慢性疼痛、恋愛、眠気とADHD

発達特性研究所の方で論文紹介をしています。

今回は3つです。ADHDと慢性疼痛、恋愛、そして眠気の話題。



tridc.co.jp

慢性疼痛で学校に通えなくなってしまった6歳女の子です。慢性疼痛は色々検査しても、疼痛の原因がはっきりと同定されず、でも生活にその疼痛が大きく影響しているときにつく病名ですが、なかなか治療に難渋します。
そりゃそうですよね、「痛い」のは本当なのに、原因がない、とか心理的な原因だと言われちゃうので...特に心理的と言われても、言われた当人は「じゃあどうすりゃいいのよ」と思うわけです。

tounyou-itami.jp


紹介している論文では、その子にADHD特性があることに気づき、コンサータや療育的対応をしていく過程で慢性疼痛が和らいだ症例を紹介しています。
良い視点を提供しているように感じます。実際同じような子を経験したこともあります。


心理的療法と言っても、直接痛みに対するアプローチでないことが奏効する一例でもあるかなと。



tridc.co.jp


ADHDの恋愛事情,カナダ編です。なかなかこういう視点からの論文は少ないので、面白く読めました。


よくADHDでは、男女関係が活発で乱れがち、みたいなことが書かれているし、実際特性を考えれば当てはまりそうですが、私の外来では余り感じたことがありません。むしろ奥手で、男女経験がない人も多い...ただ、それは外来に来る人達は、何かしら小さいときに心の傷を負ったり、劣等感を持つ経験をしていて、自信がないから、というのも大きいかもしれません。能力のあるADHDで成功している方の場合には、活発な(ちと羨ましい)恋愛体験を繰り返している可能性はあるかと。


カナダのADHDの若者は、活発なようです。
暴力性とは無関係だったという結果にはほっとします。



tridc.co.jp


外来をやっていると、ADHDの方が強く日中の眠気を訴えることが多いのです。特に中学生以降くらいから目立つのですが、その実感に合う臨床研究の紹介になっています。


なんで眠気が強いのか、というと、それはちょっとわからない。
体内時計が破綻しているとしても、それはさらに理由の説明が欲しい。


というわけで、メカニズムには踏み込んでいませんが、事実としてADHDは過眠になりやすいのでしょう。


薬を内服し始めると、日中の眠気が無くなって有り難いという方、多いです。


コンサータは、覚醒作用がダイレクトにあるので、それはわかりやすいのですが、ストラテラでもそういう方多いです。副作用に眠気がありますが、眠りを深くし、朝の目覚めがすっきりするのかもしれません。ただこれは単にdneuroの私見であり、エビデンスが欲しいところ。


ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に働くための本

ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に働くための本

日常、特に仕事に役立つヒントが欲しいという方については、最近この本を勧めています。
先延ばし、段取り、ケアレスミス、忘れ物...などありがちなことに対して、極めて具体的に対策を載せています。


メモがいい、って言ってもただメモを取ろうだけじゃわかんないよね...。


発達障害の自分の育て方

発達障害の自分の育て方

当事者本として有名ではないかと。Kindle unlimited使っている人ならサービス範囲内で読めます。

dneuro的にはこの著者さんの主張で、単に向いていることを仕事にしてもつまらない、自分が好きで熱意を持てるものにしないと続けられない、という内容にとても共感しました(正確でなかったらスミマセン)。


著者さんは今データ解析が仕事で、特性だけを考えるなら、不注意が強く、見落としがしょっちゅう起きたりしたら大変なわけですよ。


支援サイドは、どうしても、まず向いていない(だろう)ものを排除しようとしますが、本人の志向があるならば、どう実現できるかをまずは考えたいところですね。もっとも能力的に本当に難しく、諦めざるを得ないということもあるので、そこは冷静な視点が必要でしょうが。

がん免疫療法について (2) 〜免疫療法への模索

さて、話題のオプジーボはがんに対する免疫療法と言われます。


だけど、正確には、オプジーボそのものが免疫細胞を強化したりするわけじゃなくて、がん細胞が適切な免疫細胞(Tリンパ球)に発見されるお手伝いをしているのですよ。



免疫療法の落とし穴


率直に言って、がんの免疫療法は、理想的治療法です。
なぜなら、がんをやっつけてくれる材料である免疫細胞は自分の持っているものであり、かつ、認識したがん細胞だけを(特異的に)攻撃してくれるからです。
当然ながら、じゃあどうすればがんを攻撃する免疫細胞を身体に作ってもらえるか、というのがテーマになってきたわけで。


