ASDの血液診断、発達障害モデルマウス、妊娠とバルプロ酸とADHD、飛ばしているNewsweek

また更新が遅くなってしまった...最近夜が弱くなって字を書き連ねていくのがやや辛いというか。
その分睡眠時間は前よりも確保していて良いと思うんですが、原稿書くのが仕事の方はどうやって時間を捻出しているんですかね...


さて、私が代表やってます発達特性研究所(株式会社ライデック)の研究紹介ページからまず3つ。



tridc.co.jp



ASDのバイオマーカーについての研究紹介です。バイオマーカーというのは検査をしてこの疾患があるという指標になる物質や特徴のことをいいます。

この研究によると葉酸代謝経路に関わる検査からASDのバイオマーカーがわかるっていうんですけど、本当でしょうか。
アメリカの研究です。


ちなみに遺伝子を探る、という方向性はかなり悲観的に述べられていて、

ASDバイオマーカーを調査している多くのゲノムワイドな研究はほとんど結果を出せずに失敗し、そのほとんどが個々の研究に特異的で終わってしまう。ASDを正確、そして差別的に診断することができる『予測可能なバイオマーカー』を発見するために、より良いフレームワークが明らかに必要」


うん、その通りと思います。*1


tridc.co.jp


こちらはモデルマウスの話です。


ご存知の通り医学研究は、疾患モデル動物を用いた実験が不可欠であり、良いモデルを通じて疾患の原因、治療の開発、治療薬効果・副作用の確認がされるのです。


精神疾患研究にもそういう意味でモデル動物が非常に大事なんですが、いかんせん、自分がどういう症状か話してくれない動物相手では、ある精神疾患のモデルと言われても、完全にモデルには成りえないわけです。マウスに、幻覚とか妄想持ってる?って聞いても仕方ないですからねえ...。
でも工夫して、幾つかの疾患では結構良いモデルマウスというか、実験系はあったりします。


ASDADHDの特徴を持ったマウス、というのはあり得るのか是非お読みください。


今回紹介した論文ではCDLK5という遺伝子が欠損したマウスが、そんなモデルになりうるという幾つかの特徴を示していることが紹介されています。
コミュニケーション上の問題やら、繰り返し行動を持っていたり、はたまた多動でちょっと不器用を抱えているとのこと。


私としては、感覚過敏に対して、こういったモデルマウスの良いのができるといいのになぁと思いますね。



tridc.co.jp


少しばかり気になる疫学研究としてはまたデンマークから。


デパケン(一般名はバルプロ酸ナトリウム)は、てんかんや、双極性障害の気分安定に使われる大変ポピュラーな薬で副作用も少ないのですが、ただ一点、妊婦さんに使いづらいのが特徴です。


葉酸代謝に影響し、二分脊椎という奇形のリスクを増やしてしまうことから、妊婦には基本的には投与しない、投与するとしても少量に留めるというのが原則です。


で、何かしら神経発達に影響を与えてしまわないかは心配されるところであり、今回の研究結果からすると、子どものADHD率をわずかながら上げそうだということでした。


リンク先にも書きましたが、もともと遺伝的にADHDの因子を持っていない子供をデパケンADHDにさせてしまう…のではなく、遺伝的にADHD因子を持っている場合に、若干(若干ですよ)そのADHD因子を発現させやすくしてしまうのかなと。そんなエビデンスは出せない個人的な感想ですが...。



飛ばし過ぎだぞNewsweek



さて、どうしても言いたいと思うのが、この前のNewsweek誌。

tDCS(経頭蓋直流電気刺激)が脳の力をアップさせることで運動選手の能力向上や、はたまたトラウマ治療、サイコパスの共感力を上げたりすると。
そしてADHD治療には磁気治療(TMS:経頭蓋磁気刺激)ということをかなりテンション高めに肯定的に紹介しているのですが、いやちょっと言いすぎだって、と。


アメリカのベンチャーが出しているヘッドホンみたいな「Halo sport 2」というtDCSの機械もかなり肯定的に紹介していて、ものすごい効果を謳っているのですが、どう考えても大げさでしょう、というかこんな提灯記事出していいのかと。


Halo Sport 2www.haloneuro.com


といいつつ、実はdneuroも面白いので買ってみようかと思っていたところではあるんですが...。


とまれちょい期待盛り上げ過ぎなこの特集、一度詳しく紹介できればとも思います。
dneuroもtDCSには期待しているんですが、今の所もっと控えめに効果を考えてるかな...。


発達障害の謎を解く NBS (日評ベーシック・シリーズ)

発達障害の謎を解く NBS (日評ベーシック・シリーズ)


発達障害についてその生物学的な部分を知りたい、としたらこの本はとっても良かったとも思います。
原因についても現在考えられていることを抑制的に書いていて、科学的にはこうでなくては、と。
読みやすいですしお勧めです。

*1:ちなみに最近思うんですけど、ASDとかADHDの遺伝子ってわかり過ぎないほうが幸せかなあと。理由は色々ありますが...。