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週刊現代はまたか…

治療

週刊現代は的外れな医療批判を繰り返している。
今回も読んでみたが、なんというか、コピーの如く同じ批判を号を変えても繰り返すのは能が無い。いや他の出版社もまた的外れな現代医療批判を繰り返しているから、やはり医療批判が売れるコンテンツなだけだろう。同じ記事の使い回しなら取材費もかからないし。


ともあれ、今回話題にしたい週刊現代(8/6号)。
気になるのは大橋巨泉さんが死を前にしてモルヒネを誤投与されたという記事。


独占!巨泉さん家族の怒り「あの医者、あの薬に殺された」~無念の死。最後は寝たきりに


大橋巨泉さんは国立がんセンター中央病院にて中咽頭がんだったらしい。在宅介護に移って往診に来るようになった医者がモルヒネを投与し始めてから日に日に弱り、足元フラフラ、意識は混濁し、あっという間に亡くなったという内容。


問題は医者であって、モルヒネではないだろう
さて、記事内容が正しければ、巨泉さんの死期を早めたかはともかく、意識も薄れ歩行もままならないという過鎮静状態に陥ったのは、紛れも無くモルヒネの投与量がおかしかったように思える。


ただ、この記事を読んで危惧してしまうのは、モルヒネそのものがあたかも悪い薬のような印象を抱かせてしまうところにある。


モルヒネは現代がん治療、特に末期緩和医療の中で必要不可欠な、そしてきちんと使えば意識を保たせながら痛みを和らげる本当に素晴らしい薬である。WHOでもその積極的な使用が推奨され、長らく日本では緩和医療において適切に使われてこなかった歴史があった。曰く、依存症になる*1、意識レベルが低下する、死期を早める…適切な使用によりそういう事は無いという知識が普及し、ようやく日本で抵抗の無くなってきた昨今、この記事でモルヒネを過剰に怖がる患者や家族が出てきたら、それは不幸だろう。せめて記事タイトル、修正してくれ。


記事中の副作用記事への解説
60すぎたら、医者にすすめられても拒否しなさい!一度やったら、もう普通の生活に戻れない


この記事中、dneuro専門の精神科薬については1つ1つ解説したい(記事がそっくり重複しているので、今日の内容も長くてしつこいかと思うが…)。


尚、断っておくが、解説の意図は記事の間違いを指摘したい、というよりは記事を読んだ人が本号の「煽り」によって、いたずらに必要な薬を怖がったり、拒絶したりしないようにしたいところにある。


薬服用に関する原則は、
  ・どんな薬も効果だけでなく副作用がある。
  ・副作用の程度によって薬を継続するかの妥当性が判断されることがある。

ということであり、逆に言えば副作用がなければ余計な心配をせず、その薬が必要ならしっかり使うべきだ。



さてさて、まずは睡眠薬について。記事中取り上げられている薬に関するタイトルは太字、趣旨は太斜字で。
マイスリーで前向健忘に
エチゾラムマイスリーで転倒*2

 マイスリーの副作用に、前日の記憶すらなくしてしまう「前向性健忘」があり、それは「酒によって前日の記憶を覚えていないのと同じような状態」(前出の浜氏)
 服薬した翌朝まで薬が残り、転倒することがある。「骨折してそのまま寝たきりになる高齢者も」(上昌広氏)

⇛ 内容そのものは正しい。適切な使用でそれが起きることもあり、特に高齢者の転倒は確かに注意しなくてはいけない。またこれら副作用はエチゾラム(商品名はデパスのほうが有名)やマイスリー(一般名はゾルピデム)の専売特許ではなく、一般に睡眠薬全般に当てはまる。精神科医なら誰でも気を配っている注意事項だ。


アリセプトで心停止の危険、暴力的に。
メマリーは効果が小さい

 アリセプトの服薬で高度徐脈から心停止になる患者もいる(長尾和宏氏)
 興奮状態になることもあり、一部の認知症にしか効かない(河野和彦氏)
 メマリーは元々記憶力回復に効果が謳われたのに今は怒りっぽくなる患者の
 興奮を抑えるために使われている(河野和彦氏)

⇛これも内容は正しい。ただし、服薬後の副作用をきちんと評価すればいいことで、アリセプトそのものの効果は臨床試験で証明されており、私の経験でも実際に有効な患者が多いと感じられる。
メマリーが今では興奮を抑える、鎮静系の薬として使われる頻度が高いのは事実だ。でも副作用は比較的少なく、目的に応じて使いやすい薬でもある。河野氏は、一般の医者が全て誤診し、不適切な使用をほったらかしにしているかのような誤解を与えかねない発言が多すぎるように思う(そういう編集がされているなら申し訳ないが)。



