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週刊現代の精神科薬批判は的外れ

治療

風邪薬が風邪を治していないというと驚く人が多い。あれだけ内科に行くと風邪薬をもらっていたというのに!ということで。


解説すると、風邪の多くはウイルス性だが、風邪ウイルスに対する直接的な薬は存在しない。よく貰う薬は日本では鎮痛剤や抗ヒスタミン剤の合剤であるPL顆粒と去痰薬、それに抗生物質の組み合わせか。PL顆粒と去痰薬は自覚症状を和らげはするが本質的ではなく、抗生物質は細菌をやっつける薬なわけで、ウイルスは殺さない*1


つまり、いわゆる風邪薬を飲んでも治りはしない。
もちろん、社会人は風邪を引いても仕事をしなくてはいけない状況が多々あるわけで、そういう場合に自覚症状を和らげることは職務遂行を可能にしてくれるから、本質的でなくても敢えて処方するということはあるのだが。「治す」という意味において休養と適切な栄養に勝るものはない。


だから実は全国的には相当無駄な処方がされているはずだ。国民皆保険であらゆる治療の大部分が国費によって賄われていることを考えると、このような無駄は批判されて然るべきだし、ユーザーとしての患者はもっと賢くなるべきだと思う。


さてさて、週刊現代は時折、こんな薬は危険だ・殺されるといった記事を載せることがあり、つい先日も以下の記事が出て、正直困ったなあと思ったりする。


ダマされるな! 医者に出されても飲み続けてはいけない薬〜一般的な頭痛薬、降圧剤、抗うつ薬…がはらむ危険


dneuroの専門である精神科分野の批判の割合も多いが全て的ハズレである。
そこで精神科薬関連の記事に沿って内容を要約しつつ反論を試みる。


認知症薬として名高いアリセプト(一般名は塩酸ドネペジル、開発はエーザイ)に関して。

(名古屋フォレストクリニック、河野和彦院長*2の言葉を要約)
効果があると認めつつ、副作用で暴力があり、投与量は3mg⇛5mg⇛10mgと増量していくことが保険診療の枠内で決められており、そうしないと病院が診療報酬を受け取れないから、医者が投与調整が出来ない。


⇛ え~…投与調整が出来ないって嘘である。確かに増量規定が決められており、お上が例えば3mgの少量で維持を公式に認めていないのは本当だが、現実には3mg維持でちゃんと保険が通るので、そういった用量調整をしている医師は沢山いる。まして必ず10mgに増量するなんてあり得ない。医師が投与調整していますよ。
ただ、乱用されている現状があるのは事実で、そもそも抗認知症薬は、認知症発症数年で進行を遅くするという本来の効果を発揮できなくなるので、他に理由がなければ認知症進行時点で止めるべきだろう*3(というように書いて欲しい)。


次に抗うつ薬批判。
(医療ジャーナリスト、田辺功氏の言葉を要約)
抗うつ薬SSRI心の風邪ですねと処方される。SSRIセロトニンという脳内物質に関わる薬で、脳内環境を変えてしまうのでどんな副作用があるかわからず恐ろしい。消化管出血というわかりやすい副作用も報告されている。


⇛10年ほど前だろうか、うつ病が「心の風邪」と表現されたことがあり、確かに抗うつ薬乱用が問題になったが、少なくとも心ある精神科医うつ病を「心の風邪」と表現したりしない*4。またうつ病状態にある脳は、セロトニンノルアドレナリンといった神経伝達物質のバランス異常を来しており、それを正すのが薬の目的であるので、その調節を怖がったらそもそも治療出来ない。消化管出血の報告はあっても頻度の高い副作用ではない。


統合失調症で処方されるジプレキサ(一般名オランザピン、開発はイーライ・リリー)やセロクエル(一般名クエチアピン、開発はアストラゼネカ)に関して

(しんクリニック院長、辛浩基医師の言葉を要約)
血糖値が上がることがあり、精神科の医者が単に「ポピュラーな薬だから」という理由だけで処方すると、患者が糖尿病持ちだった場合命を落とす可能性がある。


⇛なんというか…「ポピュラーな薬」という薬剤選択を精神科医がしているってひどく失礼だが、これら2薬は世界で統合失調症のファーストチョイスとして使用されているのである。副作用が血糖上昇であることは事実。もちろん精神科医は必ず注意をしているのだが、とりわけ日本では糖尿病患者には禁忌とされているので、処方がそもそもあり得ない!!


