無届けさい帯血医療のニュースで偽物医療に思うこと
先日、他人のさい帯血を国に無届けで投与したとして東京渋谷のクリニックの医師を含めて6人が逮捕されたようだ。
さい帯血(⇛Wiki)はへその緒に含まれる胎児血液のこと。これを使った代表的な治療対象は、白血病であり、骨髄移植に並んで、移植治療の有力な選択肢となる。骨髄移植は、他人の骨髄を、HLA型という白血球のタイプがあった人に移植することで新しい血液細胞を造ってもらう医療だが、他の移植医療同様、ある種の拒絶反応(移植片対宿主病:GVHDという)から逃れられない。しかし、さい帯血を使った場合にはその拒絶反応が弱く、さい帯から採取するので、ドナー(供給側)の負担が無いメリットがある。一方で、量が少なかったり、治療期間が伸びるデメリットもあったりする。
また、さい帯血の当人(さい帯血は胎児の血液)が将来病気にかかった時のためにとっておく、という選択肢も考えられる。万が一輸血が必要になったり、白血病が発症した時に、自らの血液移植が考慮できればこれほど安全なものはない。*1
このさい帯血が、そういった本来の目的ではなく、さい帯血中には様々な幹細胞(臓器細胞の元になる細胞)が含まれていることから美容やアンチエイジングに効果を期待している人が多いらしい。残念ながら根拠レスなのだが、そういった期待に乗じてやっているクリニックがあったということだろう。供給数が少ないとうこともあるだろうが、基本的に人の弱みにつけ込む悪徳医療なので、高額だ。
偽物医療には共通のキーワード
以前このblogでも書いた(⇛詐欺医療に騙されるな)が、偽物の医療には幾つか共通しているキーワードがある。以前書いたのは、
どんな癌でも治る、免疫力をアップする、気の流れを正す、 邪気を取り除く、生命エネルギー、現代医学では治せない、 学会では認められない、誰もが習得できる、克服した方々の体験談
といったキーワードで、それは今でも変わらない。
改めて強調しておきたいポイントは以下。
1. どんな病気にも効く「万能」な治療法は存在しない
2.「超自然、スピリチュアル、波動、量子、~エネルギー」は偽物の目印
3.「学会では認められていない」という殺し文句に気をつけよう
4.「体験談」は危ない
5.医師自身がビリーバーさんなこともある
あらゆる治療に完全なものは無く、メリットとデメリットの双方があることは念頭に置いて欲しいと思う。残念ながら何にでも効く治療なんて無い。だから、効能として、「どんな病気にも効く」「あらゆる疾患の原因として~があります」みたいな治療法の全能性や、極端に包括的な疾患原因を説くような文章を見たらそれだけで嘘と判定していい。
そういった「嘘」は、全て詐欺行為として、施術者が自分の行為が「偽物」であることを認識しているのであれば、まだ改善の余地があろうものです。しかし、実際には医師自身がビリーバーさんであり、正しいと信じてしまっているとある意味より大変です。そういったビリーバーさんたちが多いのは、ホメオパシー、Oリング、メタトロンなどでしょうか。
疑似科学に基づいた偽物医療の最大のキーワードは、「万能」。
波動とか量子とか、「気」とか邪気だとか…そんな計測できないものの流れを正す、といった文句が踊っている「治療法」はとても多いが、現実にないものを根拠にされては困る。
さらに、こういった言葉を使う施術者がその独自な妄想理論を東洋医学的医療と結びつけていることが多いのも特徴で、非常に残念というか…。*2
研究する身からすれば「学会」への信用度が一部の方に低いのは残念。革新的な医療は学会の大物が認めない、とか、そういう治療を推進する側を排除に動くように思われているんじゃなかろうか。
これも前にも書いたが、学会というのはマトモであれば自由な討論がされるし、革新的な医療技術や理論にはオープンだ。通常構成員は可能な限り自らが関わる病期を治したい、何かしらの役に立ちたいと願っているため、もし素晴らしい医療技術があるならそれを取り入れない理由は無い。
体験談の類が強調されるのは、根拠の部分がきちんとしていないからなんだろう。百聞は一見に如かず、実体験に勝るものはない、と思う気持ちは理解できるが、とりあえず以下を考えて欲しい。
・あなたと体験者は違う人間であり、治療の反応性は異なる可能性
(もちろん、副作用も)
・診断と見立てがそもそも間違っていた
(少なくない割合でこれではないか)
・「治った」と思った体験者の実感は体験談を書いた時だけ
(プラセボ効果も確実にあるだろう)
・代替療法にハマる前もしくは同時に受けた標準的治療が実は効いていた
(時間的タイミングが合えば効いたと勘違い可能)
・体験者の自然治癒力が素晴らしかった
(これがあることは否定しない。ごくまれには奇跡もある)
奇跡の体験談に溢れるといえば、高額な「がん免疫療法」。
がん患者の血液を回収し、その中に含まれるがん細胞を攻撃するキラーT細胞やNK(ナチュラルキラー)細胞を活性化し、元に戻すという手法が多い。が、殆どは実際には効果が無い。がんを免疫で治す、というのはdneuroが学生だった20年以上前からマスコミを踊ったが結局実現してこなかった。話題の抗がん剤「オプジーボ」は遂に出てきた免疫系に働く薬なのだ。
さて、偽物医療、と書くものの、これらは詐欺なのか?
「詐欺」が成立するのは他人を意識的に騙す意図が必要なはず。法的には「効果が無い=詐欺」ではなく、詐欺として成立するなら施術者が信じ込んでいては駄目なのだ(だから告発されないのかな…)。
例えばホメオパシーはレメディなる砂糖玉や水を用いるが、本当に信じている医師も多い。dneuroの先輩筋に当たる方が心からのビリーバーになってショックを受けた経験は忘れられないが、彼らに科学的根拠は通じず、詐欺医療をやっている自覚は無い。*3
儲け主義の危うい魅力
疑似科学との境界すれすれという行為(敢えて医療行為とは言わない)を稼ぎにしているクリニックは検索すれば数知れず。
それは、にんにく注射、デトックス注射、ビタミンC注射、グルタチオン注射、それにプラセンタといったところか。点滴療法なるものを謳うのも入る。
ビタミンの場合にはそれぞれの中に入っているのはビタミンB1だったり(にんにく注射)、ビタミンCだったりと普通に食べ物やサプリからとれるビタミンを直接注射することによってあたかも効力がとても増強されるかのように宣伝していることが多い。
デトックス注射の成分はどうやら各医療機関独自の成分配合があるらしい。ビタミンB1やC、それに肝臓機能を補強するという触れ込みのグリチルリチンに抗酸化物質グルタチオンなどをブレンドしているようだ。
大体どのクリニックでも1回の注射2000円~5000円の範囲内か。こういった行為は、その成分が少なくても毒ではない。自費で納得づくならまあ違法性はないわなと思う。
が、明らかに効果に関しては、信じる者は救われる程度の価値でしか無い。ビタミンは食べ物で取ったら?と思うし、グルタチオンも体内では容易に酸化されてしまうしねえ。
点滴はするくらいならスポーツドリンク飲めば?と思うのだが、二日酔いに対する代謝促進目的のビタミンB1投与と水分負荷という意味では効果が無いとは言えないか。ただ、極度の下戸のdneuroは研修医時代に結構やってもらったけど、自覚的辛さはほとんど軽減しませんでした…。
プラセンタ?いやプラセンタ注射液「メルスモン」は複数アミノ酸の配合製剤であり、それに過ぎないというか…食べ物やサプリで十分では?という成分内容。
そのサイトから…
国内の、感染のない健康なヒト胎盤を原料とし、多種アミノ酸を含有しています。ホルモン、たんぱく質は含有しておりません。
酸で加水分解し、最終滅菌(121℃ 30分間)するなど、感染症に対する安全対策を講じていますが、理論的に未知のウイルス等の危険を完全に排除することは困難です。
なるほど、胎盤原料を酸処理し、滅菌のため高圧加熱しているからタンパク質やホルモンは分解して跡形も無いわけで、アミノ酸が残ったわけね。どうやら期待する皆さんが欲しい成分はほとんど分解されているようだ。
眉唾な効果、注射費用、医療機関へのアクセスに使う時間と手間、そして拭い去れない未知の感染の危険などを考えたら割に合わないと思うのだが…。
さい帯血やプラセンタ注射への信仰は「若い血」がアンチエイジング効果を持つという発想から来るのか…実際そういう動物実験はあるのだが、血液は本質的に汚いものであり、もっと直接的なアンチエイジング物質の開発を待ちたいよ(⇛不老の薬があるかもしれない)。
結局これらは、人の何となく良いのではという漠然とした期待や、もっと健康でいるために少しでもいいものを取らなきゃという不安を利用した悪徳すれすれの医療ビジネスとしか思えんのですよ。
というわけで、dneuroの勤めるクリニックでもやればとても儲かると思いますが、やりませんよ。
でもどうしても試したい?
