DSM-5 神経発達症群の診断名

発達障害というと一般的には図のように自閉症スペクトラム(ASD)、注意欠如多動症(AD/HD)、それに学習障害という形で紹介されることが多い一方で、医療系が診断書に書くときに参考にする診断基準はちと違う。

 

WHOの診断基準はICD-10といい、公的な診断書に使われる。一方で、精神科臨床や研究上頻繁に使われるのはアメリカの精神医学界の診断基準、DSM-5。DSMは改訂のたびに疾患の定義や範囲が大きく変わることもあって正直わかりづらい。もっともそれは改訂のたびに一線級の医学者が様々なエビデンスをもとに真剣に議論し、かつ世界的にも広く意見を求めた上でなので、素晴らしいことなのだが。

 

とりわけ、ASDとAD/HDは神経発達症群の中に含まれた。この分類はとても使いやすく感じる。併存診断も可能になった。従来は駄目だったのだが、これは臨床をよく反映していると思う。ただし、そのせいで診断を曖昧なままにすることも可能にしてしまったとの批判もあり、診断時には注意したい。実際、AD/HD単独でもコミュニケーションの問題やこだわりを抱えることもあれば、ASD単独でも注意・集中に問題を抱えるものだ。

 

さてざっと見た限りDSM-5の神経発達症群の一覧がネットに出ていないので、今回載せることにした。今の概念だと、例えば発達運動強調障害は、ASDに含まれるわけではないんだよなと。確かにASDやAD/HDで協調運動の問題を抱えている人は多いが(=要するに不器用)、必ずしもそうなわけでないしな。でも症候をそれぞれ独立診断名にしていくと最後に残るのはどういう部分だろうか。

 

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h-navi.jp

 

 

 

DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル

DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル

 

 

DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引

DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引

 

 

 


 

発達障害、昔は少なかったの?

発達障害の講演を時に依頼されることがあり、その折に質問に多いのが、「昔は発達障害なんて問題になっていなかったのになんで今はこんなに増えたの?」とか、「発達障害は増えたの?」という類。


以前も書いたように診断数に関しては激増している(⇛ASDは増えているのか?)。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の統計では2000年に150人に1人(0.67%)だったASDは2012年では68人に1人(1.47%)だ。ADHDも4-17歳の子どもで2003年の7.8%から11.0%(!)へと増加している。日本では、ASDの乳幼児期の頻度が1995年時点で1%を超え、ADHDでの小中学生を対象にした文科省の調査では4%と推定されている。*1


中年以降に結構多いじゃん


さて、冒頭の質問は結構年配の方から発せられることが多いのだが、内心思うのは、「いやあなた方の世代に沢山いるじゃん」。
実際、dneuroの上司世代、患者さんの親世代には未診断だけれども、明らかにASDADHDだよね、という方はいらっしゃる。医療の世界にはそれこそ両者とも非常に多い。能力と環境がマッチして活躍している方々も多いし、一方でちょっと困った方と感じる方もいる。まあともあれ印象としては少なくない。*2


診断基準が変わったことによる検出の増加


これは非常に大きい。特にASDは、診断基準の改訂とともにその診断範囲を広げている。自閉的行動特徴がその程度が軽度から重度まで連続的に分布しているから、それはそれで正しいのだけれども、診断対象が広くなるのだから数が増えるのは当然。


デンマーク国民総背番号制が徹底しており、医療情報を元にした疫学研究の信頼性が高い。そのデンマークのある研究ではASD診断数増加のかなりな部分が診断基準の改訂と、データベースへの外来患者への導入で説明できるという。1994年までそういった診断数は入院患者データを対象としていたのだが、1995年からは外来患者も入れるようになり、それにより外来レベルの軽いレベルのASD患者がデータに入ることになって、そりゃ数は増える。*3


bit.ly



大人を今の診断基準で調べてみよう


さて、中年以降にも多いじゃん、という単なる印象を証明するとすれば、成人でも現在の診断基準で調査すればASD,ADHDの頻度が子どもと変わらないレベルであることを示せばいい。


2011年に英国で発表された研究がその示唆を強く与えてくれる。*4


その論文で調査された16歳以上の7461人のASD頻度は年令による差が無く、子どもに匹敵する約1%であったという。


また、ADHDに関して60歳以上を調査対象としたオランダの研究では2.8%、フランスの成人対象の調査では2.99%の頻度だったという。*5

CDCの推定よりは少ないが、ADHD特性は年齢とともに和らぎ、診断基準を満たさなくなる人も多いので、子どもの頻度に十分匹敵すると言えるのではないか。


ということで、子どもにばかり多いってわけじゃないよ、と言いたいのが今日の結論。


更に言うと、発展途上国では未だ頻度が低い報告が多いが、それは先進国のほうが第3次産業が多くて特性が顕在化しやすいということと、保健医療サービスへのアクセスが先進国とは段違いに悪い、ということがあるのではないか。


発達障害の原因と発症メカニズム: 脳神経科学の視点から

発達障害の原因と発症メカニズム: 脳神経科学の視点から


今日の主張は実はこの本への反論という側面を持たせているつもり。
本書は発達障害を脳神経発達の異常という観点から捉えた時に、環境要因が様々な生物学的変化を引き起こしているのがその異常の原因となっているという主張を展開する。ストレス、環境化学物質(農薬やPCBなど)、重金属や薬剤などへの暴露などが、遺伝子変異や遺伝子発現の変化(エピジェネティクス)に関わっており、結果的に発達障害を増加させているという。


もちろん、その可能性はあるし、dneuroも全否定するつもりはない。でも本書はちょっとそれを強調しすぎな気がする。


環境要因が増加させているというのは現代生活への不安を煽る可能性もあり、その主張には十分に気をつけるべきだ。ワクチンを自閉症の原因としたような混乱を社会に招きかねない(ワクチンに関しては本書も明確に否定)。dneuroは今の環境が本書が述べるほどまでに、人間の脳発達に脆弱性を引き起こしているのかは疑問に感じる。環境因子という点では、頻度が少ない発展途上国のほうが種々の環境物質に対する法令も未整備で、先進国より条件が良いとは到底思えないし…。

*1:Honda H, Shimizu Y, Rutter M. No effect of MMR withdrawal on the incidence of autism: a total population study. J Child Psychol Psychiatry. 2005;46(6):572-9.

*2:活躍している人が多い事実は、ASDADHDの特性=障害ではないということを示している。ただし、自分の特性に自覚的でないと、周囲の人を巻き込んで一定の問題を抱えていることは多い。

*3:Hansen SN, Schendel DE, Parner ET. Explaining the increase in the prevalence of autism spectrum disorders: the proportion attributable to changes in reporting practices. JAMA Pediatr. 2015;169(1):56-62.

*4:Brugha TS, McManus S, Bankart J, et al. Epidemiology of autism spectrum disorders in adults in the community in England. Arch Gen Psychiatry. 2011;68(5):459-65.

*5:Michielsen M, Semeijn E, Comijs HC, et al. Prevalence of attention-deficit hyperactivity disorder in older adults in The Netherlands. Br J Psychiatry. 2012;201(4):298-305.,Caci HM, Morin AJ, Tran A. Prevalence and correlates of attention deficit hyperactivity disorder in adults from a French community sample. J Nerv Ment Dis. 2014;202(4):324-32.

