんなモデルになりうるという幾つかの特徴を示していることが紹介されています。
コミュニケーション上の問題やら、繰り返し行動を持っていたり、はたまた多動でちょっと不器用を抱えているとのこと。


私としては、感覚過敏に対して、こういったモデルマウスの良いのができるといいのになぁと思いますね。



tridc.co.jp


少しばかり気になる疫学研究としてはまたデンマークから。


デパケン(一般名はバルプロ酸ナトリウム)は、てんかんや、双極性障害の気分安定に使われる大変ポピュラーな薬で副作用も少ないのですが、ただ一点、妊婦さんに使いづらいのが特徴です。


葉酸代謝に影響し、二分脊椎という奇形のリスクを増やしてしまうことから、妊婦には基本的には投与しない、投与するとしても少量に留めるというのが原則です。


で、何かしら神経発達に影響を与えてしまわないかは心配されるところであり、今回の研究結果からすると、子どものADHD率をわずかながら上げそうだということでした。


リンク先にも書きましたが、もともと遺伝的にADHDの因子を持っていない子供をデパケンADHDにさせてしまう…のではなく、遺伝的にADHD因子を持っている場合に、若干(若干ですよ)そのADHD因子を発現させやすくしてしまうのかなと。そんなエビデンスは出せない個人的な感想ですが...。



飛ばし過ぎだぞNewsweek



さて、どうしても言いたいと思うのが、この前のNewsweek誌。

tDCS(経頭蓋直流電気刺激)が脳の力をアップさせることで運動選手の能力向上や、はたまたトラウマ治療、サイコパスの共感力を上げたりすると。
そしてADHD治療には磁気治療(TMS:経頭蓋磁気刺激)ということをかなりテンション高めに肯定的に紹介しているのですが、いやちょっと言いすぎだって、と。


アメリカのベンチャーが出しているヘッドホンみたいな「Halo sport 2」というtDCSの機械もかなり肯定的に紹介していて、ものすごい効果を謳っているのですが、どう考えても大げさでしょう、というかこんな提灯記事出していいのかと。


Halo Sport 2www.haloneuro.com


といいつつ、実はdneuroも面白いので買ってみようかと思っていたところではあるんですが...。


とまれちょい期待盛り上げ過ぎなこの特集、一度詳しく紹介できればとも思います。
dneuroもtDCSには期待しているんですが、今の所もっと控えめに効果を考えてるかな...。


発達障害の謎を解く NBS (日評ベーシック・シリーズ)

発達障害の謎を解く NBS (日評ベーシック・シリーズ)


発達障害についてその生物学的な部分を知りたい、としたらこの本はとっても良かったとも思います。
原因についても現在考えられていることを抑制的に書いていて、科学的にはこうでなくては、と。
読みやすいですしお勧めです。

*1:ちなみに最近思うんですけど、ASDとかADHDの遺伝子ってわかり過ぎないほうが幸せかなあと。理由は色々ありますが...。

気になる発達障害の話題(2)_発達障害グレーゾーン

発達障害グレーゾーン (扶桑社新書)

発達障害グレーゾーン (扶桑社新書)

この前のエントリでも書きましたが、この本、かなり話題のようですね。
読み始めは、グレーゾーンという言葉に対して、どういうスタンスを医師としては取るべきかなとも葛藤があったのですが、読み進めるうちに、言葉として必要性を感じてきました。また、診断がおりている人よりも潜在的に多く、可視化されていないというのはその通りと思います。発達特性は、診断されようがされまいが、あるわけだし、後述のように、状況によってシロクロつけ難い状態というのがあるので...。


さて、「発達障害グレーゾーン」、疾患名ではないので、定義として定まったものはないですが、


発達障害的特性を持っていることが生きづらさにつながっているけれども、自閉症スペクトラムADHDといった確固とした診断名がつくには至らないという状態


ということかなと。


「グレーゾーン」が生まれる理由


例えば自閉症スペクトラム(ASD)であれば、以前
自閉症〜名前の変遷〜 - 神経科学者もやっている精神科医のblogに書いたように、そもそもASDは定義からしスペクトラムなのだから、いわゆる定型発達との境目というのは曖昧です。


そうですね、お湯って何度から?という疑問に答えるのが難しいのと同じかな。一般的には40度前後なのでしょうけど、人が感覚的に把握できる境目というのはかなり微妙ですよね。明らかにこれはお湯、水、という触れればわかる温度がある一方で、境界域の温度は周囲の温度との相対的な比較でしか言えず、お湯とも水ともいい難い。だから、性質を非常に強く持つ場合はわかりやすいのですが、微妙に強い(弱い)性質に対する二者択一判断は、人によっても、さらには同じ人でもブレやすい。

f:id:neurophys11:20190220115948j:plain:w200:right
右の図のように青から緑へのグラデーションというのも考えてみました。周囲環境によって青とも緑とも言いづらいって思いませんか?
人も、その人のおかれている状況によって、発達特性が強い弱いは随分相対的なはずです。