誰だったか失念したが、エビデンスのはっきりしない医療行為でもその効果を確認したければ6回まではやってみて評価してみよう、と書いていた方がいた。
ダメダメと言われてもひょっとして、と期待を持つのが人間だし、少しはやってみないと不満が溜まりそうだ。なので、どうしても試したけければ、6回まで受けてみればどうですかね。
- 作者: サイモンシン,エツァートエルンスト,Simon Singh,Edzard Ernst,青木薫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2013/08/28
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よくある代替医療である、鍼、カイロプラクティック、そしてホメオパシーについて、歴史とともにどんな「根拠」がそこにあるのか、それがどれだけ非科学的かをわかりやすく解説。魔法のような鍼麻酔の映像を見た人がいると思うが、実は事前にしっかりと静脈麻酔薬を打たれていたりという内幕に驚く。また、瀉血のように誤った「標準医療」があった歴史は教訓としたいもの。
わたしたちはなぜ「科学」にだまされるのか―ニセ科学の本性を暴く
- 作者: ロバート・L.パーク,Robert L. Park,栗木さつき
- 出版社/メーカー: 主婦の友社
- 発売日: 2007/09
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ちょっと古いが、著者は物理学教授。詐欺医療もその理論は「科学」的な装いを身にまとう。そうしないと人は欺かれないから。医学だけでなく、宇宙開発、永久機関、エイリアンによる誘拐(アブダクション)なども扱われる。送電線はいかにも強力な電磁場によって周囲に悪影響(例えば白血病とか)を及ぼしそうだが、そのような事実は無いことをこの本で知ってもらうと安心できるはず。
- 作者: と学会
- 出版社/メーカー: 洋泉社
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科学を装う偽物を判別するには訓練が必要だが、どうせなら笑いながら学べるといい。「と学会」はSF作家を中心に疑似科学本の謳う根拠を看破というよりは笑い飛ばす本を多数出しており、一部には反感もあるようだけども、UFOの矢追純一とか、ノストラダムスの五島勉とか40代より上の世代には香ばしい作家陣の著作も俎上に乗って面白い。絶版なのは残念。
- 作者: サイモンシン,Simon Singh,青木薫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/05/30
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本論と関係無いが、紹介した「代替医療解剖」の著者サイモン・シンの出世作。フェルマーの最終定理は超有名な定理(⇛wiki)。誰でも内容がわかるために、そのプロ数学者のみならず沢山のアマチュアがその証明に取り組んでは跳ね返された。定理として予想されて360年、遂に証明したのがアンドリュー・ワイルズというイギリス人数学者。7年間にもわたって秘密主義を貫いて証明したエピソードに驚く。もうあいつも終わった…なんて陰口もあったらしい。数学の天才たちが残した数々のエピソードは絶対退屈しないので誰にもお勧め。数学の素養は要りません。
*1:dneuroの学生時代に小児科で受け持った患者さんが日本で最初のさい帯血移植された女の子。その後無事に育ったはず…と感慨深いのだが、当事者が将来病気になった時や、再生医療に大きな可能性があるさい帯血が十分に管理されていないのは余りに勿体無い。
*2:漢方医学の理論的文脈の中で「気の流れ」「水(すいと読む)や血(けつと読む)のうっ滞」などの説明が出てくることがあるが、現実に存在しているのではなく、東洋医学的治療や漢方を使うための方便と捉えていたほうがいい。そういった「理論」は、東洋医学を発展させたかつての中国人が、目の前の病気の症状や治療のメカニズムを説明するために思念的に作り出したもの。解剖とかしなかったですからね。
*3:ホメオパシーには「微量の法則」というのがあり、効果を期待する成分を薄く限りなく希釈したものほど効果が強まると考える。標準的には100倍希釈を30回繰り返すという。それはもうただの水である。そこには元の物質は原子レベルですら残っておらず、敢えて言えば、水+不純物。
嗜銀顆粒性認知症で説明つくのかな
認知症の種類を問うと4大認知症と答える方が多い。アルツハイマー病(型認知症)、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、そして前頭側頭型認知症。
しかし、臨床をやっているとどうにも当てはまらない人が出て来る。dneuroは外来のみだがそれでもこの10年、ほどほど認知症の方を診てきたと思う。そして大抵の方はいわゆる4大認知症+治る認知症(正常圧水頭症、硬膜下血腫、甲状腺機能低下症など)で迷っているわけだが、時々この人はどうにも既存の診断に(挙げた以外も含む)当てはまらないのではないかという方もいる。
1つは、初期にアルツハイマー型認知症様の記憶障害(記銘力低下)で始まるのだが、次第に性格変化・情動変化、被害的言動が目立つようになり、認知能力の低下自体はさほど進まないタイプ。普通のアルツハイマー病なら余り目立たない人格変化が強いなあと感じる。
もう1つは、前頭側頭型認知症の始まりと思える症状が明確で、診断的に自信を持っていたら、どうにもやはり認知能力の低下が遅く、通常であれば数年で周囲へのレスポンスがほぼ消えて、身体も動かなくなる経過をたどるはずが、そういった面でも低下が見られない。どちらかと言えば穏やかな面が強くなってきて、介護者が楽になる。こちらは前頭側頭型認知症が穏やかなアルツハイマー病に変化した?と思えたりする。
今日紹介するのは前者として、まだ余り医者においてさえ認知度が低い嗜銀顆粒性認知症がその答えなのかなという紹介。ちなみに漢字が難しいが、「しぎんかりゅうせいにんちしょう」と読む。嗜は「嗜好」のしで、銀に染まりやすい顆粒(つぶつぶ)の画像が脳標本に見られることでそんな名前に(変換しにくいったら…)。
嗜銀顆粒性認知症の特徴
なにせ概念が新しい(といっても最初の報告は1987年)ので、診断基準も無いのだが、高齢発症、軽度認知障害、緩徐な進行、易怒的(怒りっぽい)などが特徴。
記憶力低下が出て来ることでアルツハイマー病診断が下ることは多いと思われる。実際dneuroが体験した恐らく嗜銀顆粒性認知症の患者さんたちもこの病態概念が無いとそう診断せざるをえないと思う。診断して経過を見ている間になんとなく違うんだよなあという違和感を感じつつフォローする印象。ただし、合併を否定する概念ではなさそうだし、最初はアルツハイマー病で、それに合併してきたと言えなくもない…とすると認知機能低下が緩徐なことと矛盾するか。
アリセプトは残念ながら効かない
アルツハイマー病やレビー小体型認知症治療薬として一般的に使われるアリセプト(一般名:塩酸ドネペジル)は残念だが効果が無いようだ。
なので、アリセプトに反応しないノンレスポンダーの中に嗜銀顆粒性認知症が紛れている可能性はそれなりにあるのではないか。
頻度は高い
もともと嗜銀顆粒性認知症は高齢者の保存された病理脳標本の中に銀に染まる顆粒が存在することで発見されている。東京都健康長寿医療センターの村山氏の論文を読むと、そういった銀に染まる顆粒(嗜銀顆粒)は凍結保存された脳の672例中323例(48.1%)に、さらに感度の高い染色法では443例(65.9%)に認められたという。
もし、これら全ての症例が嗜銀顆粒性認知症であったとすると、相当高い割合で存在していることになり、実は頻度的には1,2を争う認知症ということもあるのだろうか。
病変の始まる部位に特徴がある