片頭痛に新しい薬が近づいている

片頭痛を抱える患者(dneuro含む)には朗報といって良いか。間もなく新薬が出る。
内容に間違いも多いけど、こんな記事も出た。


tocana.jp


抗CGRP受容体抗体エレヌマブは片頭痛に有望
大塚製薬、片頭痛予防薬「フレマネズマブ(TEV-48125)」の日本国内での開発・販売独占的ライセンス契約を締結


新薬はエレヌマブフレマネズマブ。舌を噛みそう…。~マブということで抗体医薬品であることがわかる。分子標的薬と言われる一群の薬が特に癌で話題になっているが、これもその1つ。抗体はそもそも免疫系が外来分子を攻撃するためにリンパ球が作り出すミサイルのようなものだが、特定の分子(抗体ならタンパク質)を標的に結合することでその分子の機能を阻害する。ちなみに話題になった抗がん剤オブシーボの一般名はニボルマブ

で、この2薬、ターゲットのキーワードはCGRP。CGRPです。

新薬が如何に期待を持たれているかは、医学専門誌のタイトルにも現れている。医学誌の中では最も権威ある雑誌の1つ、New England Journal of Medicine (NEJM)誌では、昨年“CGRP-The Next Frontier for Migraine”と題した論説と、2篇の臨床試験結果を大きな期待を持って紹介した。


CGRPの血管拡張作用と片頭痛

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さて、CGRPって何よ?という話だが、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene- related peptide)の略である。37個のアミノ酸からなるペプチドで、神経末端から作られ放出されるが、強力な血管拡張作用がある。この血管拡張作用が問題で、片頭痛に大きな役割を演じているようだ。何らかの理由で、顔面の感覚支配をしている三叉神経が刺激を受けると神経末端からCGRPが放出され、血管拡張作用を経て片頭痛に至る…という(図参照)。*1


このCGRPを受け取る受容体(=CGRP受容体)は脳内に広く分布しており、大脳皮質、線条体扁桃核、海馬、小脳などなど。


エレヌマブとフレマネズマブ

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で、この2剤が片頭痛予防に非常に期待が持てるという臨床試験結果が昨年公表された。特にNEJM誌に同時に発表された結果は非常に良いものであって、発売が近いこの2剤への期待を高めるもの。


エレヌマブはCGRP受容体への抗体であり、CGRPが結合する場所を無くしてしまう。つまりCGRPが放出されても受容体にくっつけずCGRPの血管拡張作用が出なくなる。


一方、フレマネズマブは直接CGRPに結合してしまう抗体で、CGRP受容体に結合できなくなってしまう。それによりCGRPの血管拡張作用を阻害する。


どちらも皮下注射薬で、エレヌマブ研究の方は月に1回投与。70mgと140mgと2つの用量を投与することで、4週間後以降の片頭痛発作回数が対照のプラセボとどの程度差があるかを比較した。


フレマネズマブの方は月に1回投与と、3ヶ月に1回(=年4回)投与群にわけ、12週までの片頭痛発作回数の変化をプラセボと比較した。


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多少の違いはあれど、比較法は似ているので、2つの結果を横に並べてみました。


うん、これを見ると、両者ともなかなか良さそう。
臨床試験リクルートされた患者たちは、年齢も体重分布も似ているが、片頭痛日数の平均はフレマネズマブのほうが多く、エレヌマブ試験より重症度が高い人たちが多いかもしれない。また性別は圧倒的に女性(85%以上!)が多い。ボディ・マス・インデックス(BMI)を見ると26前後と高いことから、ふくよかな女性が多く参加したらしい…。


さて、効果。

エレヌマブ試験群が頭痛日数で、プラセボ群が月に8日から6日程度に、実薬群は4-5日程度に減っている。また、月に3回ほどあった片頭痛薬使用がプラセボではほぼ変わらず、実薬群で特に量の多い140mg群ではほぼ半減。


フレマネズマブ群でも頭痛日数でベースラインの16日から、プラセボ群2日vs実薬群4.5日の減少、10~11回だった頭痛薬使用回数がプラセボ群8回、実薬群6-7回に。


これを多いと見るか、この程度でしか無いと見るか…
効果のある参加者では片頭痛頻度が半減以下になっているようなので、恐らく劇的に効く場合が結構あるのではと期待したい。


問題は…
副作用に関して言えば、2つの試験ともに目立ったものはなく、いずれもプラセボ群と内容も程度も変わらなかった。その点では安心して良さそうだ。もちろん発売されれば桁違いの人数に投与されるので、どんな副作用が出るかはわからないが。


皮下注射はどうだろう?
基本予防薬が毎日服薬せねばならず、かつ効果もはっきりしないことが多いのに比べれば、痛い思いはしても、月に1回もしくは3ヶ月に1回の通院で済むなら利便性は上ではないか。


一番の問題は費用になりそうだ。
どうも最初は年間で8500ドルほどかかると予想されているらしい。円じゃないですよ、ドル。つまり3割負担でも30万くらいかかる、と。これは高い…そういえば抗がん剤オブシーボも高くて問題になった。なので、しばらくはチャレンジする人で殺到ということは無さそうな気がする。


とはいえ、片頭痛の弊害は実に大きい。
辛く、苦しいだけでなく、経済損失も大きいことは以前書いた(⇛片頭痛の思い出と経済損失)。慢性片頭痛患者は月に15回以上もの片頭痛発作に苦しめられているので、これまでに無い選択肢が増えるのは歓迎したい。


片頭痛患者でもあるdneuro自身が受けるかどうか。うーん、今の片頭痛頻度(月に2-3回)では適応が無いかな。夏に入る頃、特に日光で誘発されることが多いので、それが予防できるかは試したいと考えている。


誘発を気にせずに日常生活が送れれば人生が変わると思う。


CGRPは悪者なだけじゃないよ
ところで、CGRP、片頭痛を引き起こす悪者かといえば、大事な役割も担っている。特に末梢では皮膚が何らかの痛み刺激によって傷つけられると、そこに分布する神経末端からCGRPが分泌され、血管を広げ(拡張し)、様々な物質の血管透過性を上げることで、炎症反応を誘発、つまり発赤や腫れ(腫脹)を起こす。これが起きないと、傷口の治癒が遅れるだろう。加齢に伴うCGRPの低下が褥瘡の原因になっている可能性がある。

さらにCGRPは、ラットの脳室内に直接投与すると記憶増強が見られる報告もあり、脳で何らかの神経伝達物質的役割を担う上に、うつ病治療に役立つ可能性を示唆する研究もあったりする。


症例から学ぶ戦略的片頭痛診断・治療

症例から学ぶ戦略的片頭痛診断・治療


専門書。様々な片頭痛への対応を知ることができる。ひどい片頭痛はどうやっても解決できないことがある。どの予防薬を使っても効果が無く、副作用ばかりで、発作治療薬であるトリプタン製剤を月に20回も使う方にとって、エレヌマブやフレマネズマブが救世主になることを心から期待したい。

