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ヒトはなぜワクチンを疑うのか? (1)

治療 疑似科学

インフルエンザワクチンの季節だ。精神科臨床医の私が言うのもなんだが、ワクチンは接種したほうがいい。少なくても公衆衛生的には効果が明らかだ。なのに、接種しないという人がいるのも事実。それも結構多い。なぜそうなるのか今日は少しだけ考えてみたい。


ワクチン嫌いな人は多分、以下が頭に浮かぶのではなかろうか。

  1. 副反応が強い。打ったら熱が出て具合が悪くなった。
  2. 効果が無い。接種したのに感染した。
  3. 他の病気を誘発する。例えば、脳炎、自閉症、麻痺。
  4. 病院や企業の大儲けの加担のためにワクチンを打つのは嫌。


1と2は気持ちとしてはわかる。ワクチンは予め感染可能性のある病原体を体内に入れることでその人の持つ免疫機能を強め、いざ本当にその病原体ウイルスないしは細菌に暴露された時にサッと攻撃に入れるよう準備状態を整える。ワクチンを打つ行為は擬似感染なのだ。そのためにワクチンでも免疫系が多少とも動いた結果として、発熱や倦怠感、発疹が出る可能性はある。また、一般的な薬と同様のアレルギー反応が生ずるリスクもある。


さらにワクチンが病気を防ぐと言っても、原則として、あなたに感染可能性のあるウイルスなり細菌なりの細かい種類まで当てないとしっかりした免疫を発揮しない。一般的な風邪ウイルスに対して、ワクチンを製造しないのはこのためである。基本的には症状が軽く、ワクチンを打つコストと比較すれば、罹ったほうがいいということだろう。


同じ理由でインフルエンザワクチンを打っても、インフルエンザには実は結構な種類があり、どれに対するワクチンなのか、が外れれば効果は無い。打ち損である。

インフルエンザウイルス - Wikipedia


効果が100%ではないし、「去年打ったのに罹った」目に遭えば今年は打ちたくないという気持ちにはなるだろう。先に述べた副反応と合わせて、打つ行為と不快感が結びつけば、打ちたくないのも当然だ。まぁそこを抑えて効果を期待するのが理性というものだろうけど。


さて、感染者を減らすインフルエンザワクチンが公衆衛生的に有益なのは疑いがない。実際、行政側としては、あなたが罹るかどうかは重要ではなく、東京都で、日本で、罹患する人数を減らして医療コストを下げて全体として国民の健康を保つこと、感染による社会の生産性損失を回避することが重要なのだ。平成23年の厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会、ワクチン評価に関する小委員会報告書(https://nk.jiho.jp/servlet/nk/release/pdf/1226504257307)を読むと、水痘(水疱瘡)、おたふく、ポリオなど様々なワクチンに関する医療経済的な評価が報告されており、例えば水痘ワクチンではこんな感じだ。


"医療経済的な評価については、2回接種として費用比較分析を行った場合、ワクチン接種にかかる費用よりも、ワクチン接種によって削減が見込まれる当該疾 病に係る医療費と、回避が見込まれる生産性損失等との合計の方が上回り、将来的にはワクチン接種により1年あたり約 362 億円の費用低減が期待できると推計された。"


医療経済的にワクチンを考えた時、一般的にワクチン接種にかかる諸費用(検診費など含む)が、患者本人やその家族の介護などによる生産性損失と介護費・交通費などの非保健医療費の額を下回る必要がある。*1

 興味ある人は⇛ワクチン接種の費用対効果推計法   
      (http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000yw9d-att/2r9852000000ywh7.pdf)


あなたにとってのインフルエンザワクチンはどうか。日本だけでなく、世界保健機関やアメリカ疾病予防管理センター(CDC)も強く接種を推奨しているのは、やはり感染機会を50-60%少なくしているからに他ならない。効果が高いということだ。*2



しかし、個人として考えるとどうだろう。あなたが感染するのは周りに感染者がいるからである。極言すれば、周りが沢山打ってくれれば、あなたや子供の感染確率は相当程度下がるので、打つ必要は無いという判断はそれなりに合理的である。そして、ワクチンの効果が100%では無く、感染可能性を50%程度減らすというのであれば、それはある意味ギャンプルだ。公衆衛生的に効果があるワクチンが、一個人であるあなたに効果を発揮してくれるかはわかりません。

でも少なくても私は打つけどね…感染確率を少しでも減らしてくれるのは有難いと思う。

ということで、ワクチン嫌いな理由1、2を持っている人にはその心情に十分了解可能なれど、打つことを勧めている。

困るのは、ワクチン嫌いの理由に3と4を上げられることだ。かく言う私自身も医学部で学ぶ前は、「インフルエンザワクチンを打つとライ熱という副作用がかなりな確率であるため、効果も100%ではないし、打つべきではない」という主張を信じていたクチであるし、ワクチンがこれだけ打たれるということはそれだけワクチン製造を請け負う製薬会社も、自費でワクチンを打つ病院も相当程度稼いでいることだろう、と考えるのも分からないではない。

3の何が困るのか、そして実は4は誤解であることは次回以降。

ちなみに私はワクチン製造の製薬会社からお金をもらっているわけでも、行政側の人間でもありませんです。

*1:じゃあ全てのワクチンが医療経済的に優れているか、といえばそうでもない。例えば上記リンク先報告書中のヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)ワクチンでは、将来的にはワクチン接種により1年あたり約238億円の費用超過と推計されるという。また、ポリオは国内ではもう発生事例が無く、そういう意味では日本だけで考えればワクチンは無駄といえるかもしれないが、海外では今も感染者がおり、グローバルな世界であることと、いざ感染した時の重篤度を考えればやはり継続すべきものだろう。ワクチン行政は1つのワクチンの効果だけで考えてはいないはずだ。

*2:時々「WHOはインフルエンザの予防効果が無いと書いている」と主張する文章を見かけるが、そういう人はWHOのサイトに直接行ってみよう。 Influenza (http://www.who.int/influenza/vaccines/en/) ついでにこの人のblog   ⇛ WHOはインフルエンザワクチン接種を推奨している(http://d.hatena.ne.jp/usausa1975/20150123/p1)