がん免疫療法について (1) 〜祝ノーベル賞! オプジーボの効果
dneuroは精神科医兼神経科学者なので、がん、はほぼあらゆる面において専門外なのですが、気になる記事があったので、ちょっと書いてみたのが今日の話題、今をときめくノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑氏がメカニズムを発見し、応用された結果の薬、オプジーボです。一般名はニボルマブ(Nivolumab)。
さて気になった記事はこれ。
そう、オプジーボを私にも使ってくれという電話が殺到しているとの内容。
記事報道ではきちんと、効果には限界もあれば副作用もあり、現在の適応が書かれているからちゃんと読めばそういう人にもわかってもらえると思うけれど、なぜ効果が限定されるのか、副作用はなんなのか、には少し解説がいるのでは...と思います。
専門外とは言え、「がん免疫療法」は医学を学べば誰もが理想、と考えつつ、そして沢山の人が試しては敗北してきた歴史を鑑みて、理論は実践に追いつかないなと敗北感濃厚な分野だったことを思います。そこに指した光明がオブジーボだったわけですが、まだまだ理想的な薬とは言えないのです。
例えばWikiニボルマブ - Wikipediaを見るとこんな解説です。
癌細胞は細胞表面にPD-L1を発現しており、免疫細胞であるT細胞のPD-1と結合して免疫細胞の攻撃を免れている。ニボルマブは、癌が免疫から逃れるためのチェックポイント・シグナルPD-1を抑制することにより、リンパ球による癌への攻撃を促進する。抗がん剤の多くは、核酸代謝や蛋白合成、細胞シグナルを阻害することにより作用する。ところが、ニボルマブは、がん免疫を活性化するという独特な作用を持つ。
免疫細胞とか、チェックポイントとか出てきますが、前提知識が無いと分かりづらい気がします。
ということで、作用機序を理解するための前提知識はまず2つ。
1.身体には異物を排除する免疫という仕組みがある。
2.がん細胞は正常細胞に比べて「異物」であるため、免疫細胞には排除(攻撃して死滅)させる一群(Tリンパ球)がある。
です。なので、がん細胞を攻撃するTリンパ球と、その攻撃から身を守ろうとするがん細胞のせめぎ合いがあり、がん細胞のほうが何らかの形で優勢になると終わりの無い増殖が始まるわけです。
で、Tリンパ球は身体中を巡って、がん細胞を探しますが、がん細胞に特有の目印が出ているのを手がかりにします。一方がん細胞は、見つかって敵認定されたくないので、「敵じゃないよ〜」という目印を出しています。それが免疫チェックポイントシグナルと呼ばれる分子で、がん細胞の表面に出ており、今回はその分子がPD-L1と呼ばれています。これを認識したTリンパ球は、せっかくがん細胞を確認したのに、見逃してしまいます。
ということで、メカニズム理解の前提3はこれです。
3.がん細胞は身体を巡るTリンパ球に見つかっても攻撃を見逃してもらうシグナルを出している。例えばそれがPD-L1。
オプジーボは、そのPD-L1に結合する抗体であり、オプジーボがくっつくと、Tリンパ球はごまかされずにしっかりとがん細胞を見分けることができ、晴れて攻撃できるというわけです。
でも、わかりますよね、がん細胞がリンパ球からの攻撃回避分子として、PD-L1を持っていないと、オプジーボは無力です。
逆に言うと、オプジーボは、細胞表面にPD-L1を出しているがん(細胞)にしか効果を発揮しないのです。
効く人には非常に効果が高いのに対して、その効く人は2-3割程度しかいない、のはまさにこれが理由です。
適応は限られて当然です。
誰にでも効くわけじゃないのは、分かって欲しいところです。
さらに、副作用です。
なんにも無いわけはないのであって、重要なのは、免疫系の細胞を活性化させてしまうことです。
いいじゃないかって?いや、例えば自己免疫疾患の既往があると、悪化してしまいそうですよ。
その点など含めてまた次に。
ちなみに看護師さん向けのこの論文、とってもわかりやすいです。医療関係者にもそうでない人にもお勧め。
看護師さんも知っておきたい話題の薬 ― 免疫チェックポイント阻害薬とがん治療 ―
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