必要なのは少額のお金です_ポスドク・新米教員編

お金についての話を何回かできると嬉しいなと。


昨年dneuroは千葉大学医学部の常勤職を退きました。2007年に奉職しましたので、11年ほどやったことになります。


仕事を始めてからのことを思い返すと…実は教員になってからは頭の中がお金のことでいっぱいになっていました。


とにかく医学系の研究はお金がかかるんです。例えば、生体組織から遺伝子を抽出する試薬類、抽出した遺伝子濃度の計測機械、遺伝子DNAを増やすPCR装置、試料中のタンパク質濃度を測る吸光度計などなど必要な機械や試薬は数知れず。試薬であれば、2、3万はザラだし、高いのであれば10万ほど。機械は軒並み高いのばかりで、例えば組織中でタンパク質を作るためにDNAから転写されるRNAの量を測る機械は安くて500万円ほど。日常の買い物とはちょっと桁が違う。


だから、お金はいくらあっても足りない。
機械類は研究室にすでにあるものを他の教室に借りに行くということもできないではないし、学部共用の機械もあるにはあるのですが、使いづらいんですよね。



11年の中で、研究費を取れず全くお金の無い時期を1年経験しました。
あの頃は辛かった…。自分の裁量で使えるお金が1円も無いんだもん。あぁ研究に必要な本が欲しい、解析に便利なあのソフトが欲しいなあ、ちょっと確認のためにする実験の試薬を買わないと…と思っても全てに我慢が必要で、諦めなくてはいけないことが多かった。


ここで、皆さんの中には、こんな疑問を持つ方がいるかもしれません。


Q.研究費って大学はくれないの?
古き良き時代はあったらしい。でも今は通常もらえません。少なくても私は1円も使えるお金はもらえなかったです。つまり、研究費を獲ってこないといけない。


ちなみにそういった問題への記事はそれなりにありますよね。今は。このままだと日本の科学研究が危ない、とか。

www.msn.com



Q.研究費獲れないと自由に使えるお金は0なの?
先に書いたように、大学はくれないので、0です。
例えば研究者にとっては必須の科学研究費です。申請の際には、例えば基盤(C)というクラスでは3年間で総額500万円以内ということで研究計画を練ります。
で、通ればいいんですけど、通らないと1円ももらえないわけですよ。0か、500万円。きつい。



Q.教授は必要なものを買ってくれないの?
うちの教授は寛大でしたので、言えば少なくても検討してくださいましたよ。でも問題は心理的障壁なのですよ。いちいち欲しいものを人に頼る、というのは非常に辛い。またそれが重なることによる不全感や劣等感の蓄積など…教員のくせに研究費を獲得できないなんてねえ、と何度も頭に浮かんでくるわけです。


Q.自分のお金(私費)を使ったら?
いや、それは言い出したらキリがないと言うか…やっちゃいけないことはないけど、プロとしてよろしくないと言うか。先に書いたように、かかりすぎるほどお金はかかるので、間に合いません。特許取るわけではないから金銭的見返り無いし(dneuroの場合ですよ)。とはいえ、本とか、学会旅費、PC購入などはその間私費で済ませました。


こちらとしては、大幅に減額されてもいいから(例えば、500万/3年が50万/3年でも)欲しいのだけど、そんなわけにはいかない。たとえ、月額1万とか2万でも使えたら、必要な本の購入や安い試薬購入みたいなことができるのに…。学会参加にも旅費が随分かかるし。


だから研究費落ちたときに、必要なのは少額の自由に使えるお金です。まとまったお金はしょうがない、実力不足だったんだから、次の申請でまた狙う。でも、未熟な研究者だってほんの少しお金があればどれだけ心強いか、という話ですよ。


あと、dneuroは生物系の研究者だったのでお金がかかりましたが、心理系の若手でアンケート調査などが主たる場合にはあんまり研究自体にはお金かからないんじゃないかなと。クソ高い研究費は要らないけど、継続して少額が入ってくれば十分というか。


そんなわけで、継続して手に入り、自由に使える少額の研究資金調達法があればなあと。大学院生、ポスドクさん、そして研究申請に落ちた新米教員などには特に。


そういう仕組みできませんかね。望むらくは研究者向けベーシックインカムか。


今自分が若手教員だったらチャレンジするのはクラウドファンディングかな。自分の研究が持つ意義・夢をアピールして、皆にファンになってもらう。
ハードルは高いものの、こういう選択肢があるというのはとっても有り難いことですね。


academist-cf.com




こういう本は自分では使ったことがありませんが、若い研究者さんの机によく見るし、評価も高そうです。


科研費はコツを掴めば案外取りやすいと言うか、取りやすいのはこれしか無いので、是が非でも取りに行かなくてはいけない研究費。
私自身は最近は3回連続通っていますが、以下を心がけています。これで良いかどうかは正直わかりません...獲れてるから良しと。


・適切な研究分野を選ぶ
・適切な研究規模で申請区分を選ぶ
・申請書は、読み手が素人と思って簡単に、わかりやすく書く
・研究が行き詰まったときの対策を、助けてもらう人の名前も出して具体的に書く
・お金の使いみちはとにかく具体的に
・これまでの自分の業績は強調する


博士号とる?とらない?徹底大検証!―あなたが選ぶバイオ研究人生

博士号とる?とらない?徹底大検証!―あなたが選ぶバイオ研究人生

この本も2000年発行で、dneuroが大学院進学考えたときには大いに参考に、というか面白く読んだものです。博士号を取る人生とそうでない人生。博士課程に行くことを迷っている理系修士学生には一読の価値が...当時はありました。でも絶版か...今役立つかは正直わかりません。古本が33円で買えるなら価値はあると思います。


科学立国の危機: 失速する日本の研究力

科学立国の危機: 失速する日本の研究力


未読なので、内容紹介はできないのですが読んでみたい本です。


昨今特に日本の研究が衰退に向かっていると言われますが、まあ実際大学が非常に教員に対して金銭的に渋いことを考えると、そうなるだろうとは実感します。前に、先輩研究者がつい最近まで科研費に応募した経験が無かったと聞いて驚愕したのですが、要はそれだけのお金が組織からもらえていたということ。


世間の風潮も、「有用な研究に資金の配分を」という状況では研究というのは衰退するんですよ。役立つかどうかに軸足を置くと、短期的には成果が出ても、将来役に立つかわからない研究はできなくなってしまう。でも実際にどれだけ役立つかわからない研究をしていた研究者たちが結果的にノーベル賞を獲ったりしているわけです。
要するに研究なんて、1000に1つも役立つものに育てば良いんじゃない、くらいでないと。裾野が広くないと際立った研究も出てこないわけです。


とはいえ、一定程度競争が無いと人間怠けますから、科研費のように競争的獲得資金がプラスαであればいいと思うし、流石に大学教員なら数年に最低1本は論文書け、と。