気になる発達障害の話題(1)_感覚過敏

今年1回目が遅くなってしまいました。このblogをご覧になっている方には申し訳ないです。風邪を引いていましたが、インフルではありません。


ちなみに風邪を引いて大切なのはやはり休息でしょう。風邪薬は残念ながら本質的ではないので...とはいえ症状緩和にしょうがなく使うわけですが。


dneuroは外来で滅多に出しませんが、医者がよく出す、そして患者さんの求めるPL顆粒は眠気が強いので危険なこともあります。


医師3年目の若いときの話です。外来に出るためPL飲んで家を出て、高速で車を走らせていたところ、気づいたら降りるべきインターをとっくに過ぎていたということがあります。距離を考えて10分位の記憶が無いのです。逆行性健忘を高速道路で経験したという。幸い死んでいませんでした(笑)。動作は上手くやっていたのでしょうが、物凄く怖かったのでそれ以来PL飲んでいないのです。気をつけましょう。


さて、気になる発達障害の話題について。まずは感覚過敏。


感覚過敏


発達障害を生きる

発達障害を生きる


感覚過敏、は発達障害、特にASDを語る上では重要です。特に最近は注目されており、NHKのこの本でも真っ先に取り上げられていますね。


ASDの社会不適応を考えると、コミュニケーションの問題やこだわり、新奇性への不安などが問題に挙げられますが、感覚過敏については多くの当事者が抱えているものの、これまで重要視されてきたとは言い難い状況でした。


光や音、肌への接触、嗅覚そして味覚、などの中から特定の外部刺激に対して過度に敏感ないしはときに鈍感であることは多いですし、DSM-5では診断基準でも言及されるようになっています。


例えばある患者さんは、光に対して過敏があり、普段1人で部屋にいる際には常にカーテンを締め切り、照明も落としてほぼ真っ暗にすると。ですから外に出る時はサングラスをかけているわけですが、「診察室の照明も辛い?」と聞くと「辛いです」。そうですよね。その次の診察からは照明を落として話を聞くことにしました。その方は就職して遠方に引っ越されましたが、就職先で職場の照明は大丈夫でしょうか...。室内照明も難しい彼女にとって昼間の社会はその存在自体が暴力的と言ってもいいのでは...。


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給食は辛いよ


また、子供と接していて思うのは、食べ物への過敏さ。正確には食感への過敏さというべきか。同じ食べ物、例えば玉ねぎは、サラダにしたとき、焼いたとき、シチューの中に入れたとき、などなど調理によってあるときは固かったり、しんなりしていたり、と食感が多様です。ASDの子で味覚に対する過敏があると、固い時は食べられても、柔らかいと気持ち悪くて食べられない...そんな感じになります。


ですから、給食はかなり地獄に近いと言えるでしょう。もちろん全員ではなく、逆に無頓着な子もいますが、過敏な子にとって、給食は大変辛い時間です。何がどのように調理して出てくるかの情報に乏しく、未経験な調理方法、それで不安な条件は十分なのに、更に担任教師からのプレッシャー。



「全部食べろ」は、味覚過敏のある子にとってとても辛いことを指導立場にある人はわかってほしい。「慣れる」ことは少なくても学校生活中には無理だと思うべきですよ。率直に言えば、全てきれいに食べるという美徳のために食べられないものを無理やり食べろというのは暴力に等しい、のです。将来が心配、という大人の皆様、大丈夫、圧倒的に多くの人は大人になるまでに食べられるものも増えます。大体あなたにも1つや2つ苦手なものあるでしょう?*1



びっくり反射とASD


音、に対する過敏もよく訴えられるところで、教室内の通常レベルのざわめきがとんでもない騒音に聞こえたりするのですよ。そういった音に対する過敏さへの研究論文もあり、例えば国立精神神経センターのf:id:neurophys11:20190130105243p:plain:w300:right高橋先生らの研究ではASDの方は、そうでない(定型発達者:TD)人が余りびっくりしないような音の大きさ(65デシベル)でもびっくり反射(驚愕反射:目がかっと開く)が出てきてしまうと。普通の会話レベルや静かな自動車の中が60デシベル、ちょっと騒々しい事務所や、やかんの沸騰音を1m離れて聞くと70デシベル、というから、確かに65デシベル程度の音でそんなに驚いてしまうと外で活動するのが難しい。



感覚過敏があればASDか?


さて、疑問の1つはこれかなと。

答えから言うと、それは明らかにイコールではないですね。

つまりASDの多くの方が感覚過敏を持っていますが、感覚過敏があればASDという逆は言えないということ。もしそうであれば、誰しも持っているような過敏さが1つでもあればASDになってしまう。例えば、黒板に爪を立てて発せられるあの音や、スプーンやフォークで鉄の皿を引きずったときの音、特定の嫌いな匂いなどそんなものは誰にでも探せば見つかるもので、明らかに感覚過敏とASDはイコールじゃない。


それに、まだ確立した病態概念とは言えませんが、世間的にはHSP(Hyper Sensitive Person:過度に敏感な人)という言い回しが出てきているようです。