*1:片頭痛のメカニズムはわかっているようで、わかっていない。最近ではこのような三叉神経主因説から、大脳皮質拡延性抑制説(Cortical Spreading Depression)に移っているようだが、痛みにどう繋がるか正直私にはよくわかりません。

脳は大人になっても変わるから学習できるし傷ついても回復する…_tDCS入門(2)

更新の間隔がこれまでで最長になってしまった…色々と考えることがあったので少数の待ってくださっている方にはすみません。


www.neuroelectrics.com


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研究室ではスペイン(珍しい!)のベンチャー企業Neuroelectrics社が開発したSTARSTIM tCSという刺激装置を手に入れた。これはなかなかスグレモノで、PCと刺激装置を図のように装着し、Bluetoothによるワイヤレス接続で繋げてtDCSが可能になっている。すこぶる使いやすいので研究も進むかなと期待。ちなみに代理店購入でおよそ120万程度。*1





脳は変わる。可塑性を持つ。

かつて人の脳は成長してしまうともう変わらない、と考えられていた時期があった。


基本的に脳の成長は一定の年齢に達すると止まり、逆に年齢とともに成長どころか下り坂…。脳細胞は20歳を超えると死滅する一方というのはよく聞く話。ある学説によれば大脳皮質の神経細胞は140億個ほど、20歳からは1日10万個ずつ死ぬという。すごい数ではあるが、脳細胞の数が膨大なので、1年かけても死滅数は全体の0.3%にとどまり、同じペースで死んだとしても70歳までに減る細胞数は18億個、つまり9割近くは保たれる。*2


そんな脳が一定以上成長すると変化しないという説は完全に撤回された。


人の脳は体験によって変わる。形も変わるし機能も変わる。
しそれが無かったら人は大人になってから何も学習できないことになるが、そんなことは無いわけです。

脳が刺激によって、神経ネットワークを新たに構築して変わりゆく性質のことを可塑性(かそせい)という。tDCSが脳機能を改善(改悪もありうるけど)させるのは、大脳皮質の可塑性を向上させるから。その前提になるメカニズムがなければ、外部からの刺激で脳機能の向上なんて考えられない。例えば弦楽器奏者の指の脳における感覚領域は、そうでない人たちに比べてずっと空間的に広がっているという。練習によって感覚が鋭くなっていくのは、それを知覚する脳領域が広がるからなのだ。(dneuroは24歳からバイオリンを始めたが上達はさっぱりだ。きっと脳の可塑性が弱く、感覚領域が広がりづらいからだろう。悲しいことだ。)


いずれにしても、変わりうる脳、があるからtDCSも効果を期待できる。


そんな脳が脳卒中や交通事故などでダメージを受けた時、我々は脳の可塑的な変化を再び感じることができる。


壊れた脳 生存する知 (角川ソフィア文庫)

壊れた脳 生存する知 (角川ソフィア文庫)


著者は、もやもや病という脳血管の病気によって脳障害を負った整形外科医の女性である。もやもや病は難病指定もされている疾患で(⇛http://www.nanbyou.or.jp/entry/47)脆い血管の固まりが脳内に出来てしまい、脳内出血に至る可能性がある。そう、そして著者の山田先生はその血管が破れてしまった。1度目は大学6年生(医学部は6年制)、2度目は34歳、そして3度目のとりわけ大きかった脳出血は37歳。右の頭頂葉にできていた血管の固まりが破れて大出血を起こしたようだ。右の頭頂葉の出血が引き起こすのは基本的には身体の左側の感覚障害や運動障害(麻痺)だが、それだけではない。いわゆる高次脳機能障害と呼ばれる様々な症状に苦しむ。


実は大脳半球の障害としては、左半球損傷の場合には、左脳が言語中枢であることもあって、その障害が非常にわかりやすいのに対して、右半球損傷はわかりづらいことが知られている。*3


山田先生も左半身の麻痺に加え、例えば「二次元の世界」の住人になったという。タイル張りの道では見えているのが模様なのか、穴なのか、硬いのか、歩けるのかわからない。遠近感が消え、階段は横に走る直線の繰り返しに見えてしまうから登るのか下るのか、実際に足を踏み出さないとわからない。それは怖い。


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また、半側空間無視という症状がある。左側に注意がいかなくなる症状で、視覚的な左側の無視は、図では点線赤丸にその症状がよく出ている。時計の左側、線分抹消の左下、筆算の左側、そして囲碁で左が無視されているのがわかる。左手があることも忘れてしまうし、食事を食べればお膳の左側は食べ残す、服を着ることにも苦労する。考えてみると、視界に「左側」は必ず存在するので、それが常に相対的に意識下で「見えなくなる」のは実に不思議。でも実際に無視が起きてしまうからしょうがない。ただし、意図することで、つまり「左側は見なきゃ」と意識することである程度はなんとかなる。


そんな山田医師の症状だって歩みは遅いものの回復していく。実感としては2年かかるようだ。時間の経過とともに霧が自然と晴れていくように回復を感じるという。本人も周りも忍耐が必要なのだ。


山田先生にとってリハビリの大いなる助けになったまず第1は息子くん。3歳時に倒れた母の日常を精一杯助けてくれる。後半息子への愛が溢れる記述には思わず泣いてしまう。そして、姉の夫たる脳外科医は経営する老人保健施設の施設長として山田先生を早期に復帰させてしまう。勇気がある。


しかしなかなか高次脳機能障害というのは厄介で、やはり見かけではわからず、それでいて変な行動に至ってしまう当事者にはどうしても偏見がつきまとう。なんでそんな失敗してしまうの?と。


切ないのは、「自分が何かに失敗したということは、実は本人もわかっていることが多いのです。」ということ。つまりわかっていてもできない。


当事者本の第2は文体がもっとくだけている鈴木大介氏のこちらを。


脳が壊れた (新潮新書)

脳が壊れた (新潮新書)

「再貧困女子」などの著作で知られる鈴木大介氏。2015年、41歳で右脳に脳梗塞を発症した氏は、麻痺は少ないものの、高次脳機能障害を負う。


やはり左半側空間無視に苦しむのだが、その当事者としての記述が失礼ながら面白い。入院治療後間もなくトイレに入った氏は個室に入って左側の便器を見てようやく気づく。白髪の老紳士が座って用を足している最中であることを。鍵をかけていなかった老紳士もどうかと思うが、要は左側を意識しないと見えないから、ドアを開けただけでは気づけなかったらしい。


また、この左側を見られないというのは、「左方向を見てはならない」という強い心理的忌避感、障壁があるのだという。この感覚を言語化するならば、視界の左前方に「親しい友人の女性や義母が全裸で座っている感覚」なのだそうだ。そりゃ見るのをためらうわ。


鈴木氏が本書を執筆したのは入院7ヶ月。回復途上真っ只中でこれほどまでの本が賭けるのだからその努力たるや頭が下がる。山田先生と同様に、病後の回復は、リハビリに保険医療が使える6ヶ月を超えても進んでいくのを実感するという。


tDCSがそんな脳の回復スピードを早められるデバイスになるのを望みたい。


最後にもう1つ。


脳はすごい -ある人工知能研究者の脳損傷体験記-

脳はすごい -ある人工知能研究者の脳損傷体験記-


こちらクラーク・エリオット氏はアメリカ人のAI研究をしている教授先生だ。脳震盪後の高次脳機能障害の自分が感じる世界を、研究者らしく極めて詳細に、時に回りくどく、そして難しく解説する。