とりあえず免疫力を高める、がん細胞をやっつける免疫細胞だけを増やす薬を入れる、特定の免疫細胞を患者血液から抽出してがん細胞を攻撃するように育ててから身体に戻す、などなど。
そのあたりの歴史はオプジーボ小野薬品工業のホームページを。

www.ono-oncology.jp


で、色々されたんですけど、なかなか効果が安定しなかったのです。特に、次のような免疫療法が期待されつつもはっきりした効果を上げていませんでした。

・がん細胞をやっつけるナチュラルキラー細胞(NK細胞)やナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)を何らかの手法で強化した上で体に戻す。
・免疫細胞に細胞の種類を提示する樹状細胞に、目的のがんのシグナルを提示させて、がん細胞を攻撃するリンパ球を増やそうとする樹状細胞ワクチン。


どちらも、理論的にはいいのですよ。


でもね、結果の伴う免疫療法が学会やきちんとした医学誌にほとんど報告されてこなかったんですよ。確かに一部の患者さんには効いたのか?と思える報告は散見されても、少なくても多くの人に確実に施行できるものではなくて。


なのに、末期がん、医者に見放されたがんに対してそういった治療をしますよ〜というクリニックは乱立してます。法外な費用をとって施行し、そして結局効果なく亡くなる方、ということが日々起こっているはずです。末期がんを抱えた本人や家族は、少しでものぞみのあるものにすがりたくなるのも当然で、そういったクリニックは一縷の望みに期待する人から効果の無いものを提供し、さも効果があるようにお金をむしり取るので悪徳以外の何者であもありません。


そのことは今年6月にもNHKで報道されましたし、私も以前言及させてもらいました。

www.nhk.or.jp

neurophys11.hatenablog.com


思い出します。学生時代に(もう20年前!)そういった手法を聞いたり、すでにそれをやっているとの放送がNHKであったりして、おお!と思って興奮しました。


そう、そのNHKの番組は、1995年に免疫細胞(Tリンパ球)を漢方薬で強化して患者さんに戻すATK療法なるものを提唱された京大の内田温士教授の研究でした。著書も読んだのですが(現在絶版)、効いたという報告が並んではいるものの、きちんとした臨床試験を経て確立したものとは到底思えず、どう考えても、免疫細胞への活性化手段は単なる思いつきにしか受け取れないため、がっかりしたのを覚えています。*1


そんなわけで、今回は警告番組を作ってくれたNHKですが、1995年の番組で言ってみれば免疫療法へのお墨付きを与えてしまったのではと思えて、結構罪深いと感じてしまいます。


オプジーボは初めての正しい免疫療法


さてさて、悪徳免疫療法と一線を画し、本物であるのがオプジーボなわけですよ。初めに聞いたときにその適応であった悪性黒色腫への効果に目を見張ったのを覚えてます…。

*1:じゃあ内田先生が出鱈目な研究をされていたのかというと、科学研究費のデータベースで申請のために出した研究計画や報告書を読むとそんなことは無さそうなので、今一歩あのようなことを提唱された動機がわからないのですが...。

がん免疫療法について (1) 〜祝ノーベル賞! オプジーボの効果

dneuroは精神科医神経科学者なので、がん、はほぼあらゆる面において専門外なのですが、気になる記事があったので、ちょっと書いてみたのが今日の話題、今をときめくノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑氏がメカニズムを発見し、応用された結果の薬、オプジーボです。一般名はニボルマブ(Nivolumab)。


さて気になった記事はこれ。

www3.nhk.or.jp

そう、オプジーボを私にも使ってくれという電話が殺到しているとの内容。
記事報道ではきちんと、効果には限界もあれば副作用もあり、現在の適応が書かれているからちゃんと読めばそういう人にもわかってもらえると思うけれど、なぜ効果が限定されるのか、副作用はなんなのか、には少し解説がいるのでは...と思います。