ひとまずWIkipediaから。
ハイリー・センシティブ・パーソン - Wikipedia



ただし、何やら共感性の高さ、みたいな気持ちの繊細さなどにも踏み込んでいるようで、若干私には違和感があります。だって、他者への共感性を示さない(示せない)サイコパス的な人だって、感覚過敏は持ち得て良いでしょ?なんだか感覚過敏がある人は人への優しさも持ち合わせている、みたいな理解は本質を外れるかと。


専門用語としてもやはり医学的な観点からはまだしっかりした用語が無くて、Sensory Processing disorderだったり、Sensory Processing Sensitivity みたいな語が使われています。前者は感覚処理症、後者は感覚処理感受性なんて訳になりますかね。



感覚過敏の基準


そんなわけで、どれくらいの感覚過敏があると、「過敏」と言えるのか、やはり基準が必要なわけです。


dneuroも実はやったことがないのですが、一応そういった基準を設定している検査はあります。


SP感覚プロファイル | サクセス・ベル株式会社 -心理検査・学力検査・適性検査・箱庭療法・コミュニケーションツール等の販売-



感覚プロファイル(Sensory Profile)検査というやつで、125項目の多岐にわたる質問に答えていく検査なので多少時間はかかりますが、以下の項目を判断していきます。


それは、低登録・感覚探求・感覚過敏・感覚回避、という4項目。低登録と感覚探求は感覚刺激に対する低い反応と特定の感覚刺激への希求性、感覚過敏と感覚回避は刺激に対する過敏さと、それに伴い行動を回避する性向をみます。


こんなふうに書いてますが、実際に使ったことはないので、いずれまた詳しく取り上げたいかな。


自閉症だったわたしへ (新潮文庫)

自閉症だったわたしへ (新潮文庫)

有名な自閉症(自閉スペクトラム症)当事者のドナさんの本ですね。
これをきっかけに自閉なるものを知った人も多いはず。dneuroは研修医3年目の時に読みました。ただ、例えば口絵の自分の写真に「典型的な自閉症の目つき」とかあるんですが、正直よくわかりませんでした。また自分の内面をとても豊かに描いていて、当時の自分はそこに、あれ?こんなに感情的に豊かだったら自閉じゃないんじゃないかという無知による偏見があったなあと。

さて、ドナさんはハグのように身体を接触されることがとても嫌だったようです。日本だって、親はこどもを抱きしめるし、まして挨拶でハグが普通の欧米社会でクラスには、触れられることへの過敏さがあると生きづらいだろうと想像します。



発達障害グレーゾーン (扶桑社新書)

発達障害グレーゾーン (扶桑社新書)


自閉症スペクトラムADHDといった確固とした診断名はつかないけど、発達障害的特性を持っていることが生きづらさにつながっている、という状態にあるのが「発達障害グレーゾーン」の人たち。


グレーゾーン、というのが、まあ医者の診断基準(個々の医師の、という意味で)が曖昧にしかならない現状がそのような存在を作り出している気がしないでもないのですが、ASDという概念もまたスペクトラムであるし、当然境界に存在する人が出てきますよね。


そういう方々に、HSPというのがもし1個の病気として存在すると医学的に承認されるのであれば、治療対象となり、配慮を求められたりすることで生きやすい条件が増えることにつながるでしょうかね。


グレーゾーンについては思うところもあるので、またそのうちに。

*1:ちなみにdneuroも給食はとても苦手でした。今から思えば食わず嫌いですが、食べられないものが多く、給食の予定を見て、ハヤシライスの日はとても気が重かったのを覚えています。今では好きですけど、そして食べられないものが今は殆ど無いのです。あの当時無理やり食べさせられていたらトラウマになったでしょう。残させてくれた担任に感謝。それにしても今から考えたら美味しい給食だったんですよ。作ってくれたおばさまたちには申し訳ないです。

tDCSでワーキングメモリ向上&ディスレクシアの改善

発達特性研究所の研究紹介です。


tridc.co.jp


この研究は私が学生さんと一緒にやったものです。


tDCS(経頭蓋磁気刺激)法は何度か紹介していますが、それを使って、ワーキングメモリ(作業記憶)を向上させたという。


以前から注目されているワーキングメモリ。
基本的には課題をやっている間保っている短い記憶能力を指すことが多く、日常的には例えば電話番号をかける間だけ覚えておく、とか。何か文章を読んでいる間も、最初に出てきた単語なり、内容なりを頭に置きながら続きを読んでいきますので、能力が弱いと本を読んで知識を得る、というのも難しいかもしれません。


このワーキングメモリの能力を、3-backテストというもので計測し、視覚的にこの課題をやったときの成績がtDCSによって向上した、というのが結果です。

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3-back課題


このテスト、n-back課題(nは数字)というやつで、ワーキングメモリを計測する課題として使われますが、案外難しい。今見えている文字がnに入る数字より前と同じかどうか、を答えていきます。


だから、1-backなら1つ前と同じ文字かどうかを判定する。これは簡単ですね。次に、2-backなら2つ前。これもなんとかやれますが、それなりに難しくなります。そして、3-backは3つ前と同じかどうかを判定。これは難しい。やってみると正直合っているかさっぱりわからなくなります。でも、そんな3-back課題を、視覚的提示(図のように文字を見せて判定)と聴覚的提示(文字の読み上げで判定)の2通りで試験して、tDCSが成績向上させるか、という研究でした。


