医学部を辞めてみた(2)

野心は必要 (かも)さて医学部を辞めて1ヶ月ほど。 これ実際教員になって2年ほどして思ったんですが、野心、というか地位的な野心ね、これが無いと研究ってやりづらいのだなと。 私はもともと、かなり純粋な好奇心派でして、つまり好奇心が研究の原動力であり…

医学部を辞めてみた(1)

dneuroはこれまで房総の某国立大の(1つしかないけど)神経生理学分野教室の講師をしていたが、このほど会社設立のために辞めました。 医学部生活は2007年度から2017年度プラス1ヶ月。 教授の厚意で大変快適な研究&教育生活を送れ、個人的にはパワハラやアカハ…

抗ADHD薬の値段を他の精神科治療薬と比べてみる

ADHDの方に処方する代表的2薬、継続するにはかなり経済的に負担がかかる。 改めてその印象が実際のところどうなのか、薬価サーチにて計算してみた。 結果は下図のとおりだが、やはり3割負担で相当に高い。特に日本イーライリリー社のストラテラ(一般名:アト…

DSM-5 神経発達症群の診断名

発達障害というと一般的には図のように自閉症スペクトラム(ASD)、注意欠如多動症(AD/HD)、それに学習障害という形で紹介されることが多い一方で、医療系が診断書に書くときに参考にする診断基準はちと違う。 WHOの診断基準はICD-10といい、公的な診断書に使…

発達障害、昔は少なかったの?

発達障害の講演を時に依頼されることがあり、その折に質問に多いのが、「昔は発達障害なんて問題になっていなかったのになんで今はこんなに増えたの?」とか、「発達障害は増えたの?」という類。 以前も書いたように診断数に関しては激増している(⇛ASDは増…

片頭痛に新しい薬が近づいている

片頭痛を抱える患者(dneuro含む)には朗報といって良いか。間もなく新薬が出る。 内容に間違いも多いけど、こんな記事も出た。 tocana.jp 抗CGRP受容体抗体エレヌマブは片頭痛に有望 大塚製薬、片頭痛予防薬「フレマネズマブ(TEV-48125)」の日本国内での開…

脳は大人になっても変わるから学習できるし傷ついても回復する…_tDCS入門(2)

更新の間隔がこれまでで最長になってしまった…色々と考えることがあったので少数の待ってくださっている方にはすみません。 www.neuroelectrics.com 研究室ではスペイン(珍しい!)のベンチャー企業Neuroelectrics社が開発したSTARSTIM tCSという刺激装置を手…

経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)入門 (1)

2011年、イギリスの総合科学誌Natureで紹介されたのは、経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation: tDCS)という脳を直流電流で刺激する怪しげな機械とその方法だ。 www.natureasia.com 以下、論説の内容を1つ引用(太字、下線はdneuro)。 …

目の前の誘惑に耐えるのは難しい

結構有名な心理実験にマシュマロ・テストというのがある。 実験では子どもの目の前にマシュマロを1個置いて、こう告げる。 「20分後に私が戻ってくるまでにこのマシュマロを食べずにいたらもう1個あげる。でもそれまでに食べちゃっていたらあげないよ」 日本…

ヒトはなぜワクチンを疑うのか (2) 

インフルエンザの流行を都が認めたらしい。自分もそろそろ打ちたいが今年は不足しているインフルワクチン。今回は以前書いた続編を。 ヒトはなぜワクチンを疑うのか(1) 初めにdneuroの立場を表明するとすれば、ワクチンは一定の感染症を予防し、不幸な感染者…

認知症の治療 捉え方を変えてみよう

先ごろ「認知症の治療」というお題で講演依頼を受けた。・いわゆる4大認知症(アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、そして血管性認知症) ・現在市場に出ているアリセプト(塩酸ドネペジル)を主体とした認知症治療薬 ・治る認知症を…

ハンドスピナーとADHD,それに行動経済学

巷で話題の、というともう遅れているが、子どもに買ったハンドスピナーを自分が気に入って回していたりする。 ハンドスピナーには色んな種類があり、それぞれにちょっとした違いがあるためにコレクション心が揺さぶられてしまうのだが、気になるのは広告に書…

将来必要なのはきっと整形外科医だけ

以前、AIの発展に伴って精神科医は20年後には生き残れないと書いたが、最近はますますそうじゃないかな~と思う。 www.huffingtonpost.jp いや、人間に打ち勝ったアルファ碁をさらに100戦全敗に追い込んだアルファ碁ゼロなどの記事を見るとその感は強くなる…

今年のノーベル賞と概日リズム

海外に旅行すると時差ボケが強くて困る人と大して問題ない人がいると思う。 dneuroはもともと時差ボケが強いとは思っていなかったが、大学院生時代に参加したアメリカ西海岸のサンディエゴでの学会。5日間のうち2日は時差ボケのせいか眠気がものすごく、ほと…

プラセボは効いてしまう

薬効の証明は二重盲検試験を経なければならない 現代の薬の効果判定の最終プロセスは無作為二重盲検試験というやつで、このサイトがわかりやすい。 臨床試験・治験に特有の仕組み アーカイブ - 臨床試験・治験の語り ある新薬Aの効果を知りたい時に、Aと味も…