専門外とは言え、「がん免疫療法」は医学を学べば誰もが理想、と考えつつ、そして沢山の人が試しては敗北してきた歴史を鑑みて、理論は実践に追いつかないなと敗北感濃厚な分野だったことを思います。そこに指した光明がオブジーボだったわけですが、まだまだ理想的な薬とは言えないのです。


とりあえずオプジーボが効果を発揮するメカニズム


例えばWikiニボルマブ - Wikipediaを見るとこんな解説です。

癌細胞は細胞表面にPD-L1を発現しており、免疫細胞であるT細胞のPD-1と結合して免疫細胞の攻撃を免れている。ニボルマブは、癌が免疫から逃れるためのチェックポイント・シグナルPD-1を抑制することにより、リンパ球による癌への攻撃を促進する。抗がん剤の多くは、核酸代謝や蛋白合成、細胞シグナルを阻害することにより作用する。ところが、ニボルマブは、がん免疫を活性化するという独特な作用を持つ。

免疫細胞とか、チェックポイントとか出てきますが、前提知識が無いと分かりづらい気がします。

ということで、作用機序を理解するための前提知識はまず2つ


1.身体には異物を排除する免疫という仕組みがある。
2.がん細胞は正常細胞に比べて「異物」であるため、免疫細胞には排除(攻撃して死滅)させる一群(Tリンパ球)がある。


です。なので、がん細胞を攻撃するTリンパ球と、その攻撃から身を守ろうとするがん細胞のせめぎ合いがあり、がん細胞のほうが何らかの形で優勢になると終わりの無い増殖が始まるわけです。


で、Tリンパ球は身体中を巡って、がん細胞を探しますが、がん細胞に特有の目印が出ているのを手がかりにします。一方がん細胞は、見つかって敵認定されたくないので、「敵じゃないよ〜」という目印を出しています。それが免疫チェックポイントシグナルと呼ばれる分子で、がん細胞の表面に出ており、今回はその分子がPD-L1と呼ばれています。これを認識したTリンパ球は、せっかくがん細胞を確認したのに、見逃してしまいます。


ということで、メカニズム理解の前提3はこれです。


3.がん細胞は身体を巡るTリンパ球に見つかっても攻撃を見逃してもらうシグナルを出している。例えばそれがPD-L1。


オプジーボは、そのPD-L1に結合する抗体であり、オプジーボがくっつくと、Tリンパ球はごまかされずにしっかりとがん細胞を見分けることができ、晴れて攻撃できるというわけです。


でも、わかりますよね、がん細胞がリンパ球からの攻撃回避分子として、PD-L1を持っていないと、オプジーボは無力です。
逆に言うと、オプジーボは、細胞表面にPD-L1を出しているがん(細胞)にしか効果を発揮しないのです。


効く人には非常に効果が高いのに対して、その効く人は2-3割程度しかいない、のはまさにこれが理由です。
適応は限られて当然です。


誰にでも効くわけじゃないのは、分かって欲しいところです。


さらに、副作用です。
なんにも無いわけはないのであって、重要なのは、免疫系の細胞を活性化させてしまうことです。
いいじゃないかって?いや、例えば自己免疫疾患の既往があると、悪化してしまいそうですよ。


その点など含めてまた次に。



ちなみに看護師さん向けのこの論文、とってもわかりやすいです。医療関係者にもそうでない人にもお勧め。

看護師さんも知っておきたい話題の薬 ― 免疫チェックポイント阻害薬とがん治療 ―


今こそ知りたい!  がん治療薬オプジーボ (廣済堂健康人新書)

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オプジーボ理解にとりあえず良さそうです。


病の「皇帝」がんに挑む 人類4000年の苦闘(上)

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がんと人間の闘いについて知りたければ本書を。
実は今読んでいる最中です。

睡眠時間に関して、心配ばかりしてもしょうがない

さて、睡眠について。

精神科医として、患者さんにしっかり寝て欲しい、というか寝ないと治るのも治らないとは毎日言ってはいるものの、実は個人にとって理想的な睡眠時間というのは無いのだろうと思っています。


もっとも長寿なのは8時間睡眠だった、とか、現代人は睡眠がとにかく足りていないとか、言うけれども、一方で、現代の社会的状況から来る要請の中で、理想的な睡眠時間が取れるはずもなく。取れるはずもないのに、ああ今日も睡眠時間が足りなかった、とか、最低6時間は寝ないと不健康になってしまうと強迫的な不安を抱えるのであればそれはもったいないと言うか...。


覚醒物質とも言うべき「オレキシン」を発見した柳澤正史氏のインタビュー記事が良かったので、ご紹介。


www.lifehacker.jp


柳澤氏のインタビューで、dneuro的に印象的な点を挙げると...