一応ね、文字を見て(視覚的提示)の条件では成績が上がったんですけど、問題は成績向上が本人にさっぱり実感できないこと。それに被検者さんが実はそれなりに優秀な学生さんが多かったので、能力向上があったとしても頭打ちが早い。


tDCSが実用になるには、今後はそもそもこういった課題で成績が思わしくない、疾患状態の方にやって能力向上が図れるかという臨床試験が必要なのは明らかですね。



tridc.co.jp


で、こちらは実用版です。


ブラジルの研究ですが、ディスレクシア(発達性読み書き障害)の成人および児童に対してtDCSを行ったところ、読字に関連する項目のパフォーマンスが向上した、という。

30分のtDCSで、ディスレクシアの人に読み課題をしてもらうと、無意味語(「たあせの」「せんむせ」など単語になっていない文字列)や単文の読み上げ時間に短縮が見られた(=読みやすくなった)ようです。実際に効果が本人にも実感できたら素晴らしいですね(そこは論文からはわからない)。


ディスレクシアに関しては、治療、というよりは読みやすくするための対応を必要とし、それによって能力を上げていったり、代替手段(耳を通して内容を聞く)によって必要な内容理解を図っていく方針がとられますよね。


でも一方で、本当の意味での能力、というか脳力向上を図ることはなかなか難しい。ハンデを少しでも軽くすることは目指せても、ハンデを無くして非ディスレクシア者と同じだけの能力には追いつけないのは残念ながら確かだと思います。


tDCSが大脳皮質の力を上げていくのであれば、少しでも能力向上の目的にかなった、「治療」としての使い方ができると思うのですが...。



www.crn.or.jp



関連、というわけではないですが、面白い研究結果の内容紹介がありました。


3〜5歳の子たちで、無意味語の反復能力と語彙数の向上が必ずしも年齢とともに上がるわけじゃないという。
最後の方で、外国語の習得に関しての考察をしています。


考えてみると、外国語というのは最初無意味語として入ってくるわけで、そのリピートが正確にできる反復能力は母国語語彙数の向上とともに阻害されてしまうと理解しましたが、確かに母国語は足かせになるなあと。


なるほど、3歳位に外国語のシャワーを浴びておくと、バイリンガルになりやすそう、というのに加えて、5歳くらいまではまだ正確な反復能力の維持ができているのかなと。つまり、英語とのバイリンガルになりたければ5歳(もしかしたらもう少し後くらいまで?)には始めておくといいのじゃないか、と思ったりします。


小学生から英語を始めるのが真のバイリンガルになれるぎりぎりなんでしょうねえ。*1


特異的発達障害診断・治療のための実践ガイドライン―わかりやすい診断手順と支援の実際

特異的発達障害診断・治療のための実践ガイドライン―わかりやすい診断手順と支援の実際

現状、医学的視点から学習障害を勉強したい、診断したいと思うとこの本しか無いかと。
例えば、ディスレクシアや算数障害を診断するにはどうするか。
やはりテストをして判定しなくてはいけないわけです。本書にはそのテストが載っていて、結果を小学校1〜6年生までの平均±標準偏差の値と比較できるので、眼の前の人がどの程度のハンデを抱えているかわかりやすい。


その上で、学習障害の支援にどのような発想の上に何をしているのか、支援に積極的な3施設(大阪市立大、鳥取大、東京学芸大)の方法論が概観できるので有り難い。


願わくば英語のディスレクシアに関して同様の本が出ることを。*2


学習障害を支援する (こころの科学)

学習障害を支援する (こころの科学)

最近の現状と、取られている対策について知りたければ「こころの科学」の本特集号が良いと思う。

合理的配慮についてのICTの利用についても言及。

他に実際の対策、トレーニングの参考としては


ディスレクシア 発達性読み書き障害 トレーニング・ブック

ディスレクシア 発達性読み書き障害 トレーニング・ブック

などかな。これから私も勉強します。

読めなくても、書けなくても、勉強したい―ディスレクシアのオレなりの読み書き

読めなくても、書けなくても、勉強したい―ディスレクシアのオレなりの読み書き


こちらは当事者本。
著者は、読み書き障害の困難があるので、学校時代大変な苦労とそれでも得意な大工業を活かして起業したり、でも失敗したりと波乱の様子が描かれる。緊迫感があって読み物としても面白いです。現在は小学校教師の奥様と暮らして幸せな様子。


褒められること、理解してもらえることがどれだけ大事か、というのがよく分かります。最後、基本的に教師に対する信頼も無い中で信頼できた2人の先生と話せたくだりはほんとに良かったねと思うのです。


それにしても、ディスレクシアがあると、それ以外の能力があっても如何に「できない」「しょうがない」「なまけもの」と思われやすいかということがよくわかります。実際、どんな学習も、「読める」ことが前提になっているわけで、読めて初めて学習できることが殆どな上に、「書けなければ」評価してもらえるさえ出来ない。いざ自分なり、子どもなりが同じ状況になったと思うとき、救済手段の少なさに驚くのです。


医者としては、能力向上の手段がやはり欲しいなと。

*1:ま、そうは言ってもごく一部の人は結構後からでもバイリンガルになっていそうですが。dneuroの尊敬する老神経科学者は、小学3年位から戦後の進駐軍の兵士たちと接することで英語の脳が出来、バイリンガル脳であることがfMRIで示されてますしね。

*2:英語が小学生から授業に入ったのは、圧倒的多数の子にとっては望ましいことである反面、英語のディスレクシアの子にとっては悪夢と言っていいことではないかと。選択制でも良いんじゃない?とは思うんですが。

インパクトファクターってなにさ?