嗜銀顆粒が沈着し始める部位に特徴があるという。それは図のように、大脳の側頭葉の奥に位置する、迂回回(うかいかい、と読む。英語ならambient gyrus)という場所で、記憶に関連し、アルツハイマー病で萎縮の目立つ海馬という部位に近い場所。ここから徐々にその嗜銀顆粒沈着部位が前頭葉や側頭葉に広がっていくという。その進展が広範囲になれば認知症は必発。
回というのは大脳皮質の襞(ひだ)のこと。大脳皮質は肉眼的にはしわしわだが、そのしわの膨らみには「~回」、溝には「~溝」という名前がついている。「迂回回」は海馬に近い部位。恥ずかしながらこの認知症で初めて知りました…。
文献に提案される診断基準
国立精神・神経医療研究センター病院臨床検査部の斎藤祐子氏は昨年の老年精神医学雑誌(第27巻増刊号P.80-87)にて診断基準を提案されている。今日はその紹介をもって終わりとしたい。
臨床特徴
1)高齢発症(嗜銀顆粒が沈着し始めるのは60歳以上)
2)物忘れから始まることが多いが、頑固さや易怒性(怒りっぽさ)に前頭側型認知症との共通点がある。
3)進行は緩徐。日常生活動作(activity of daily living:ADL)も保持される傾向。
4)ドネペジル(商品名:アリセプト)に反応性が乏しい。
検査所見
1)左右差を伴う形態画像。迂回回を中心とする萎縮像がアルツハイマー病と異なる。
2)VSRADスコアがMMSE得点に比して高い(悪い)=認知機能が比較的保たれているのに、画像上の萎縮が強い。
VSRADはMRI画像の自動解析。平たく言って海馬の萎縮が全脳に比してどのくらい強いか?を示す。MMSEはminimental scale examinationという認知機能テストのことでとても一般的。
3)機能画像(例えば脳の血流を見るSPECT)で側頭葉の機能低下に左右差。
4)脳脊髄液の認知症指標物質(タウ蛋白濃度やAβ濃度)の濃度がアルツハイマー病ほど高くないもしくは正常範囲。
診断しても治療法が全く無いだけに、告知もなかなか難しいという気はする。
それでも早期にわかれば介護のやり方に今後工夫の余地が生まれるかも。
- 作者: 有吉佐和子
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認知症と言えば懐かしき有吉佐和子氏の名著。
お嫁さんがお祖父さんを一生懸命介護する姿にそこまでしなくてもと感じるのが今の感覚かなあと。
- 作者: 羽田圭介
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第153回芥川賞受賞作。孫が支える認知症のお祖父ちゃん。文章の感覚が新鮮。どちらかと言えば面白いのは作家の羽田氏。
- 作者: 又吉直樹
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羽田氏と同時受賞の又吉さんの作品。ラストの後が気になります。
夏休み書評2 電子書籍よ広まれ
若い人も紙が好き
愛好家からするとまだまだ普及していないと感じる電子書籍。
研究室のセミナーに来た医学部学生たちに聞いてみると、
「電子は読みづらいからやはり紙の本です」
と答えられたのが3年前。さらに、今年dneuroは講義資料として紙を配布するのを止めたが、一部からは不平が聞かれた。また、子育て中の身としては、本の導入には液晶よりも紙を選択するほうが自然だし、それが短期間に変化するとは確かに思えない。
スマホネイティブに近い世代でもまだまだ本を電子媒体で読むことに慣れていないのねと感じるわけだが、電子媒体に慣れていないことを責めてもしょうがないので、どうすれば普及していくかを考えたいところ。
リンク先ではデメリットとして、値段の問題、端末の問題、読みづらさを挙げ、テキストベースでコンテンツを読ませるkindleアプリに変えてnoteアプリにすることを提案されている。
しかし、dneuro的には結局は出版をめぐる環境改善と端末技術の発展が電子書籍普及を後押しし、数年もすればずっと仲間が増えるだろうと確信している。
まずは漫画と雑誌だ
少ない少ないと思う日本の電子書籍市場も実は世界2位の市場らしい。
米国が確かに圧倒的で、49.4億ドルだが、日本は2位で13.1億ドル、英国(10.1億ドル)、ドイツ(4.27ドル)、韓国(4.09億ドル)が続く。
一方で、市場伸び率はいわゆるBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国)やタイ、トルコなど発展途上国が並んでいる。発展途上国を旅行してみるとわかるが、とにかく書店が少なく、本を手に入れるのが大変で、かつ専門書は全て英語でしか無い。*1
そういった意味で電子書籍市場が拡大しているのは個人的には必然と思える。
日本では出版不況が叫ばれる中でも、電子コミックや週刊誌市場が相当伸びている。
2015年には紙の週刊誌が電子書籍に追い抜かれているし(紙1454億円vs電子1584億円)、なにより電子コミックが急成長中で紙コミック売上の落ち込みを補っている。それに、日本が電子書籍世界第2位の市場というのはある意味見た目だけの問題で、電子コミックの比率が81%と非常に高く、先の世界市場13.1億ドルのうちコミックを抜かせば2.5億ドルに過ぎなくなる。恐らく他の国では日本のように漫画が読まれてはいないだろうから、「本」の電子市場は実際にはまだまだ小さいのだ。
とはいえ、それでも電子市場の拡大を漫画が牽引してくれれば個人的には文句ない。
実際dneuroも今漫画のほとんどを電子媒体で読んでいる。
大人なだけに(笑)ついまとめ買いしてしまい出費がかさんで困っているけど…。
電子図書館はとっくに始まっている
電子書籍の図書館でどんな現状?って調べてみると、実は知らない間にその動きは広まっている。それも結構前から。海外だけかと思っていたら…。
電子図書館のことを、もう少し本気で考えよう « マガジン航[kɔː]
でもまあ正直普通に使うにはまだまだ拡充度合いが今一歩。
圧倒的にコンテンツは足りない。
著作権の問題もあるだろう。
端末対応がPCのみに限定されていたりすることも多い。やはりスマホやタブレット対応にならないと、普通の人は使わんと思うわけで。
個人的には、
コンテンツの充足 (現在出版中の本が最低10万冊)
スマホアプリで読める
読み上げ対応
が条件かな。
暇つぶしに検索するなら国立国会図書館のコンテンツは面白いことは面白い。
歴史的なものを読んでみたければ…かな。
仲間と貸し借りさせて欲しい
dneuroにとって紙の本の価値は、ほぼこの1点だ。
読書仲間や家族と共有したいと思う本があったときに、紙の本であれば貸し借りができる。
でも電子書籍は??
この本良いから買ってみたら?と勧めるのはどうにも難しい。
コンテンツの充足したAmazonで電子書籍の全てにレンタルサービスがあればそれを勧めるということができるだろう。Kindleunlimitedにある本なら事実上それが可能だ。
こちらを使うなら、貸し借りしたい人が利用さえしてくれていたら。
Audibleよりもコンテンツが充足しているし、unlimitedの本は他のkindle本と同じアプリを使うので、聴読にも問題がない。
ただそれでもやっぱりコンテンツの充足感が無い。
個人的に改善・追加して欲しい3つ
・価格を安くして欲しい
洋書を検索するとわかるが電子は随分と安いことが多い。日本は著作権系の制約が多いのだろうが、もし電子書籍が紙の半額にでもなれば普及速度が爆発的に上がるはず。それに聴読して読了数が増えた身としてはお金かかってかなわんのですよ…。
・人にプレゼントできるように
Amazon.comでならそれができる(⇛
Amazon.com Help: Purchase a Kindle Book as a Gift
)。日本でも早くサービス開始してくれ。家族、読書仲間、恋人、親戚、先輩後輩、仕事上の知人。本を贈りたい時ってあるでしょう?