1)6時間以下の睡眠時間で十分な真のショートスリーパーはほとんどいない。
2)睡眠時間の分割は眠らないよりはマシだが、連続に比べると質は劣る。
3)自分の睡眠傾向が朝型か夜型かはココ朝型夜型質問紙でわかる。
4)朝型/夜型は年令によって変わる、小学生朝型、思春期で夜型となり、老年になり朝型に戻る。
5)働き盛りは皆睡眠負債を抱えている。昼間の入眠潜時が8分を切るようだと立派な睡眠障害。いつでもどこでも眠れるなんておかしい。
6)「20分の昼寝」は効果的だが、首をしっかり支える。電車の居眠りは効果が薄い。


柳澤氏の主張は,、よくある記事、つまりとにかく睡眠不足は良くないから長いしっかりした睡眠を取らなきゃいけない、早寝早起きの習慣を、というのとは一線を画していて、読んでいて小気味よい気がします。なかなか面白いのは、朝型・夜型が年令によって変わるという下りで、そうか、どうりで思春期からは夜が平気になるんだと。必ずしも体力の問題というわけではないのだろうと感じますわね。



脳波的には本当に深い眠りは最初の3-4時間

睡眠というのは、大きくいわゆる普通の睡眠であるノンレム睡眠と、夢を見るとも言われるレム睡眠とに分かれます。不思議なレム睡眠のことはさておき、ノンレム睡眠は、脳波を見ると、第1段階から第4段階に順に移行していくことがわかる(図参照)。そしてそのサイクルは約1時間半。

f:id:neurophys11:20180929234324j:plain:w400


そっか、だから例えば6時間睡眠であればおおざっぱに4回繰り返されるんだ...と思うとそこはちょっと違う。図を見てわかるように、実は第3-4段階の深い睡眠に移行するのは、最初の2回まで。それを過ぎると、第2段階までの浅い睡眠しかしないのが普通の大人。


そう聞くと、なるほど、だから夜中を過ぎると途中で起きてしまいがちなんだと思いませんか?
寝て、4時間も過ぎると、周囲からの何かしらの変化に脳が応じることができるわけです。ある意味進化上正しいことかもしれません。ずっと深い眠りが続いたら、外で何があっても反応できないので、危険ですよね。


20分の昼寝の効用


さて、柳澤氏も勧める20分の昼寝。

実は、人間お昼を過ぎると眠くなります。

え?ご飯食べて血流がお腹に行って脳に行く血流が少なくなるんじゃないかって?

そんな説明を聞いた覚えがある方、違います。脳に行く血流はかなりしっかり調整されていて、ご飯ごときで血流が減ったりはしないのです。

原因はさておいて、人間は午後2時〜3時頃眠くなることが知られていて、それは基本的には満腹と前日の睡眠時間とはほとんど関係ないのです。困ったことに,交通事故もこの時間の居眠りによるものが多いことが知られています。(下図、上参照)。


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交通事故は午後多く、昼寝は効果が高い


上図下で昼寝の効用がわかります。十分に長い時間の作業で眠気と疲労がピークに達した時、20分の短い昼寝をすると、眠気も疲労感も回復して作業を持続できることが示されています。

そんなわけで、午後に短い昼寝をすることはとっても正しいことであり、dneuroとしてはどんな職場でも昼寝OKとして欲しいところです。また、ドライバーには是非この時間に特に注意を払って欲しいもの。


