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ASDを理解するために(2)

ASDは注意欠陥多動性障害(ADHD)を合併したり、逆にADHDに合併したり、ということが多いとされている。


同じ発達障害じゃないの?という疑問を呈される方もいようが、1994年発表のアメリカ精神医学会の診断基準、DSM-IVでは合併は無い、とされていた。それが約20年を経て発表されたDSM-Vにおいては合併診断可能となっているから、精神科医も経験を積んだのだ。

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昭和大学精神科教授である岩波明氏のADHDに関する講演を聞く機会があったので、私が普段抱く臨床的印象とともに雑感を。

書いたとおり、ADHDとASDは合併がある、多い。
診断基準を見ると、ADHDの持つ特徴即ち多動・衝動性・注意欠陥と、ASDのコミュニケーション能力の障害とはかなり違いがあるように見えながら、日常生活におけるトラブルでは少なくても表面上似ていることが多い。


岩波先生のスライドから引いてみれば、
  1) 毎回し忘れる、目にして気づかない
  2) 話しだすと止まらない、話が飛ぶ
  3) 順番、会話に割り込む
  4) 馴れ馴れしい
  5) 懲りない
 といったところだ。


でも、例えば同じ「話しだすと止まらない」で考えてみると両者はやはり違う。


ADHDはそれこそ好きなことを語りたくて語りたくてしょうがない、その熱意を、聞いているあなたに伝えたい、という「相手に伝わって欲しい」「わかって欲しい」という共感を求める姿勢が感じられることが多い。


一方、ASDの場合は、確かに好きなことを語りたい点は同じだが、「自分はこれをしゃべりたい」が顕著で相手の共感を求めずにしゃべり続けることが多い。


ADHDの子供も、ASDの子供も列に並べないが、ADHD児がじっとしていられなくて動きまわるのに対して、ASD児は関心がないという様子でふらふらっとその場から立ち去る。


もちろんどちらとも言えない子もいるが、そのような違いがあるので両者の日常トラブルは表面上類似していても本質が異なるという印象はある。


ADHDならば、アトモキセチン(商品名:ストラテラ)や、メチルフェニデート(商品名:コンサータ)といった薬がその衝動性や注意欠陥によく効くのに対して、ASDのADHD様行動には同じようには効かないという印象だ。


とはいえ岩波先生曰く効くこともあるから試して無意味というわけではない。


***


さて、実を言うとADHD者は問題として顕在化するとはいえ、社会的成功者の中に結構いる。歴史上燦然と輝く偉人たちの中でもモーツアルトエジソンアインシュタインなど枚挙にいとまがないし、戦国武将の織田信長、幕末の坂本龍馬などもきっとそう。


実際ADHDの人は落ち着きには欠けるものの、屈託がなく、社交性に富み、発想力豊かで、一緒にいて楽しい人がかなりいるから成功する要素を持っているのだ。


そんな成功したADHDと、残念ながら不適応になってしまっているADHDの間には一体どんな差があるのか?


岩波先生は、現在の社会構造、特に町中の自営業として成功することが昔のように容易でなく、サービス業主体となった現代で生きづらくなった、顕在化しやすくなったのでは?と述べていたが、確かに1つの要因と思う。忘れっぽくてぽかが多い人はサービス業には向かないだろう。研究者ならいいけど。


ただ、私がいつも思いだすのはこの図。


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NIHの研究者が発表した論文(Shawら、2007)からだが、ADHDの大脳皮質の厚さ(左は全脳、右は前頭葉のみ)は定型発達児に比べて薄いが、8歳から12歳辺りで急速に厚く、追いついていくという図だ。

動画で見るとこんな感じ。


www.youtube.com


右側の定型発達脳が10歳になる頃には発達してくる頃(色が濃くなっていく)。その頃まだADHD脳は完成には遠く、遅れて追いついていく。


そう、ADHD児の脳はこのような形で、発達が遅れた後に急速に追いついていく、そんな発達を遂げるらしい。


実際、この図をある小学校の校長先生に見せたところ、「あ、だから卒業する頃にすごく落ち着く子たちがいるんですね!」と。


成功したADHD者は、もしかしたらその大事な時期(8歳から12歳くらい?)に適切な対応、良い刺激を受けられることで、社会性が定型発達児に追いついていく基礎が出来た人たちかもしれない、と思う。


***


最後に岩波先生の著作を2冊紹介。
ADHDなら、

大人のADHD: もっとも身近な発達障害 (ちくま新書)

大人のADHD: もっとも身近な発達障害 (ちくま新書)


もう1冊はいささか怖い形で精神科の病気を紹介していくこれ。

心に狂いが生じるとき―精神科医の症例報告 (新潮文庫)

心に狂いが生じるとき―精神科医の症例報告 (新潮文庫)