エピソードを1つ。
エリオット氏にはジェイクという頼れる友人がいる。
ある日エリオット氏はりんごかサラミを食べようと迷った挙句に決められない。48時間もの間虚しく経過した後、氏はジェイクに電話をかける。どちらを食べるか指令してくれと。ジェイク氏の「サラミを先に食べてからりんごを食べろ」という的確な言葉でエリオット氏は2日間の苦悩と空腹から解放される。


さて、努力家であることは勿論ながら、3著者に共通するのは素晴らしい支援者の存在だ。鈴木氏には以前にはメンタルも病み、そしてADHD的性質を持つ妻が極めて氏に対して献身的だ。その夫婦愛が胸を打つ。私に果たしてこの3著者のように何かが起きたときに助けてくれる人が周りにいてくれるだろうか…。

*1:一般的な感覚からすれば120万はえらく高いだろうが、研究機械としては高くはない。上位機種は脳波測定が可能で、720万まであったりする。tDCSは原理的には簡単で、それこそ単に脳刺激するだけなら数千円で自作できないことはないが、研究目的に性能が保証された装置はそれなりにするのだ。

*2:これが数字的に実際にどうなのかは余りちゃんと調べたこと無いので、今度書いてみたい。脳細胞というか脳の神経細胞(ニューロン)は大人でも一定程度再生をしていることが知られている。ただそれは海馬などの脳の一部に留まるし、脳に含まれる神経細胞全体から見たら僅かな話。

*3:人の言語中枢は多くの人が左半球。特に右利きの人は9割。左利きでも6割以上が左半球に言語中枢を持つ。なので、左半球損傷では、言語表出が難しくなるタイプの失語症状を呈しやすい。言葉はわかるけど、上手く出せない、というのは本人には苦痛で、抑うつ的になりやすいのも特徴。

経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)入門 (1)

2011年、イギリスの総合科学誌Natureで紹介されたのは、経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation: tDCS)という脳を直流電流で刺激する怪しげな機械とその方法だ。


www.natureasia.com


以下、論説の内容を1つ引用(太字、下線はdneuro)。


2007 年に Boggio と Fregni は、背外側 前頭前皮質に tDCSを行うと、被験者がリスクを冒さなくなる場合があることを 報告した。研究チームは、健康な大学生たちに、コンピューターのキーを押して画面上の風船に空気を入れるゲームをプレイしてもらった。このゲームで は、空気をたくさん入れるほど仮想の金がたくさん手に入るが、もし風船が破裂すれば、獲得した金をすべて失ってしまう。すると、tDCS を受けた被験者は、受けなかった被験者に比べてあまり欲張ろうとしなかった。この実験結果から、依存症にも適用できる可能性が考えられる。Boggioは、依存症では「抑制制御」が効かなくなっているのだと話す。Boggio は、Fregniらととも に、2008年に3つの研究を発表し、背外側前 頭前皮質を刺激した後では、酒やタバコ、甘い菓子を飲み食いしているビデオを被験者に見せても、それらを欲しがる気持ちがあまり起きないことを示した。研究チームは、最終的には禁煙の臨床試験で 同じ方法を試してみたいと考えている。


これはtDCSによる電気刺激が、危険回避に関係した選択を変えた可能性を示し、要するにtDCSは人の行動を変えうることを示唆している。使いようによっては、彼らが言うように依存症への治療になるほか、自分の能力を高めたり、また人の行動を変えてしまうような悪用にも繋がりうると予想される技術だ。


tDCSの基本


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tDCSでは、図(a)のように、人の頭に電極パッド(赤と青の四角いやつ)を当て、弱電流を頭皮から流す。電流到達先の目標は大脳皮質だ。電流の強さは0.5mAから2mA、これは9Vの乾電池 (あの四角いやつ)で十分に作れる程度の弱さで、流されてもせいぜい「チクチク」する程度に過ぎない。それを頭皮という脳が入っている頭蓋の外側から当てるので、「経頭蓋」という。御存知の通り電流はプラスからマイナスに流れるので、電極パッドにはプラス側とマイナス側があり、プラスサイドを陽極(anode)、マイナスサイドを陰極(cathode)と呼ぶ。基本的には陽極を当てた直下の大脳皮質の機能を上げ、逆に陰極を当てると直下の大脳皮質の機能が下がる、とみなされている。


tDCSの基本をまとめてみる。


・目的は大脳皮質の活動を変化させること。
・刺激は0.5~2mA程度の弱い直流電流を5~30分。
・刺激したい脳部位直上の頭皮から与える。
・基本的には非侵襲的な刺激であり被験者は電極位置に僅かな痒みを感じる程度。


どんな効果があるのか?


このtDCSを使った研究は近年その報告数が飛躍的に増大しており、図(b)は医学系論文検索サイトであるPubMedで検索した2001~2017年の17年間の論文数である。見て分かる通り2000年代には世界的に見ても報告数が年間数件しか無かったのに、この数年の伸びは著しく、2017年には714件。今年に入ってわずか1週間の間に既に33報報告があるから、単純計算で今年は1700報以上の論文が発表される可能性もある。


事程左様に急激に研究が進んでいるのは、もちろん効果が高いと期待されているから。


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その効果は、初期には認知機能、運動機能、感覚機能の強化や抑制を中心に報告されてきた。例えば認知機能を担う大脳の前方部分(前頭前野)にtDCSの陽極刺激を与えれば作業記憶が改善したり、逆に小脳に陰極刺激を与えれば作業記憶が低下したなどの報告。運動神経に司令を出す第一次運動野に陽極刺激を与えれば巧緻運動障害が改善し、感覚を知覚する第一次感覚野に陰極刺激を与えれば触覚が鈍くなるなど。


こういった比較的単純な課題での報告に加え、疾患への応用も期待され、片頭痛や慢性疼痛、脳卒中後のリハビリなどへの研究報告が蓄積されつつある。また、精神疾患においても、似たような脳刺激法だがこちらは磁気を使った、経頭蓋磁気刺激法(TMS)と並んで期待されつつあるというところ。


何故脳機能が上がったり下がったりするのか?


tDCSは先に書いたように陽極刺激で大脳皮質の機能を上げ、陰極刺激で大脳皮質の機能を下げる(そうは言っても電流は一方向に必ず流れるから、あくまでも目的の側に当てた電極の側で論を進める)。


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図にあるように、神経細胞はその細胞膜が一定の電位を持っている(膜を挟んで電圧がかかっている)のだが、信号が入ると、細胞膜内外からイオン(主にナトリウムイオンとカリウムイオン)の流れが生じ、膜の持つ電位がプラス方向に傾いたりマイナス方向に傾いたりする。


ものすごく大雑把に言って、膜がプラス方向に傾くと神経細胞が興奮しやすくなり、マイナス方向に傾くと活動が抑制的に向かいやすくなる。


tDCSをかけると、直下の脳皮質に分布する神経細胞で同じ現象が起きると考えられている。基本的に細胞膜の電位が上がると神経細胞は興奮側に傾いて、受けとる信号を強化する方向に働くし、細胞膜の電位が下がると受けた信号を弱める方向に働くので、陽極刺激によって神経活動は強化され、反対に陰極刺激によって神経活動は阻害される。


