彼の責任能力は問題になりそうか

2016年7月26日早朝、主に行動障害を伴う知的障害者が入居する福祉施設で痛ましい事件があったのは周知の通り。夜中に侵入した犯人は19人を殺害、26人に重軽傷を負わせた上で自首し逮捕、すでに送検されている。 戦後最大の殺人事件だが、それ以上に容疑者の…

午後の昼寝は正当化されていい

午後は眠い。 だから、最近は午後短時間、すなわち10〜20分くらいの睡眠を取るといいなんて言われるが、本当だろうか。アメリカではいくつかの記事で20分程度の昼寝をpower napと呼んで推奨している記事が多い。有力紙の1つWall Street Journalではこんな記…

週刊現代の医学批判を考える

どうも週刊現代は医療批判に目覚めたようで、このところ特集が続いている。 今回は第一部として、「内視鏡・腹腔鏡手術の真実」、「医者が切りたがるがんも本当は手術しないほうがいい」。 センセーショナルな見出しと内容を見たければかなりな程度ネットで…

学習できないのは報酬系の不全が問題

(補足)ここを読んでくださる方はコチラもセットでどうぞ ⇛目の前の誘惑に耐えるのは難しい ADHD(やASDもだが)の子と接していると、褒めても通じないということがよくある。叱るんじゃなく褒めて行動を増やそうと実践するのに、褒めた行動が次につながらない…

精神科の薬物療法はこれからも進歩するのか?

精神科治療において治療の中心に位置する薬物療法。精神科医から薬物治療を取ったら相当程度の精神科医がその専門性を失ってしまうだろう。 少なくても一部の疾患には薬物療法が必須であり(⇛薬について)、これからもその意義を失うことはないと考える。 そん…

完全無欠コーヒー本を読んでみた〜小麦グルテンって悪いの?

各種ダイエット法に夢を抱く人は多いが、残念ながら奇跡は存在しない。 いわゆる〇〇ダイエットの類はどれも極端であり、医学的蓋然性がないことが多い。身も蓋もないが、そもそも太るかどうかは遺伝的に規定されている。とはいえ、色んなダイエット法や健康…

週刊現代の精神科薬批判は的外れ

風邪薬が風邪を治していないというと驚く人が多い。あれだけ内科に行くと風邪薬をもらっていたというのに!ということで。 解説すると、風邪の多くはウイルス性だが、風邪ウイルスに対する直接的な薬は存在しない。よく貰う薬は日本では鎮痛剤や抗ヒスタミン…

精神疾患の治療について

精神疾患の治療…というとどうも人はカウンセリングという言葉が思い浮かぶようだが、一転実際に外来にかかると薬ばっかりという感想を抱く方も多いと感じる。 しかし実際のところ、精神疾患の治療は、生物学的治療(ほぼイコール薬物療法)+精神療法(対話によ…

自閉症の原因はワクチンや水銀じゃないよ

ワクチンに含まれる水銀が自閉症の原因だ、というのは結構広がってしまった虚報で、そもそもそれを提唱したイギリス人医師の論文が撤回された上に、本人が免許剥奪までされたというのに、未だに信じている人が多い。 心理的には、特に我が子が自閉症であるこ…

βブロッカーはあがりの振戦を予防する

以前、診察室にオーボエ奏者の女性が来た。聞けば来週オケの入団試験であり、音が震えてしまうわけにはいかないという。もともと緊張すると震えやすく、そのせいで演奏に失敗した経験もある。考えると不安でたまらないが、今回の試験で失敗は許されない、と…

震えと上がり症とTOKIOの城島リーダー

人前で、大事な試合・演奏の前で、あがってしまうと震えてしまってどうしようもない、という人がいる。この震え(医学用語では振戦)にはどう対処すべきか? 多くの人は何事かする前に緊張する。人前で何かを発表する、スポーツで対戦相手と戦う、好きな人に告…

医学部受験:医学部ってどこの大学に入るかが関係あるの?

母校の高校にて、1年生に対し、「職業人の話を聞く」という企画に誘われたので今度講演することになった。医学部受験を考える高校生もいるということで、疑問に思われるであろうこの話題。要は同じ医学部でも大学によって違いがあるの??ということだが… 結…

ASDは増えているの?

ASD

ASDが増えているという声が聞こえる。 実際外来をやっていると以前に比べて遥かに多くの方がASDであると感じられるし、検査の希望も多い。 実際に増えているのか、ということを議論する前にデータを見ると、例えばアメリカでは2000年には150人に1人であった…

擬似医学入門

生活していると耳から入ってくる医学的な内容というのがある。そういった内容は何となく得心するところがあって、無意識に真実とインプットされやすい。 そんな内容に例えば以下。 1) ゲームをやり過ぎると脳の働きが鈍る。 2) 人間の脳は普段は10%程度しか…

自閉症〜名前の変遷〜

ASD

いわゆる「自閉症」は診断基準の変遷に伴い診断名がころころ変わっている。例えば「アスペルガー症候群」は 随分と一般にも広がって知名度が増したが、市民権を得た今になって、精神医学界では古い病名となり公的には使われなくなってきた。 それはひとえに…