非研究者の同僚から「インパクトファクターって何?」と聞かれたことがあります。

終わってしばらく経ってしまったけど、同僚が見たのは二宮和也くんのブラックペアン。

www.tbs.co.jp

そう、ドラマでは佐伯教授と西崎教授がインパクトファクターを争っていましたね。

論文掲載を争っていたのは「日本外科ジャーナル」。えーとまあここに関しては...


和雑誌なんてインパクトファクターがとても低いので、その掲載を争うか?
争うなら海外一流誌への最初の投稿でしょう?
両教授の持っているインパクトファクター(70点台)が低すぎるよ?


とツッコミどころが多いのですが,それは置いておきましょう。


blog.livedoor.jp


ところでインパクトファクターとはなんぞやと


さくっと言っていまうと、論文の価値の指標であり、インパクトファクター(Impact Factor:略してIF)が高い雑誌=一流誌とみなされることが多いのです。


で、掲載している論文が過去2年どのくらい引用されたかを示す指標です。


例えば、ある雑誌Aジャーナルの2017年のIFの計算は、


(2015年と2016年に掲載されたAジャーナル掲載論文の、2017年の総引用回数)➗( 2015年と2016年にAジャーナルに掲載された引用可能な総論文数)


となります。
優れた論文は他の論文にも根拠として引用されていくので、引用される論文が多く載っているほど良い雑誌、というわけです。

そして、このIFが高い雑誌に載ることが一流研究者の証ともみなされるのですよ。


例えば皆さんご存知のNatureやScienceですが、最新の2017年のIFを調べるとNatureが41.577、Scienceが41.052。
これはとっても高いIFです。dneuroがこの前学生さんと一緒に書いた論文はNeuroscience Letter誌に掲載されましたが、同誌のIFは2.159。
Natureのざっくり20分の1ですよ。IF稼ぐとしたら効率が悪い.


研究者はそのレベルが、自分の名前の掲載された雑誌のIFの総数で判断されたりしますが、NatureやScienceに一本でも載せることができたら、ちまちまIFの低い雑誌に何本も論文を掲載することよりも一気にIFを稼ぎ出すことができるのです。


図は、dneuroの精神科分野におけるIFインパクトの私的感覚です。雑誌に掲載されたときのIFに応じての気持ちも書いておきました。目安ですけどね。




インパクトファクターは絶対の指標か?


例えば、医学部の教授選では候補者のIFの高低が選考の指標になったりしています。実際他分野の人間にとってはどの雑誌に載ったのか、とか論文タイトルとその内容から、論文の質を判断するのはとても難しいというか事実上不可能なので、IFってわかりやすいんです。


でも、このインパクトファクター、その多さのみで研究者としての価値が測られると実は危険です。


IFの弱点とはなんでしょう?

雑誌にとっては、
・研究者人口がいない分野では高くならない(優秀な論文でも引用回数が少ない)
・創刊間もない雑誌では不利(まだ引用数少ない。逆に今IFが低い雑誌でも成長していくことがある)
・雑誌側はIF上げたければ自雑誌掲載の論文引用を著者に促したり、掲載論文数を少なくしておくことで一定の操作が可能
・IF上げたくても、掲載論文数が多ければ、個々の論文の引用回数が減るので、上がりづらい


1つ1つの論文としては
・論文の質は担保されない(単にIFが高い雑誌に載っただけ)
・IF高い雑誌に載っても間違いはある(小保方論文とか)
・業界では信用があったり、意義が認められてたりで価値が高いのにIF低いので他分野や非専門家に価値をわかってもらえない


などでしょうかね。


要はIF高い雑誌だから価値が高いとか、論文の質が良いと判断するのは早計ってことです。


医学系では、例えば循環器(心臓)分野にはIF高い雑誌が沢山ありますが、研究者数が少ない寄生虫学とか、論文が専門的過ぎて引用しづらい放射線科などではそもそもIF高い雑誌が少ない、ということにもなります。渡海くんの外科手術の分野もそんなに高くはありません。手術の技術的論文を読む人は限られているからね。


研究者的にはIFが高いことだけ狙ってもしょうがないことは自明の理であって、IFが低い雑誌でも載せた論文は高度に専門的で、自慢できる論文があったりするのですが、それでもIF高いに越したことはないよな、とジレンマに悩むわけですよ。



インパクトファクターの調べ方


さてさて、そんな研究者の気持ちを揺さぶるインパクトファクターを調べたいときにはこちらをどうぞ。


www.bioxbio.com


気になる研究の載った雑誌名(英語)を入力すればOK。
結果に関しての注意は書いた通り。


でもやっぱインパクトファクター高いと嬉しいんだよな...という正直な感想を言うのはちょっと恥ずかしい。


IF以外の指標はないの?