短い睡眠時間とどう折り合いをつけるか


色々とこれまでの研究から考えてみると短時間睡眠が健康に良いわけは無いのです。
国立精神神経センターの元村先生の論文を見てみましょう。


睡眠・概日リズム機構が気分調節に及ぼす影響とその神経基盤


14名の健常若年男性が、 5日間の睡眠負債セッション(4時間睡眠)と充足睡眠セッション(8時間睡眠)に参加した研究では、睡眠負債が貯まると、脳の扁桃体の活動が高まり、情動的に不安定になる可能性が示唆されています。*1


また、うつ病悪化の因子として、複数の生体リズム指標や睡眠覚醒サイクルがずれて しまう「内的脱同調」が示唆されています。 重症のうつ患者では、睡眠相と、睡眠ホルモンであるメラトニン分泌リズム、深部体温、ノルアドレナリンなどの生体リズムに関連した指標が脱同調、すなわち睡眠リズムに伴う通常のタイミングからずれた動きをしていることが示されました。*2


でも、こういった人の睡眠の性質を考えた上で、現代生活を考えてみると...


必ずしも、6時間睡眠とかできるとは限らないと思うのですよ。確かに十分寝るに越したことはないし、そうすれば作業効率もUPするわけですが、若い時、特別に作業量が多い時、交替勤務に当たっている方などなど、時には短い睡眠で済ませなきゃいけない局面がありますよね?


dneuroは、3時間に少しマージン取って最低4時間寝れればとりあえずはいいやと考えて日々過ごしてます。4時間寝られれば、ノンレム睡眠の第3-4段階を含んだサイクルを2回繰り返しているので、一応その日に取れる深い睡眠は取ったなと。


とはいえ、それでは睡眠負債が貯まるから、土曜や日曜は若干多めに寝たり、午後の眠くなる時間に合わせて20分の昼寝をしたりしてます。


もちろん、そんなことが長期間続けば健康に良い訳ありません。そこはジレンマなんですが、時には4時間睡眠で頑張りつつ、できれば6時間は寝ようと考えています。


なんだか睡眠の専門家には怒られてしまいそうですが...。
ちなみに上記リンク先の朝型夜型得点は「中間型やや朝型寄り」でした。どちらかといえば朝型のようです。


未読ですが、三島先生は睡眠研究の第一人者の1人なので。
今年の精神神経学会では、上記の研究の話など興味深い話が聞けました。


睡眠こそ最強の解決策である

睡眠こそ最強の解決策である

これも未読ですが、タイトルには惹かれますね。
近い内読んでみようと思ってます。

*1:Motomura Y et al. 2013.PLoS One Sleep debt elicits negative emotional reaction through diminished amygdala-anterior cingulate functional connectivity. 8: e56578.

*2:Hickie IB, Rogers NL 2011 Lancet Novel melatonin- based therapies: potential advances in the treatment of major depression. 378: 621-631.

tDCSやスウェーデンにおけるADHDの疫学について

前回書いたように、会社のほうでは情報発信をしています。


読んだ方が面白い、参考になる、今後に期待したくなる、そんな最新研究を、主にADHDをテーマに紹介していており、今後はこちらのblogと補完し合いたい。


会社のHPでは主にADHD関係を紹介し、こちらではこれまで通り医学系の話題について紹介します。


いずれにしても目標は、各研究の現実的解釈を知ることができるように解説することで、研究者の「盛り加減」や、どういった研究背景があるのかをいろんな人に知ってもらえればと思うところ。


経頭蓋直流電気刺激(tDCS)についてまず2報

以前も紹介したtDCS.


neurophys11.hatenablog.com


頭皮からの弱電流刺激で脳機能を変化させる手助けをするというものだから、当然ADHD特性の抱える認知機能的弱点がこれで補えないか?とは考えるところで、それに関して、動物と人を対象にした研究紹介しているので是非読んでみてください。

tridc.co.jp


tridc.co.jp


スウェーデンにおけるADHDの疫学

北欧諸国は国民背番号制度が行き届いており、医療情報が疫学的にまとめやすいのは知られているところ。

今回はスウェーデンにおけるADHDの疫学。

tridc.co.jp


有病率、と言ってしまうと、病気なのかどうかという議論になってしまうけど、とりあえずはこの用語を使うことをお許しを。


リンク先にも書いているけど、女性の診断比率が増えてきていることは注目して良いのではと。これはdenuroの臨床実感とも当てはまる話で、正直男女差があるとは思えなかったりする。女性の場合不注意優勢型が多いので、見過ごされてきたんだろうなあと。