実際にtDCSの前後で、それは細胞の興奮がしやすくなる(しにくくなる)ことで確認されている。図のように、例えば運動野にtDCS陽極刺激を一定時間行った後に、手の筋活動を誘発させると、筋肉が発する筋活動が筋電図上で増大したり、筋収縮の持続時間が増すことが多くの研究で確認されている。つまり陽極刺激によって、筋肉に動けと司令する神経細胞の活動が高まるのだ。陰極刺激ならその逆。


tDCSは基本的には危険が少なくて取扱いやすい


そんなわけで、臨床応用に大いに期待したいtDCS。危険性は?というとこれが極めて少ないと言っていいが、考えなきゃいけないのは大きく2つ。電流の強さと、効果の持続性。


気になる電流の強さは微弱で、刺激している間は頭皮が「チクチク」する程度。しかも数分もすると何も感じなくなる人も多い。もっとも、dneuroもそうなのだが、一部に敏感な人はいて、そういう人は刺激中ずっとそのチクチク感ないしはピリピリした感じが続くため、快適とは言えず、終了後に何となく頭痛がしないでもない。これは電流の強さに依存し、1mAでは感じても0.75mAでは感じなかったりする。頭皮上の感覚と刺激による効果の関係については特に関係ないはず。


また、電極の大きさは、図のように通常大きめのパッドを用いる。図はドイツneuroConn社のものだが、通常サイズは5cmx7cm=35cm2の長方形。一方で小さいサイズは3cmx3cm=9cm2。この5cmx7cmという通常サイズは、小さな手のひらサイズ。結構大きい。


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同じ電流の強さなら、小さい電極のほうがピンポイントに強く脳に刺激を与えられるのでは?と考えた方、それは正しい。面積あたりの電流密度が大きくなる小さい電極のほうが脳を効率的に刺激する意味では利点がある。


大きい電極は電流が分散され、直下の脳刺激において必ずしも十分とは言えない。


それでも小さい電極を使わないのは、小さいとそれだけピンポイントに電流が流れるため、刺激も強くなり、不快感が増大し、場合によっては火傷もしかねないから。そのため、脳の刺激という面からは余り大きいサイズにはしたくないのだが、一定の妥協をしてのサイズということになる。


さて、効果の持続性という面はどうか?


もしtDCSが劇的に脳機能を変えてしまうとして、それがずーっと続くのは、良い影響ならいいかもしれないが、悪い影響がずっと続いてしまったら困るのでは??

それも今のところは余り考えなくていい。


というのも、効果は、tDCSで刺激している間か、終わってしばらくせいぜい数時間以内に限られているからだ。むしろ、どうやって効果を持続させるか、を実現させたいと考えている状況。


このことは、実験という限定された場では非常に有り難い。神経活動を抑制させるのは、説明を受ける立場として何となく脳機能を悪化させているのではと思いがちだが、その影響が一時的なら実験に参加しやすいだろう。


強い懸念は今のところ無いのは安心していい。


DC-STIMULATOR Plus


tDCS研究に使われている最もポピュラーな機械の1つ。ドイツneuroConn社のもの。およそ150万円。実を言うとtDCSは弱い直流電気刺激を与えるだけだから、乾電池を使って極めて安価に作成可能で、アメリカではDIYする学生が後を絶たないという。が、研究用に用いているのは刺激時間中の電流供給が極めて安定しており、信頼性が高く、様々な条件設定が可能。150万というと高い!と思われがちだが、医療機器としては安い方。でももっと安く良い機械が欲しいけどね…。



今月号の日経サイエンス。医療の話題は「胎盤の不思議」。胎盤というのは不思議な臓器で、母親から出来るのではなくて、胚(受精卵から発達したごく初期の個体)由来だから、母親にとっては異質な細胞の固まり(半分は父親の遺伝子)。なので、母親の免疫系がこれを取り除かないのは不思議。2015年にブラジルで流行し、妊婦が感染すると小頭症の子どもが多く生まれたジカウイルス感染。母親から胎児にどのようにウイルス感染が進むか現在研究中とのこと。本稿ではないが、母マウスは、妊娠し胎盤ができて胎児と共存するようになると一部の胎児細胞が脳に到達するという。人間も同じなら、出産後の女性は脳的にも出産前とは違う人間になっている。

目の前の誘惑に耐えるのは難しい

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結構有名な心理実験にマシュマロ・テストというのがある。
実験では子どもの目の前にマシュマロを1個置いて、こう告げる。


「20分後に私が戻ってくるまでにこのマシュマロを食べずにいたらもう1個あげる。でもそれまでに食べちゃっていたらあげないよ」


日本人にマシュマロの魅力は今一歩足りないという気がするが、アメリカの子どもには至上のお菓子であることもわかる動画を是非見て欲しい。


www.youtube.com


英語だけど、子どもたちの苦悩する表情は笑える。


このマシュマロ・テストは、子どもたちの自制心、楽しみを後に取っておいて今頑張って苦労しようという好ましい性質(?)を持っているかどうかを簡単に測れるが、神経学的な解釈を考えてみる。


目の前の快楽に抗うのは難しい…

人間誰しも将来の報酬と今すぐの報酬を比較したらすぐに欲しいもの。来年貰える可能性のある1万円と、今すぐ貰える1万円なら誰しも今欲しいだろうが、今すぐ貰えるのが5000円ならどうだろう?


それでも5000円を選ぶ人は多いだろうと思う。5000円と1万円の価値がどれほどの意味を持つかにも依るが、不確実な来年を待つより今得るのが合理的とも言えるし。


ともあれ、将来の報酬というのは今から考えてもピンと来ない。これを報酬の時間割引という。好きなこと、より良い結果というのは、「今」貰えればそれに越したことはなく、1年後とか2年後に良い結果が待ち構えているとしても、「今貰える大きな報酬」の魅力の方が喜びとしては大きい。*1

bit.ly

大阪大学の田中先生の研究がその神経基盤を明らかにしてくれている。*2


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図に描いたように、将来の報酬というのは待ち時間が長いほど低くなる傾向にある。この神経学的に言う「報酬」は金銭の意味ではなく、嬉しい、楽しいといったポジティブな気分や快楽と考えていい。


楽しみも、それを得るための待ち時間を考えたとき、待ち時間がどんなに長くても魅力的なものもあれば(例:好きなアーティストのコンサートとか)、長い待ち時間には耐えられない(例:飲食店の行列とか)ものもあったりする。待ち時間が長くても魅力的な報酬の時間割引は小さく、待ち時間が長いと魅力が薄れる報酬の時間割引は大きい。


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さて、損失もこういった時間割引効果を持つ。そして、一般に、損失の時間割引は報酬のそれより小さい。図のように、将来の報酬の重みと損失の重みでは、損失の方が重く、今考えても大きなことに感じられるということだ。例えばリンク先記事にあるように、1年後に100万円貰える、よりも、1年後に100万円支払えと言われる方が精神的に重み(ショック)が大きい。