色々書いた通りIFで研究者や論文を評価するのはマズイと誰もがわかっているので、他にも考案されてます。詳しくはこちらなんか。


www.editage.jp


でもね、中々普及しないんですよね。インパクトファクターほどのインパクトが名称にないし、分かりづらいんだろうなと。


ちなみに、研究者自身の評価を探る指標としては、


h-index

h指数について_wikipedia


なんてのもあります。


研究者のSNS、Research Gateで調べると、どうやらdneuroは19です。


これは、19回以上引用された論文が19本はある、ということらしいです。20回以上引用された論文は19本未満、と。


どうなんだろう、少しは誇っていいのか、大したことないって思われるのか、全然だめなのか、さっぱりわからない。


まあ人の客観評価なんてそもそも難しいのです。
世の中には、強烈に頭が良くて、みんなから尊敬されているけど、自分の論文はさっぱり発表しない研究者もいるのですから...。


最後に研究者のSNS、Research Gateはこちらから。知っている有名研究者を探してもいいかもしれません。



www.researchgate.net





研究室で生きている方法が書かれているようだ。
レビュー見ると役に立つようだから、研究室にこれから入る学生さんや院生さんは参考にして良いかも。

私にとてはこちらのほうが馴染みがあるけど。




dneuroはこの手の本は読んだこと無いけど、きっとアクセプトされるコツが書いてあるはず。
指南本は読めばコツがわかって先に進みやすい気もするし、一方で、読んだ内容に縛られてしまわないかな、とも思ったり。




前にも紹介しましたが、これは読んでてドキドキすること間違いなし。ヤン・ヘンドリック・シェーンというドイツの若者がScienceを筆頭に次々と材料工学系の論文を捏造投稿し、一躍ヒーローになっていたことがあるのですよ。NHKスペシャルを見たとき、彼の嘘がバレていく過程が、不謹慎ながら強烈に面白かったのですが、何故彼がそこまでしたのか、は結局わからず。

慢性疼痛、恋愛、眠気とADHD

発達特性研究所の方で論文紹介をしています。

今回は3つです。ADHDと慢性疼痛、恋愛、そして眠気の話題。



tridc.co.jp

慢性疼痛で学校に通えなくなってしまった6歳女の子です。慢性疼痛は色々検査しても、疼痛の原因がはっきりと同定されず、でも生活にその疼痛が大きく影響しているときにつく病名ですが、なかなか治療に難渋します。
そりゃそうですよね、「痛い」のは本当なのに、原因がない、とか心理的な原因だと言われちゃうので...特に心理的と言われても、言われた当人は「じゃあどうすりゃいいのよ」と思うわけです。

tounyou-itami.jp


紹介している論文では、その子にADHD特性があることに気づき、コンサータや療育的対応をしていく過程で慢性疼痛が和らいだ症例を紹介しています。
良い視点を提供しているように感じます。実際同じような子を経験したこともあります。


心理的療法と言っても、直接痛みに対するアプローチでないことが奏効する一例でもあるかなと。



tridc.co.jp


ADHDの恋愛事情,カナダ編です。なかなかこういう視点からの論文は少ないので、面白く読めました。


よくADHDでは、男女関係が活発で乱れがち、みたいなことが書かれているし、実際特性を考えれば当てはまりそうですが、私の外来では余り感じたことがありません。むしろ奥手で、男女経験がない人も多い...ただ、それは外来に来る人達は、何かしら小さいときに心の傷を負ったり、劣等感を持つ経験をしていて、自信がないから、というのも大きいかもしれません。能力のあるADHDで成功している方の場合には、活発な(ちと羨ましい)恋愛体験を繰り返している可能性はあるかと。


カナダのADHDの若者は、活発なようです。
暴力性とは無関係だったという結果にはほっとします。



tridc.co.jp


外来をやっていると、ADHDの方が強く日中の眠気を訴えることが多いのです。特に中学生以降くらいから目立つのですが、その実感に合う臨床研究の紹介になっています。


なんで眠気が強いのか、というと、それはちょっとわからない。
体内時計が破綻しているとしても、それはさらに理由の説明が欲しい。


というわけで、メカニズムには踏み込んでいませんが、事実としてADHDは過眠になりやすいのでしょう。


薬を内服し始めると、日中の眠気が無くなって有り難いという方、多いです。


コンサータは、覚醒作用がダイレクトにあるので、それはわかりやすいのですが、ストラテラでもそういう方多いです。副作用に眠気がありますが、眠りを深くし、朝の目覚めがすっきりするのかもしれません。ただこれは単にdneuroの私見であり、エビデンスが欲しいところ。


ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に働くための本

ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に働くための本

日常、特に仕事に役立つヒントが欲しいという方については、最近この本を勧めています。
先延ばし、段取り、ケアレスミス、忘れ物...などありがちなことに対して、極めて具体的に対策を載せています。


メモがいい、って言ってもただメモを取ろうだけじゃわかんないよね...。


発達障害の自分の育て方

発達障害の自分の育て方

当事者本として有名ではないかと。Kindle unlimited使っている人ならサービス範囲内で読めます。

dneuro的にはこの著者さんの主張で、単に向いていることを仕事にしてもつまらない、自分が好きで熱意を持てるものにしないと続けられない、という内容にとても共感しました(正確でなかったらスミマセン)。


著者さんは今データ解析が仕事で、特性だけを考えるなら、不注意が強く、見落としがしょっちゅう起きたりしたら大変なわけですよ。


支援サイドは、どうしても、まず向いていない(だろう)ものを排除しようとしますが、本人の志向があるならば、どう実現できるかをまずは考えたいところですね。もっとも能力的に本当に難しく、諦めざるを得ないということもあるので、そこは冷静な視点が必要でしょうが。

