発達の子には優しいお兄さんやお姉さんを家庭教師に

保護的で大人に相談できる環境がASDやADHDの子には必要であるという。
1つその実現法として考えて欲しいのは、
優しいお兄さんやお姉さんの家庭教師だ*1


ASDやADHDの子。
小さいころの目標はできるだけトラウマを作らないこと、自信を育むこと、人への信頼感を養うこと。つまり大切にするのは自尊心と人への信頼感。
最終的にはやはり長じてからの二次障害としての、うつ・不安症・PTSDといった精神疾患や引きこもり、非行・犯罪を防ぐことが1つの目標である。

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ASDの理解といえば勧めている本田秀夫氏の著作「自閉症スペクトラム」だが、思春期までは「意欲のエネルギーを蓄える時期」だという。思春期までに自信を持ち、意欲のエネルギーが一定の水準まで「貯蓄」されていないと、思春期後にちょっとした試練に対しても意欲のエネルギーが減少してしまう。


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そのために思春期までは支援として以下4点に留意せよという。
  1)保護的な環境を提供すること
  2)得意なことを十分に保障すること
  3)苦手なことの特訓を極力させないこと*2
  4)大人に相談してうまくいったという経験を持たせること


これを実現させる一手段が優しいお兄さんやお姉さん。


将来の意欲を貯蓄させるために、小さいころの思い出をトラウマ一色にさせないのが目標だ。実際、彼らは勝手に被害的になったり、周りを苛立たせたりするので「トラウマを生じさせず二次障害を防ぐ」のはなかなか難しい。
状況によっては、小さいころの思い出は嫌なことばかり…となりかねない。


例えばASDの子。いわゆる古典的な自閉症(精神発達遅滞を伴う)や1人で独自の世界を築けて孤独が苦でない子の場合には必ずしも当てはまらないが、従来アスペの人は孤独好きみたいに思われていた。でも実は変わり者に見える彼らASDでも、人と交わりたいという希望〜対人希求性〜が強い子は多い。

 対人希求性とは
http://hattatu-jihei.net/interpersonal-aspiring)


でも悲しいかな、どうやって友達に声をかけたらいいのかわからない。
例えば、登校時にクラスメイト2人が立ちどまって何か話しているとする。そんなところに通りがかったら「よう!」と声をかけて自分も加わればいい。急いでいるなら「急ぐからじゃあな!」と言って通り過ぎればいい。
ASD児にこれはハードルが高い。
大抵の場合彼らは、クラスメイトの姿を見て固まる。しばらくもじもじしたあと、意を決したように、でも下を向いたまま走って声もかけずに通り抜けてしまう。
あ、どうしようと思っているのかどうか…周りから見ると不自然極まりないし、そこにいたクラスメイトからすれば「変なやつ!」と思われる。しかも本人はクラスメイトたちが行く手を阻んだと被害的な認知をしている可能性もある。


一方のADHD児は、いわゆる「怒られる」所業を沢山するのが特徴だ。忘れ物多く、行儀悪いため、先生に怒られるだけではない。連帯責任など取らされたり、思ったことをすぐに口に出すその内容は人を苛立たせ、クラスメイトに疎まれたりする。親の口癖はもちろん「どーして何度言ってもあなたは同じことばかりするの!!!」だ。そんな怒られている最中にも、適切に注意を向けられない彼らは目についたおもちゃに気を取られて親の怒りを倍加させる。これに関しては、特に小さいころどうしようもないものがある。*3


そんな彼らに優しいお兄さん、お姉さんの役割はこんなところだ。


 1. 子供の独特の特性を受け入れて親しくなる。子どもの世界観を否定せず一緒に遊ぶ。子どものできたことを褒めまくる。
 2. やらかすことを一方的に叱らない。特にキツイ言葉を使っても入らないし、拗ねるだけだ。それがいけないことであれば理由を具体的に、明確にして指導するが、そこには笑いを交えたい。
 3. 能力を伸ばすお手伝いをする。学習においてもコミュニケーションにおいても。宿題の手伝い、読み書き算盤能力を高める。*4
 4. できれば身体を一緒に動かす。運動が苦手な子が多く、相応の体力がついていない子が多い。


ただまあそんな優しいお兄さん、お姉さんをどのように手に入れるか(というと言葉は悪いけど)が難しいわけで…。ここではあくまでそんな存在を考えられる環境にある人には選択肢に加えてほしいということでお願いしたい。支援側にどんな資質が必要かはまたいずれ。
個人的には大学教育学部の、とりわけ特別支援教育科の学生さんたちにとっては活きた実習を兼ねたアルバイトになるのではと考えている。


発達障害 工夫しだい支援しだい (ヒューマンケアブックス)

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ADHD症状を抑える授業力!―特別支援教育の基本スキル

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*1:療育センターはじめとする行政側対応や民間のデイケアサービスが本人に合っていて十分な頻度で提供されていれば特に必要はない。

*2:親としては例えば計算や漢字など出来ないことがあれば何度でも練習を繰り返して習得して欲しいと思うのは当然で、だからドリルなどをさせるのが普通だろう。でも嫌なこと、間違っていることを繰り返して、失敗を特訓しているかのようになってしまうという。

*3:理解できない行動に理由を問うてもよくわからないことは多い。筆者も(ADHD気味です)、叔母さんに目的地までの切符を押してと頼まれた時、どうしても目的とは違う値段の切符を逆らって買いたい衝動を抑えられず押してしまいその途端に泣き出した経験を覚えている。そんな衝動に特に理由など無いため、問い詰め型の叱り方すると切り上げるのが難しい。

*4:彼らはどうも集団の中の一員として周りに従うことができないこと多い。そうした場合、授業で能力を培うことができず、それがますます授業参加を難しくして…という悪循環にハマりやすいし、適切な時期に能力を習得しないと実際に将来力が伸びないことになりかねない。