詐欺治療に騙されるな

世の中には詐欺療法がはびこっている。あなたがそれに騙されないためのキーワードを紹介しよう。


どんな癌でも治る、免疫力をアップする、気の流れを正す、
邪気を取り除く、生命エネルギー、現代医学では治せない、
学会では認められない、誰もが習得できる、克服した方々の体験談


こんなキーワードがホームページに散りばめられていたら、詐欺。ほぼ詐欺。
とはいえ、治療者が信じ込んでいれば法律上の詐欺とは言えず、妄想というべきもの。


さて、先日亡くなった女優の川島なお美さん。私にとっては女優というより「クイズマンガ道場」で下手な絵を書いていたことや車だん吉と掛けあっていたことが記憶に強く残っている。
その川島さんが頼っていたのが「ごしんじょう療法」だという。www.huffingtonpost.jp



記事によれば「純金製の棒で、患部や体全体をさすったり、押さえたりするものです。気の力で病気の根源となる邪気を取り除いていました」なる「療法」らしい。
うーん…ちょっと書くだけで突っ込みどころばかりで、そもそも「治療」じゃないでしょうと言いたい。www.kihodo.com


※※※信じちゃ駄目ですよ※※※


色々とネットを見ていると、こんな意見が目につく。

  • 川島さんが最後に信頼したのが例えいかがわしい治療法であってもそれに救いがあったのなら良いのではないか
  • 一生懸命生きた川島さんが選択するものを批判するのはおかしい

という治療というよりは川島さんの生き方に関しての意見。または、

  • 結局は手術や抗がん剤が寿命を縮めたのではないか
  • そもそも根底に医療不信があるために民間療法に頼ったのだ

という世間にはびこる医療不信を元に、代替療法を求めても当然だという意見。


確かにそれぞれに一定の説得力を感じる。ここでは果たして現在の標準的な治療法が川島さんの「胆管癌」に対して本当に効果的か、という議論はしない。診断されたら結構辛い癌であることは確かだ。
 病態については⇛ 胆管がん基礎知識
 治療や予後については⇛ 胆管がんとは

川島さんの選択だったのだからいいじゃないか、第三者が文句を言うべきものではないということに関して。
私もこういう時にそう感じた時があった。でもね、それは論点がずれている。


   ↑まさにこれ。


人は自分や愛する人が病気になると苦しむ。弱気になる。まして根本的な治療法が無いと言われたらわらにもすがる思いになるのは当然だ。私が研修医時代、父はすい臓がんで診断から3ヶ月で死んだ。

医者になっていながら、その時には「癌を抑えるアガリクス」だの、「丸山ワクチン」だのが魅力的に思えてならなかった。実際兄は、いつの間にか父にアガリクス茶を飲ませていたし、日本医大に並んで丸山ワクチンを手に入れ、主治医の許可を得て投与してもらった。

アガリクスの効果を知りたければここagaricus-med.jp

※※※信じちゃ駄目ですよ※※※

一方、厚労省Q&Aも読もう⇛ 厚生労働省:アガリクス(カワリハラタケ)を含む製品に関するQ&A (読み辛いったら…)

丸山ワクチンなら⇛ 丸山ワクチン・オフィシャルサイト


どこにも効果を宣伝していないのは不思議ですね。
              

冷静に考えてみよう。
アガリクスに効果があれば学会は必ず注目する。アガリクスによって本当に癌が治るのであれば、学会は絶対に無視しない。*1
そして、丸山ワクチン、ほんとに効果があれば世話はない。奇跡を期待したい。だが、そもそも父の主治医が丸山ワクチン投与に同意したのは、何にも作用がない(毒にも薬にもならない)ため、標準治療の邪魔にならないからである。面倒な投与スケジュールを守って投与してくださった主治医グループには感謝の言葉しか無い。



魅力的な言葉の並ぶ代替療法。その甘言に救いを求めるのは人の性(さが)である。もうしょうがない。信じて少しでも楽になることを私は否定しない。でもそれは標準的治療*2を受けることも前提である。

もしあなたが標準的治療を受けることを拒否してそういった何でも治る系の代替療法にハマったら、ほぼ確実に死期を早める。症状は最後には悪化する。
もし治ったら…
     

  • 診断と見立てがそもそも間違っていた

   (少なくない割合でこれだと思う)     

  • 「治った」と思ったあなたのその実感は今だけ

   (プラセボ効果も確実にあるだろう)     

  • 代替療法にハマる前に受けた標準的治療が実は効いていた

   (時間的タイミングが合えば効いたと勘違い可能である)     

   (これがあることは否定しない。たまには奇跡もある)
 
もしあなたや愛する家族が諦めなければいけない病気に罹ったのなら、とてつもなく少ない確率に掛けるよりも、それに費やす時間とお金を残りの人生を豊かに過ごす他のことのために使って欲しい。

*1:よくある、学会は製薬会社にコントロールされているとか、例え効果があっても既得権益たる製薬会社や厚労省の意に沿わない結果は黙殺されるのだ、といった陰謀論は嘘。  私はもちろん製薬会社から一円も貰っていないし(ボールペンとか、カレンダーはいただきますけど)、学会の重鎮でもないけれど、医者になってみて、そして学者にもなってみて、実感した。殆どの学会は新しい治療に対して完全にオープンであり、良い治療を黙殺することなどありえない。そんな非情な学者集団は見たことがない。説得力のある証拠は求めるが、それは当然だろう。もっとも自分が大製薬会社社長で、画期的な新治療があると知ったならさっさとその発明者からその権利を100億円ででも買う。

*2:ただし、標準的医療が絶対でない病気はある。疾患によっては必ずしも、「多くの医者のやっている医療=良い医療」で無いのは確かで、それには幾つかの要因がある。治療がまだ過渡期的段階にあれば、今良いと思われていることが来年覆ることもある。本来の標準的治療(=エビデンスのある治療)が、日本独特の習慣によってされずに、日本だけガラパゴス化した治療をしている疾患も決して少なくない。何より問題なのは、標準的治療がしっかりと教科書に書いてあり、多くの医師がそれを是としているのに実行の伴わないことが一部の科で目につく。その辺りの事情は後日。