がん免疫療法について (2) 〜免疫療法への模索

さて、話題のオプジーボはがんに対する免疫療法と言われます。


だけど、正確には、オプジーボそのものが免疫細胞を強化したりするわけじゃなくて、がん細胞が適切な免疫細胞(Tリンパ球)に発見されるお手伝いをしているのですよ。



免疫療法の落とし穴


率直に言って、がんの免疫療法は、理想的治療法です。
なぜなら、がんをやっつけてくれる材料である免疫細胞は自分の持っているものであり、かつ、認識したがん細胞だけを(特異的に)攻撃してくれるからです。
当然ながら、じゃあどうすればがんを攻撃する免疫細胞を身体に作ってもらえるか、というのがテーマになってきたわけで。


とりあえず免疫力を高める、がん細胞をやっつける免疫細胞だけを増やす薬を入れる、特定の免疫細胞を患者血液から抽出してがん細胞を攻撃するように育ててから身体に戻す、などなど。
そのあたりの歴史はオプジーボ小野薬品工業のホームページを。

www.ono-oncology.jp


で、色々されたんですけど、なかなか効果が安定しなかったのです。特に、次のような免疫療法が期待されつつもはっきりした効果を上げていませんでした。

・がん細胞をやっつけるナチュラルキラー細胞(NK細胞)やナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)を何らかの手法で強化した上で体に戻す。
・免疫細胞に細胞の種類を提示する樹状細胞に、目的のがんのシグナルを提示させて、がん細胞を攻撃するリンパ球を増やそうとする樹状細胞ワクチン。


どちらも、理論的にはいいのですよ。


でもね、結果の伴う免疫療法が学会やきちんとした医学誌にほとんど報告されてこなかったんですよ。確かに一部の患者さんには効いたのか?と思える報告は散見されても、少なくても多くの人に確実に施行できるものではなくて。


なのに、末期がん、医者に見放されたがんに対してそういった治療をしますよ〜というクリニックは乱立してます。法外な費用をとって施行し、そして結局効果なく亡くなる方、ということが日々起こっているはずです。末期がんを抱えた本人や家族は、少しでものぞみのあるものにすがりたくなるのも当然で、そういったクリニックは一縷の望みに期待する人から効果の無いものを提供し、さも効果があるようにお金をむしり取るので悪徳以外の何者であもありません。


そのことは今年6月にもNHKで報道されましたし、私も以前言及させてもらいました。

www.nhk.or.jp

neurophys11.hatenablog.com


思い出します。学生時代に(もう20年前!)そういった手法を聞いたり、すでにそれをやっているとの放送がNHKであったりして、おお!と思って興奮しました。


そう、そのNHKの番組は、1995年に免疫細胞(Tリンパ球)を漢方薬で強化して患者さんに戻すATK療法なるものを提唱された京大の内田温士教授の研究でした。著書も読んだのですが(現在絶版)、効いたという報告が並んではいるものの、きちんとした臨床試験を経て確立したものとは到底思えず、どう考えても、免疫細胞への活性化手段は単なる思いつきにしか受け取れないため、がっかりしたのを覚えています。*1


そんなわけで、今回は警告番組を作ってくれたNHKですが、1995年の番組で言ってみれば免疫療法へのお墨付きを与えてしまったのではと思えて、結構罪深いと感じてしまいます。


オプジーボは初めての正しい免疫療法


さてさて、悪徳免疫療法と一線を画し、本物であるのがオプジーボなわけですよ。初めに聞いたときにその適応であった悪性黒色腫への効果に目を見張ったのを覚えてます…。

*1:じゃあ内田先生が出鱈目な研究をされていたのかというと、科学研究費のデータベースで申請のために出した研究計画や報告書を読むとそんなことは無さそうなので、今一歩あのようなことを提唱された動機がわからないのですが...。

がん免疫療法について (1) 〜祝ノーベル賞! オプジーボの効果

dneuroは精神科医神経科学者なので、がん、はほぼあらゆる面において専門外なのですが、気になる記事があったので、ちょっと書いてみたのが今日の話題、今をときめくノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑氏がメカニズムを発見し、応用された結果の薬、オプジーボです。一般名はニボルマブ(Nivolumab)。


さて気になった記事はこれ。

www3.nhk.or.jp

そう、オプジーボを私にも使ってくれという電話が殺到しているとの内容。
記事報道ではきちんと、効果には限界もあれば副作用もあり、現在の適応が書かれているからちゃんと読めばそういう人にもわかってもらえると思うけれど、なぜ効果が限定されるのか、副作用はなんなのか、には少し解説がいるのでは...と思います。

専門外とは言え、「がん免疫療法」は医学を学べば誰もが理想、と考えつつ、そして沢山の人が試しては敗北してきた歴史を鑑みて、理論は実践に追いつかないなと敗北感濃厚な分野だったことを思います。そこに指した光明がオブジーボだったわけですが、まだまだ理想的な薬とは言えないのです。


