発達障害特性独自の強みについて

発達障害についてはやはり「障害」と括られることで否定的なことが書かれることが多い。発達障害の持つ特性が障害になる一方かというと、そんなわけでも無いというのが今日の論点。実際の所、あぁこの人ASDだなあという偉大な人はそれなりにいるし、ADHDを公言している著名人もいる。


特性の強みに関しては、例えばASDでは⇓のような就職関連のサイトで、こだわりを上手く活かせば…とか、人が退屈に思うことでも不満を言わずに作業レベルを落とさずに長時間継続できる、といった文脈が多いかと思う。


hataraku-chikara.jp


ただ、一方でそれは「障がい者」の枠の中でこういった強みがありますよ、と言うだけであって、障がいと無関係な積極的な強みとして語られることは少ないのは仕方が無いとは言え残念な部分ではある。


ASDADHDもその特性は条件が揃えば強みだ
条件が何か、というのは少し置いておいて…


・空気が読めない
日本人が空気を読みすぎたり、その場に居る立場が上の人を慮って議論を停滞させる傾向にあるのは周知の通り。
空気が読めない、ことは誰に対しても声をあげられるという素敵な面を発揮できる。なあなあで済ませてしまうもしくはそのようになってしまった中でも、余計な私情を挟まず誰かを特別扱いしない、裏表なく公平といった非常に公正な人になり得る。*1


ASD(傾向)があって活躍している人は「外国に居るほうが楽」と語ること、結構多い。英語圏では敬語もなく、議論においても上司や教授など権威に対してもファーストネームで呼び合い、また声を上げること自体が評価されるために、英語圏では能力を発揮できる条件が1つ多いと言えそうな気がする。


日本に戻ってくると途端に窮屈になる…この傾向はADHDにも言える。そう、ADHD特性に衝動性、多動があるがそれは外交的性格と重なると積極的な社交性に繋がり、日本人らしからぬ「空気を読まない実行力」「疲れを知らない行動力」となり得る。楽天三木谷社長はADHDの気があるかも、と発言しているようだが、頭の回転が早くアイデア豊富なのはADHD特性に源泉があるのかもしれない。衝動的にぱっと考えを口に出すのは日本社会には合わず、やはり海外、特にアメリカにマッチする方は多いだろうと思わせる。


いずれにしても、空気を読めない、というか周りを気にしないことは、特定領域の公務員、技術者、研究者、資格職にとって強みになることが十分にあるはず。


・こだわりが強い
ASD特性の1つだが、これも特定職種にとってはとても重要な資質になりうる。手順を確実に守り、疲れても手抜きしない。ルーティンを大切にして、ぶれない生活を守る。慣れてくると技術的には手抜きをしたり、特定の人や業者などに対しては融通を利かせすぎてしまうのが普通の人という感じだが、そういう袖の下を通さず、規律を遵守するのが得意というのはASDの強みと言っていい。*2


・不注意なればこそ
認知科学における注意と言う場合には、今起きている物事や周囲に適切に注意を分配する、例えば、何かに集中していても声をかけられたらそちらに注目するといったことも注意機能に含まれる。これはADHDが苦手とする機能。


しかし、特定のものへの熱中に度が過ぎて、話しかけてもまったく聞こえないというような過集中という性質は、特定分野においては強みだろう。注意の分配が適切にしっかりできることは、マルチタスキングに有利だし、どちらかといえば女性が高く持ちうる能力だが、ただでさえADHD的要素の強い男は、逆に過集中できるからこそオタク的、マニア的知識や技術習得に役立っていると言える。


・特性を活かせる条件とは何だろう
身も蓋もないが、一定以上の知的能力、技術習得能力が必要。特性そのものが問題になってしまうのは、特性を欠点としか認めてくれない環境条件もあるが、持ちうる能力が足りないことも多い(ので能力は伸ばす必要がある)。


本来は素晴らしい能力を持ちながらも、環境がその能力の発揮や、向上を許してもらえない状況にある発達障害者は多い。養育・教育に携わる人に考えてほしいが、大勢の健常者を凌駕するような何かの能力に長けている場合には、特性を修正することにこだわってしまってはもったいない。能力の凹凸を均すことに努めず(少なくてもある程度は)認めてあげられる環境づくり、というのが条件とも言える気がする。周りの人には、持ちうる得意な能力を伸ばす手助けをしてもらえたら、と思う。*3


また幼児期には十分に人に対する信頼を構築することが恐らく重要。そうでないとASDは被害的になりやすい部分があるし、ADHDは挫折に弱く悲観的になりやすい。人との良い関係を築けていてさえ、そういった部分は残るので、当事者であればそれも自覚する、自覚できることが自らの持つ能力を発揮できる条件といえる(はず)。自身を知ること、客観的に把握する能力をメタ認知(⇛https://ja.wikipedia.org/wiki/メタ認知)と呼ぶ。


特性を活かすキーワードは、能力、環境、メタ認知、とまとめたい。


仕事がしたい! 発達障害がある人の就労相談

仕事がしたい! 発達障害がある人の就労相談


ASDとその特性を活かした就労支援といったときにまず思い浮かぶのが梅永雄二先生。まずは自分の特性を知る、ということも強調されている。ただし、特性の長所の活かし方については福祉的立場から述べていることが多いとは感じる。求められているニーズの多さからして仕方が無いとは思うが。



楽天三木谷社長の評伝。色々なことに、短期間に次々チャレンジする姿勢は、ADHD的、と思える。

*1:良い方向に働ければASDの方は理想的な上司にもなり得るのではないか、と思う。ある私の知人は明らかにASDだ。彼はとても公平無私で、判断は常に合理的。理を大事にする。社会人なりたての頃は上司にとって、融通の利かない、上司にも正論をもって楯突く煙たい奴だったが、能力が高いため出世し、今では部下にその能力と公平さを慕われている。私も心から尊敬している。

*2:ADHDはむしろ逆というか、手順を守るための注意力を維持できない、つい手順を飛ばしてしまう、ミスをするといった面があるので、こちらは明確に改善が必要な場合が多い。とはいえ、過集中できるほど熱中できることに関しては妥協を許さない人が多い印象も持つ。

*3:どうも文科省は子供にバランスの整った能力発達を求めているらしい。一見良さそうだが、せせこましい。バランス重視というよりも尖った部分を評価する社会の方が発達障害者にとって生きやすいのではないかという気はする。アメリカやカナダにおける教育状況を聞くと殊にそう思う。伸ばせる能力は伸ばして欲しい。