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震えと上がり症と城島さんと

人前で、大事な試合・演奏の前で、あがってしまうと震えてしまってどうしようもない、という人がいる。この震え(医学用語では振戦)にはどう対処すべきか?


多くの人は何事かする前に緊張する。人前で何かを発表する、スポーツで対戦相手と戦う、好きな人に告白する、怖い人に悪事を白状する…などなど「緊張」場面は枚挙に暇がない。それに実のところ「緊張」することで意識が研ぎ澄まされ、作業効率やパフォーマンスが向上し、アスリートならば世界記録をなしうる。


しかし、「あがって」しまうというのはイメージとしてはそういった緊張を超えて、パフォーマンスを低下させるほどの現象であり、本番で「あがって」しまい、発表や試合で失敗した人も多いはず。


あがってしまう人はそれを克服するために色々と頑張っているはずだ。


一方、緊張がひどくなってそれがあらゆる社交場面で(単に食堂で食事をするとかでも)生じ、社会生活に影響をおよぼす場合、社交不安障害という疾患として認識され、精神科治療対象となるのが最近の風潮だ。


 社交不安障害(症)については以下のリンクなどを参照
 社交不安障害について (製薬会社の解説。硬いがわかりやすい。診断基準もあり)
 社交不安障害の診断と治療 (精神神経学雑誌から。やや専門的)


標準選択薬とされるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と抗不安薬、さらに認知行動療法が治療として組み合わせられることが多い。


だが、「震え」がひどいあがり症に関して、社交不安障害とするのは早計だ。中核的な社交不安障害と違い、パフォーマンス限定的な場合は日常的な場面での不安は非常に少なく、緊張機会が無ければ生活にも支障は無い。まさに「震える」ことだけが問題になる。


実は、一部の人は、自律神経の中でも交感神経系が高ぶるとこの震えが非常に目立つ。交感神経は、覚醒方向に働く自律神経系であり、意識を高く保ち、刺激に身体と気持ちを備えさせる、非常に重要な神経系だ。従って、およそ何かことをなすときにはこの交感神経系の活動が十分に高まる必要がある(反対は副交感神経系だ)。


  自律神経について
   (このホームページのすべての記載が正しいとは言えないが、このページ
   に関しては非常にわかりやすい)


この交感神経系が高ぶると同時に、震えてしまう場合、矛盾にぶち当たる。高ぶらないと良いパフォーマンスが出来ないのに、一方で明らかに目で見てわかる震えが出るようであれば、パフォーマンスそのものが出来ない。


このような方の場合、私は積極的にβブロッカーというタイプの薬を利用してよいのではないかと思う。


交感神経β受容体遮断薬


リラックスすれば震えないのだから、頑張って震えないよう自己コントロール力を磨けという意見もあるだろう。実際若い人はそうすべきと思う。でも多くの方が、少なくてもクリニックを訪れる前にはすでに様々なことを試して克服の努力をしている。各種リラクセーションやメンタルを正常に保とうとするコツの数々(古くは手のひらに人と書いて飲み込むんだ、というやつ)。それでもやはり「震えて」しまうことに関し、それを止めるまで頑張れというのは酷だし、状況によっては死活問題なのだからさっと解決したいという思いは一定程度正当と感じる。


本態性振戦があると緊張場面で震えやすい
さて、緊張場面で震えが起こり、止まらないような人、実は「本態性振戦」を抱えていることが多い。


メルクマニュアル 振戦


余り知られていない疾患だと思うが、ご存知日本テレビの鉄腕ダッシュを見ていると時折TOKIOリーダー城島さんの手の震えが気になってくるのは私だけではあるまい。苦労人城島さんの震えが悪いものならそれは心配だが、おそらく本態性振戦ではないかと思う。


ヤフー知恵袋を見ると、城島リーダーを心配する方はパーキンソン病とアル中(アルコール依存)を心配している場合が多いようだ。


しかし大丈夫、これは否定できそう。パーキンソン病では止まっている時の震え、すなわち安静時振戦が目立つ。城島リーダーの震えは野菜を切り分けたり、物を運んだりする動作時に見られ、止まっている安静時にはない。さらに、パーキンソン病が進行性である一方で、かなり前から指摘されていることと、他の症状の出現・悪化が見られないことを根拠にして良さそうだ(画面からですけどね)。


飲酒を心配する人は、アル中のおっさんの手がプルプル震えるのを想像するようだ。その振戦があるとすればアルコール性の小脳失調によると考える。しかし、城島さんは様々な道具を見事に、器用に使いこなしている。あれだけの協調運動がしっかりできていればこちらも否定して良さそうだ。それに中島らものようなアルコール依存エピソードが聞こえてくるわけではない(かな?)。


そんなわけで、原因はわからない(それを医学では本態性という)が敢えて言えばやはり本態性振戦ではないかと。本態性振戦の震えは、緊張を強いられる場面で増強するのだが、この点からも支持されると思う。


当然ながら事務所によって心配され専門医受診もしているだろうから、この診断のもとおそらく自分の意志で薬を使っていないのでは?と想像する。安心して見て良いはず。


次回、交感神経β遮断薬を使うことについて。