読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

糖尿病とアルツハイマー型認知症

糖尿病はアルツハイマー認知症への大変強力なリスク因子になり得そうだというのは知っておいて良い。参考にするのは北九州は福岡県久山町の住民を対象にした大規模疫学調査久山町研究*1


アルツハイマー病と耐糖能異常:久山町認知症研究


f:id:neurophys11:20151219074320j:plain

これはそこから持ってきた図(一部改変)だが、脳血管性認知症アルツハイマー認知症において、耐糖能異常(ここでは簡単に糖尿病と考える)と、高血圧症の発症リスクへの影響を示している。数字は相対危険率なので、耐糖能異常も高血圧もない人に比べて、それぞれがある場合にどれくらい発症しやすくなるかを示している(単純に何倍というのはちょっと統計的には抵抗があるけど)。
さて、見てわかるだろうか、脳血管性認知症であれば、耐糖能異常があれば何もない場合に比べて4.2倍、高血圧なら4.1倍、そして両方なら5.6倍の危険率になるということで、わかりやすい。


一方、アルツハイマー認知症は、高血圧単独だとなんと0.9倍で危険率は何もない場合に比べて低くなり、耐糖能異常単独では逆に4.6倍、高血圧と合併すると2.3倍と下がる。つまり、耐糖能異常は単独でアルツハイマー認知症の危険因子であり、要は糖尿病予防がアルツハイマー認知症発症予防に繋がる可能性があるということだ。高血圧って良いの?という疑問はここでは逃げます…


さて、脳血管性認知症は、動脈硬化などで血管が細くなり、要するに脳に行く血管が細くなったり、完全に詰まるとその先に栄養が行かないことで発症する。だから、動脈硬化を起こす高血圧、糖尿病が危険因子になるのは両方納得ということ。書いたように、わかりやすい。


糖尿病はなぜアルツハイマー認知症になりやすいのか?
仮説ではあるけれど、それを考えるための前提知識は2つ。
①脳神経はブドウ糖(血糖)を唯一の栄養とする。
②糖尿病はインスリンによる細胞内に血糖(栄養源)を取り入れる(同化)作用ができなくなる*2


つまり、糖尿病になると神経が、栄養剤である血液中のブドウ糖を言ってみれば食べることができなくなりその結果として死んでいく。それは脳の萎縮が顕著に見られるアルツハイマー認知症の発症過程として一定の合理性を感じる。
ということであれば、糖尿病はやはり予防していくべきなのだ。


さて、糖尿病がインスリンの不足をもたらす病気であり、それが要因となってアルツハイマー認知症になるとするならば、ではインスリンそのものが抗認知症薬として働くのでは?という疑問が成り立つが、それは正しい。


インスリンアミノ酸が連なったポリペプチド(もっと繋がるとタンパク質という)であり、飲んでも腸管で分解されてしまう。だからコラーゲンなんかも飲んだって無駄だと思うんだけど… かといって皮下注射で補って、というには低血糖が怖い。なので、点鼻スプレーの活用となる。そう、実は鼻粘膜は脳に通じているので、鼻にスプレーして薬にするのだ。幾つかの研究では確かにアルツハイマー認知症に効果的のようだが…またいつか。



ところで、インスリンを最初に抽出したのはバンティングとベスト。バンティングはカナダの生理学者でこの功によりノーベル賞を受賞するが、研究者としては一発屋でその後は特筆すべき業績がなかった。ベストは優秀な院生でバンティングの助手を務めたが、ノーベル賞共同受賞はベストの指導教官で彼らに部屋を貸しただけのマクラウドという教授。バンティングはそのことに大いに怒り、ベストに賞金を分け与えたという。
大学時代私が生物の授業を受けた丸山工作先生はこの話題がいたくお好きで、本まで書いていた。マイナーすぎる著作だとは思うが…


新インスリン物語 (科学のとびら)

新インスリン物語 (科学のとびら)

*1:久山町研究とは(http://www.envmed.med.kyushu-u.ac.jp/about/) 久山町?とピンと来ないかもしれないが、九州は福岡市に隣接した人口約8000人の町。久山町研究は九州大学の研究チームが1961年に始めた、この町の40歳以上の全住民を対象とした大規模な健康調査、疫学研究である(医学生や研修医なら知っているかと思っていつも尋ねてみるが誰も知らないのはちょい寂しい)。この久山町、実は住民の年齢構成、職業構成、栄養状態が日本の平均とほぼ同じらしく、久山町を研究すれば日本の現状がわかる、ということになるのですごいのだ。

*2:医学生に糖尿病って何?と質問すると、「血糖が下がる病気」と答えて教師からダメ出しくらうのが毎年のパターンで微笑ましい。これはインスリンが血糖を下げるための物質だと誤解しているから。実はインスリンは細胞にブドウ糖やタンパク質を取り込ませる、要は栄養吸収促進剤なのだ。糖尿病とは、細胞がインスリンの抵抗性(https://ja.wikipedia.org/wiki/インスリン抵抗性)を示す病気であり、インスリンが効力を発しづらい病態になっている。なので、糖尿病になると痩せていくのである。