20年後に多分精神科医の殆どは要らなくなり始めると思う

AI、人工知能に関してのニュースが最近目立つ。
dneuro的にはこの数年将棋のプロ棋士がソフトに負け続けており、ほぼ人間が敵う状態には無い(羽生さんが負けて決着となるだろうけど)ことや、ついには碁までAlpha碁というソフトに完璧に打ち負かされたことが大きい。



井上氏の本で語られるように、AIが進歩した時、社会的懸念としては「技術的失業」という現象が進む。技術が進歩して人間の活動を代替することができれば、当然それに携わっていた仕事は機械に取って代わられるわけで、産業革命以後様々な仕事が人の手から離れた。特定の領域(例えば将棋とか)にのみ強い現在の特化型AIから、より広範な能力を発揮できる汎用AIが普及した時、多くの職業が取って代わられ失業するだろう。


今後どの職業が残り、どの職業が廃れるのかというのは盛んに予測されている。自動運転が普及すればドライバー需要がほとんど無くなるなんてのは想像しやすい。どの仕事が無くなりどの仕事が残るのかってのは色んな人が予想しているが、まあまあ感覚にも合う例としては以下どうだろう。


今後10~20年の間に消える仕事・残る仕事


銀行の融資担当者やレジ係、会計事務員などが無くなる一方で、内科医・外科医、振付師、小学校教員、栄養士などは無くならないという。メンタルヘルスと薬のサポートワーカー、心理学者の2つは精神科医とはまた違う。どうやら未来予測の大家からすると、なんとか医者は大丈夫と思えそうだが…


多くの医師業務はAIに代替されるはず
恐らく医師はどんどんAIに代替させられていくだろう。その根拠として、診断がまず1つ。正直医師は誤診が多い。誤診しながら正しい診断に至ると言ってもいいくらいだ。それは初期に判断できる材料が少ないという仕方の無い場面もあるのだが、端的に言って一般的な頻度の高い病気(いわゆるcommon disease)や経験則から診断しえた病気だけが頭に上ってくる医師が殆どなせいだろう(私もそうですよ)。まあそれでも色んな疾患可能性の有無を状況によって判断変えながら次々考えていく。自分の経験が乏しければ専門家の相談も仰ぐし、文献も漁る。そうやって珍しい病気でも探索をやめなければ、ゆっくりと正しい診断に至っていく。*1
でもこの過程を十分に発達したAIは瞬時にこなしていくだろうから、そのスピードに人間が及ぶはずがない。


東大、IBM人工知能「Watson」を活用したがん研究を開始news.mynavi.jp


東大が今、IBMの有名な人工知能ワトソンを使って、膨大な研究論文や遺伝子情報データベースを探索する研究を始めている。その成果としてすでにある女性の白血病を診断したとのニュースもあった(⇛AI、がん治療法助言 白血病のタイプ見抜く...専門外なのでどのくらい凄いのかは正直わからないけど)。


次に安泰と思われそうな外科もそうでもないと思える。かつての外科治療が内科治療になり変わっている*2というのが1つ(例えば早期胃癌や抗がん剤放射線治療の進歩)。そして、外科におけるロボットの活用。現在はダヴィンチ(⇛手術支援ロボットダヴィンチ徹底解剖)のようにあくまでも人の手を補助する役割に過ぎないが、早晩少なくても簡単な解剖学的構造からなる病変であれば自律的に治療することが可能になるだろうし、それくらいになってもらわねば困る。外科医の役割は相対的に小さくなっていくはず。



精神科医は恐らく駆逐されていく
心の変調をカウンセリングで治療する、と理解(誤解)されている精神科医の仕事はさすがにAIでは駄目でしょう、と素朴に思っている人は多いかもしれない。


