自閉症〜名前の変遷〜

いわゆる「自閉症」は診断基準の変遷に伴い診断名がころころ変わっている。例えば「アスペルガー症候群」は 随分と一般にも広がって知名度が増したが、市民権を得た今になって、精神医学界では古い病名となり公的には使われなくなってきた。
それはひとえにアメリカ精神医学会の診断基準、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM)の最新版たるDSM-V(ディーエスエム・ファイブ、と読む)でアスペルガー症候群の診断名が捨てられ、古典的な知的発達の遅れを伴う「自閉症」や、知的能力の高い「高機能自閉症」なども含めて「自閉症スペクトラム*1に一元化されたからに他ならない。


ちょいわかりにくいこの名前の変遷を以下の図2つにまとめてみた。
(図表は出典先のものを使わせてもらっています)
f:id:neurophys11:20160416130804j:plain

f:id:neurophys11:20160416130850j:plain

  
 ところで、ここでは自閉症スペクトラムとして、「障害」と敢えて書いていないが、これは結局自閉的特性というのは必ずしも実生活を障害しないからである。


何度か紹介した本田悦朗氏は著書「自閉症スペクトラム」の中で自閉的特徴を有しつつもそれが生活の中で大きな障害とならず、社会生活を営む事が可能であれば、「非障害自閉症スペクトラム」という状態で存在する、と主張する。自閉的特徴があまりにも強いと、生活の支障も大きくなり福祉的支援が必要となる、それが「自閉症スペクトラム障害」。


ということで、単に「自閉症スペクトラム」であることは、世界認知の仕方やコミュニケーションの取り方が多くの人とは異なる個性を持っている、ことを意味しているに過ぎないと捉えることが可能だ。思い切って人種の違いであるように捉えたり、犬とネコのような種の違いだ、はたまた外国人だと思え、と主張する方々もいる。誤解を恐れず言えば、それくらい異なる人だと思っていたほうが正直周りにいる者としては楽だと思う。自分と同質の集団に属する人間が期待通りに動かないと腹が立つ一方で、外国人が予想外の反応をしても腹立たしくはならないはず。困惑はするけれども。


 自閉症スペクトラム「障害」とか「発達障害」というのはどうにも当事者にとって受け入れがたい呼称であるのは感じる。私の勤務するクリニックでも、「発達障害検査」ではなく「発達特性検査」と表現している。適切な支援を当事者とその近親者、配偶者に提供するためにも徒に「障害」という言葉が安易に使われない世の中であって欲しい。


DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引

DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引


DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル

DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル

*1:これまで当blogでは「自閉スペクトラム症」と書いてきたが、ASD: Autistic Spectrum Disorderの邦訳としては「自閉症スペクトラム」のほうが一般的なので、今後はそう書きます。これまで書いたのは脳内変換してください。