・貸し借り可能にしてくれ
次に貸し借り。
購入時に、人と共有したい人は若干高く買えばできるというのはどうか。
同じ本でも、専有して読むのであれば600円、人に貸し借り(同時には1人だけとかにして)する場合には700円、といったふうに。
もしくは例えばそういうサービスを受けたい人は年間幾らかをAmazonに支払い、貸し借り数(上限あり)に応じてAmazonは出版社(著者)に配分する。
というわけで今日は最近聴了した本をkindle unlimited対応本から。
- 作者: クロサワコウタロウ
- 出版社/メーカー: クロサワ レタリング
- 発売日: 2014/01/15
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深夜特急(1?6) 合本版を思い出させるが、より退廃的な部分を含む。こちら
著者のクロサワコウタロウ氏は漫画家であり、全編バイクでの旅行記。若者の貧乏旅行らしく、行く先々でである人との交流が読ませるのだが、旅行にかかる費用、バイク修理の苦労、大麻への親しみと苦労話がリアル。2ndシリーズはアジアツーリングで知り合った仲間と一緒に南米旅行。合わせて15冊の大部は聴読で聞き流す入門に最適。
- 作者: 松原隆彦
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2012/04/20
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もし女子高生超能力者が戦国時代にタイムスリップして大坂の陣で真田幸村と戦ったら?
- 作者: 朝野白露
- 発売日: 2014/06/27
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軽いタイトルのライト・ノヴェルだが、当時の風俗・武器などに細かい解説が乗っかりつつ、幸村の工夫をオタクっぽく様々知ることが出来てお得感強い。タイトル通り源優希なる女子高生が戦国の世にタイムスリップし、家康と戦う大阪城の豊臣秀頼の元に向かう真田幸村軍に従軍することになって云々。秀頼に殉じて自死した幸村の嫡男大助のファンなら、気持ちが安らぐので読んで見て欲しい。フィクションとはいえ。ちなみに関ヶ原で敗れた石田三成はアスペルガーだったのねと主人公納得する下りがあるが、そうかもとは思わせる。
夏休み書評1:本は読むより聴いてみたら?
もうこの3年ほど、dneuroは本を、目を使って読む冊数が大幅に減った。
一方で、Amazonのkindleストアで購入する本は増えた。
読まずにどうしているのかと言えば、最近は専ら聞いている。
使うアプリはiphoneのkindleアプリ。
iphoneの場合、やることは簡単で、基本的にはどの画面でも2本指で上からスワイプしてしまえば画面読み上げが始まる。ipadも同様で、どちらか持っている人にはこれが一番ラクだと思う。
一方androidももちろん出来るがやや面倒。読み上げのメリットと共にこちらを。
本を聞くメリット
1.冊数が大幅に稼げる
目で読んだほうが冊数を稼げると思うかもしれない。でも実際には聞くほうが冊数は増える。
考えて欲しい。
読むというのは非常に能動的な行為だ。特に専門書や興味の無い情報(でも知りたいから本は買うのだけど)を目で追っていくことに高い集中力・前頭葉機能(逃げずに我慢)を要求される。
一方、聞く、のは受動的行為である。
目で追って理解していくのに時間がかかるものでも、音声で読み上げられると、耳を通じてとにかく一方的に頭に入ってくる。それを聞いてさえいればいいのだ。このことの大きなメリットの1つは、これまでに興味が無かったり、読むにはハードルが高い分野の本に手を伸ばせることにあると思う。denuroの場合、歴史や経済分野がこれにあたる。医科学の言葉が幾ら出てきても読むのに障害にはならないのだが(そうだったら困るけど)、歴史なら系図・手紙文(〜候とか)・法律の条文などが出てくるとかなり読むのがしんどい。
でも聞くのは本当に楽。
さらにスピードを早くも遅くも調整できる。まったく知らない内容であったり、入り組んだ内容や、小説の場合には余りに音声速度が早いと理解が追いつかないことがあるが、慣れてくるとかなり早いスピードで読み上げられても理解可能となる。現在dneuroは日本語書籍の場合、おそらく標準の3倍程度が心地よい速度になっている(スピード表示は無い)。
確かに紙の本にしろ、電子書籍にしろ最大速度は読むほうが早いと思うのだが、いかんせん、その速度にムラがありはしないだろうか?私はADHD的資質のせいかもしれないが、とにかくムラがある。しかし、読み上げてくれる音声は常に一定である。結果的には1冊の本を読む(聞く)平均速度が上がり、しかも疲労度が小さいので、読了(聴了?)する冊数が大幅に増えた。
- 作者: ユヴァル・ノア・ハラリ
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2016/09/16
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話題のベストセラー「サピエンス全史」。サピエンスは現生人類たる我々の学名ホモ・サピエンスから。人類史を概観する意欲的な本で各所で絶賛推薦中。面白そうと手にとっても、重い、と躊躇する人多いのでは?聴くのは楽ですよ。本書は文字情報量の多い図表が少なく、聴読向きだと思う。*1
著者曰く「歴史の道筋は、3つの重要な革命が決めた」と。その3つは、認知革命(7万年前)、農業革命(1万2千年前)、そして科学革命(500年前)。アフリカに出現したサピエンスは10万年前にはアフリカを出たが当時は他の人類たるネアンデルタール人に勝てなかった。ところが、7万年前から3万年前に再度アフリカを出たサピエンスは今度はネアンデルタール人を絶滅させ、その後他の人類を圧倒した。だからこの時期に他を圧倒する新しい思考と意思疎通の方法が登場したはずで、それが著者の説く認知革命。革命後のサピエンスは、遂には皆んなで共有できる神話や宗教を発展させ、その虚構の話を奉じて何万人もが協力して事を為すことができるようになったのだという。なるほど、と思う。
2.感情的なシーンで盛り上がれる
さて、読み上げの声は、抑揚がない。
イントネーションが存在しないのっぺりした機械音声だ。
機械音声は味気ないでしょう?
小説がつまらないでしょう?
