がん免疫療法について (2) 〜免疫療法への模索

さて、話題のオプジーボはがんに対する免疫療法と言われます。


だけど、正確には、オプジーボそのものが免疫細胞を強化したりするわけじゃなくて、がん細胞が適切な免疫細胞(Tリンパ球)に発見されるお手伝いをしているのですよ。



免疫療法の落とし穴


率直に言って、がんの免疫療法は、理想的治療法です。
なぜなら、がんをやっつけてくれる材料である免疫細胞は自分の持っているものであり、かつ、認識したがん細胞だけを(特異的に)攻撃してくれるからです。
当然ながら、じゃあどうすればがんを攻撃する免疫細胞を身体に作ってもらえるか、というのがテーマになってきたわけで。


とりあえず免疫力を高める、がん細胞をやっつける免疫細胞だけを増やす薬を入れる、特定の免疫細胞を患者血液から抽出してがん細胞を攻撃するように育ててから身体に戻す、などなど。
そのあたりの歴史はオプジーボ小野薬品工業のホームページを。

www.ono-oncology.jp


で、色々されたんですけど、なかなか効果が安定しなかったのです。特に、次のような免疫療法が期待されつつもはっきりした効果を上げていませんでした。

・がん細胞をやっつけるナチュラルキラー細胞(NK細胞)やナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)を何らかの手法で強化した上で体に戻す。
・免疫細胞に細胞の種類を提示する樹状細胞に、目的のがんのシグナルを提示させて、がん細胞を攻撃するリンパ球を増やそうとする樹状細胞ワクチン。


どちらも、理論的にはいいのですよ。


でもね、結果の伴う免疫療法が学会やきちんとした医学誌にほとんど報告されてこなかったんですよ。確かに一部の患者さんには効いたのか?と思える報告は散見されても、少なくても多くの人に確実に施行できるものではなくて。


なのに、末期がん、医者に見放されたがんに対してそういった治療をしますよ〜というクリニックは乱立してます。法外な費用をとって施行し、そして結局効果なく亡くなる方、ということが日々起こっているはずです。末期がんを抱えた本人や家族は、少しでものぞみのあるものにすがりたくなるのも当然で、そういったクリニックは一縷の望みに期待する人から効果の無いものを提供し、さも効果があるようにお金をむしり取るので悪徳以外の何者であもありません。


そのことは今年6月にもNHKで報道されましたし、私も以前言及させてもらいました。

www.nhk.or.jp

neurophys11.hatenablog.com


思い出します。学生時代に(もう20年前!)そういった手法を聞いたり、すでにそれをやっているとの放送がNHKであったりして、おお!と思って興奮しました。


そう、そのNHKの番組は、1995年に免疫細胞(Tリンパ球)を漢方薬で強化して患者さんに戻すATK療法なるものを提唱された京大の内田温士教授の研究でした。著書も読んだのですが(現在絶版)、効いたという報告が並んではいるものの、きちんとした臨床試験を経て確立したものとは到底思えず、どう考えても、免疫細胞への活性化手段は単なる思いつきにしか受け取れないため、がっかりしたのを覚えています。*1


そんなわけで、今回は警告番組を作ってくれたNHKですが、1995年の番組で言ってみれば免疫療法へのお墨付きを与えてしまったのではと思えて、結構罪深いと感じてしまいます。


オプジーボは初めての正しい免疫療法


さてさて、悪徳免疫療法と一線を画し、本物であるのがオプジーボなわけですよ。初めに聞いたときにその適応であった悪性黒色腫への効果に目を見張ったのを覚えてます…。

*1:じゃあ内田先生が出鱈目な研究をされていたのかというと、科学研究費のデータベースで申請のために出した研究計画や報告書を読むとそんなことは無さそうなので、今一歩あのようなことを提唱された動機がわからないのですが...。