読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

自閉症の原因はワクチンや水銀じゃないよ

ワクチンに含まれる水銀が自閉症の原因だ、というのは結構広がってしまった虚報で、そもそもそれを提唱したイギリス人医師の論文が撤回された上に、本人が免許剥奪までされたというのに、未だに信じている人が多い。


心理的には、特に我が子が自閉症であることへの理不尽が、何か特別な原因によってもたらされたと思わないとやりきれないという気持ちがあるかなと推察するが、残念ながら(というか有り難いことに)ワクチンは原因じゃない。


何度か聞かれることが多いので、まずは特によくまとまっているサイトの紹介。


  うさうさメモ チメロサールに関する情報まとめ 
  横浜市衛生研究所 チメロサールとワクチンについて 


どちらも分量多く、読むのに骨が折れるかも知れないが、ほぼこの2つで本来はワクチンや水銀と自閉症に関連がないことを納得できるはず。


これまで水銀が自閉症の原因であるというデマに曝されていない方にほんの僅か背景を箇条書してみる。


自閉症診断が近年(この20年位と考えていいかな)増加
②近年(やはりこの20年位か)ワクチン接種が出生後早期からかなり多くの数推奨されている。
③ワクチンにはチメロサールという水銀(エチル水銀)を含んだ防腐剤が使用されてきた。
④水銀は有機水銀、つまりメチル水銀の形で摂取すると水俣病でわかるように中枢神経系に傷害をきたす。


まあこんな背景があるとあたかもワクチン接種と自閉症との関連に関連があり、しかも使われている防腐剤を考えると、水銀が自閉症の原因ではないかとかなり説得力を持って書ける気はする。


しかし、そんなことないのは上記リンクが詳細なので読んで欲しいところだが、今挙げた4つに関して若干コメントを。


①近年の増加に関しては以前書いたような複合的な要因(⇛ASDは増えているの?)。水銀というただ1つの原因から自閉症が増えることは、自閉症圏の遺伝性の強さを説明できないだろう。


②ワクチン接種の公衆衛生上の効果(すなわち感染症の劇的な低下)に関しては言うまでもないのだが、3種混合(MMR)ワクチン自閉症発症と関連を持つという有力誌ランセットの1998年の論文が未だに影響力を持つ。論文自体が同誌によって詐欺的論文として撤回され、結果英国人著者Andrew Wakefieldが医師免許を剥奪されてもおり、多くの研究でワクチンと自閉症の関連が明確に否定されているにも関わらず、という側面がある。


それでも、という人にはやはり横浜市の調査を見て欲しい。

MMRワクチンの中止は自閉症の発生率に影響せず

f:id:neurophys11:20160601162613j:plain


文中データを参考に図を作成したが、MMRワクチン接種率が下がっても自閉症発生率は下がるどころか増えているのだ(ちなみにMMRワクチンは別な理由で日本では一時接種が中止された。wiki参照。現在は個別に実施)。MMRワクチンが原因ならMMRワクチン接種率低下後に自閉症発生率が減らなきゃおかしいだろう。


③と④はその不安がセットと言って良いかなという内容。
日本は、中枢神経系へのメチル水銀の蓄積からもたらされた神経障害を主症状とする水俣病という悪夢記憶があるので、とりわけ水銀への恐怖感が強いと思われる。


が、注意して欲しい、ワクチンに含まれるのはチメロサールが含有するエチル水銀であり、水俣病メチル水銀とは違う。

f:id:neurophys11:20160601162710p:plain


お酒として摂取するエタノール(エチルアルコール)が人体にとって益にもなるのに対して、メタノール(メチルアルコール)が強烈な毒性を発揮する*1ことを考えてもわかるように、水銀(Hg)にメチル基(-CH3)がついているのかそれともエチル基(-CH2CH3)なのかで全然違うことは認識していい。
チメロサールの水銀部分はエチル水銀として代謝されるわけだが、これはメチル水銀に比べて代謝が早くメチル水銀のような蓄積の心配は確実に少ない。現状ではしっかりしたデータがないために安全基準はメチル水銀のものを使わざるを得ないが、同じ基準を当てればより危険度は低く、ワクチンのチメロサールからの摂取量は十分に安全域である。


一部のネット記事には、「エチル水銀は無機水銀に分解され脳に蓄積…」のようなことが書かれていたりするが、そういうことはない。無機水銀(炭素と結合していない水銀化合物)の毒性は中枢神経系でなく、腎臓に対してである。また、そもそも無機水銀は有機水銀に比べて毒性が低いのだが、自然環境下で有機水銀(メチル水銀)に変わりやすい(⇛有機水銀の無機化_生産研究誌,1977)。


従って、水銀の中枢神経毒性ということを考えた時に心配するとしたらエチル水銀を含むチメロサールではなく、やはりメチル水銀である。ましてや無機水銀ではない。そして、普通の生活の中で摂取する危険を考える観点からは、大型肉食魚、すなわちマグロ、メカジキ、そしてキンメダイなどであろう。


  妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項
  魚介類などに含まれるメチル水銀について (注:長い)

*1:本稿と関係ないのだが、メタノールの解毒はエタノールの注射である。メタノールは、メタノールホルムアルデヒド⇛ギ酸と代謝され、メタノールのみならずその代謝産物であるギ酸の毒性が強い。解毒にエタノール注射と聞いて、ウルトラ下戸の筆者は一体どうすりゃいいんだという話(血液透析も有効なので、それでいいのだろうか)。 幾つか面白い記事を。   ロシアで14人死亡…実はあなたも飲んでいた猛毒「メタノール」   酒にメタノール混ぜて夫殺害!嘔吐、失明、呼吸困難・・・死に至る毒性