精神疾患の治療について

精神疾患の治療…というとどうも人はカウンセリングという言葉が思い浮かぶようだが、一転実際に外来にかかると薬ばっかりという感想を抱く方も多いと感じる。
しかし実際のところ、精神疾患の治療は、生物学的治療(ほぼイコール薬物療法)+精神療法(対話による治療)+環境調整から成り立っている。Bio-Psycho-Socialモデルと言ったりもする。それぞれの役割を簡単に記すと、
 薬物療法…変化した脳機能を元に戻す
 精神療法…こころへの働きかけ
 環境調整…休息できる環境、人間関係の調節、社会資源の利用
といったところか。


それぞれの利点を挙げてみる。
薬物療法…症状の改善を比較的早く得られることが多い。
     症状改善に伴い、自己制御感覚を持ちやすくなる。
     心を鍛えたり、環境調整とは独立した改善を得られる。
精神療法…「自分の力」で症状を改善していく実感を得られる。
     すなわち、人間的な成長を伴う。
環境調整…生きやすい、将来に繋がる状況を作る。
     回復を容易にさせる。


一方、限界は以下。
薬物療法…症状の改善に「自分の力」を実感するのが難しい。
     基礎となる人格改善や、発達を促すことは直接はしない。
     失った対人関係や社会機能は取り戻せない。
精神療法…ある種の精神療法を受け入れる脳内基盤が整っている必要。
     技術的に難しく、医療者に高度な技量が必要。
     間違った精神療法の副作用が大きい。
環境調整…自分だけでなく周囲の力を利用する必要。
     どうにもならない状況(社会的地位や経済状況)も存在する。


これらを考えた上で、次の図のようにまとめてみた


f:id:neurophys11:20160609060629j:plain


疾患によって各治療法の重みが異なっていると考えていい。
つまり、例えば統合失調症であれば薬の助けなしに治療は考えられないし、環境調整も必須である一方で精神療法の果たす相対的な役割は小さい*1。そう考えると各3治療の統合失調症における重み付けから考えた位置は図のとおりになる。パニック障害強迫性障害では適切な精神療法(≒認知行動療法)と薬物が双方効果をもち、組み合わせるとより強い治療効果を発揮する一方で、環境調整の果たす相対的な役割は小さい。
他方、適応障害発達障害では各3治療それぞれがしっかりした重みを持ち、バランス良いことが望ましい。他の疾患に比べて薬物療法の果たす相対的役割は小さいし、場合によっては環境調整が一番の重みを持つ。


そんなわけで、精神科の治療はカウンセリングばかりではないし、かと言って薬ばかりでも無いはずなのだが…。
 以前書いた薬についての項も参照(⇛薬について)



 *尚、今日出した図は筆者の完全なオリジナルです。教科書とは違う主観だとご承知おきください。今の主治医さんの意見と違う場合は主治医優先です。

*1:とはいえ、ある研究によれば「主治医の態度」こそが統合失調症の治療継続に繋がるらしいので、そういった意味では精神療法も大事と言えるはずではある。