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光でうつが診断できる? ちょっとそれはという問題 (2)

NIRSでうつを診断できるのか、という話。
 ここで問題にしたいのはこれが本当なのか?ということだったりする。


NIRSの問題点は大きく2つ。
1.見ているのが本当に大脳皮質の血流なの?
2.結果が再現できない



1.見ているのが本当に大脳皮質の血流なの?

図を見て欲しい。大脳皮質に進入する近赤外光は実は頭皮を通るときに頭皮の血管も通っているのだ。

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すなわち、帰って来たシグナルは
頭皮血管のヘモグロビン+大脳皮質血管のヘモグロビン
の2つの層を通り抜けているわけで、実は課題の緊張感から血圧が上がり、それによって頭皮血流量が増しているだけ、ということもあり得る。医学系から出す結果に対して、工学系の研究者からは疑念が提出されている。というのが図の右側の論文で、実際に観察されたNIRSシグナルから頭皮血流分を引いたら殆どシグナル無くなっちゃったよ、というもの。 
 まあdneuro自身もNIRS研究者なので何度も言語流暢性課題で健常者を測定した。結果としては確かに言語流暢性課題では酸化ヘモグロビンシグナルが高くなることが多い。一方で他の課題ではさっぱりということがある。男女でシグナルの上がり方に違いがあることや、健常者でも抑うつや不安があることで差が生じうることなども報告したことがある。特に課題による差があるということは必ずしも頭皮血流の増減では説明がつかないのでNIRSの可能性を信じたいところだが…。


2.結果が再現できない
 NIRSの結果に関して疑念が生じるのはまさにこの再現性の無さに起因していると考える。

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 日本のNIRS研究といえば群馬大学の福田正人先生なのだが…図左はイギリスの学術雑誌Natureの記者が先生の教室を訪ね、実際にNIRSを受けた結果である。その結果は健常者パターンを示したのではなく、双極性障害に近いパターンを示したという。福田先生方の研究によれば、双極性障害の賦活パターンは後半になってシグナルが上がってくるというものだ。もちろん記者は双極性障害ではないのだが、正常でない理由として「室内に見物人がいるせいで発語をためらった」と説明されたという。
 素直に感想を言ってみよう。何じゃそりゃ?だ。Nature記者もそれじゃあ疾患の測定なんて無理だろ?と言いたい感じ。


 図の右側を見てみよう。
 上の段に載せた2つの図は健常者とうつ病患者の課題時のシグナル賦活パターンを示している。
 うん、明らかに健常者はうつ病患者より賦活されているね、と思った方は甘い。これは実は平均画像なので、実際にはシグナルが大きい人から小さい人まで非常に大きなばらつきを示す。中段の図形は平均を導いた被験者たちのひとりずつのシグナル賦活の様子である。矢印に書いたように、健常者と言っても賦活の非常に低い人、殆ど無い人もいる。うつ病患者と言ってもシグナルがしっかり高くなる人も沢山いる。
 これは何を意味するのか考えたい。結局いくら大勢の平均でうつ病患者は賦活が小さいという結果を出したとしても、それは目の前の人の賦活が低かったらじゃあその人はうつ病か?賦活が高かったら健常者か?といった疑問に直接答えられないってことだ。せいぜい賦活が低ければ、何かシグナルが低くなるような要因がその被験者にはあるということしか意味しないし、次に測定したら高く出るかもしれない。安定性なんて無いのだ。


 東大病院ではNIRSの検査を含めた様々な画像検査を診断に応用する「こころの検査入院プログラム」を提供している。
http://www.h.u-tokyo.ac.jp/patient/depts/kokoro/
 様々な検査のパックで7万円。私はこれが高いとは思わない。NIRSだけでなくCT、血液検査、SPECT、MRI、そして様々な心理検査など、単独で組み合わせれば保険適用されても7万じゃすまない豊富な検査を入院費込で受けられるのだ。4日間だそうだから、休養にももってこいだ。
 ただ、これだけは言っておきたい。診断の決め手になるのはNIRSの結果ではなくて、詳細な問診結果だ。東大病院のプログラムでは「精神科診断面接(SCID)による、詳細な症状の評価」がそれに当たる。先のNature記者の記事でもその点が指摘されており、「え、問診で決めてない?」という疑念、そりゃ当然持ちますよ。


 まあ以前も書いたが、精神科の疾患診断はこれだけ画像や血液中の様々な因子(遺伝子含む)の解析が進んだ現在においても、結局は患者さんへの問診や客観的な行動評価が伴わないかぎり無意味ってことだ。
 ともあれ、東大病院をはじめ、ちゃんとした病院での検査結果が蓄積されればいつかは何か本当に意味のある結果が導けるといいなと願っている。データよ集まれ、と思う。