きっとあなたも信じている医学神話

医療とその技術はすべてエビデンスに支えられているべき エビデンスとは読んで字のごとく証拠ないしは根拠であり、医療技術はその1つ1つに根拠があるべきだといいたい。何を当たり前な、と感じる人は現代に生きる若者だからであり、エビデンスに基づいた医療…

無届けさい帯血医療のニュースで偽物医療に思うこと

www.nikkei.com 先日、他人のさい帯血を国に無届けで投与したとして東京渋谷のクリニックの医師を含めて6人が逮捕されたようだ。 さい帯血(⇛Wiki)はへその緒に含まれる胎児血液のこと。これを使った代表的な治療対象は、白血病であり、骨髄移植に並んで、移…

嗜銀顆粒性認知症で説明つくのかな

認知症の種類を問うと4大認知症と答える方が多い。アルツハイマー病(型認知症)、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、そして前頭側頭型認知症。 しかし、臨床をやっているとどうにも当てはまらない人が出て来る。dneuroは外来のみだがそれでもこの10年、ほ…

夏休み書評2 電子書籍よ広まれ 

若い人も紙が好き愛好家からするとまだまだ普及していないと感じる電子書籍。研究室のセミナーに来た医学部学生たちに聞いてみると、「電子は読みづらいからやはり紙の本です」と答えられたのが3年前。さらに、今年dneuroは講義資料として紙を配布するのを止…

夏休み書評1:本は読むより聴いてみたら?

もうこの3年ほど、dneuroは本を、目を使って読む冊数が大幅に減った。 一方で、Amazonのkindleストアで購入する本は増えた。読まずにどうしているのかと言えば、最近は専ら聞いている。 使うアプリはiphoneのkindleアプリ。www.b-chan.jpiphoneの場合、やる…

認知症にならないってできるのか、とかキツネのはなしとか

アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)の臨床をやっていると、何が進行速度の決め手になるのか?という疑問を持つ。画像上は萎縮像が確かに診断の参考にはなるし、ある程度は萎縮の程度が認知症の状態と相関関係にあるのはわかる。 ただ、萎縮が目立つと…

自殺数10万人超えの噂を自殺統計をつらつら見て考えてみたい

自殺数に関してwebで検索していると気になる記事が結構あって、その中には日本の自殺者数は本当は10万人を超えているみたいなエントリに当たる。例えばこんな⇛【マジかよ】毎年報道される日本の自殺者数は3万人どころじゃなかった!? 「遺書が無いと自殺で…

オキシトシンと自閉症〜オキシトシンはどうなっている(2)

前回はNature誌の論説を紹介したが、現浜松医科大学精神医学教授の山末氏らのグループはオキシトシンの臨床試験を日本で行っており、一定の効果を得たという発表が2015年にあった。www.amed.go.jp その山末氏がやはり同年にPsychiatry and Clinical Neurosci…

オキシトシンはどうなっている?(1)_自閉症とオキシトシン治療について

愛情ホルモン、オキシトシンがASD治療に有効だと言われて久しい。 臨床治験も現在進行中だし、ASD治療薬(と書くのは抵抗があるのだが、それは後述)としてのオキシトシンの現在地を確かめたい。 オキシトシンについて オキシトシン(⇛Wiki)は脳下垂体(図参照)…

ビッグデータ活用するには情報が正しい必要があるよね...

以前20年後には精神科医がいなくなり始めるといった内容を書いてまあまあ読んでくださっている方もいるようで有り難いのだが、幾つかビッグデータとかAI系のサイトや解説本を読んで考えることを。 cs.sonylife.co.jp AI活用例として、遺伝子解析、総合診療支…

ワクチンと自閉症、あれこれ

「ワクチンと自閉症」でググると当blogの「自閉症の原因はワクチンや水銀じゃないよ」が結構上の方で出してくれるおかげでアクセス数が多い。有り難い一方で、トランプ米大統領の発言のせいか、ワクチン=自閉症原因説が話題になることが多くなっている様子。…

オーダーメイド治療は精神科ではまだまだ先になりそうだ

薬物療法において、薬が効くか効かないか、それが予測できればどれだけいいだろう。前回紹介したアメリカの抗うつ薬効果研究(STAR*D)では、最初の治療薬(シタロプラム)で寛解まで至る患者さんは約1/3だった。現在使える抗うつ薬はSSRI、SNRIといった頻用され…

うつ病とモノアミン仮説

モノアミン仮説と製薬の歴史 先だってコメントに書かれた、モノアミン仮説(⇛週刊現代の精神科薬批判は的外れ)。 モノアミンとは(脳科学辞典参照)、アミノ基(-NH2)と芳香環(亀の子です)を化学構造に持つ神経伝達物質で、うつ病に関連しては、セロトニンとノル…

遺伝子情報、知りすぎてどうする

日経サイエンス2017年6月号出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社発売日: 2017/04/25メディア: 雑誌この商品を含むブログ (1件) を見る 今月の日経サイエンス「新生児ゲノム検査の期待と不安」から。 2010年テキサス州、キャメロンと名付けられた赤ちゃんは新…

正常圧水頭症の予後を考える

正常圧水頭症といえば「治る」認知症として紹介されることが多い。 正確には特発性正常圧水頭症。特発性というのは、特別な原因がない、という意味で、なぜ水頭症になったのかはわからないということ。水頭症は、脳神経が浸っている脳脊髄液が、適切に排出さ…