と言われるのだが、実は全然違う。
声優などによるオーディオブックに比べ、抑揚のない音声が聞き手である自分の中に、内容がもたらす感情を自由に展開させる。声優さんではその場面に応じて感情生起を強制されてしまう。紙書籍と映像の対比に近いか…原作の映画化にコレじゃない、と感じたことあったらまさにそれ。
なので、知識を仕入れるのに音声読み上げを使うだけでなく小説もお勧めしたい。
- 作者: 司馬遼太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2015/02/06
- メディア: Kindle版
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西軍(事実上)総司令官三成の最期は抜群にかっこいい。対して東軍の家康、というより最高実力者になった家康になびこうとする武将の卑しいこと。とはいえ、豊臣秀吉への忠義や恩顧の念で戦う三成の視野は狭く、日本の統一を図り、国のビジョンを持ち得た家康が勝って良かったと感じてしまう。司馬遼太郎はちょっと家康嫌いが筆に出すぎているよね…。
3.英語のリスニング練習になる
日本語が良ければ当然英語も良い。
まあ正直なんだかんだ言って母国語でない洋書を1冊完全に読了するのはハードルが高いわけで、耳から勝手に入ってくれる方が楽なはず。それに英語の方は日本語よりも語の区切りがきちんと読まれるので、聞いていて機械音声の違和感は少ない。速度に関してはリスニング力にもよると思うが、dneuroの場合は恐らく0.8-2倍速程度で、やはり日本語よりは大幅に落ちる。 尚、英語学習者ではリスニングしながら読むこともいいのだろう。普通に読むよりもストレス無く持続できるのではないか。
amazon日本でもKindle用(アプリ含む)には向こうで買える書籍が網羅されているので、読みたい、と思った本が買えるはず。医科学系は専門書を含め、アメリカのほうが多く電子化されており、そういう意味でも有り難い。
https://www.amazon.co.jp/Tricked-story-internet-scam-English-ebook/dp/B00RBVDAD0/ref=sr_1_2?ie=UTF8&qid=1502840023&sr=8-2&keywords=trickedwww.amazon.co.jp
アメリカの高名な60代物理学者がネットを通じて知り合った20代のアルゼンチン女性モデルに騙されて、ドラッグの運び屋にされ、更にはアルゼンチン警察に勾留されてしまうという話。本人が書いている。下世話な部分がある方が読み(聴き)進めやすい。
著者は女性モデルとのやり取りは初めて会う約束をするに至るまで2ヶ月間何度もやり取りしており、当人とすれば騙されているつもりはなかった。話を外から聞けば騙されていることは明白なのだけど、寂しかったご本人の立場に我が身を置いた時、騙されずに済むかは正直わかりません。
本を聞くデメリット
欠点だって勿論ある。でも詳しくあげつらうと大変なので一言ずつ。
1.コストが高くなる
聴了冊数が多くなるから。電子図書館が欲しい。
2.図表を見ることができない。
必然的に。まあしょうがない。後で確認しよう。
3.何かに気になっていると内容がまるで入ってこない
上の空になると30分聞いた内容がふいになる。
4.寝落ちすることが多い
電車で目を瞑って聞こうと思うと難しい。寝床で聞くと寝落ちする。
5.漢字の読み方が変
慣れるとおかしみがあるというもの。大阪城⇛だいさかき、籠城⇛かごじょう、孔明⇛ひろあき、島々=しまくりかえし、現生人類=げんなまじんるい、などなど。
日本語版Audibleは全然足りない
昨年Amazonはaudibleのサービスを日本でも提供し始めた。その前から英語版のaudibleである程度の英語の本を楽しんでいた身としては大いに期待したが、残念ながら、試用期間を越えてお金を払ってまで使うほどのサービスでは無い。
その主原因は、日本語の電子書籍がかつて少なかったのと同様で、まだまだ圧倒的にコンテンツが足りない。
興味のある人は試しに読みたい本を検索すると良いと思う。
ほら、無いでしょう?
まだまだ本当に冊数が無くて、残念ながら寂しすぎ。
audibleのコンテンツは專門のナレーターや声優であったり、時に著者が本の内容を読み上げているため、iphoneに読み上げさせるよりも当然音声は情感豊かである。
それが機械音声により良いか?と言えば、先に書いた理由で、dneuroは読み上げアプリのほうがお気に入りである。
尚、英語版audibleは日本語版よりも遥かにコンテンツ数が多く、読みたい本も十分。英語リスニングのためであるなら、アメリカのAmazon.comにIDを作って利用すれば、こちらのほうは機械音声より確かな発音で聞けるのでお勧め。
小脳優位動作時に聞くといい
最後に聴読はいつするのがいいのか?
お勧めは、自動車運転中や散歩・ランニングなどの有酸素運動時、スーパーでの買い物(食料品)。いずれも、脳は覚醒しており、動作はどちらかと言えば自動的で1つ1つの手や身体さばきに言語化された内省を(余り)必要としない。こういった動きは小脳優位の活動だ。
自転車は安全の為にお勧めはし難い。また、電車通勤中は向いていると思いきや少なくても自分は眠ってしまう。座れずに立っている満員電車なら良いと思う。本を広げることも出来ないし、強制的に覚醒させられる。
http:// https://www.apple.com/jp/airpods/
- 出版社/メーカー: Apple Computer
- 発売日: 2016/12/14
- メディア: エレクトロニクス
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聴読のお伴はイヤホンだが、中でもお勧めはBluetooth接続のワイヤレス。何でも良いと言えば良いのだが、iphoneもしくはipadユーザーならairpodsの使い勝手が最高だろう。装着感がとても良く、見た目と違って、耳から落ちることが皆無。dneuroはこれを使うことで、ほんのちょっとした合間でも聴読するようになり、読了書籍数が飛躍的に増えた。一部デザインを問題視する人もいるようだが(うどん、木霊、チンアナゴと言われる)、利便性の前に屈服。
*1:欧米の知の巨人(例えば「銃・病原菌・鉄」のジャレド・ダイヤモンド)はとにかく大著を書く印象。膨大な知識を元にした主張にはなるほどと頷くしか無いのだが、どこまでが確実な事実で、どこからが著者の仮説なのかわかりづらいことも。細部に登場するdneuroの専門領域では若干間違いもあったりすることがあるが、膨大な知識範囲は凄いとしか言えない。
*2:こんなこと言うのは無粋というものだが、司馬氏が事実を大事にして小説を書いたとはいえ、書かれた内容にはフィクションが多い。艶ごとなどは作者の人物イメージの投影でしかないでしょ?と時に言いたくもなる。また、「関ヶ原」執筆は昭和39〜41年。その後近年になっても400年前の文書が発見されるのは驚きで、かつて事実と思われていたことが覆ったり新たな可能性が出てきたりしている。dneuro的には、歴史小説の虚実がない交ぜな点に心理的抵抗を覚えるのだが、司馬小説が抜群に面白いのは確か。読了後には史上の人物の名前を覚え、一定のイメージを心に創ることができ、後に歴史物を読むのが楽になるのは疑いない。
認知症にならないってできるのか、とかキツネのはなしとか
アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)の臨床をやっていると、何が進行速度の決め手になるのか?という疑問を持つ。画像上は萎縮像が確かに診断の参考にはなるし、ある程度は萎縮の程度が認知症の状態と相関関係にあるのはわかる。
ただ、萎縮が目立つとされる海馬でも、個人差が大きい。この程度の大きさでもうこんなに認知症が進んでいるのか、と思う人がいる一方で、こんなに小さいのにまだかなり元気ですねえという人まで。
1回の画像では、今見ている大きさが、以前からどのくらい縮んだのかはわからないし、そもそも小さいから機能が低い(大きいから機能が高い)とも限らない。月日を置いて同じ人の経過を見られることは実際には少ないから何とも言えないなあと思うことはしばしば。
例えばある80代の某難関国立大理学部卒お婆ちゃんは、MRI上で萎縮が明らかで、物盗られ妄想や短期記憶障害もあったが、それでも知的水準が高く、中学生相手に家庭教師を現役でしていた。もともとの知的活動具合が進行に影響するのかと感じたことはある。多分、脳を解剖すれば、アルツハイマー型認知症で出て来る老人斑が溜まっていただろうに。