日常的な物事を判断するときにも、将来の報酬(良いこと)や損失を考えて行動出来る人、は様々なことを計画的に実行できる冷静な人と言えるだろうが、損失の重みが強く感じられない人は将来の為に努力をすることが難しいようで、例えば肥満率が高いという結果がある。普段の生活で考えてみるとこんなのが例になるかな。


・再来年の受験で成功する`ために今目の前の新刊マンガ本を読まない。
・半年後に10kgのダイエットに成功するために今目の前のケーキを我慢する。
・20年後の貯金を少しでも多くするために、この前出たiPhoneXは買わない。


どうだろう、将来の報酬(より良い結果)を得るためとはいえ、その結果が出るのが大分先のために、「今これをしたからってまあ大丈夫だろう」と思える人は多いはず。でも多くの人はその「今だけ」が積み重なって目標を達し得ない。「明日結果が出る」ならいずれも我慢しやすいはず。


報酬と損失の時間割引の脳内基盤とADHD

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こういった報酬や損失の重みの感じ方とそれを踏まえた意思決定には、線条体という脳部位とセロトニン神経系が強く関わっているようだ。


そしてADHDはこういった報酬と損失の時間割引の感じ方に問題を抱えていることは多くの研究から明らかで、多分それが「やらなければいけないのはわかっているけど、今手をつけられず、後回し」がADHDに多い理由なのだろう。


以前話題にしたような報酬系の弱さ(⇛学習できないのは報酬系の不全が問題)、と相まって、なかなか学習できないことにも本人にはどうしようもない神経基盤を抱えているのだ。だからといって、それを改善できない、ということではないはずだけど…。


マシュマロ・テスト:成功する子・しない子

マシュマロ・テスト:成功する子・しない子


冒頭のマシュマロ・テストを1960年代に考えた、スタンフォード大学のウオルター・ミシェルの著書。このテストの意義は、子どもたちの欲求の先延ばしの性質が彼らの将来に影響があったかどうかを判定できた、という点にある(著者によれば)。長く待てた子どもたちは、待てなかった子どもたちよりも、大学進学適性試験の成績が良く、肥満指数が低く、自尊心が高く、目標を効果的に追求し、欲求不満やストレスにうまく対処でき、中年になっても成功していた割合が高かったという。うーん、息子は駄目だな…。



人のあらゆる行動は快感をベースに出来ている、と言っていいとdneuroは考えている。その背景にあるのが本書に詳しい報酬系のメカニズム。ある経験が、脳内の腹側被蓋野と呼ばれる部位を活性化させ、そこに繋がる側坐核前頭皮質、背側線条体扁桃体といった脳部位にドパミンが放出されると快感に繋がるという。この快感回路が酒や麻薬の依存を作り出す背景にあり、普通は娯楽や良いことであるギャンブル・セックス・ランニングなども依存にさせ得るのだと。
ギャンブル依存になる背景として、人の脳は、報酬そのものが大きいよりも、自分で行為をして(例えばスロットを引く)報酬に達せられるニアミス経験をするほど快感回路が活性化されるのだという。依存というと意志の弱さが責められがちだが、もともと我々の脳にはそうならざるを得ない神経ネットワークが埋め込まれているのだ。*3



1440分の使い方 ──成功者たちの時間管理15の秘訣 (フェニックスシリーズ)

1440分の使い方 ──成功者たちの時間管理15の秘訣 (フェニックスシリーズ)

  • 作者:ケビン・クルーズ
  • 出版社/メーカー: パンローリング
  • 発売日: 2017/08/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


マシュマロ・テストが示すように弱い自制心の背景には抗えない脳の構造がある。でも、人間なのだから持って生まれた性質にもなんとか対処法を考えていきたいというもの。1日は1440分しか無い!と戒めるこの著者の先延ばし癖克服法は確かに取り組めば役立つかも、と思わせる。モチベーションを高める方法は人それぞれに色んなやり方があるけど、「なりきる」は新鮮なやり方かも。「私は健康的な食生活をしている」「私は社内トップの営業マンだ」…と自分に語りかけるとその価値観が刷り込まれ、自分の誘惑に負ける行動に自制がかかるという。確かにちょっとやってみてもいいな。私は名医だと語りかければ名医の行動ができるだろうか…。

*1:窃盗とか、レイプのような犯罪もこういった時間割引に耐えられないというのが影響しそうだ。目の前の女性の気を引くのに色々やって頑張った結果として関係を持つよりも今叶えたい…と思えば行動が違ってきてしまう。

*2:どうでもいいがdneuroは田中先生が前職である企業にいた時に講演を聞いたことがある。失礼ながら「物凄い才女」という印象だった。

*3:依存症は意志の問題というより、元々その人の持っている快感回路に刺激が悪い意味で上手くフィットしてしまって成立した病気だから、なってしまったことを責めるのは酷。でも回復にはその人の意志が絶対必要なのも自明。依存症は、発症に本人の責任は無いが、回復には責任を持たなければいけない病気。

ヒトはなぜワクチンを疑うのか (2) 

インフルエンザの流行を都が認めたらしい。自分もそろそろ打ちたいが今年は不足しているインフルワクチン。今回は以前書いた続編を。


ヒトはなぜワクチンを疑うのか(1)


初めにdneuroの立場を表明するとすれば、ワクチンは一定の感染症を予防し、不幸な感染者を減らすこと、それによって社会が公衆衛生的に計り知れないメリットを享受しているというスタンス。


要するにワクチンは役に立つ。


一方、ワクチンへの懐疑心、不信は消えない様子。


・病原体を身体に入れる、という余計な作業という気がする
・そういう余計な作業が一大産業になっていて、製薬会社や医者が大儲けする軍産複合体ならぬ医産複合体ができている気がする
・そういった構造を守るために国がワクチンを推奨している


こういったところかなあ…


以前も書いたけれども、少なくてもクリニックレベルではワクチンを打ったからと言って正直そんなに儲からないと思う(⇛ワクチンと自閉症、あれこれ)。また、基本的に、ワクチン不要論の意見には都市伝説や誤った研究解釈、短絡的な暴論を一般化しているのが目立つので、正直与しにくい。


今話題の本は困る点が多いなあ

ワクチン副作用の恐怖

ワクチン副作用の恐怖


さて、今話題になっているこの本書。

近藤誠氏は言わずと知れたベストセラー(人によって名著でもあり迷著とも)、「患者よ、がんと闘うな」の著者で、慶応医学部放射線学科にいた人。


さて、今度の近藤氏の本で、dneuroとしては以下4点指摘してみたい。


1.自己体験をもとにしたインフルエンザワクチン不要論の展開はやめれ


体育会系議論というと体育会系の人に怒られてしまいそうだが、自分はこうだったから~はやめようよ、と言いたい。


曰く、
「病原体に感染する機会をできるだけふやせば、それだけ免疫システムが成熟し、充実するはずです。」

だが、1回の感染が命取りになることもあるのを忘れるなよと言いたい。あなたが健康なのは喜ばしいが、誰もがあなたのようには強くない。


そもそもインフルエンザで重症化する人は少数派。大多数はワクチンを打とうが打たなかろうが、また発症しようがしまいが、流行によって超重症になったり、死ぬようなことは滅多にないわけだが、その滅多にない悲劇を無くしたいと思わんのか。