結局、精神疾患の診断基準というのは検査値のような数値をもとにするものではなく、本人の言葉、周囲の人の言葉、そして行動観察から成り立つので、曖昧かつ医者によってその適用に差があるのはある意味致し方無いというか...。


そうなると、この診断の曖昧さを持って精神科は信用ならん、という声は当然あるわけです。ただ、まともな精神科医ならば、ということで持っている共通概念みたいなものはある。とはいえ、発達障害診断が典型的なように、時代によってそれも揺らいでしまう...。


ともあれそんなわけで、A医師は正常(定型)範囲のバラツキと判断する一方で、B医師は診断基準内と判断して診断という状況が生じているわけです。



正直、dneuroも医師として18年経ちましたが、研修医時代にはほぼ知識がなく、教育もされていませんでした。自閉症は極めてまれ、ADHDは子どもの疾患であり、大人相手だとまず会うことはないというか。要するに小児科の先生が扱うというイメージだったことを考えると今とは隔世の感がありますよ。



今考えればASDの人は統合失調症に診断されていたことが多かったし、ADHDはほぼ様子見でした。そう、それに特に今ならストレスへの適応が未熟なASDと診断する人たちを、境界性人格障害と診断していたように思います。それで、治らない、としたり、ひどく強力な薬物療法をしたり、はたまた何だか役に立っているのかわからない精神療法をしている話も聞いていました。


そんな診断上の曖昧状態は、この10年ほどの発達障害/発達特性への理解が進むにつれて徐々に埋まりつつありますが、それでもやはり医師による違いは大きい。



ともあれ皆さんの中には、発達障害のことを相談に行ったのに、目の前の人を発達障害を診断しない場合ってどんなとき?ってやはり疑問かと思います。


自らを振り返ってどんなときにそういうことがあるのか、次回考えてみたいと思います。
発達障害と診断しない医師の思考プロセス」ですね。



ちなみにグレーゾーンの話題は週刊SPA!でも取り上げられていました。webでもかなり読めます。

nikkan-spa.jp

SPA!(スパ!) 2019年 2/19 号 [雑誌]

SPA!(スパ!) 2019年 2/19 号 [雑誌]


グレーゾーンとはどういう人?から当事者の悩み、生活の工夫まで結構なボリュームで載せてくれてます。当事者紹介の欄を見れば、うっ、それは診断されたほうが楽なら診断されるべきでは、と思える内容が多いですね。dneuro的感覚からすれば診断にメリットがあるなら、された(する)方が良いと思うし。


その中で...男性ADHD患者さんに時にいますが、ストラテラ服薬中に勃起障害というのも出ていますね。感覚過敏のために人の肌に触れるのが苦しい、などもやはりパートナーとの営みでは障害となりうるだろうなあという声も紹介されています。そこら辺は、外来で話題に出来ればいいなあと思います。副作用がある人は早めに言ったほうがいいですよ。


もう有名な本ですね。著者の方が当事者として自分のやり方の工夫を様々な面から解説してくれています。診断受けたあとの心構えなども。
SPA!にも紹介してくれている中で、私がコレはと思うのは、不注意で忘れてしまう、なくしてしまうのは前提で、大量にストックを用意しておけ!というライフハックです。

本では、ワイシャツも靴下も大量に予備を持て、と主張。要するに最低限の身だしなみをするのに、いざという時に足りないというのをなくしてしまおう、ということですね。何も高いものではなく安いものでいいと。


上記のSPA!にもこの方の囲み記事があって、例えばタブレットはベッドやデスク周りに合計6台持っていると。中にはカレンダー専用で持っているものもあり、一度予定に入れてしまえばどの端末でも確認できる。


うーん、大抵は、忘れ物をなくそう、どうなくせばよいか、という発想を大きく逆転させいているんですよ。でも結果的には忘れてしまうことが多いのなら、これは物凄く立派な解決法ですよね。自分も忘れ物が多いけど、結構目から鱗だなと。もっとも、今子供でいる子にこれを推奨していいかは微妙ですが...。



まあ思うのですが、診断がついていようがいなかろうが、こういう特性があればこういう対応が良い、というは変わらないんですよ。だから、発達障害診断された子に優しい、良い対応というのは、グレーゾーンの子にも、定型の子にだって良いはずで...とはいえ、定型的な子に対してはいささか過保護気味になることはあるか。