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2017/06/24
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日経サイエンス8月号の記事の1つは「アルツハイマー病に負けない力を蓄える」。筆者ベネット教授はシカゴにあるラッシュ大学アルツハイマー病センター所長先生。
20年にわたって多数のアルツハイマー病患者を追跡調査してわかった、認知機能低下とアルツハイマー病発症のリスクを下げるために出来る10項目が掲げられている(図参照)。
でもなんだろう、のっけから実現不可能な項目でちょっと困るのだが。良い両親もう選べんし…。
とはいえ、それは自分たちが子どもへ良い両親であるべきだと解釈し直すことにして(遺伝子は変えられないがネグレクトは回避できるし相手の遺伝子とも混ざるし)、自分たちができることを端的にまとめると…
生きがいを持つ
知的にも身体的にも動き続ける
食事内容に気をつける
が主要な3点かなと。いずれも出来ていた群はアルツハイマー病発症リスクがかなり低くなったらしい。
意地悪を言うと、アルツハイマー病にならない人がそもそもそういうことが出来るだけなんじゃないの?と反論できるが、正確にはわからない。
図中にあるMIND食というのは同じくラッシュ大学のモリス氏が提唱する地中海食に近いもので、ベリー類、野菜、全粒穀物、ナッツ類をふんだんに含んだ食事。アルツハイマー病発症リスクを劇的に下げると報告されているものの、臨床試験の結果はまだ出ていないので、現状真偽不明。悪くはなさそうだが。興味ある方はご自分で検索して下さい。日本人が普通に健康に気をつけた食事をすれば多分大丈夫?という気もする。*1
修道女研究からわかったことはなんだろうwired.jp
ところで、ベネット先生が参考にした研究に、アルツハイマー病の修道女研究というのがあり、一時その結果が日本でも話題になった(⇛原著はコチラ)。アメリカジョンズ・ホプキンス大学の研究者らが、修道女の解剖した脳組織を解析したところ、病理的にはアルツハイマー病の病変が認められても、臨床的には認知能力が健常脳の高齢者と同じレベルに保たれていた方たちがいた(無症候群)。
臨床的にアルツハイマー病を発症した(=認知症になった)人たちとの相違点として、無症候群の修道女たちの海馬細胞は健常高齢者以上に細胞の体積、細胞核の体積が大きく、そして若い時に書いた文章が発症群の修道女よりも複雑で巧みだった。言語活動が活発だとアルツハイマー病を予防できるかも、と話題になったのだ。
もっとも同じ研究者たちが2015年に出した論文(⇛原著はコチラ)が興味深くて、無症候群の修道女たちは、アポリポタンパク質遺伝子にε2という変異を持つ頻度が発症群の修道女たちより非常に高かった(無症候群19.2%vs発症群4.7%)。同じくアポリポタンパク質遺伝子にε4という変異があるとアルツハイマー病のリスクを高めることが知られており、実際そうだった(無症候群3.8%vs発症群19.4%)。*2
無症候群では大学院卒が多く、知的活動が盛んだったことが伺われるのだが、実はそれはアルツハイマー病を発症予防した原因ではなく、単にアルツハイマー病を発症しづらい(もしかしたら頭の良さにもつながる)遺伝子を持っている結果なのかもしれない。だとすると予防も何もあまり関係ないだろう。
ということは、先に紹介した日経サイエンス記事にあるように、「いい両親を選ぶべし!」が結局一番重要なのか…いや無症候群だって多くはε2変異を持っていないのだから、遺伝子ですべて決定されるのではないと信じたいところ。遺伝子も唯一無二の因子ではないので、何か自分の努力で出来ると考えて実行した方が健全なのは確かだ。*3
キツネも懐けばイヌになる
さて、日経サイエンス7月号で一番面白かったのはこっちだ。
ロシアに酔狂な研究者(ベリャーエフ氏)がいて、動物の家畜化の課程を研究するために野生のキツネから人間に対して穏やかに接する個体を選び出しながら交配を繰り返し、遂には人が近づくと尻尾を振って近づいてくるキツネが生まれてくるようになったのだという。実験開始は1958年。
そういったキツネは6世代目に登場したが、とはいえ、そこまでイヌ的なキツネ(著者たちはエリートと呼んでいる)は2%に過ぎなかった。それが世代を経るごとに増え、現在では70%に達するという。
エリートは写真のようにとても可愛い。
動画で見たい人は⇓。
www.youtube.com
実験結果として出てきた人に馴れたキツネ。どこまでイヌなのよ、という感じ。
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現在も実験は進行中で、43世代目のキツネがいるらしい。ますますイヌらしくなり、生まれつき人間の視線と身振りを目で追い、尖った鼻が丸くなり、四肢がずんぐりと短いそう。ただまあイヌよりはやはり懐かない個体も生まれるとのこと。ペットにしていいものかはわからない。
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読んだのが確かdneuro高3時なので内容はうろ覚え。忠実なイヌも裏切られ続けるとあるときから攻撃性を向けるようになったという話が記憶に残ってます。
実験医学増刊 Vol.33 No.7 発症前に診断し、介入する 先制医療 実現のための医学研究
- 作者: 井村裕夫,稲垣暢也
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*1:一応臨床試験は進行中。こういった食事系や〜油が良いの類は沢山あるが、きちんとした臨床試験を経て確立されたものはあるのかな。とりあえず血管病変につながる高血圧、高脂血症、糖尿病を予防する、悪化させない食事が良いのは確かと思う。
*2:精神科系疾患のリスクになりうるような遺伝子で今まで発表されているものは、ほぼ全てが再現性無く、信じるに値しないと何度も書いてきたと思うが、唯一の例外と言って良いのが、アルツハイマー病リスク遺伝子としてのアポリポタンパク質ε4変異(APOE4という)。この変異を持つ場合には確かにリスクが上がるようだ。これについてはいつか。
*3:認知症予防に認知トレーニング、例えば脳トレみたいなものが役に立つのかというのはずっとある疑問で、役に立つという研究も立たないとする研究もあって両論拮抗している。個人的印象を言えば、効く人がいればいいなと願望を持ちつつ、今までの結果を見ると残念な思いを禁じ得ないので、そんなに都合よく予防できないんだと考えている。これについてもそのうちに。
自殺数10万人超えの噂を自殺統計をつらつら見て考えてみたい
自殺数に関してwebで検索していると気になる記事が結構あって、その中には日本の自殺者数は本当は10万人を超えているみたいなエントリに当たる。例えばこんな⇛【マジかよ】毎年報道される日本の自殺者数は3万人どころじゃなかった!? 「遺書が無いと自殺ではなく変死扱い」等が話題に
これが本当かを考えるに当たり、自殺統計をつらつら眺めてみた。
ちなみに、遺書が無いと変死扱い⇛自殺に組み入れられない、ということは無く、遺書ありと遺書無しとに分けてきちんと数えられているようだ。自殺なのに自殺ではないと判断されてしまうこともあるだろうが、遺書の有無と変死扱い、は違う話。
自殺者数は最近減少している
日本の自殺者が年間3万人超えで推移しているなんて報道は数年前まで。相変わらず自殺死亡率(10万人あたりの自殺者数)では先進国の中で最低なんだが、それでも今は減少傾向。2016年の自殺者数は21,897人、一番多かった2003年は34,427人だったから、この13年で1万人以上減ったことになる。これは大きい(図1は厚労省HPから⇛コチラ)。
図1右上の「年齢階級別自殺死亡率の年次推移」を見ると、年齢層別の推移がわかる。2007年以降、つまりこの10年では、40代以降、ひときわ50代の自殺死亡率の低下が著しい。図中表の数字は10万人あたりの自殺者数だ。10年前(2007年)は38.1人だったのが2016年には23.6人まで。40%近く少なくなっている。70代(35.0⇛21.4)、80代(35.0⇛21.6)、それに40代(31.9⇛19.8)も同様だ。
一方で、19歳以下の若者の自殺死亡率は10年間でほぼ一定だし、20代の自殺死亡率も増減しつつ余り変わりない(22.0⇛17.3)。中年以降には何かしらの自殺の要因が関わっている一方で、若者ほど本気で自殺を考えたことがあり、自殺未遂率が高いというデータがある。