SSRIで不安や焦燥感が強くなる、手足のしびれ、消化管出血の危険性、チザニジンの併用でふらつき症状
抗うつ剤は急にやめると危険

 SSRIを飲み続けると「セロトニン症候群」と呼ばれる不安感や焦燥感が強まる副作用が出ることがある。副作用で手足のしびれ、むくみ、消化管出血が起こることも。チザニジン(商品名テルネリンで知られる筋弛緩薬)と併用するうと血圧が低くなってふらつくことも。急な服薬中止で「離脱症状」もでる。
⇛挙げられている副作用はいずれも考えられうる。でもそれはとても頻度が少なく、かつセロトニン症候群に関して言えば注意すべき症状が書かれていない。不安や焦燥ではなくて、高熱、錯乱や下痢といった症状が書かれるべきだ。余計怖い?厚生労働省の資料によればセロトニン症候群は平成19年度で23例、平成20年度で33例。これは処方人数・処方量を考えれば極めて稀だ*3


リスパダールで窒息死、認知症の患者では寝たきりになることも。
ジプレキサで手のこわばり、睡眠薬の併用で譫妄状態に。
向精神薬セロクエルで血糖値が急上昇
SNRIで血圧上昇

 非常によく処方されるリスパダールでは高齢者で飲み込み悪くなるケースがあり、食べ物を誤嚥・窒息する可能性がある。さらに筋肉のこわばり寝たきりになることも(河野和彦氏)。ジプレキサで手の震えやこわばり、横紋筋融解症を起こすことがある。睡眠薬との併用で譫妄状態を起こす。セロクエルで血糖上昇をもたらすリスクあり、糖尿病患者には使えない(内科医)。SNRI独自の副作用として血圧上昇、動機、頭痛、尿の出が悪くなる、肝機能障害。
⇛1つ1つの記事内容そのものは否定しない。でもやはり河野氏の指摘は、やはり薬そのものが問題というより、不適切に使用している医者がいることが問題というべきだし、匿名内科医さんからのコメントは相変わらずおかしい(参照⇛週刊現代の精神薬批判は的外れ)。セロクエルの血糖値上昇は必ず注意するし、それにジプレキサも忘れてはいけないですよ?SNRIセロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬という抗うつ薬の1種であり、副作用はその通り。だから列挙されている副作用に気をつけて使う。肝機能障害はSNRI専売特許ではなく、肝臓で代謝されるあらゆる薬で考えられるものだが。


以上…疲れますね。


問題は薬なのか?
書いていて、また読者も感じたかもしれないが、私は結構記事内容を肯定している。精神科薬に関しては批判そのものは多少の間違いや誤解もあるが、指摘されていることの多くは把握しておくべき事項だ。


ただ、副作用というのは薬であれば必ずあるものだ。運が悪いとしか言いようのないStevens-Johnson症候群もあれば、効果のメリットを考えた時には一定の副作用を受け入れざるを得ないこともある。抗がん剤が良い例だろう。


忘れてならないのは、どのような治療でも、副作用(副反応ないしは合併症)は確率的に出てくる人が必ずいること。なのに、確定的であるかのように、あたかも怖い副作用が「飲めば必ず出てくる」かのように感じてしまう扇動的な書き方は困る。目的の効果が期待され、副作用が出ていない人もこの副作用を煽っているとしか思えない記事を読むと不安感を覚えることが容易に想像できる。


さらに、上述したモルヒネと同じで、おかしな使い方をする医者がいる。例えば河野氏の指摘する多くを読むとあたかも薬そのものが悪い印象を抱くが、本来は使い方のおかしさを批判すべきだ。


今回のような記事が出るのは、こういう医療批判が売れる、という側面があるのも否定しないが、おかしな薬の処方をする医者が数多くいるということの反映でもあると思う。精神科分野でどのようなおかしなことが起きうるかはまた日を改めて考えることにする。


当該の週刊現代読みたければこのサービスが便利。
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*1:モルヒネが日本で使われなかった1つの理由が「依存症になる」だ。正直末期で依存を心配する理由がわからないのだが、実際には依存にはならない。モルヒネが鎮痛剤として効力を発揮する身体の状態においては依存が成立しないことは示されている。

*2:週刊現代の記事は一般名(化学物質名)と商品名がごっちゃになっていて読みづらい。ここでいえばエチゾラムは一般名、マイスリーは商品名。

*3:セロトニン症候群を起こしやすいSSRIパロキセチン(一般名。商品名はパキシル)。両年度において約半数の起因薬剤となっている。以前は山のように処方されていたが、離脱症状も強く、今ではやや使いづらいSSRIと認識されていると思う。