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遺伝が関係無いはずは無いわけで…(1)

病気って遺伝するんですか?はよく聞かれる質問で、それは以前書いたように性格と同じでyes and no (⇛セロトニントランスポーターは日本人気質を決めているか)。気にする余り、結婚はしないほうがいいとか、子どもは産まないほうがいいとか、短絡的な発想してしまうことがそれなりにあるのと、なんというか考えすぎても意味がない、というのが今日の趣旨です。といって環境が大事、と強調したいわけでもない。


遺伝が関係しない病気は存在しない
基本的にある病気が発症するためには、その病気の遺伝子を持っていることが必要。そして遺伝子は親から子に引き継がれるのだから、遺伝が関係しない病気は存在しない。よく、うつ病はストレスが原因というが、うつ病になる素因(遺伝的基盤、大雑把に言えば遺伝子)が存在しない人はストレスがかかってもうつ病にはならない。だから少なくても環境は精神疾患はじめどんな疾患の十分条件にもならない。


大体、親子見れば顔似ているでしょう?あなたが大人であるとしたら、自分の性格の中に否定しようがない親の性質を感じませんか?
外見や性格がそっくり同じでないにしても、似ている、というのは同じ遺伝子を持ち、それが発現しているからこそということで、病気だって当然遺伝する。


交通事故による怪我や感染症は?
いやそれだって遺伝は関係する。例えばdneuroとイチローの子(がいたとして)のどちらが危機回避能力高い?と考えると、そりゃ大抵はイチローの遺伝子を引き継いでいる子と答えるだろう。身体能力的な素質が遺伝するのは誰もが感じていると思う。そういった身体能力は怪我の頻度や回避能力に通じており、その能力の背景には、その目的にかなった遺伝子群が発現しているはずで、要するに遺伝は関係する。*1


感染症だって、ある意味、我々は現在日常的にかかりうる感染症からの死を回避しえたご先祖から強い遺伝子を引き継いでいる。特定の感染症にかかりにくい遺伝子というのも存在する。例えば鎌状赤血球貧血という疾患があり、赤血球の持つ酸素運搬タンパク質、ヘモグロビンの遺伝子変異から、赤血球の形が鎌状に変化し、酸素運搬能力が低下している。そのために貧血になるのだが、悪いことばかりではなく、実はマラリア感染を起こしにくくなる利点がある。マラリアは世界で最も死者の多い感染症で、マラリア原虫が赤血球に感染するのだが、鎌状赤血球には感染しづらい。要は感染症に感染する/しないにも遺伝は関わるってことだ。


だからって親の病気を子どもが必ず発症するわけじゃない
ここでは詳しく触れないが、単一遺伝子の変異によって発症する疾患は残念ながらその変異遺伝子が引き継がれれば高率に発症するだろう。一例にデュシャンヌ型筋ジストロフィーという病気(⇛Wiki)がある。性染色体の1つX染色体上の遺伝子変異によって、筋肉内にある重要なタンパク質ジストロフィンが作られないことで発症する。性染色体は、女性はXX、男性はXYで、男性がX染色体を1本のみしか持っていないことが関係して、発症は男子のみ。


でも、多くの病気、特に精神疾患多因子遺伝という形をとる。ある病気を発症するためには、複数の遺伝子群が必要というものだ。概念的だが、発症にはABCDという4つの遺伝子の異常が必要だとすると、そのうちBやCの異常を捉えただけでは不十分なはず。そして、現実には、神経機能に関係した沢山の遺伝子の、恐らくは小さな異常の積み重ねが発症に関わるはず。その数や異常の種類が現状では到底網羅できず、そのせいもあって、精神疾患の原因遺伝子はさっぱりわかっていないに等しい。


時折、新聞に「〇〇大学の研究で△△遺伝子が統合失調症発症のメカニズムにつながることがわかった」などの見出しが踊ることがあるが、単一の遺伝子の成果を強調している限り、研究者的には良く言って大げさ過ぎる。*2


だから、ここで強調したいのは、沢山の遺伝子が発症に関わっている以上、親が疾患を持っているからといって、子どもに引き継がれるのは同じ遺伝子群ではなくて、両親のハイブリッド。子どもの遺伝子群は発症しないで済む組み合わせになっている確率が高い。


実際、片親が統合失調症の場合に子どもの発症危険率は10%程度。一般人口における有病率が1%であることを考えると、リスクが10倍に上がると考えることも出来るが、親が統合失調症でも子供の90%は発症しないわけで、親の病気が必ず子どもに引き継がれるわけではない。


遺伝子を持っているからって発症するとも限らない
じゃあ同じ遺伝子群(今はそれはわからないけど)を持っていたら発症するの?という疑問があるかと思うが、これは一卵性双生児を考えれば、そうでないこともすぐにわかる。身近にいる双子ちゃんを思い浮かべて欲しいが、性格同じだろうか?当然見た目は相当程度一緒だが(それでも身近に接しているとどっちかすぐわかるけど)、性格は随分違う双子多いでしょう?当然、性格の違いはストレスに対する強さ、態度にも差をもたらすし、自ずと疾患の発症に曝されるリスク因子も違ってくる。


それに、結果(統合失調症の発症)が同じだとしても、どの発症に関わっているのも同じ遺伝子群とも限らない(はず)。色んな工業製品が、製品として出来ることは一緒でも部品にはメーカーによって違いがあるように、同じ症状を引き起こしたとしても、どういう遺伝子の組み合わせで出てくるかは人によって違ってもおかしくない。


さて、基本的に全く同一の遺伝子を持つ一卵性双生児だが、統合失調症の発症一致率は約50%だ。つまり、明らかに遺伝子以外の影響があるということ。


それに関してまた今度。


日本人の9割が知らない遺伝の真実 (SB新書)

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疾患に限らず、人間の持つ様々な性質には遺伝の影響がこんなにも大きい、という内容。とはいえ、一卵性双生児が遺伝子とともに環境を共有していながらも才能の発揮度合いが違う理由としては、2人の間で僅かに共有していなかった非共有環境(学校生活、友人関係、病気にかかった、人にかけられた言葉などなど)があげられるようだ。環境が個人の性格や行動に影響をあたえるのは僅かで、ある調査では相関があったのは父親が自分で本を探す姿が息子の本好きに影響していた、くらいだという(dneuroの息子は本好きになるだろうか…)。最後の方は、遺伝の影響が人間行動において如何に大きいかを多くの研究を引きつつ、素質を見つけて伸ばす教育・社会づくりを説く。その人なりの得意を見つけ出してその方向に努力を向けさせることが環境的に大事なのだ。特定の環境を作ってやれば、放り込めば、なんでも身につくという考えにはまってはいけないのだろう。

*1:スポーツ選手は、2世の方が活躍したり、はたまた出来なかったり。やはり活躍した親とその子どもでは素因を作る遺伝子群が違うから、当然能力にも差が出る。努力の問題ではない部分がある、と考えていれば良いと思う。

*2:残念ながら、というべきか、ほぼ全ての精神疾患で原因遺伝子はわかっていない。一部、リスクを高めるのは確かそう、という遺伝子が判明しているくらいだ。理由としては、解析サンプル対象の設定問題や、疾患概念と診断の不安定性、研究者に働く競争原理、そして技術的未熟といった様々な要因があって、一度書いてみたい。どちらにしても、精神疾患の遺伝子研究は今のところ成功しているとは言い難い。