少なくても患者さんとして外来に来る方々のお話を聞いていると、もっと早くに医療に繋がっていれば、違う進路も考えられたのでは、と思うこと多いので、教育関係の方は気を配って欲しいなあと感じますよ。


女性のADHD (健康ライブラリーイラスト版)

女性のADHD (健康ライブラリーイラスト版)

女性の、と言うのもなんですが、男性とは違う身体の生理と、ジェンダー的なストレスが特に日本ではかかりやすいことを考えると、女性ならではの問題というのは存在すると思えます。


ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に働くための本

ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に働くための本

最近読んだ中では、対応が具体的でなかなかよろしいかと。特にPC関係作業について、ミスをしないやり方が数多く提案されているのはいいかな。

「大人のADHD」のための段取り力 (健康ライブラリー)

「大人のADHD」のための段取り力 (健康ライブラリー)

司馬先生、いいですよ。とにかく何かを変えるなら沢山のヒントの中から自分が実行できるものを選んでやっていくのが吉。

起業しました

なかなか更新できずにいましたが実は会社を作り、開設の準備をしています。
ようやくホームページも公開できたので、ここでも報告を。

tridc.co.jp

あれ、No imageになってしまうのはなぜだろう...

ともあれ、会社を作りました。株式会社ライデックと言います。

ライデックってなん?という話ですが、もともとは「発達特性研究所」という社名を考えまして、でもなかなかそれも固いし、言いづらいとうことで、英語にした上で、略称を社名にしています。

なので、ライデック=RIDC=Research Institute of Developmetal Characteristics=発達特性研究所です。


会社の事業としては是非事業案内を見て欲しいのですが、メインの柱としてはまずは3つ。

1.ADHDの方を対象にしたグループカウンセリング
2.認知機能トレーニングプログラム
3.医療相談

で、いずれも通常の保険医療の枠組みでは難しい面を補完したいと考えて作ったものです。
そう、日常診療では必要なことの相談に時間を確保することやこれを知ってほしいという知識を伝えるためにしっかり時間を使うということが難しい...だからどうすれば、という1つの答えとして、今回起業したプログラムを考えてます。

利用していただける人に満足が行くよう頑張ってます。


情報発信が大事と思っているのです

さて、事業の他に、ホームページでは情報発信をしています。
実はこれがとてもやりたかったことで、このblogもそうですが、1人の医学者として科学的・医学的に正しい形での情報発信をしたいと常々考えているのです。

「盛らない」情報伝達というか...
そこら辺、書いてますのでよろしければ。

tridc.co.jp


今日はこのあたりで。


ちなみに社員が作ってくれたキャラクターを元に簡単な動画を作ってみました。社員にはそんな時間あったんだ、と呆れられましたが...。



youtu.be

オキシトシンを自閉スペクトラムの「治療薬」ということの難しさ

福井新聞が報じたオキシトシンASDへの「治療」効果が話題のようです。


www.fukuishimbun.co.jp

曰く、

'大規模な臨床試験を行い、国際的な基準で治療効果や安全性を検証したのは世界初'
'オキシトシンを投与したグループで常同行動の軽減が確認できたのに対し、偽薬のグループは変化がなかった。対人関係の障害は、両グループとも改善がみられ、差がなかった。また、オキシトシンを投与したグループでは、相手の目を見る時間が増えたという。'
'オキシトシンによる自閉スペクトラム症の改善を国際的な基準で確認できた。治療薬が承認され、安全に処方できるようになることを期待したい」'


これをそのまま受け取ると、自閉スペクトラム症(ASD)の中核症状としても挙げられる「常同反復的な運動・言語使用・物体使用」に対して、オキシトシンの鼻スプレーが効いた、また相手の目を見る時間も増えた、すなわち治療効果が確認されたので、ASDの治療薬として承認されるのを期待している、ということだと思う。


研究グループのプレスリリースはこちら。


世界初 自閉スペクトラム症へのオキシトシン経鼻スプレーの治療効果を検証しました | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構


今後の展開を見ると、製剤により改良を加えてオキシトシンの吸収が上がるもので、新しい臨床試験が開始されているようです。期待したいところなんですが...