とりあえずオプジーボが効果を発揮するメカニズム


例えばWikiニボルマブ - Wikipediaを見るとこんな解説です。

癌細胞は細胞表面にPD-L1を発現しており、免疫細胞であるT細胞のPD-1と結合して免疫細胞の攻撃を免れている。ニボルマブは、癌が免疫から逃れるためのチェックポイント・シグナルPD-1を抑制することにより、リンパ球による癌への攻撃を促進する。抗がん剤の多くは、核酸代謝や蛋白合成、細胞シグナルを阻害することにより作用する。ところが、ニボルマブは、がん免疫を活性化するという独特な作用を持つ。

免疫細胞とか、チェックポイントとか出てきますが、前提知識が無いと分かりづらい気がします。

ということで、作用機序を理解するための前提知識はまず2つ


1.身体には異物を排除する免疫という仕組みがある。
2.がん細胞は正常細胞に比べて「異物」であるため、免疫細胞には排除(攻撃して死滅)させる一群(Tリンパ球)がある。


です。なので、がん細胞を攻撃するTリンパ球と、その攻撃から身を守ろうとするがん細胞のせめぎ合いがあり、がん細胞のほうが何らかの形で優勢になると終わりの無い増殖が始まるわけです。


で、Tリンパ球は身体中を巡って、がん細胞を探しますが、がん細胞に特有の目印が出ているのを手がかりにします。一方がん細胞は、見つかって敵認定されたくないので、「敵じゃないよ〜」という目印を出しています。それが免疫チェックポイントシグナルと呼ばれる分子で、がん細胞の表面に出ており、今回はその分子がPD-L1と呼ばれています。これを認識したTリンパ球は、せっかくがん細胞を確認したのに、見逃してしまいます。


ということで、メカニズム理解の前提3はこれです。


3.がん細胞は身体を巡るTリンパ球に見つかっても攻撃を見逃してもらうシグナルを出している。例えばそれがPD-L1。


オプジーボは、そのPD-L1に結合する抗体であり、オプジーボがくっつくと、Tリンパ球はごまかされずにしっかりとがん細胞を見分けることができ、晴れて攻撃できるというわけです。


でも、わかりますよね、がん細胞がリンパ球からの攻撃回避分子として、PD-L1を持っていないと、オプジーボは無力です。
逆に言うと、オプジーボは、細胞表面にPD-L1を出しているがん(細胞)にしか効果を発揮しないのです。


効く人には非常に効果が高いのに対して、その効く人は2-3割程度しかいない、のはまさにこれが理由です。
適応は限られて当然です。


誰にでも効くわけじゃないのは、分かって欲しいところです。


さらに、副作用です。
なんにも無いわけはないのであって、重要なのは、免疫系の細胞を活性化させてしまうことです。
いいじゃないかって?いや、例えば自己免疫疾患の既往があると、悪化してしまいそうですよ。


その点など含めてまた次に。



ちなみに看護師さん向けのこの論文、とってもわかりやすいです。医療関係者にもそうでない人にもお勧め。

看護師さんも知っておきたい話題の薬 ― 免疫チェックポイント阻害薬とがん治療 ―


今こそ知りたい!  がん治療薬オプジーボ (廣済堂健康人新書)

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オプジーボ理解にとりあえず良さそうです。


病の「皇帝」がんに挑む 人類4000年の苦闘(上)

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がんと人間の闘いについて知りたければ本書を。
実は今読んでいる最中です。

睡眠時間に関して、心配ばかりしてもしょうがない

さて、睡眠について。

精神科医として、患者さんにしっかり寝て欲しい、というか寝ないと治るのも治らないとは毎日言ってはいるものの、実は個人にとって理想的な睡眠時間というのは無いのだろうと思っています。


もっとも長寿なのは8時間睡眠だった、とか、現代人は睡眠がとにかく足りていないとか、言うけれども、一方で、現代の社会的状況から来る要請の中で、理想的な睡眠時間が取れるはずもなく。取れるはずもないのに、ああ今日も睡眠時間が足りなかった、とか、最低6時間は寝ないと不健康になってしまうと強迫的な不安を抱えるのであればそれはもったいないと言うか...。


覚醒物質とも言うべき「オレキシン」を発見した柳澤正史氏のインタビュー記事が良かったので、ご紹介。


www.lifehacker.jp


柳澤氏のインタビューで、dneuro的に印象的な点を挙げると...


1)6時間以下の睡眠時間で十分な真のショートスリーパーはほとんどいない。
2)睡眠時間の分割は眠らないよりはマシだが、連続に比べると質は劣る。
3)自分の睡眠傾向が朝型か夜型かはココ朝型夜型質問紙でわかる。
4)朝型/夜型は年令によって変わる、小学生朝型、思春期で夜型となり、老年になり朝型に戻る。
5)働き盛りは皆睡眠負債を抱えている。昼間の入眠潜時が8分を切るようだと立派な睡眠障害。いつでもどこでも眠れるなんておかしい。
6)「20分の昼寝」は効果的だが、首をしっかり支える。電車の居眠りは効果が薄い。


柳澤氏の主張は,、よくある記事、つまりとにかく睡眠不足は良くないから長いしっかりした睡眠を取らなきゃいけない、早寝早起きの習慣を、というのとは一線を画していて、読んでいて小気味よい気がします。なかなか面白いのは、朝型・夜型が年令によって変わるという下りで、そうか、どうりで思春期からは夜が平気になるんだと。必ずしも体力の問題というわけではないのだろうと感じますわね。



