医学部受験:医学部ってどこの大学に入るかが関係あるの?

母校の高校にて、1年生に対し、「職業人の話を聞く」という企画に誘われたので今度講演することになった。医学部受験を考える高校生もいるということで、疑問に思われるであろうこの話題。要は同じ医学部でも大学によって違いがあるの??ということだが…


結論を言えば、あなたが臨床医になりたければ、大学は関係ない。本当に関係ない(今日、あなたと記すのは高校生も読むかなという想定です)。


国公立or私立?
どの大学だから良い医師になれるとかは絶対に関係ありません。大学に入ってからの勉強とか日々の生活の過ごし方、そして医師になってからどれだけ力を培えるか、で「良い」医師になれるかは決まるでしょう。
出世に関しては限定した意味で関係はある(ちょい悲しいので後述)*1


だから、選択にあたっては、あなたの学力で入れる大学であること、学費を支払う経済力が家庭にあるかどうか、の2点を気にしよう。


必要な学力は?
どこでも良いという観点からは、凄くいい成績が必要というわけでもない。大学を選ばなければ、思ったより求められる受験能力は低いはず。日本は一番理系の勉強ができる子に医学部が勧められる歪んだ受験事情があるのでそりゃ東大理三や京大医学部は難しい*2が、実は受験問題レベルとしては難しくない国公立もあるし、私大の中には受験科目すら融通の利く受験制度の大学も存在する。医者になりたければとにかく医学部に入ることがスタートなので、どこでも良いから入れるところを目指せばいい。


それより問題なのは、こっちだろう。

学費である。


国公立は安い。医学部というのは金のかかるところで、なぜかといえばそれは人体解剖をはじめ、貴重な標本やら高価な実験道具、そして外部の病院リソースを使った実習に物凄く金がかかるのである。だから国立大学の年間学費約54万円/年というのは非常に安い。入学金含めて、6年間でおよそ350万円。


入学から卒業までにかかるお金(2)学費編


これに対して、私立はどうかといえば、一番安い順天堂大学で6年およそ2000万。最高学費の大学では4500万(!)。


医学部学費ランキング


この私立大学の学費の高さは医学部選択の律速段階になり得る。


あなたの家庭であなたの為にかけられる学費を両親と相談した上で、学力的に入れる大学がそれと折り合うかということになるわけだ。4000万が平気で出せる家庭はすご〜く限られるはず。だから医学部を望みながら諦めるという残念な選択になることもあるだろう。でもどーしても医者になりたいのであれば一般社会で稼いだ上で、もう一度受験を考える手もある。私の後輩に、入学時54歳という方がいた。商社で出世された後、子供が独立したので、という。他の理系に進学したのであれば今は医師免許を持ったうえでの研究者も望んでいる大学が多いので、大学院後という選択肢もある。そういった別な経験後に医者になるのは、現役入学の医者が極めて世間知らずなので、とても貴重な存在になり得るだろう。


 ところで医師1人養成するのにいくら掛かるの?というのは以下2サイト参照。大体3000〜
 4000万かかるとのこと。うーん、そりゃ無駄にしたら(中退とか、卒業したけどニートになる
 とか…)怒られてもしょうがないわな、という部分はある。
    医学部1億円伝説
    医師の収入と医師養成のコスト(pdf)  


ところで、
医師国家試験合格率は大学選択の際に考える必要があるか。
医師国家試験は毎年90%以上の合格率。やや厳しく言えば合格できて当たり前。なので、医師国家試験の心配はしなくていいし、それを心配するくらいなら医学部選ばないほうが良い。少なくても医師国家試験に、つまりは医師になること自体に天才性が要らないのは確か。医師国家試験はほとんどが暗記勝負であり、過去問のどのパターンにハマるかという程度の思考力は必要だが、閃きは全く必要としないので、力技が得意な人には向いているといえよう。そういう意味で、今受験を考えているあなたが、「その場で考える」ことが得意(=覚える努力が嫌い)、もしくは暗記能力に衰えを見せている年頃に差し掛かっているのであれば、それなりに大変ではある。もっともやはりどの大学に行くかは関係ない。


医師国家試験
医師国家試験の難易度は?合格率90%以上の理由は?
 …ある意味凄く脅かしていますね。大変だとしたら範囲の広さに尽きます。


新宿医科大学

新宿医科大学

 一時は一世を風靡した故・永井明氏の東京医科大学時代綴ったエッセイと出世作。内容はアマゾンのレビュー読んで下さい。ちなみに氏は漫画・ドラマ「医龍」の原案者としてクレジットされている(実際どの程度の関与?)。

*1:人間社会だからそれなりには出身大学との関係ありますよ。教授選考では母校出身者を優遇する大学は多いし、私立の名門某K大学出身者の多いある病院では「K大学同窓」だけのカンファが存在すると聞いたこともある。まともな病院で問題とするのはやはり医師になってから培われた実力だろうが、国公立病院に縛りがあったり(部長になるには博士号必須とか)、政治力やコネなど理不尽な力がものをいう場合があるのは一般企業と同様。ま、どうしてもどこそこの大学(病院)で出世したいという希望があるなら大学を選びましょう。でもそれで進学が遅れるのはモッタイナイ。

*2:医者ってその日常臨床はほとんどすべて「暗記した内容」から何を引き出すかということに尽きるので、そんなに頭の良い人が来る必要無いはずなのです。もちろん、臨機応変に対応する、とか、スタッフのリーダー的存在となって方向性を示す、とか、円滑なコミュニケーション能力、とか、学力以外の力の方が求められる要素としては多いわけですよ。正直数学の天才さんが医学部に来るのは能力の無駄遣いであって、きちんと数学科とか工学系に行って欲しいと思うところあり…(というのは単なる嫉妬心かもしれないけど…)。