薬について

精神科というと、カウンセリングのイメージが強く、薬の処方に違和感を覚える人もいる。何か訴えに対して、薬を出してオシマイと考えているんじゃないかしらと疑念も抱くだろう。

それは当然だと思うし、ましてや薬が多くなることに対して、不安や拒絶感を持つこと自体はむしろ健全な気持ちと言える。

 

でも薬は精神科治療においてあった方が絶対いい。その理由を解説したい。

端的に言えば、以下の3つを知っておけば精神科診療における薬物療法の立ち位置がわかると思う。

 

  • 薬は治療に必要であることが多い
  • 一方で万能ではなく、必要性に差がある。
  • 適切に使うことで役立つ

 

 薬というのは言うまでもなく、本来身体には無い異物だが、ではどんな時に必要になるのかといえば、精神科に関係なく以下かなと思う。

 

1. 薬がその病気に対する特効的な作用を持っていて、飲めば治る。

2. 他に有効な手立てが現代の医学では無い、もしくは少ないが、飲むことで効果が期待できる。

3. 他にも有効な手立てがあるが、薬のほうが時間やコスト(費用)を考えると有利である。

4. 他の手立てが第一選択。でも薬も効くので、状況次第で用いる。

5. 飲まなくてもいいが、飲むと楽になる。症状を和らげるのに有効。

 

 

精神科の病気を中心に考えてみる。

 

  

1. 薬がその病気に対する特効的な作用を持っていて、飲めば治る。 

これに当たるのは、感染症による精神疾患だ。例えば精神科領域の病気で最初に特効薬が生まれたのは、梅毒だった。治療が早いことが前提にはなるがヘルペス脳炎などもこのカテゴリーに入る。身体の病気で言えば、やはり各種の感染症はここに入るだろう。

 

統合失調症躁うつ病はどうだろう?

いずれも、薬が特効的に働く場合はあるが、症状が完全に消失しても、薬が不要になることは殆ど無いことを考えると、1のカテゴリーにはあてはまらない。

  

2. 他に有効な手立てが現代の医学では無い、もしくは少ないが、飲むことで効果が期待できる。

 例えばアルツハイマー認知症。現代の医学では残念ながら治療的手段が欠けるが、ドネペジル(商品名アリセプト)を始めとするいくつかの薬が出現して、初期であれば進行をゆっくりとさせることが出来るようになった。身体の病気では一部の癌、1型糖尿病(注射)、関節リウマチなどの膠原病。頻度の多い疾患では片頭痛逆流性食道炎など。

 

3. 他にも有効な手立てがあるが、薬のほうが時間やコスト(費用)を考えると有利である。

統合失調症躁うつ病、(中等度〜重度の)うつ病はここに入ると考える。いずれも、場合によっては電気けいれん療法や、新しい磁気治療などが用いられることもあるが、薬で症状を鎮めることを第一選択とする。進行した生活習慣病はここに入ってきそうだ。

 

 

4. 他の手立てが第一選択。でも薬も効くので、状況次第で用いる。

軽度のうつ病パニック障害強迫性障害などが当てはまる。いずれも現在では認知行動療法を受けることが時間的にもコスト的にも可能であれば推奨されている。一方で、薬の有効性もあるため、どちらを選択するかは状況次第な面がある。コスト、時間。認知行動療法を受けるには時間も金もそれなりに必要となる。自分でできないことも無いが。

 

多くの睡眠障害(不眠症)もこのカテゴリー。身体の方では、生活習慣病は本来はこのカテゴリー。高血圧、高脂血症、糖尿病(2型)などは文字通り生活習慣を変えることが第一選択。

 

 

5. 飲まなくてもいいが、飲むと楽になる。症状を和らげるのに有効。

 ストレスによって生じる適応障害はあてはまりそう。原因となるストレスが明確であり、それを除くことが症状の消失には必要だが、薬を使うことで、本質的ではないものの、助けにはなることもある。とりわけ急に襲ってきた不安感や焦燥感などを和らげるのには頓服薬が大いに役立つ。風邪はまさにここであり、他にストレスからくる頭痛や腹痛などもそうだろう。

 

薬は病気からの自己治癒力を支える杖のようなもの、と考えるといい。杖だから本質的治療といえない。でも上手く使えば自立できる。病気によっては外せるし、場合によってはずっと必要なこともあるだろう。

 

良い薬物療法、悪い薬物療法といった観点からは後日。