2015年の感染症発生動向調査によれば、2009-2015年の年齢別インフルエンザ脳症数は0-4歳群で202例、5-19歳で408例、そして死亡数は0-4歳で14例、5-19歳で20例(⇛インフルエンザ脳症について)。



そう6年で未成年の34人もがインフルエンザ脳症によって命を落としているわけで、これを無視して、インフルエンザは放置してむしろ罹った方が免疫がついて良い、とは言えないだろう。


尚、脳症発症者においてワクチン接種率がどうだったか、は気になるところ。ある医師の記載ではインフルエンザ脳症発症者にワクチン接種者はいなかった、という記載はあったが文献的根拠まで見つけられなかったのであるなら見つけたい。


また、インフルエンザ脳症自体はワクチン接種で予防できない。言い換えればワクチン接種しても、罹ってしまったらワクチン接種歴は残念ながら関係ないようだ。
ただ、罹患率を減らせることは確かなので、そういう意味で例数は減らせるだろう。


インフルエンザ脳症について興味ある方はこちらを。
インフルエンザ脳症ガイドライン 厚労省インフルエンザ脳症研究班(H21年9月)


2.自閉症ワクチン説を肯定するな


精神科医として本当に困るのは、ワクチンが自閉症を誘発するという虚言を率先して広める医者がいるという事実。ため息出すしかないというか。


そもそもがウェイクフィールドというイギリス人医師の嘘論文に端を発するこの説が未だに広まっているのは、ワクチンに含まれていたチメロサールという水銀化合物への誤解であったり、どこかに原因を見つけたいという主として親の欲求からなのかと思う。以前それらのことを書いたので、参考になれば。


自閉症の原因はワクチンや水銀じゃないよ



ワクチン接種率の上昇と自閉症の発症数が相関しているじゃないか、という人に対しては以下、考えてもらえるといいかな。


・必ずしも相関しているとは言えない(上記リンク参照)。


自閉症(ないしは自閉症スペクトラム発達障害)は、診断基準の変遷と共に診断数が増加したが、かつては多かった誤診が減っているはずで、さらに以前気づけていなかった人を気づけるようになった。昔もいたのだ。


・相関は原因と結果を示すものではなく、例えば自閉症診断数と携帯電話の普及、自閉症診断数とインターネット利用人口、自閉症診断と高齢者数の増加、とか見つけようと思えば相関が見つかるんじゃないかな。


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図は試みに作ってみたグラフで、青は嵐のファンクラブ会員数の増加を示しているが、オレンジの曲線もそれと全く一致するかのように増えている。
実はこのオレンジは65歳以上人口に占める生活保護受給率の推移。
つまり、嵐ファンの増加と、お年寄りの生活保護受給増は極めて密接な相関が認められている。*1


が、嵐のファンが生活保護を増やすわけでもないし、65歳以上の生活保護者が嵐のファンを増やしているわけでもないのは明らかであって、要は2データ間のちょっとした相関なんていくらでも見つかるから、あまり短絡的に2つの現象を繋げてはいけないということ。


3.川崎病がBCG接種で起こると殆ど明言している


川崎病とBCG接種については初耳だったので調べてみたが、これはまた…という内容。


川崎病は乳幼児がかかることの多い自己免疫性の疾患で何かしらの感染症への背景にして、苺状に舌が腫れたり、皮膚が剥がれ落ちるような幾つかの病変の発症を特徴とする疾患。


この川崎病が残念ながら年々増加傾向にあり、最近では年間10000人を大きく超えている。1つには小児科医の専門的な診断が正確にされてきたということは要因で、必ずしも以前にはいなかった、というわけではないが、増えているのも確か。


近藤氏はそこをワクチンと結びつけたかったのだろうか。
BCG接種で、というのは明らかな誤解ないしは曲解。確かに、川崎病になるとBCG接種部位の発赤が目立つようになり、診断の一助となりうる。でもそれは原因ではなくて、BCG未接種でも川崎病にはなるわけで…


もしBCG接種が川崎病を起こすのであれば一大医原病として大騒ぎになっているだろう。官民あげてそれを隠すような利権はどこにも存在しない。



shufu-blog.com


4.ワクチン接種後すぐに死亡した原因をワクチンとするには無理があるのではないか


ワクチンの副反応については、厚生労働省の厚生科学審議会がワクチン定期接種や安全性の評価をし、報告されたケースについてもワクチンによる副反応ゆえと言えるかを検討している。近藤氏によるとこの審議会での議論は「ワクチンは安全ありき」だから、報告例がワクチン由来の死なのは(近藤氏的には)明らかなものなのに、十分な議論もなく、結論としては安全と評価され、副反応報告のよる懸念が握りつぶされてしまうというのだが…


その1つに、2012年に起きた日本脳炎ワクチン接種後10分後から容態がおかしくなり、心肺停止、蘇生処置虚しく亡くなった10歳の子の事例が挙げられている。


詳しくは⇛ 日本脳炎の予防接種死亡例について(pdf,2例目)


この10歳の子には特殊な背景があり、広汎性発達障害の診断のもと、アリピプラゾール(商品名:エビリファイ)とピモジド(商品名:オーラップ)という抗精神病薬セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)という抗うつ薬が処方されていた。


近藤氏は、これはワクチン直後の死だから、ワクチンとの因果関係は明らかで、それなのに審議会ではワクチンとの因果関係を否定する強引な議論がなされた、報告論文の結論も強引であり、著者たちは案の定ワクチンの専門家だった…と書く。



うーん、どうかな。これに関しては審議会議論を読むと決して各委員たちが結論ありきで議論を述べていないことがわかる。ある委員は、「接種直後の心停止症例で、ワクチン接種との因果関係は強く考えられる」ときちんと述べている。ただ、問題は、「ワクチン接種」という行為そのものがかなり乱暴にされたため、痛みや恐怖が内服薬によってありえる心電図異常(QT延長という)から心停止を誘発したのではないか、と考察していること。dneuroもその可能性のほうが高い、と感じる。要するに、ワクチンの中身(成分)をこの10歳の子の死と結びつけるほうが短絡的であり、これをワクチンによる副反応死亡例とする近藤氏の主張のほうが強引過ぎる気がする。*2


の4点。それ以外も沢山あるが、それは他の方の反論にお任せ。


流行のない感染症のワクチンを打つことで重篤な副反応に苦しめられたらそりゃ理不尽だ


例えば…
感染症Aにかかった時の脳炎発症が1/1000人だとする。
Aワクチンによる脳炎発症は接種100万人あたり1人とする。


感染症Aにかかるのはワクチンが無ければ年間1万人とすると、10人が脳炎を発症する。
Aワクチン接種対象が200万人とすると、脳炎発症は2人だ。


理論的には確かにワクチン接種のほうが脳炎発症が少なく済むわけだが…

そもそも感染症Aが殆ど流行らず、今年の感染は1000人しかいなかったら、脳炎発症は1人だから、ワクチンによる脳炎発症を下回ってしまう。


おまけに脳炎発症は高齢者に多く、対してワクチンは若年者を中心に打たれたら…とか、そもそもワクチンで脳炎発症した人は、たとえ感染症Aが流行っても罹患したとは限らず、罹患したとしても脳炎を発症したとも限らない。そう、自分個人に関してはワクチン打とうと打たなくてもそもそもその感染症にかかるかすら未確定(というか確率的には高くない)というところで、ほんとに必要なの?という疑問が生じるわけで、そこは幾ら理論的にワクチンの便益を説かれても肌感覚として納得いかない部分だと思う。