公益財団法人日本財団(http://www.nippon-foundation.or.jp)の調査では自殺念慮・自殺未遂は20-39歳の若年層で最も高いという。厚労省の調査と直接比較することはできないかもしれないが、自殺未遂経験者は同財団の調査では年間45万〜60万人の推計で、若い世代・女性の方が多く、しかも複数回に及ぶことが多い。要は若いと既遂率(最後まで遂げて亡くなる率)が低いのだ。恐らくその理由は手段として大量服薬やリストカットなど比較的ライトな手段を取ることと、衝動性の高まりに依るもので準備が足りないことなどが要因なのだろうが…。*1
とはいえ、そもそもこの自殺死亡率自体やはり高いのだ。
記事によれば先進7カ国の中で、15-34歳の事故による死亡率(6.9人)を自殺が上回っているのは日本だけのようだ。英、米、仏、独、伊、加の6カ国はいずれも事故死亡率のほうが自殺死亡率より高い。要するに自殺する人が事故で死ぬ人より多い逆転現象は先進国では日本に独特だと。
自殺と経済問題、1998年年急上昇の謎
経済・生活問題は常に動機別自殺要因の第2位だ。厚労省統計で7318人(2007年)⇛3522人(2016年)とこの10年で約半減している。これは明らかにとても大きい減少幅で、景気動向指数と男性自殺者数の相関や、景気・失業率と男性自殺者数の高い相関が指摘されることが多い(図2c,d)。
とりわけ同期間の年齢送別自殺死亡率低下の中では、50代男性が目立つ。さらに、男性だけで高い相関、というのが特徴で、女性の自殺死亡率はそういった経済指標との相関は無い。こと経済問題だけは日本の自殺要因においてこれまで男性偏重になっていたのは疑い無いだろう。一応今見られる男性の自殺死亡率低下トレンドは政権の経済政策が悪い方向に働いていないということか。
さて、図2aでは2000年(H12年)が50代の自殺死亡率が高いが、一番高かったのは実は1998年で、図1の総自殺死亡者数のグラフを見ても気づくように、1997年から1998年にかけて自殺死亡率は急上昇している。さすがに傾きが急すぎるので、これは「さては自殺の定義が変わって、これまで組み入れられなかった自殺が加わったに違いない」と思ったが、そうではないらしい。H16年厚労省補助金による資料「自殺増加の社会的要因についての検討」によれば、
警察関係者に対して,1997年から 1998年にかけて,自殺の判定基準の変更があったかどうかについて問い合わせたところ,警察庁から特段の変更の通知がなされた事実もなく,現場の担当官にも,その扱いに有意な変化があったという認識はなかった。
と。じゃあ考察はというと「リストラにあっても再就職が難しい層」というコメントだが、まあそれはいつの時代もそうだしなあと思うし、何もこの1年で急勾配にならなくてもいいのでは、と思うので、もっと何か別の理由があるのではと勘ぐってしまう。もちろん実際に1998年が自殺急増の特異年なのかもしれないけど。
動機としてトップの健康問題と高齢者
で、健康問題。自殺の理由としては常にトップとなる。さらに厚労省統計からは、健康問題の中でもうつ病を始めとした精神疾患の割合が大きいという。自殺数は、14,684人(2007年)⇛11,014人(2014年)と25%ほどの減少。実数として減っているのは大変喜ばしいので、文句はないのだが、近年、精神科への敷居が低くなり、精神科受診数が増えている中でのこの数字というのが満足して良いレベルなのかはわからない。
H2年(1990年)とH26年(2014年)を比較してみれば明らかだが、H2年に60代から急激に上昇していた自殺死亡率がH26年には半減以下になっている。同期間の高齢者数は日本で大幅に増大しているのだから、自殺死亡率の顕著な低下はとても良いことと思う。この世代には景気動向の影響が若い世代と違って小さいはずで、だとすればこの20年間に、日本は高齢者の自殺を予防する手立てに成功してきた、ということなのか?特に女性高齢者の自殺死亡率は他の年代と変わらなくなっており、何かしら要因があって然るべきと思うのだが…。
もともと高齢者は男女を問わず自殺死亡率が高い。特に若い世代と違って、高齢者自殺死亡率のピークは、50代がピークを迎えていた平成10年前後ではなく、その10年ほど前で、図2dを見ると1990年は失業率も自殺死亡率も非常に低い。時はバブル終了期で、まだ皆浮かれた気分が漂っていた頃かな…何故世の中が不景気の沈滞ムードに入る前に高齢者自殺が多かったのか疑問だったりする。
尚、図22a,bの縦軸(10万人中の自殺者数)は男女で軸の範囲が違い、一見高齢者自殺死亡率の男女差がなさそうだが、やはり女性の方が少ない(H2年で男性約90人、女性約60人、それでも顕著に多いが)。
自殺数変動に周期性?
さて、些か口の悪いdneuroの同僚は、この数年の高齢者の自殺者数低下は、要するに自殺という選択肢を選んでしまう傾向のある人達が、若い時期に(つまり50代とか)既遂してしまっているからなのでは?と指摘した。
自殺の多かった1998-2000年くらいに50代〜60代だった方々は当然今が60代〜70代。仮に人口の一定割合の人たちが自殺に向かう選択をするとしよう。その潜在的に自殺を選ぶ人たちの多くが50代で既遂し、高齢者人口からいなくなれば、高齢者の自殺者数が減少する、という考えが成立する?
そういう目で見るのもありか...という気も。社会情勢に影響を受けやすい中年世代で自殺が増加⇛自殺素因のある人口プールが中年世代で減少する⇛しばらくその世代が高齢人口になった時に自殺者が減る、みたいな周期性があるんだろうか、とも思うが、疲れたので次回以降に考えることとする。
「日本の自殺者数、本当は10万人越え」のウソ
最初に戻る。
変死体として見つかるのは年間15万人にも達するときがあり、WHO基準では変死体の約半数が自殺と考えられるので、実際には日本の自殺総数は10万人を超えるのだ、という。もう10年以上も語られているようだ。
いやいやいやそれは多すぎでしょう、ということで何故そんな誤解が成り立つのかを考えていたら、以下のblogで詳細に考察されているので一読を。
まあ、簡単にまとめると以下。
1.WHO基準とされる一文がどうやら誤訳された上で無批判に利用されている。
2.変死体というか法的にいうところの異状死体(死因が診断確実な病気でないすべての死因による死体)の中で実際に解剖された中での自殺者はおよそ15%程度。
3.警察庁統計はそのように後から判明した自殺の数も組み入れている。
4.「変死体」増加の主原因は高齢者の孤独死の増加ではないか。
いずれにしても10万人は越えていません。
死体は今日も泣いている 日本の「死因」はウソだらけ (光文社新書)
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デマはデマとして、日本における警察発見の死体の死因推定が雑なのは事実。日本では事実上東京以外に專門に死因究明のための解剖を行う施設(監察医務院)が無いため、「変死体」がきちんと解剖されず死因の究明が果たせないことが多い。警察に嘱託された医師に依る安易な「心不全」とか「呼吸不全」という死因が多いのが特徴的。そりゃ死ぬときは心不全にも呼吸不全にもなりますよ。
著者の岩瀬氏は千葉大法医学教室の教授。発見された異状死体の死因究明の為に、解剖に先立つ画像診断専用のCTを日本で最初に導入、CT画像も参考にする。
日本は残念ながら他の先進諸国と比べて発見死体の死因究明目的とした解剖実施率が絶望的に低く、殺人が見過ごされている可能性が十分にある。肝臓がんによる病死と考えられているケースが解剖して初めて蹴られたことによる内臓破裂による死だと判明する例があったりもするのだ。自殺も「本当に自殺」なのかは解剖しなければわからないことがある。
- 作者: 藤原宰太郎
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歴史上の様々な人物たちの死の様子を生前の業績と比較しながら淡々と解説する。自殺した偉人としては、ヒトラー、ゴッホ、クレオパトラ、マリリン・モンロー、円谷幸吉、川端康成、ロンメル将軍、乃木希典、芥川龍之介。芥川は幼い我が子に、「もしこの人生の戦いに破れし時には、汝等の父のごとく、自殺せよ」と遺書に残したという。自殺ではないが、抗生物質ペニシリンを発見したフレミングの死が好きだ。具合が悪く、傍らの妻に心臓病かと聞かれ、「そうじゃない、食道から胃のほうへずっと下がっていくようだ」と語って考えこんでいるとふいに、静かに息絶えた。
オキシトシンと自閉症〜オキシトシンはどうなっている(2)
前回はNature誌の論説を紹介したが、現浜松医科大学精神医学教授の山末氏らのグループはオキシトシンの臨床試験を日本で行っており、一定の効果を得たという発表が2015年にあった。