実際に見たり聞いたりという体験が他人と共有できるかわからないという話

認知行動療法を受けたいという方、あなたは自分が見ている世界が真実1つだけでないことに向き合わなければいけません。 とりあえず有名になったこの画像を見てみよう。 「この色は何色にみえる?」というのがtwitterでの議論から随分と有名になった。見え方…

前頭側頭型認知症を考える(1)

いざ認知症か、というときに本人にとっても家族にとってもかなりな大変さを覚悟しなければいけない認知症の1つが前頭側頭型認知症*1(Fronto-Temporal Dementia: FTD)だろう。 客観情報としての検査で正常と異常の別がすぐにわかるのか?というと… ここにいわ…

発達の子には優しいお兄さんやお姉さんを家庭教師に

保護的で大人に相談できる環境がASDやADHDの子には必要であるという。 1つその実現法として考えて欲しいのは、 優しいお兄さんやお姉さんの家庭教師だ*1。 ASDやADHDの子。 小さいころの目標はできるだけトラウマを作らないこと、自信を育むこと、人への信頼…

光でうつが診断できる? ちょっとそれはという問題 (2)

NIRSでうつを診断できるのか、という話。 ここで問題にしたいのはこれが本当なのか?ということだったりする。 NIRSの問題点は大きく2つ。 1.見ているのが本当に大脳皮質の血流なの? 2.結果が再現できない 1.見ているのが本当に大脳皮質の血流なの?図を見…

光でうつが診断できる? ちょっとそれはという問題 (1)

今日はいかにも先進的な技術を使った研究が紹介されたり、大学のお偉い先生が喋ると本当のような気がしてくるけども、実は疑うに十分なものがあるのだというお話。 時々「光を使った検査でうつ病の診断ができるんですか?」と聞かれる。 それは多分以下のよ…

セロトニントランスポーター遺伝子は日本人気質を決めているか?

性格は遺伝するんですか? よくそう問われるが、実際のところ答えはyes and noだ。 結局子供は親2人のハイブリッドなので、持っている遺伝子は他人よりずっと近い。親子そっくりは容姿だけでなく、性格や人格(ここでは余り区別しない)にも当てはまる。とはい…

ADHDのペアレントトレーニング

読んで学べるADHDのペアレントトレーニング――むずかしい子にやさしい子育作者: シンシアウィッタム,上林靖子,中田洋二郎,藤井和子,井澗知美,北道子出版社/メーカー: 明石書店発売日: 2002/03/22メディア: 単行本購入: 33人 クリック: 156回この商品を含むブ…

ADHDの辛さ

ADHDの特徴といえば、「注意欠陥、多動、衝動性」だがそれらをベースにし様々な問題行動を起こす。 どっちにしろ、あちこちに注意が飛ぶADHD児、特に多動症状が強いとこんなことになる。 幼少期より片時もじっとしているということができない やりかけのこと…

辛さは知ってほしいが負けるわけにもいかない(2)

「化学物質過敏を治療したい/治療して欲しい」 dneuro自身化学物質過敏のためやはり自分の化学物質過敏( 以下MCSとする: Multiple Chemical Sensitivity)を治したいと切に願っている。 でも、正直言ってMCSは治すものではない。多分一度発症したMCSはそうそ…

辛さは知ってほしいが負けるわけにもいかない(1)

化学物質過敏症(http://bit.ly/20zH61g)について何回かに分けて書きたいと思う。Chemical Sensitivity (CS)とか、多種化学物質過敏状態(Multiple Chemical Sensitivity :MCS)と略される。このblog書いているdneuro自身もMCS持ちなので(涙)、私の体験も交えつ…

2015年_購入した医学系一般書(3)

悲素作者: 帚木蓬生出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2015/07/22メディア: 単行本この商品を含むブログを見る 医学系、というと違うかもしれないが、九州で開業されている精神科医小説家の昨年の新刊は、和歌山の毒カレー事件を題材にした小説だった。 和歌山…

ASDを理解するために(2)

ASDは注意欠陥多動性障害(ADHD)を合併したり、逆にADHDに合併したり、ということが多いとされている。 同じ発達障害じゃないの?という疑問を呈される方もいようが、1994年発表のアメリカ精神医学会の診断基準、DSM-IVでは合併は無い、とされていた。それが…

2015年_購入した医学系一般書(2)

医者に殺されない47の心得 医療と薬を遠ざけて、元気に、長生きする方法作者: 近藤誠出版社/メーカー: アスコム発売日: 2012/12/13メディア: 新書購入: 2人 クリック: 20回この商品を含むブログ (30件) を見る 何かと話題になりやすい近藤誠医師の著作。慶応…

ASDを理解するために(1)

ASD

ASDはAutism Spectrum Disorderすなわち自閉スペクトラム症の略であり、比較的新しい言葉だ。診断名としてはアメリカ精神医学会の診断マニュアル第5版(DSM-V)から正式に使われている。第4版では広汎性発達障害というカテゴリーに、自閉症、高機能自閉症そし…

2015_購入した医学系一般書籍(1)

脳を鍛えるには運動しかない!―最新科学でわかった脳細胞の増やし方作者: ジョン J.レイティ,エリックヘイガーマン,John J. Ratey,Eric Hagerman,野中香方子出版社/メーカー: 日本放送出版協会発売日: 2009/03メディア: 単行本購入: 31人 クリック: 757回この…