原著論文の論調は控えめです


イマイチ歯切れ悪くしか紹介できないのは、1つには以前も書いたようにオキシトシンの臨床応用というのものを考えると幾つも考えるべきハードルがあるということで、コレに対して、twitterで呟いたら、少なからず反応があって、このblogの以前の記事もいつもより読んでいただけたようです。


neurophys11.hatenablog.com



それと、原著論文を読むと、著者の先生方の論調が随分控えめなんですよ。*1


Based on the present findings, longitudinal intranasal oxytocin treatment alone at the current dose and duration is not recommended for the reduction of core social symptoms in adult men with ASD, although the current results do not exclude a possibility that combining intranasal administration of oxytocin with behavioral interventions induces clinically meaningful effects on the autism spectrum core symptoms.

訳すと、


今回の研究を踏まえると、単にオキシトシンを継続的に使っても、今回使った用量と期間では、成人期ASDの方の中核症状を軽減するには推奨できない。ただし、経鼻オキシトシン投与と行動療法を組み合わせたときに、ASDの中核症状に対して臨床的に意味のある効果を発揮できる可能性を排除するものではない(=可能性はある)。


といったところでしょうか。拙い訳ですみませんが。



今回、経鼻オキシトシン群とプラセボ群で有意差があったという評価項目は臨床的なものは1つ。投与6週後に反復行動が減弱した、というもの。もう1つは実験的な指標で、ゲイズファインダーという、画像を見たときの目線を追跡できる機械を使ったもの。話をしている人の画像を見たときに、話者の目を見る時間が伸びたという。



差を当事者やご家族が感じられたかどうかを知りたいところです。



血中オキシトシン濃度が、投与群でちゃんと上がっているのは、経鼻経路できちんと吸収されていることを反映されている気がするから、それは良かったと思います。末梢から濃度が追えて、それが用量依存的に増えてくれるなら、今後望ましい臨床用量を決定するときに有用でしょう。


記者さんは論文も読んだり、疑問を持って欲しい


さて、dneuroが若干問題かな、と思うのは、報道の仕方なんですよ。論文はとても誠実に書かれているように感じたし、プレスリリースにおいて、意味のある結果を強調するのは研究者として当然とも言えるわけです。若干強い気はするけど。



記者さんたちはそういう部分を了解した上で書けばどうかなと。


今回の件に関しても、原著を読めば著者たちはもっと控えめに結論を伝えているし、記者の方にはそこらへんを研究者にぶつけてみて欲しいなと。


過大要求ですかね?


あとは、ASDの特性が「治療」されるものなのかとかも問題提起して欲しいのですが、やはり難しいのかなあ...。



最後に、研究グループの結果を、オキシトシン個人輸入業者が宣伝文句に使っているのが見られました。


オキシトシンの経鼻スプレー、個人輸入で購入できないことはないですが、絶対にやめましょう


著者たちの研究が進んでよりしっかりした結果が出るのを待つか、どうしてもなら治験に参加すべきと思います。それならしっかり評価してもえますから。




ASDへの理解と言うとやはり本田先生の本が良いですね。非障害自閉スペクトラムというのを提唱されています。環境と能力によっては「障害」じゃないし、「治療」する性質じゃないですよね。個人的には「ASDを治す」というのはどこにつながるんですかね、と思ってしまうのです。



自閉症スペクトラムの子のソーシャルスキルを育てる本 思春期編 (健康ライブラリー)

自閉症スペクトラムの子のソーシャルスキルを育てる本 思春期編 (健康ライブラリー)


とはいえ、もちろん、問題が無い、というのはお花畑であって、ASD特性があると生きにくいのは事実。生き抜くためのスキルを身につける必要はあるわけです。


オキシトシンがそのスキルを身につけるのに役立つのであれば素晴らしいと思います。そういう意味で期待はしているのですけれども...。


www3.jvckenwood.com


ちなみに論文にある、視線追跡をする機械。ゲイズファインダー。早期にASDの可能性があるかをスクリーニングする機械としてはとても有用に感じます。

*1:控えめな記載、というのはこういう実験的な治療法の論文を書くときに大変誠実なこと、と思います。