その山末氏がやはり同年にPsychiatry and Clinical Neuroscience誌(日本精神神経学会発行の英文誌)にこれまでのASDに対するオキシトシンについてまとめている。そこで言及されている現在の問題点について少し紹介したい(⇛論文はコチラ)。*1
まず、これまでに行われたオキシトシンの単回投与(1回だけ投与する)について。
2003年から15年に発表された11の臨床研究(二重盲検)ではいずれでもオキシトシンの鼻腔内スプレーにて何らかの指標、特に人との感情的交流に結びつくようなスコアが改善している。対象は3つを除けば18歳以上のASDだ。*2
一方、オキシトシンの持続投与臨床研究(二重盲検)は2012年から15年にかけての4つ。対象は7歳から成人まで。オキシトシンのスプレーを短いのは4日間、長い研究では8週間継続。結果は、基本的には1つを除いて効果を認めていない。その1つというのが山末氏らの研究だけど。
そんなわけで、どうも1回限りの使用であれば何らかの変化がありそうだが、毎日使ってしまうと効果が薄れてしまうのはいかがなものか。本当に効果があるのかを含めて、この持続投与による何らかの改善報告の乏しさ、というのはオキシトシンの利用に際して躊躇する理由の1つ。
オキシトシンを治療薬として使う際の解決すべき問題点
・経時的に投与前後のASD中核特性を定量的に測定するための信頼できる評価法がない。
現在の評価法には例えばADOS-2(本人対象)であるとか、ADI-R(養育者対象)のかなり詳しくASD特性を評価するテストがあるが、これらは通常1回きりの評価であり、これで評価する特性が余り変化をしないことを前提に開発されている。例えば、1月にADOSを測り、3ヶ月間オキシトシンを投与して4月に評価する、そんな形での測定には向いていない。dneuroも心理士さんにやってもらっている身として、多分2回目にはたとえ別な心理士さんを相手にしたとしても、介入に関係なく評価点としてはASDレベルが下がることが多いだろうと思うし、そもそも短期間に複数回測ることに向いていない質問が多すぎる。
・臨床研究で期間を変えての治療報告がない。
動物では慢性投与が社交的にネガティブな影響を与えたことが報告されている。そうこれに関しては面白い実験があり、先日紹介した一夫一婦制のプレーリーハタネズミ。雄個体に1回だけの投与ならパートナーへの親密度を増させるが、長期間与えると一夫一婦制でなくなってしまうのだ!つまり、1回なら相手への愛情が増して、より愛情深くなるが、オキシトシンがいつも高まっていると、愛情が他の雌にも向いて傍目には浮気性になってしまう(人間でも優しい性格の男性が艶福家であったりしますよね...)。
これをネガティブ、と表現するのが正しいかはわかりませんが。
・用量を変えての治療報告がなく、至適用量がわからない。
動物では用量に比例してではなく、効果を期待できる丁度よい(そして狭い)用量があり、その幅を外れると、低用量でも高用量でも効果がない。
こういうのを逆U字形という(図参照)。
例えば英単語の試験を控えた学生時代を想像して欲しい。試験がずっと先だと緊張感がなさ過ぎてだらける(図中a)。覚えられる単語数は僅かだ。試験が近づいて来るに従って、程よく緊張して、記憶に定着する単語数も増してくる(b)。ところが本当に直前の試験5分前。単語帳を閉じる前にもう1つくらい覚えようと思っても緊張感マックスになるともはや頭に入ってこない(c)。*3
オキシトシンの人間に対する効果としても自伝史的記憶を思い出すという作業で、こういった逆U字形的な効果があったという報告があったりするが、いずれにしてもどのくらいの量が適当か、について知見は少ない。
他にも問題はあるよ
その他にも、オキシトシンがどのように中枢神経内に行くのかとか、効果の個人差について、などやはりわかっていないことが多い。denuro的にはオキシトシンを鼻腔内投与することが本当に脳内に作用させることになっているのか、そのメカニズムが正直分からないので要勉強。確かに嗅覚を担う嗅神経が分布する嗅粘膜(鼻の奥)は脳内につながっているけど、そこに噴霧したオキシトシンは脳の奥にまで浸透するのか、それとも何かしらのシグナルを増強するということなのか...。
恨みを溜められるのは困る
さて、オキシトシンがASD特性を「治療する」というのなら、効いて欲しい症状(特性)がある。それは、ネガティブな記憶が積み重なりやすく、そればかりが頭に思い浮かんでくることが多いという部分だ。被害的になりやすいと言ってもいい。本人としては苦しんでいるわけで、それが現在の人生に影を落としてしまっているのはとても残念なことだと思う。
もちろん、ネガティブなことが実際に身に起きていたのであれば、その記憶に悩ませられるのは、おかしいとはいえない(その出来事に遭ったのが理不尽なのは当然として)。
問題は、客観的に見るとひどくはない、言ってみれば普通の環境下で、いや良好な環境で養育されたと思える場合においてさえ、どうしても嫌な記憶ばかりが先行して思い返されるASD者が多いことだ。沢山の良いこと、嬉しいことも経験してきたはずなのに...。
養育者の体験談としてはこういうのが当たるだろうか。
アスペルガー?の息子から恨まれてます。 : 生活・身近な話題 : 発言小町 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
こういった情緒交流の困難さがもたらす恨みが溜められないためには、何かをされた時には相手に感謝の気持ちや嬉しい、という気持ちがきちんと湧いてくれていないといけないはず。それを幾らかでも緩和させるために...ということでオキシトシンが働くなら期待したい。
ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由
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記憶つながりで。著者がジャーナリストで、記憶術に興味を持って全米記憶力選手権(アメリカってなんでもあるな...)参加者にインタビューするうちに自ら参戦してチャンピオンになってしまったという。もともとは超記憶術なんてのを持っていたわけではないから、どうやってなったかを詳らかに書く。dneuroは学生へのセミナーで本書で紹介される記憶術を紹介し、実際に有効なことを示すが、じゃあ自分もやるかというと、正直めんどくさいからやらない。
- 作者: ダニエル・タメット,古屋美登里
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特異能力を発揮するサヴァンでアスペルガー(ASD)として有名なタメット氏。彼の自伝だが、円周率をとんでもない桁数(22,514桁!)まで暗唱する姿をNHKでみた人も多いハズ。すごい……のだが、実はそのタメット氏がASDサヴァンというのは嘘だと看破しているのが上に紹介した本。まあもちろん円周率をトレーニングで覚えようが、努力なしにサヴァンの能力で言えようが、どっちにしてもダメな凡人にとって変わりはしないのだが、それでも嘘が混じっているのを知ると、本書のことも色眼鏡で見ざるを得ない。サヴァンが嘘でもとてつもなく高い能力をタメット氏が持っているのは本当だし、ASDが嘘かまではわからないんですけどね。
*1:2015年のプレスリリースを見る限りはオキシトシンへの期待が高まるようにしか書かれていないが(それがプレスリリースというものだけど)、今回紹介した論文には極めて率直にオキシトシンの薬としての問題点が記述されており、いたずらに期待を高めたりしていない。山末氏は、奢らない、誠実な方だと思うが、オキシトシンの限界はもっと一般に知られてもいい。
*2:二重盲検(ダブルブラインド)…Wikiはこちら。臨床試験の技法で、薬を投与する側もされる側も実薬と偽薬(もしくは比較する対照薬)のどちらが投与されたかわからないようにする。Aという薬の服薬に効果があったとしてもそれだけでは自然回復と区別がつかない。Bと比較しても、Aのほうが効くのでは?という期待が医者側、患者側のどちらにあっても、その期待値が自覚症状に影響してしまう。現代の薬は二重盲検を経て初めて効果があると言って良い。逆にそれを経ていない薬の効果は基本的には疑うし(多くのサプリがそうだ)、慎重に判断する。
*3:記憶に関するこの法則はヤーキーズ・ドットソンの法則と呼ばれ、色んな現象に当てはまる。例えば、スポーツにおけるトレーニングとパフォーマンスの関係とか。やらないのは論外として、やり過ぎもダメなことって多いよね、と。あと仕事量とやる気の関係とか。また以前も書いたが、レイプされた女性が相手の特徴を余りよく覚えてないとかにも当てはまる。子供に何かを覚えさせようとして怒鳴ったら全く逆効果というのも頷けますね。