さらに、当然ワクチン接種対象を増やせば増やすほど理論上の脳炎発症者は実数として増えるし、ワクチンによって発症が大きく抑制されてしまえば、終いには感染者数0、つまり感染による脳炎はいないのに、ワクチンによって何人かは病気になってしまう、というパラドックスが生じる。


ポリオワクチンはこのパラドックスに陥っているのではと思えてしまう。
そういう意味で、近藤氏のポリオに関する記述については賛同できる部分があったりはするのだが…。


横浜市衛生研究所のポリオのページを参照したい。

横浜市衛生研究所:ポリオ(小児麻痺・急性灰白髄炎)について


ポリオは口から入って感染して、腸内で増殖し、一部が中枢神経に入り込んで脊髄や脳幹部で運動神経細胞を侵し、麻痺症状を起こす病気。日本では2012年8月31日まで口から飲む生ワクチンが用いられていた。

生ワクチンは生きている弱毒化ウイルスを使うのだが、これが腸の中で増殖する。その中で、稀に遺伝子変異を起こし、それが毒性を強くしてワクチン接種者に麻痺を起こさせてしまうことがある。


1980-1994年にアメリカ合衆国で生ワクチンが3億300万回投与された。このワクチンが原因となる麻痺が起こったのだが、0.00000042%、実に240万回に1人という稀な患者発生だ。免疫が正常な人に限ると、620万回に1人。とはいえ、実数125人という人数を見て少ない、という感覚にはなるのは難しい。有り難いことに、2000年からの不活化ワクチンへの切り替えによってアメリカでの患者発生は無い。日本でも既に切り替え済み。


一方で世界的には一部地域での野生型ポリオの流行は確認されており、2014年にはパキスタンアフガニスタンでの流行が国際的に問題視されていた。


ということで、やはり現在の国際的に移動が激しく、どこにどういう病気が伝播されてもおかしくないことを考えると…野生型の流行があるポリオのワクチン接種そのものは必要と考える。通常の生活範囲内で感染機会に遭遇する可能性はあまりにも低いのは否定できないが…。



まとめると、ポリオワクチン接種は現在でも必要。ただ、それは麻痺の可能性のない不活化ワクチンであるべきだろう。生ワクチンによる麻痺の可能性がどんなに小さくても、それは受け入れ難いリスクだ。


飛騨のさるぼぼ NO.9 (赤:さるぼぼ柄)

飛騨のさるぼぼ NO.9 (赤:さるぼぼ柄)


飛騨のかわいいお土産、さるぼぼ、は疱瘡(天然痘)の魔除けでもあるという(⇛Wiki)。


かつて世界中で猛威を奮った天然痘は現在では撲滅された代表的な感染症。致死率も高く、助かってもあばたが顔に残って苦しめられた。歴史上の人物でも、例えばエリザベス女王天然痘罹患者で、顔にはあばたが残った。顔を濃い化粧で覆ったエリザベス女王だが、それは天然痘の後遺症を隠すためだったのだ。他にも、ネイティブ・アメリカンやアステカ族は、ヨーロッパ人の持ち込んだ天然痘によって激甚な被害を負った。何せ毒性・感染性共に高いので、いざ流行すると万人単位の死者を出す。1770年のインド流行では300万人が命を落としたという。


そんな天然痘は現在撲滅されたからこそワクチンを打たずに我々は安心して暮らせる事実は忘れないほうがいい。


破船 (新潮文庫)

破船 (新潮文庫)


陰鬱さが漂う著作も多い吉村昭のこの本は、かなり昔の僻地の貧しい漁村が舞台。時折難破船が漂着するとその中の物資が村民を潤すことになる。もし船員が生きていたとしたら残念なことに。ある日漂着した難破船の中には赤い服を着せられた船員たちが皆死んで横たわっており…という話。まあここで紹介するのだから何故そうだったのかは想像の通り。


アフリカの蹄 (講談社文庫)

アフリカの蹄 (講談社文庫)



著者は精神科医作家。純然たるミステリで、時代は仮想国(といっても明らかに南アフリカ)のアパルトヘイトが無くなった直後頃。1994年に人種隔離政策として悪名高いアパルトヘイトが廃止された同国も、白人支配層の黒人への差別意識は消えず、一部白人層が天然痘を黒人社会に流行させようと試みているのを発見したのは留学中の日本人医師だった…。その証拠を掴もうと彼は奮闘する。


検証 陰謀論はどこまで真実か パーセントで判定

検証 陰謀論はどこまで真実か パーセントで判定


ワクチン不要論が説かれる時に、ワクチンの必要は製薬会社と国、医療界が結託しているのだと、容易に陰謀論と結びついた論調が取られることが残念でならない。本書はワクチンを扱ってはいないが、「アポロ11号は月に行っていない」「9・11テロはアメリカの自作自演だった」や「地球温暖化説はデッチ上げだ」などなどの陰謀論が俎上に挙げられて、しっかりした証拠を基にいやそんなこと無いよ、と解説する。陰謀論は非常に細かくて厄介だったりする。アポロが月に行ったなんて、疑うべくもない歴史的事実なのに、事実の根拠っていざ探ると難しいのだ。著者の1人が述べているように「陰謀論に本気で反論するには、その詳細を徹底的に調べてやるという覚悟が必要」で、陰謀論の説く矛盾に1つ1つ反論するための準備は大変。そんな陰謀論への免疫をつけるのにこの本を。



最後に、ワクチンは確かに個人レベルで見るとその利益に疑問を持ったとしても仕方のない面もある。今本当に必要なものと、近いうちに必要なくなる筈だがまだ続けたほうが良いもの、どちらかと言えば個人の選択になるけど打っておくと万が一罹った時に比べて医療費がずっと少なく済む、といったような場合分けも可能。いずれにしても、批判するなら、結論ありきの陰謀論ではなく、医学的・医療経済学的な視点で議論を喚起して欲しい。近藤氏の本を読んでワクチンが怖くなった方は、氏ががん治療を論じる時もそうだったが「全て」を否定しようと極論に走ること、そして氏の文献やデータ引用を注意深く見ると一部に決定的な無知ないしは故意に近い曲解が含まれていることを考えてみて欲しい。

*1:生活保護受給率は内閣府のデータから(http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2013/zenbun/s1_2_2_05.html)。嵐の人数はこちらのblogを参照(http://yumi55.com/archives/2353)。嵐ファンはやはり多いのね…。

*2:この子はワクチンをかなり怖がっていたようで、診察室を出たり入ったりしていたという。かなり強引にワクチン接種をされた様子。かわいそうに。中止ないしは延期の選択肢を考えてよかったのではと思う。ちなみに心電図測定はされておらず、心電図異常も推測にすぎない。