さらに、マイスリーハルシオンという短時間作用型の睡眠薬に関して。
(医療ビジランスセンター理事長内科医の浜六郎氏の言葉の要約)
前向健忘という酒に酔って記憶が無いのと同じ状態になる。性格が変わったり、事故を起こしたり、人を傷つけたり、人を殺しても覚えてないことがある。1日飲まないだけで痙攣を起こすことがある。


⇛ 内容に嘘はない。しかし、そうならないように標準的な用量範囲内で出来るだけ少量で使っていればまず問題にならない。人を殺したり…という下りはハルシオンがかつて今よりずっと高用量で使われていた時の事件であり*5、そんなことは現在起きていない。とはいえ、両薬ともに効果が強いだけに依存性が高く、それは気をつけなければいけない。


上記の通り、記事内容は普通の良心的な医師であればしないことをとりあげて批判しているのが的外れであること甚だしい。患者がこの記事を読んで主治医を疑い、正当な治療機会を奪うことになる可能性を編集部は考えなかったのか、と文句も言いたい。意図的かわからないが、明確な事実誤認、医学的間違いも書かれているので編集部は気をつけて欲しい。


で、とはいえなんだけれども、残念ながら記事内容とは別に、精神科医が批判されてもおかしくない処方行動をしている(してきた)のも事実。例えば統合失調症への多剤大量併用処方という問題は大いに批判されていい。それでも止むに止まれず現処方となっている患者さんもいるはずで、一部の医師の感情論的なな言葉をまとめて記事にすることは避けてもらいたい。とりわけ服薬を勝手にやめて精神不安定になることは本人のみならず、家族、場合によっては社会が困る事態になりかねないのだから。

*1:抗生物質の利用目的は細菌を殺したり増殖を抑えたりするためであり、不用意に使ってしまうと抗生物質への対抗力を持った耐性菌を増やしてしまう。日本の医師のこの誤った処方行動のせいでどれだけの耐性菌が増やされたことか。世界中から批判されていることでもある。医療サービスへの気軽なアクセスの負の側面とも言えそうだ。

*2:河野和彦氏は認知症治療のいわゆる「コウノメソッド」で有名だ。おそらく熱情溢れる真摯な方だと思うのだが、しかしコウノメソッドに関しては批判的吟味をすべきものと感じるのでいずれ取り上げたい。

*3:認知症薬は認知症を治すのではなく進行を遅らせる。そして一定期間の後には効果が無くなる、というのはそもそも開発・販売をしているエーザイも主張する常識である。MRさんの言うことを聞かない医者がおかしい。

*4:うつ病が短期間で治る「風邪」に例えられたのは本当に不幸だった。ほんまモンのうつ病は、動くことすらままならず、妄想を抱くことだってあり、そして治った後も再発を懸念しなくてはいけない(参考⇛http://matome.naver.jp/odai/2142309912193663701)。どっちかといえば心の複雑骨折だ。

*5:ハルシオンに依る殺人は大学時代に別冊宝島のムックで知った。殺人だけでなく、時に起こすせん妄状態は、わけのわからない行動を起こしたりする。タクシーに一晩中乗る、本棚を綺麗に整理、ずっとしていない奥さんに求めてしまう…などなど。でも今普通の量を守って使うのであれば危険はずっと少ない。問題は犯罪への利用と感じる。良いまとめはこちら⇛ http://www.cool-susan.com/2015/11/05/ハルシオン/