脳波的には本当に深い眠りは最初の3-4時間

睡眠というのは、大きくいわゆる普通の睡眠であるノンレム睡眠と、夢を見るとも言われるレム睡眠とに分かれます。不思議なレム睡眠のことはさておき、ノンレム睡眠は、脳波を見ると、第1段階から第4段階に順に移行していくことがわかる(図参照)。そしてそのサイクルは約1時間半。

f:id:neurophys11:20180929234324j:plain:w400


そっか、だから例えば6時間睡眠であればおおざっぱに4回繰り返されるんだ...と思うとそこはちょっと違う。図を見てわかるように、実は第3-4段階の深い睡眠に移行するのは、最初の2回まで。それを過ぎると、第2段階までの浅い睡眠しかしないのが普通の大人。


そう聞くと、なるほど、だから夜中を過ぎると途中で起きてしまいがちなんだと思いませんか?
寝て、4時間も過ぎると、周囲からの何かしらの変化に脳が応じることができるわけです。ある意味進化上正しいことかもしれません。ずっと深い眠りが続いたら、外で何があっても反応できないので、危険ですよね。


20分の昼寝の効用


さて、柳澤氏も勧める20分の昼寝。

実は、人間お昼を過ぎると眠くなります。

え?ご飯食べて血流がお腹に行って脳に行く血流が少なくなるんじゃないかって?

そんな説明を聞いた覚えがある方、違います。脳に行く血流はかなりしっかり調整されていて、ご飯ごときで血流が減ったりはしないのです。

原因はさておいて、人間は午後2時〜3時頃眠くなることが知られていて、それは基本的には満腹と前日の睡眠時間とはほとんど関係ないのです。困ったことに,交通事故もこの時間の居眠りによるものが多いことが知られています。(下図、上参照)。


f:id:neurophys11:20180929235201j:plain:w400

交通事故は午後多く、昼寝は効果が高い


上図下で昼寝の効用がわかります。十分に長い時間の作業で眠気と疲労がピークに達した時、20分の短い昼寝をすると、眠気も疲労感も回復して作業を持続できることが示されています。

そんなわけで、午後に短い昼寝をすることはとっても正しいことであり、dneuroとしてはどんな職場でも昼寝OKとして欲しいところです。また、ドライバーには是非この時間に特に注意を払って欲しいもの。


短い睡眠時間とどう折り合いをつけるか


色々とこれまでの研究から考えてみると短時間睡眠が健康に良いわけは無いのです。
国立精神神経センターの元村先生の論文を見てみましょう。


睡眠・概日リズム機構が気分調節に及ぼす影響とその神経基盤


14名の健常若年男性が、 5日間の睡眠負債セッション(4時間睡眠)と充足睡眠セッション(8時間睡眠)に参加した研究では、睡眠負債が貯まると、脳の扁桃体の活動が高まり、情動的に不安定になる可能性が示唆されています。*1


また、うつ病悪化の因子として、複数の生体リズム指標や睡眠覚醒サイクルがずれて しまう「内的脱同調」が示唆されています。 重症のうつ患者では、睡眠相と、睡眠ホルモンであるメラトニン分泌リズム、深部体温、ノルアドレナリンなどの生体リズムに関連した指標が脱同調、すなわち睡眠リズムに伴う通常のタイミングからずれた動きをしていることが示されました。*2


でも、こういった人の睡眠の性質を考えた上で、現代生活を考えてみると...


必ずしも、6時間睡眠とかできるとは限らないと思うのですよ。確かに十分寝るに越したことはないし、そうすれば作業効率もUPするわけですが、若い時、特別に作業量が多い時、交替勤務に当たっている方などなど、時には短い睡眠で済ませなきゃいけない局面がありますよね?


dneuroは、3時間に少しマージン取って最低4時間寝れればとりあえずはいいやと考えて日々過ごしてます。4時間寝られれば、ノンレム睡眠の第3-4段階を含んだサイクルを2回繰り返しているので、一応その日に取れる深い睡眠は取ったなと。


とはいえ、それでは睡眠負債が貯まるから、土曜や日曜は若干多めに寝たり、午後の眠くなる時間に合わせて20分の昼寝をしたりしてます。


もちろん、そんなことが長期間続けば健康に良い訳ありません。そこはジレンマなんですが、時には4時間睡眠で頑張りつつ、できれば6時間は寝ようと考えています。


なんだか睡眠の専門家には怒られてしまいそうですが...。
ちなみに上記リンク先の朝型夜型得点は「中間型やや朝型寄り」でした。どちらかといえば朝型のようです。


未読ですが、三島先生は睡眠研究の第一人者の1人なので。
今年の精神神経学会では、上記の研究の話など興味深い話が聞けました。


睡眠こそ最強の解決策である

睡眠こそ最強の解決策である

これも未読ですが、タイトルには惹かれますね。
近い内読んでみようと思ってます。

*1:Motomura Y et al. 2013.PLoS One Sleep debt elicits negative emotional reaction through diminished amygdala-anterior cingulate functional connectivity. 8: e56578.

*2:Hickie IB, Rogers NL 2011 Lancet Novel melatonin- based therapies: potential advances in the treatment of major depression. 378: 621-631.