ここで少し一般的な精神科外来診療の流れを見てみよう。


 問診票記入⇛診察(問診により診断、時に採血やMRIなど)⇛(多くの場合)処方
 ⇛薬局で薬を受け取る


診断の要は問診、問いかけと応答のやり取りだ。このまさに問いかけこそが人工知能の得意分野であり、十分にケーススタディを行ったAIは患者の答えに応じて的確な問いを繰り出し、疾患を絞っていくだろう(クイズ王に勝てるんだから⇛コンピューターは“ヒト”になれるか(前編)、IBMワトソンがクイズ王に勝てた理由)。洗練されたアルゴリズムは、全ての質問を愚直にしていく構造的な診察よりも名人芸に近いものになると思う。さらに、検査が必要であると考えた場合も、その検査を必要とする疾患の可能性を探って的確な取捨選択を行うはずだ。


また、現在は例えば甲状腺機能障害を見るのに血液検査を行い、脳梗塞など頭蓋内病変がないかを確認するためにMRIのような画像検査を行う。順序としては診断の精度を上げるために、問診の後にオーダーする。


しかし、恐らく20年後はある程度は患者の血液や唾液などから疾患に特徴的な因子を予め解析するブレイクスルーが登場している可能性が高い*3。個人識別番号などから事前に患者の生体情報が得られていれば、問診情報と補完的に働く。つまり現代と違い、最初から一定の情報が既にある。一方、生体情報と問診の照合のためには、場合によっては膨大な研究の蓄積からできたデータベースにアクセスする必要があるだろう。そこはやはり人間離れした速度が出せるAIが圧倒的だ。


こういった診断の為のプロセスは条件が揃えば診察室で行う必要も無く、自宅で行える可能性がある。生身の精神科医が介在する必要があるだろうか?薬も規制緩和は必ず進むはずだ。適切なプロセスにより診断を受けた場合には今は病院で処方箋を貰わなくてはいけない薬も手に入るだろう。それもやはり生体情報からより自分の身体に合った薬が選択されているに違いない。だから薬剤師さんも生き残れるかどうか。


恐らくインフラの整っていない地域や、興奮し暴れていたり、知的障害や認知症によって質問に答えられないレベルの患者を前には、20年後はまだ生身の精神科医が活躍できそうだ。人を押さえ込めるアンドロイドが発達するまでは可能ではないか。でも逆に言えばそれ以外の多くの精神科外来で取り扱う疾患に関しては精神科医が必要では無くなるだろう。誰か人間が一定程度のマネジメントをする必要はあっても、何人も要らないだろう。


こういった精神科診療は受け入れられるだろうか?
今は無理。AIに対する信頼が足りない。でも20年後は技術向上と共に、きっと受け入れの素地が整っているはずだと思う。それに今でもSkypeなどによるPCを前にした直接の対面でない精神科面接は行われている(⇛遠隔診療には「Skype」さえあれば十分?)。その場にいなくても良い医療が既に登場しているのだから、画面の向こうが人間でない日が必ず来る。
  AIじゃないけど気軽にできる認知行動療法なら⇛「ここれん」心の練習5分間

*1:common diseaseとはよくある病気のこと。内科なら、風邪や糖尿病だの高脂血症だの生活習慣病。精神科なら統合失調症うつ病双極性障害パニック障害をはじめ頻度の高い疾患がそれに当たる。

*2:内科医は既にかつての外科医療を侵食している。最たるものが内視鏡だろう。内視鏡手術の適応は拡大しており、例えば以前は外科医が治療をしていた早期胃癌をはじめとした粘膜内に留まる初期癌は、今は内科医が治療している。身体を切り開く外科医である必要はない。そのように外科でない医師がかつての外科範囲に進出する上に、薬で治せる領域は広がるだろう。胃潰瘍なんて良い例だ。

*3:遺伝子解析が期待を持たれている(いた)が、現状では疾患を分類するという点ではあまりに未完成。10年後辺りから事情が変わってくると期待したい。薬物が効きやすい・副作用が出やすい遺伝子変異検出なら今でも応用可能だろうと思うのだが…。